ソードワールド二次創作小説(ファリスの聖戦士) 作:シットライヌ
崩れゆく古代遺跡の冷たい空気が、地上から吹き込む温かな風へと変わっていくのを感じながら、俺たちは迷宮の階段を一段ずつ上っていた。
賢者の石という狂気の遺産を打ち砕いた右腕には、未だにジンジンとした微かな痺れが残っている。だが、それは決して不快なものではなく、己の意志で正義を貫き、為すべきことを為したという確かな生の実感だった。
「いやぁ、それにしてもあの最後の一撃! クライヴの剣が光を裂いた瞬間、僕のリュートでどう劇的に奏でようか、もう頭の中で曲ができあがってるよ!」
ジュードが軽やかな足取りで先導しながら、陽気に笑いかける。
「その曲のタイトルは『石頭より硬い神官戦士』で決まりだな! マイリーの神殿でも語り継いでやりてえぜ、ガハハッ!」
バルドの豪快な笑い声が薄暗い通路に反響し、ミレーヌとエレノアも思わず顔を見合わせて小さく吹き出した。種族も信仰も異なる五人だが、死線を越えるたびに不思議なほど連携が深まっているのを肌で感じる。
地上へ出ると、オーファンの空はすでに鮮やかな茜色に染まり始めていた。
眼下に広がる巨大な交易都市からは、夕暮れ時特有の活気に満ちた喧騒が、風に乗って微かに運ばれてくる。遺跡の入り口で足を止めたセオドールは、「この恩義は生涯忘れません」と何度も振り返りながら、遺跡の封印を完全なものにするための手配に奔走すると誓って去っていった。
俺は背に負ったツヴァイハンダーの分厚い柄を撫でながら、沈みゆく太陽を見つめた。かつて教団の狭い世界で狂信に縛られていた俺は、己に合わないメイスを無理に振るい、無力感に苛まれていた。しかし、すべてを疑い、自らの意志で振るうと決めたこの傭兵の大剣は、ただの暴力の道具ではなく、弱者を守り悪を断ち切るための刃として確かな軌道を描いている。
「さあ、感傷に浸るのは後ですわ。まずはオーファンで一番美味いエールと分厚い肉を出す酒場を探しましょう。今回の破格の報酬なら、三日三晩は豪遊できますわよ」
ミレーヌがローブの埃を払いながら、すっかり普段の計算高い魔術師の顔に戻って歩き出す。
「風の精霊たちも、この街の美味しい食事に賛成して騒いでいますよ。夜の闇が降りる前に、宿の確保も急がなくては」
エレノアの穏やかな声に背中を押され、俺たちは夕日に照らされたオーファンの石畳へと歩みを進めた。
至高神ファリスの真の教えは、教会の中の虚飾に満ちた祈りの言葉にあるのではない。自らの足で大地を踏みしめ、仲間と共に剣を振るうこの現実の中にこそ存在している。聖地アノスへの巡礼の道程はまだ遥か遠く、オーファンの影には新たな脅威が潜んでいるかもしれない。それでも、この頼もしい仲間たちと共に行くこれからの旅路に、俺の胸の奥では不思議なほどの高揚感と静かな闘志が燃え続けていた。
喧騒と活気に満ちた都市オーファンの冒険者のやどで、ずっしりと重い革袋を受け取った時、俺はようやく古代遺跡での死闘が過去のものになったのだと実感した。セオドールからの特別報酬も上乗せされたその金貨は、俺たち五人が聖地アノスへ向かうための旅の資金として、これ以上ないほど十分な額だった。
「これでしばらくは、固い干し肉と野宿の冷え込みから解放されるね!」
ジュードが金貨の鳴る音をリュートの調べに合わせながら上機嫌に笑い、バルドは早速、ドワーフの背丈ほどもある特大の酒樽を担ぎ上げて豪快な祝杯の準備を始めている。ミレーヌとエレノアも、これからの長旅に備えて上質な保存食や新たな魔法の触媒を買い込む算段を立てており、それぞれの顔には大きな危機を乗り越えた確かな自信が宿っていた。
三日三晩に及ぶ宴と十分な休息を経て、俺たちは再びオーファンの巨大な城門の前に立っていた。朝霧が立ち込める街道の先には、まだ見ぬ険しい山脈と、その遥か向こうに広がる至高神ファリスの聖地アノスが待ち受けている。
教団の敷いた安全で画一的なレールから外れ、自身の意志でこのツヴァイハンダーを背負い直したあの日から、俺の信仰の形は劇的に変わった。権威にすがり盲目的に祈るのではなく、過酷な現実の中で泥に塗れ、仲間と背中を預け合いながら自らの刃で正義を切り拓く。生来の腕力ではなく、遠心力と理合いによって生み出される傭兵の大剣術。その冷たい金属の感触と確かな破砕力こそが、今の俺にとって最も信頼できるファリスの加護だった。
「さあ、行こうか。アノスへの道のりは、まだ始まったばかりだ」
俺が短く声をかけると、四人の仲間たちが力強く頷いた。バルドが分厚いラージシールドとウォーハンマーを打ち鳴らして気合いを入れ、ジュードがショートスピアを片手に軽快な足取りで先陣を切る。エレノアの周囲には旅の無事を祝福するように風の精霊たちが舞い踊り、ミレーヌは真新しい羊皮紙の地図を広げて理知的な瞳を輝かせた。
土埃の舞う街道を力強く踏みしめるたび、背中の大剣が頼もしい重みと共にガチャリと心地よい音を立てる。神官戦士クライヴと頼れる仲間たちの巡礼の旅は、真の信仰と自身の正義を証明するため、オーファンの空を越えて未踏の荒野へと続いていく。