ソードワールド二次創作小説(ファリスの聖戦士) 作:シットライヌ
隊商の荷馬車が、分厚い城壁に囲まれたオーファンの正門をくぐった時、俺たちはようやく長
い護衛任務の終わりを実感した。建国王リシャールが治めるこの国は、傭兵や冒険者が集う活気
と熱気に満ちている。
無事に隊商を送り届けた俺たちは、報酬の銀貨を受け取り、冒険者の集う酒場兼宿屋『踊る獅
子亭』で祝杯をあげていた。
「いやぁ、無事に着いて良かった! これで当分は美味いエールと温かいベッドにありつける
ね」
ジョッキを傾けながら、ジュードが上機嫌に笑う。
「フン、あの程度の小悪党なんぞ、マイリーの加護を持った俺のハンマーの敵じゃねえよ」
バルドも豪快に笑い、山盛りの肉料理を平らげていく。
「私は明日から、魔術師ギルドの書庫へ通わせていただきますわ。アノスへの安全なルート
と、古代王国の遺跡に関する文献を調べませんと」
ミレーヌは既に次の旅程を見据え、分厚い魔導書のページをめくっている。エレノアも静かに頷
き、
「森の精霊たちが落ち着ける場所を探しましょう」
と微笑んだ。
俺も背に立てかけたグレートソード(ツヴァイハンダー)の柄を撫でながら一息ついた。だ
が、その安息は唐突に破られた。
「いいからその地図を渡しな、学者先生! 俺たち『赤の刃』傭兵団が、代わりにその遺跡の宝
を回収してやるって言ってんだよ!」
酒場の隅から聞こえた荒々しい怒声に、客たちの視線が一斉に集まる。見れば、薄汚れたロー
ブを着た若い学者が、武装した三人の柄の悪い傭兵に壁際へと追い詰められていた。学者は震え
ながらも、羊皮紙の巻物を必死に胸に抱え込んでいる。
「こ、これは私の恩師が命懸けで残してくれたカストゥール王国の遺跡の地図だ! 貴方たちの
ような盗賊紛いの連中に渡すわけにはいかない!」
「往生際が悪いぜ!」
傭兵の一人が舌打ちし、腰の剣に手をかけた。周囲の客や店主は厄介事を嫌い、見て見ぬふり
をしている。俺は無言のままジョッキを置き、ゆっくりと立ち上がった。
「クライヴ?」
ジュードが驚いたようにこちらを見るが、俺の足は自然と動いていた。ファリスの教義に囚われ
ていた頃なら、
「衛兵を呼ぶべきだ」と躊躇していたかもしれない。だが、弱者が踏み
にじられるのを目の前で見過ごすのは、今の俺が信じる正義ではない。
「......その辺にしておけ。彼が嫌がっているのが分からないのか」
俺は傭兵たちの背後に歩み寄り、静かに声をかけた。振り返った傭兵たちは、俺の背にある長
大なツヴァイハンダーと、胸のファリスの聖印を見て一瞬怯んだものの、すぐに鼻で笑った。
「あぁん? なんだテメェ、ファリスの坊主か? 引っ込んでな、これは俺たちの仕事の交渉
だ!」
「剣の柄を握りながらの交渉など聞いたことがないな。それとも、俺の剣で交渉の仕方を教え
てやろうか?」
俺が低い声で凄むと同時に、背後から重々しい足音が響いた。
「おいおい、俺たちを置いて楽しもうってのか? 抜け駆けは感心しねえな」
ウォーハンマーを肩に担いだバルドがニヤリと笑って並び立ち、その後ろではジュードやエレノ
ア、ミレーヌも既に武器や杖に手をかけている。
傭兵のリーダー格が俺たちの顔を一人一人ねめ回す。俺の背にある長大な大剣、ドワーフの筋
骨隆々とした体躯とウォーハンマー、さらには後方で魔力と精霊を侍らせて臨戦態勢をとる魔術
師とエルフ。
「......チッ。今日は運が良かったな、学者先生」
明確な戦力差と、ただの素人ではない俺たちの気迫を悟ったのだろう。男は忌々しげに剣から
手を離し、床に唾を吐き捨てた。
「『赤の刃』を敵に回して、オーファンで無事に過ごせると思うなよ。行くぞ!」
負け犬の捨て台詞を残し、三人のならず者たちは足早に酒場から逃げ出していった。緊張が解
け、酒場に再びいつものざわめきが戻る。俺は構えを解き、壁際でへたり込んでいる学者に手を
差し伸べた。
「怪我はないか? オーファンは剣の国だ。腕に自信があるだけのあんな連中がゴロゴロして
いる」
「あ、ありがとうございます......! 間一髪のところでした」
学者は俺の手を取って立ち上がると、胸に抱えていた羊皮紙を大切そうに撫でた。彼の名前は
セオドール。魔術師ギルドの末席に名を連ねる若き古代史の学者だという。
「実は、これは私の恩師が遺した古代カストゥール王国の遺跡の地図なのです。調査へ向かう
にも資金がなく、まともな護衛を雇えずに困っていたところをあいつらに目をつけられ......」
そこまで話したセオドールは、ふと俺の胸にあるファリスの聖印と、背後に立つ頼もしい仲間
たちの顔を交互に見つめ、ハッとしたように姿勢を正した。
「あの、もしよろしければ......貴方たちに、この遺跡の探索と私の護衛をお願いできないで
しょうか? 報酬は必ずお支払いします。それに、遺跡から見つかった古代の魔導具や財宝の所有
権は、すべて貴方たちにお譲りします。ならず者ではなく、貴方たちのような真の冒険者にこそ
お願いしたいのです!」
その申し出に、誰よりも早く反応したのはミレーヌだった。
「古代カストゥール王国の遺跡......! それはこだいご魔法を修める者として、そしてセージ(学
者)として見過ごせないお話ですわね」
理知的な瞳を爛々と輝かせる彼女を見て、ジュードが肩をすくめて笑う。
「僕らの頭脳がすっかり乗り気みたいだね。オーファンに着いたばかりだけど、退屈せずに済み
そうだ」
エレノアも静かに頷き、バルドは「地下の遺跡ならドワーフの俺の出番だな」と早くも胸を叩い
ている。皆の顔を見渡し、俺はセオドールに向き直った。
「決まりだな。ファリスの神官戦士クライヴとその仲間たちが、あんたの依頼、確かに引き受
けた」
アノスへの巡礼の前に舞い込んだ、古代王国の謎が眠る遺跡探索。俺たちの新たな冒険が、こ
こオーファンから始まろうとしていた。