ソードワールド二次創作小説(ファリスの聖戦士)   作:シットライヌ

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第三話

宿の手配を終えた隊商長に夜間の護衛を少し離れる旨を伝え、俺たちは町の裏通りでジュードとエレノアに合流した。 「ひどい有様だったよ。貧民街の方じゃ、倒れたまま動けない人が何十人もいた」

普段は飄々としているジュードが、珍しく険しい顔で首を振る。

「風の精霊たちもひどく怯えています。……それに、教会の関係者らしき人間が、倒れた人々から強引に金品の類を『お布施』として徴収しているのも見ました」

エレノアの報告に、俺は苛立ちと共に嘆息した。やはりあの司祭が絡んでいる。人々の信仰心を弄び、弱者を食い物にするやり方は到底見過ごせない。

夜半。町が寝静まった頃合いを見計らい、俺たち五人は北の古い墓地へと足を踏み入れた。 月明かりが雲に遮られ、風化した墓標が不気味な影を落としている。だが、レンジャー技能を持つジュードとエレノアが前方を慎重に索敵してくれているおかげで、闇夜の行軍に不安はない。ジュードはショートスピアを杖代わりに足場を確認し、エレノアはエルフの暗視能力で周囲の警戒にあたっていた。

「……聞こえるか?」

最後尾を歩くバルドが、ウォーハンマーを握る手に力を込めた。 微かに、だがはっきりと、地の底から響くような女のすすり泣く声が聞こえてきた。同時に、肌を刺すような冷気が辺りを漂い始める。

「あそこですわ。あのひと際大きな霊廟……」

ミレーヌが杖の先で指し示した。古い石造りの霊廟の隙間から、毒々しい紫色の光が漏れ出ている。 俺は静かに背中のグレートソード(ツヴァイハンダー)を抜き放った。 全長に及ぶ長大な刃だが、俺の構えに力みはない。傭兵の師匠から叩き込まれたのは、己の腕力で剣を力任せに振り回すのではなく、剣自体の重心と身体のひねりを連動させる技術だ。剣を振り子のように扱い、遠心力を乗せて一撃を放つ。生来の筋力に恵まれなかった俺でも、敵の攻撃が届かない安全な間合いから、恐るべき破砕力を叩き出せる。まさに俺という人間に最も相性の良い、理にかなった大剣術だった。

ジュードが音もなく霊廟の入り口に近づき、中の様子を窺った。

「……アンデッドだ。グール(屍鬼)が三体。それに、何か奇妙な魔法陣の前で、黒いローブを着た人間が呪文を唱えている」

ジュードが戻ってきて、小声で伝えてくる。

「やはり、意図的に仕組まれた呪詛(カース)でしたのね。あの魔法陣が町の人々の生命力を吸い上げ、アンデッドを操るための魔力に変換している起点に違いありませんわ」

ミレーヌが断言した。あの黒ローブの男が、昼間の司祭と繋がっているのは間違いないだろう。

「どうする、クライヴ。俺が正面から扉をブチ破ってやろうか?」

バルドがニヤリと笑い、ラージシールドを構え直す。 「ああ、頼む。一気に制圧するぞ」

俺が短く応じると、バルドは分厚いラージシールドを前方に構え、重戦車のような勢いで霊廟の扉へと突進した。 鼓膜を揺らす凄まじい破壊音と共に、石造りの入り口にはめ込まれていた分厚い木扉が蝶番ごと吹き飛ぶ。

「戦神マイリーの裁きを受けな、腐れ外道ども!」

バルドの咆哮に、魔法陣の前で呪文を唱えていた黒ローブの男が弾かれたように振り返った。

「な、何奴ッ!? ええい、やれ! 侵入者を八つ裂きにしろ!」

男の叫び声に呼応し、三体のグール(屍鬼)が耳障りな金切り声を上げて飛びかかってくる。バルドが手近な一体をラージシールドで力任せに弾き飛ばした瞬間、俺は静かに踏み込み、大剣の絶対的な間合いへと敵を捉えた。 腐肉の臭いを撒き散らしながら迫るグールの鋭い爪。だが、それが俺に届くよりも遥か手前で、俺は体重移動と腰の捻りを連動させ、グレートソード(ツヴァイハンダー)を振り抜いた。 腕力で無理やり剣を振るうのではない。剣そのものの重さを利用し、身体の回転に合わせて遠心力を乗せる傭兵の剣術だ。流れるように円を描く刃は、生来の筋力では劣る俺に絶大な破砕力をもたらしてくれる。

「ふっ……!」 遠心力が最高潮に達した大剣の刃が、グールの胴体を横薙ぎに捉えた。硬い骨を容易く断ち切る手応えと共に、腐りかけた肉体が真っ二つに分断されて石畳に崩れ落ちる。敵の攻撃を一切寄せ付けずに制圧する、これが俺の剣だ。

「いい一撃だね、クライヴ! 僕も続くよ!」

ジュードが軽やかな足取りで敵の死角へ回り込み、ショートスピアの鋭い突きで残る一体の膝裏を正確に貫いて体勢を崩させる。

「ウィルオー・ウィプスよ、彼の者の加勢を!」

「『エネルギー・ボルト』!」

すかさず後方からエレノアの放った光の精霊と、ミレーヌの純粋な魔力の矢が立て続けに直撃し、瞬く間に三体のアンデッドはただの動かない肉塊へと変わった。

形勢不利と悟ったのか、黒ローブの男が舌打ちをして魔法陣の奥へと逃げ込もうとする。

「逃がすかよッ!」 バルドのウォーハンマーが唸りを上げて男の足元の石畳を粉砕し、男は悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。俺は即座に間合いを詰め、男の首筋へ大剣の切先を突きつける。

「動くな。この呪われた陣と、町の人々から生命力を奪っていた理由……余さず吐いてもらうぞ」

俺が低い声で告げると、恐怖に顔を引き攣らせた男のローブの胸元から、昼間の司祭と同じファリスの聖印がこぼれ落ちた。足元に転がり落ちたファリスの聖印を見て、俺は腹の底で冷たい怒りが渦巻くのを感じた。

「……神聖なる至高神の印を掲げながら、裏でアンデッドを使役し、呪いをばら撒いていたというわけか」

俺が低い声と共にツヴァイハンダーの切先を数ミリほど首筋に押し当てると、黒ローブの男は「ひっ」と短い悲鳴を上げ、ガタガタと震え出した。

「ち、違う! 私が考えた計画じゃない! すべてはあの司祭……教区長様の命令なんだ!」

「命令だと? 詳しく話せ」

大剣の重圧に耐えかねた男は、涙と鼻水を流しながら早口で弁明を始めた。

男の自白によれば、事の始まりはこの古い霊廟の地下で偶然、古代の呪詛の魔法陣を発見したことだったという。陣が放つ呪いは周囲の人間の生命力を少しずつ吸い上げ、その過程で「すすり泣くような声」の幻聴を引き起こす。 その事実に気づいた司祭は、あろうことかこの陣を起動させた。町中に原因不明の衰弱を引き起こし、それを「ファリスの試練であり、祈りが足りない証拠だ」と喧伝したのだ。 すべては、恐怖に駆られた町民から「お布施」という名目で金品を搾取し、教会の富と権力を絶対的なものにするための自作自演だった。

「ひどい話だね……。神様への信仰を、ただの金儲けと支配の道具にするなんて」

ジュードが軽蔑の眼差しで男を見下ろし、持っていたロープで手早く男の後ろ手を縛り上げた。

「腐りきってやがる。マイリーの教えにもあるが、弱者を食い物にする臆病者に神を語る資格はねえ」

バルドも忌々しそうに床に唾を吐き捨てる。

かつて、教義に一切の疑問を持たなかった頃の俺なら、教会の人間がこんな悪事に手を染めているなどと信じられず、目を背けていたかもしれない。だが、今は違う。権威に盲従することなく、己の目で正義を見定めろと、俺の剣は教えてくれた。

「クズめ。お前たちのせいで、どれだけの人間が苦しんだと思っている」

俺が男を睨みつけていると、霊廟の奥で魔法陣を調べていたミレーヌが声をかけてきた。

「クライヴ、尋問の途中ですが急ぎましょう。この魔法陣、まだ稼働を続けていますわ。私の知識と魔力で術式を逆算し、破壊することは可能ですが……少し時間がかかります」

「分かった。頼む、ミレーヌ。ジュードとエレノアは入り口の警戒を。バルドはこの男を見張っていてくれ」

ミレーヌが杖を掲げ、魔法陣の解呪に取り掛かる間、俺は縛り上げられた男を見下ろしながら次の行動を思案した。 呪いの元凶である魔法陣を破壊すれば、町の人々の衰弱は止まるだろう。だが、首謀者である司祭はまだ町の教会でのうのうと眠っているはずだ。

「このまま夜陰に乗じて教会へ乗り込むのも手だが……それではトカゲの尻尾切りに終わるか、逆に俺たちが『教会に押し入った賊』として仕立て上げられる危険がある」

俺がそう告げると、バルドも太い腕を組んで頷いた。

「違いねえ。あそこまで根性が腐りきった坊主なら、どんな嘘八百でもでっち上げやがるだろうからな」

「だからこそ、誰もが逃げ隠れできない白日の下で、奴の悪事を暴く」

俺たちの結論が決まった直後、ミレーヌが安堵の息を吐きながら立ち上がった。

「終わりましたわ。魔力供給のラインを絶ち、魔法陣そのものを完全に破壊しました。これで、呪いが町の人々を蝕むことはありません」

その言葉通り、霊廟を満たしていた毒々しい紫色の光がフッと消え失せ、肌を刺すような冷気と幻聴も嘘のように引いていった。

「ありがとう、ミレーヌ。……さあ、夜明けを待とう」

 

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