ソードワールド二次創作小説(ファリスの聖戦士) 作:シットライヌ
——翌朝。 太陽が昇り始めた宿場町の広場には、まだ顔色が悪いながらも、憑き物が落ちたように身体の重さが消えたことに戸惑う町民たちが集まり始めていた。 そこへ、昨日と同じように豪奢な祭服を着飾った司祭が、数人の護衛を連れて現れた。
「おお、迷える子羊たちよ。そなたらの祈りが届き、ファリス様がようやく試練を和らげてくださったのだ。さあ、神への感謝を示しなさい。お布施を——」
司祭が口を開いたその瞬間。
「——その薄汚い口で、二度とファリスの名を語るな」
俺は広場の中央へと進み出た。背後のバルドが、ぐるぐる巻きに縛り上げた黒ローブの男を広場の石畳に放り投げる。男の胸元からこぼれ落ちたファリスの聖印が、朝日を浴びて虚しく光った。
「な、何奴だ! 教会への冒涜であるぞ!」
「冒涜しているのは貴様だろう、教区長殿」
俺は静かに、しかし広場の隅々まで届くようにはっきりと声を張り上げた。
「この男たちが古い霊廟の地下で呪詛の魔法陣を起動し、意図的に町民の生命力を奪っていたのだ。すべては『試練』と称して、人々から金を巻き上げるため。……そうだな?」
俺が睨みつけると、黒ローブの男は怯えきった様子で何度も頷き、
「す、すべて教区長様の命令で……」
と涙ながらに自白を始めた。 広場に集まっていた町民たちの間に、動揺と、やがて確かな怒りのざわめきが広がっていく。
「で、でたらめだ! そのような狂人の戯言など信じるな! 護衛の者たち、その不届き者どもを捕らえろ!」
司祭が裏返った声で叫ぶと、雇われていた屈強な傭兵風の男たちが武器を抜いて立ちはだかった。その数、五人。 俺は一歩も退かず、背中のグレートソード(ツヴァイハンダー)をゆっくりと引き抜いた。
「……神は、己の意志で正義を見定めることを望まれる。弱者を虐げる貴様に、もはや神の加護はない」
俺が両手で大剣を構えたのを見て、バルドがウォーハンマーを、ジュードがショートスピアを構える。エレノアとミレーヌも即座に詠唱の体勢に入った。
「やれ! そいつらを叩き斬れば、特別報酬を出してやる!」
司祭の金切り声に煽られ、五人の傭兵たちが一斉に襲いかかってきた。大剣、長剣、そしてメイス。それぞれが荒事で飯を食ってきた手練れのようだが、金で動く刃に正義はない。
「バルド、ジュード! 左右を頼む!」
「おうさ!」
「任せてよ!」
両翼を固めた仲間に背中を預け、俺は正面から突っ込んでくる大剣使いの傭兵に相対した。 相手は筋骨隆々の巨漢で、力任せに大剣を上段から振り下ろしてくる。典型的な、腕力だけで剣を制御しようとする荒削りな剣術だ。
「遅い……!」 俺は踏み込みながら、相手の刃が届くより一瞬早く、自身のグレートソード(ツヴァイハンダー)を横薙ぎに振り抜いた。 腕の力ではない。腰の捻りと踏み込みが生み出した強烈な遠心力が、長大な刃の先端に恐るべき破壊力を凝縮させる。
ガァンッ!! 金属が激突する甲高い音が広場に響き渡った。俺の一撃は、相手が振り下ろそうとした大剣の腹を的確に叩き据え、その凄まじい衝撃で巨漢の傭兵の武器は手から弾け飛んだ。 体勢を崩し、無防備になった傭兵の首筋に、俺は手首を返してツヴァイハンダーの切先をピタリと止める。
「……動くな。死にたくなければな」
俺が低い声で告げると、傭兵は戦意を喪失してその場に崩れ落ちた。
右翼では、バルドが敵のメイスの連撃をラージシールドで完全に受け流し、ウォーハンマーの強烈な盾払いで一人を昏倒させていた。 左翼では、ジュードがショートスピアのリーチと軽快なステップで二人組の傭兵を翻弄し、後方からエレノアの放った『スネア』によって、大地の精霊ノームが彼らの足元に干渉し、綺麗に転倒させている。
「ひっ……!」
頼みの綱だった護衛たちが瞬く間に制圧されたのを見て、司祭は腰を抜かし、無様にも後ずさった。 俺は大剣のリカッソ(刃の無い部分)を掴んでハーフソードの構えに持ち替え、逃げようとする司祭の足元に重い切先を突き立てた。石畳が砕ける音が、広場に静寂をもたらす。
「そこまでだ、教区長殿」
「ま、待て! 金ならある! お前たちにも十分な報酬を……!」
「黙れ」
俺の静かな、だが怒りを孕んだ一喝に、司祭は喉を鳴らして押し黙った。
「貴様が犯した罪は、教団本部へ報告させてもらう。だがその前に……この町の人々に、己の口で真実を語り、許しを請え」
周囲を取り囲んでいた町民たちから、怒りの声が次々と上がり始めた。呪いに苦しめられ、なけなしの財産を奪われた彼らの怒りは、もはや教会の権威などでは抑え込めない。
「……ミレーヌ、エレノア。この男と黒ローブを縛り上げて、町の自警団に引き渡してくれ」
「承知いたしましたわ。教団本部への告発状は、私が代筆しておきましょう」
「精霊たちも、これでようやくこの町に平穏が戻ると喜んでいますよ」
ミレーヌとエレノアの手で捕縛された司祭は、もはや喚く気力すらなく、うなだれたまま自警団の詰め所へと引き立てられていった。
「ふぅ……。これで一件落着だな」
バルドがウォーハンマーを肩に担いで豪快に笑う。
「それにしてもクライヴ、お前のその大剣術は本当に見事だな。力じゃなくて、理屈で相手をねじ伏せるって感じだ」
ジュードが感心したように俺のツヴァイハンダーを眺めた。
俺は大剣を背中の鞘に収め、空を仰いだ。 傭兵の師匠が教えてくれた技術。そして、教義に縛られず己の目で正義を見定めたからこそ得られた、ファリスの加護。 どちらが欠けても、今日の勝利はなかっただろう。
「さあ、出発の準備をしよう。隊商長がオーファンへ向けて首を長くして待っているはずだ」
俺たちは朝日が照らす街道を振り返り、再びアノスへの遥かなる巡礼の旅路へと歩き出した。