ソードワールド二次創作小説(ファリスの聖戦士)   作:シットライヌ

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第6話

オーファンの喧騒を背に、俺たちはセオドールが広げた古い羊皮紙を頼りに街道を外れた。

目指す古代カストゥール王国の遺跡は、険しい山間の谷底にひっそりと眠っているという。

木々が鬱蒼と生い茂る獣道を進むにつれ、学者のセオドールは息を切らし、徐々に足取りが重く

なっていった。

「ほれ、先生。無理すんな。荷物は俺が持ってやるからよ」

バルドが呆れたように笑い、セオドールの背負い袋をひょいと持ち上げた。ドワーフの強靭な体

力からすれば、ずっしりとした布袋が一つ増えたところで羽のようなものだろう。

「も、申し訳ありません......。書庫に引きこもってばかりで、野営の経験すら乏しいもの

で......」

「気にしないでよ、先生。僕とエレノアがちゃんと安全な道を選んで歩いているからさ」

先頭を行くジュードが、ショートスピアで絡みつく蔦を払いながらウインクを飛ばす。隣を歩くエ

レノアも、風の精霊と囁き合いながら、周囲の微かな気配の変化に気を配っていた。

「それにしても、この地図......驚くほど緻密ですわね」

ミレーヌは歩きながらも魔導書と地図を照らし合わせ、知的好奇心の興奮を隠しきれない様子

だった。

「カストゥール王国は、魔法がすべての頂点にあった時代。その遺跡が手付かずで残っていると

すれば、魔法陣の設計から魔導具の構造に至るまで、まさに歴史的な宝の山ですわ」

「だが、美味い話には裏があるものだ。......そうだろう、エレノア?」

俺が背後の草むらへ視線を向けると、歩調を合わせていた仲間たちの空気が一瞬にして引き締

まった。

「ええ。風が淀んでいます。ずっと後方から、身を隠すこともなく追ってくる足音が複数」

エレノアの言葉に、セオドールの顔が青ざめた。

「ま、まさか......オーファンの酒場で絡んできた『赤の刃』傭兵団......!?」

「諦めの悪い連中だ。あの場では数の不利を悟って引き下がったが、俺たちが案内路を切り拓

くのを待って、背後から漁夫の利を狙う腹だろう」

俺は背に負ったグレートソードの柄にそっと手を添えた。力任せではなく、遠心力を利用して

一撃を放つあの剣術なら、こんな木々の多い森の中でも、立ち回り次第で十分に戦える。

 

「ここで迎え撃つ。連中に遺跡の入り口を知られるわけにはいかないからな」

俺の決断に、仲間たちは音もなく散開した。バルドが怯えるセオドールを大樹の陰へ誘導して

分厚いラージシールドで守りを固め、レンジャー技能を持つジュードとエレノアが足跡を偽装しながら前方の茂みへと姿を消す。ミレーヌは俺の背後で、静かに古代語魔法の詠唱を練り始めた。

それから数分後。下草を踏み荒らす無遠慮な足音が近づいてきた。酒場で絡んできた三人組に

加え、さらに数人の荒くれ者が増援として合流しているようだ。

「おい、足跡がここで途切れてるぞ」

「チッ、あの学者と神官の坊主ども、どこへ消えやがった?」

「ここだよ!」

頭上の枝葉から降ってきたジュードの声が、奇襲の合図だった。

軽やかに跳躍したジュードが、ショートスピアの石突で傭兵の一人の脳天を正確に叩き据えて昏

倒させる。同時に、エレノアの放った『ファイャーボルト(炎の矢)』が傭兵たちに直撃し、その陣形をパニックに陥れた。

「待ち伏せだ! 囲まれる前に散開しろ!」

リーダー格の男が叫んで剣を抜くが、遅すぎる。俺は茂みから静かに歩み出ると、広葉樹に囲

まれたわずかな空間で、大剣を抜き放った。

「馬鹿め、こんな森の中でそんな長剣が振り回せるか! 懐に潜り込め!」

男の号令で、二人の傭兵が短剣と手斧を構えて左右から飛びかかってくる。木々が密集する森

では、大剣の取り回しは圧倒的に不利――素人ならそう考えるだろう。

だが、傭兵の師匠から叩き込まれた俺の剣術は、力任せのフルスイングではない。

俺は刃の無いリカッソに手を添えて剣の重心を制御し、自身の身体を鋭く捻った。木々の幹と

幹の隙間を縫うように、極めてコンパクトな円の軌道を描き出す。そして敵が踏み込んできた瞬

間に遠心力を爆発させた。

「ふっ......!」

最小の予備動作から放たれた大剣の腹が、傭兵の持つ手斧ごと彼らの胴体を薙ぎ払った。二人

の男はくの字に折れ曲がり、悲鳴を上げる間もなく吹き飛んで幹に激突する。

腕力ではなく、重力と遠心力の理を突いた大剣術。これこそが、俺がファリスの教義の先に見出

した力だ。

 

「な......化け物か......!」

「『スリープ・クラウド(眠りの雲)』!」

リーダー格の男が恐怖に顔を引き攣らせて逃げ出そうとした瞬間、ミレーヌの杖から放たれた

催眠の魔法雲が彼を包み込み、男は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。

追手を完全に無力化した俺たちは、木の蔓で手早く彼らを縛り上げ、再び遺跡へと向かう隊列

を組み直した。邪魔者はいなくなり、森の奥深くへと進むと、やがて苔生した巨大な石造りの扉

が谷底に姿を現す。

深い谷底に鎮座する遺跡の入り口は、苔むした巨大な一枚岩の石扉によって固く閉ざされてい

た。ジュードとバルドが表面に絡みついた分厚いツタを剥ぎ取ると、そこに刻み込まれた幾何学

的な紋様――巨大な魔法陣が姿を現す。

「見事なものですわ......。これほど精緻な古代カストゥール語のルーンを直接拝めるなんて。

しかも、ただの装飾ではなく魔力の脈動がまだ生きています」

ミレーヌが魔導書を片手に、興奮した面持ちで石扉の表面を指でなぞった。学者のセオドール

も震える手で羊皮紙の地図を広げ、陣の紋様と食い入るように見比べる。

「ええ、恩師の地図にも記述がありました。この扉そのものが巨大な魔法陣であり、正しい

『鍵』を示さなければ永遠に開かない仕組みになっていると」

「鍵って、どこかに鍵穴でも隠されてるのか?」

バルドがウォーハンマーの柄で扉をコツコツと叩くが、岩は微動だにしない。俺は周囲への警

戒を解かずに、二人の知識人に判断を委ねた。

「物理的な鍵ではありませんわ、バルド。術式を読み解くに、この魔法陣は魔力の属性バラン

スを問いかけています。六つの円形が交わるこの形......セオドール様、地図に解読のヒント

は?」

「ええと......『真なる叡智は万物を統べる。なれど、その扉を開くは対極の交わりにあり』、と書かれています」

その一節を聞いたミレーヌは、確信めいた笑みを浮かべた。

「なるほど。対極の交わり......つまり、相対する二つの力を同時に陣へ流し込み、中和させる

ことで術式が解錠される仕組みですわね」

ミレーヌは杖を構えると、俺の方を振り返った。

 

「クライヴ、あなたの出番ですわ。至高神ファリスの祈りを。私が古代語魔法で魔力(マナ)を流し込みます」

「俺の祈りが、古代の魔法陣を開く鍵になるのか......分かった」

俺は胸元のファリスの聖印を固く握りしめ、静かに精神を集中させた。盲目的な信仰ではな

く、己の意志で紡ぎ出す温かな光が指先に灯る。ミレーヌの杖の先から放たれた魔力と同時に、俺たちは陣の中央にある窪みへその力を注ぎ込んだ。

光と闇の力が陣の中で交じり合い、眩い閃光となってルーンの溝を駆け巡る。

直後、ズズズズッ......という重低音と共に、数百年もの間閉ざされていた巨大な石扉が、ゆっくりと左右に開き始めた。

ひんやりとした古い空気と、濃厚な魔力の匂いが地下から吐き出されてくる。カストゥール王

国の遺産が眠る、未知なる迷宮への道が開かれた瞬間だった。

 

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