ブルーアーカイブ 桐藤ナギサの秘書 作:リハビリ作者
翌日。アリウス自治区の一角にある会議室にて
ティーパーティーホスト『桐藤ナギサ』とアリウス自治区の暫定的リーダー『梯スバル』は向かい合っていた。
互いに観察するかのように相手を見ており、一挙手一投足手を抜かず、僅かにでも隙を見せないように振る舞っている。机の上には、物資の配給表や教材の一覧、そして教員の派遣計画が並べられていた。
「食料については、当面こちらから定期的に送ります。医薬品も不足しているようですので、次回の便に追加しましょう」
「随分と手厚いことで」
スバルは資料を眺めながら薄く笑う。その笑みにあるのは感謝ではなく、どこか相手を小馬鹿にしてるような嘲りであった。
「見返りもなしに物資を渡してくれるとは、まるで慈善事業ですね。さすがはトリニティ総合学園。昔は私たちを自治区から追い出すほど熱心だったのに、今は随分とお優しくなったものです。いやー感動ですよ。私たちが攻撃したおかげですかね? トリニティも随分と変わられたようで」
「必要だから支援しているだけですよ」
「ええ。もちろんそうでしょうね……それだけではないでしょうけど」
ナギサはその言葉に何も答えない。しかし、スバルからすればその沈黙が答えのようなものだった。
「あなたが物資を届けているのはただの慈善事業ではない。私たちが昔の恨みに駆られて、トリニティに銃口を向けないかを監視してるのでしょう?」
「……そうですね。その可能性を無視することはできませんから」
「随分と正直ですね。嫌いですよ。トリニティの癖に殊勝であろうとする所は」
「隠しても仕方ありませんから。あなたも最初から気づいていたのでしょう?」
「ええ。だから私としては、今日は何を見に来るのかなあと毎日あなたが来るのを楽しみにしてたんですよ。それこそ、人殺しの訓練の次に楽しみに思う程度には」
ナギサは、スバルの言葉を真正面から受け止めながらも、表情を変えなかった。
「そうですか。それは光栄ですね」
「……本気で言っています?」
「ええ」
表情も変えずにそういう彼女をみて、スバルはつまらなさそうに舌打ちする。
「ちっ……相変わらず鬱陶しいですね。そういうスルースキルは」
「今は、あなたと喧嘩をするために来ているわけではありませんから。多少の罵詈雑言は受け流します」
ナギサは表情を変えることなく、別の資料へ視線を落とす。そこに書かれているのはアリウス自治区に対する処罰についての内容だった。
「アリウス分校の行動は、ベアトリーチェの支配下にあったからという理由だけで無かったことにはできません。トリニティ、そしてゲヘナに対するテロ行為です。被害を受けた方々がいる以上、色々と責任を問われるでしょう。しかし、アリウスの生徒全員をトリニティやゲヘナの施設へ収容することはできません。そもそも今は、そんな余裕がありません。ゲヘナは色々大変なようですし、トリニティもまだゴタゴタしてますから。かといって矯正局に入れようにも、アリウスの生徒全員を入れる余裕はありません」
「だから、ここを牢獄にしたというわけですか」
「正確には、暫定的な管理区域です」
「言葉を変えただけでしょう」
スバルは鼻で笑って見下すような目で見た後、窓の外を見渡し、空高く建てられた壁を忌々しそうに見つめる。
現在のアリウス自治区は簡易的な壁で一部分が区切られており、生徒たちはその中で暮らしている。壁の中から許可なく外へ出ることは叶わず、出る際には様々な手続きや申請書が必要となっている。
壁の内外はフィリウス分派のメンバーやシスターフッド、救護騎士団のメンバーたちが周回して見張りをしつつ、アリウスの歴史について話を聞くためにアリウス生徒たちと接していた。
壁の見た目は薄いプラスチック製のように見えるが、その実態はミレニアムの最新鋭の技術を導入して作られた物質であり、戦車の砲弾を10発撃っても耐えうるほどの頑強な素材で作られていて、腐食や錆にも強いという非の打ち所がない物である。当然、戦車など所持していないアリウス生徒たちには、壁を破壊することは出来ない。
仮にどうにかして壁を破壊出来る力を得たとしても、壁には、破壊した瞬間に巨大爆発を起こす機能が仕掛けられており、下手に破壊すれば生き埋めになる危険もある。とても脱出することなど不可能であった。
「許可なく外へ出られず、好きな物も買えない。監視され、自由に生活することも出来ない。どう考えても牢獄ですよ」
「否定はしません。少なくとも、現状ではその側面があります。ですが罪を犯した方々を、何の制限もなく自由にするわけにはいきません。同時に、あなた方全員を罰するためだけに閉じ込めておくことも正しいとは思っていません。ですから、ここをただの収容場所にはしません」
ナギサの言葉を、スバルはどこか冷めた目つきで見ていた。まるで、希望や未来など信じていない、相手の慈悲や優しさなどに何も期待してないかのように。
ナギサもその視線には気づいていたが、それでも自分の思いを伝えたいと思い、言葉を続ける。
「食料を届ける。医薬品を用意する。教材を用意する。そして教員を派遣する。そして外の世界について十分に学べたら仕事も斡旋する。それが、今やるべきことだと思っています」
「食料や医薬品はともかく、教材や教員もですか。私たちを矯正するつもりで?」
「矯正という言葉が適切かは分かりません。ですが、ベアトリーチェの下で教えられてきたことが、あなた方の全てではないはずです。暴力で物事を解決すること、外の世界を敵として見ること、誰かに命令されれば、それを疑わず実行すること。それらを当たり前だと思わなくてもいいようにする。そのための教育です」
ナギサのその言葉に、スバルは嘲笑の笑みを浮かべながら答える。
「随分とお優しいことで。私たちを人間として扱ってくださるんですね」
「当然でしょう。あなた方は生徒なのですから」
その言葉にスバルは一瞬だけ黙り、殺気を込めてにらみつけるが、ナギサはピクリともしなかった。
「……そういうところですよ」
「何がです?」
「そうやって、救世主気取りで色々やろうとする所が気に入らないんですよ。私たちは、あなた方を襲った側ですよ。なのに食料を持ってきて、薬を持ってきて、教員まで用意し、仕事の斡旋もする。そういう所が苛つくんですよ」
「救世主のつもりはありません。先ほども言ったように、私はやるべきことをしているだけです。あなた方がエデン条約の1件で何をしたのか。それを忘れるつもりはありません。ですが、過去の罪を理由にして食料を与えない、病気になっても薬を与えない、教育を受ける機会すら奪う。私は、それを正しいとは思えません。過去は変えられませんが、これから先の未来は、まだいくらでも変えられます。なら、私はより良い未来のために頑張っていきたい。それだけです」
その言葉に、スバルは窓の外へ視線を向ける。崩れかけた校舎に最低限の補修しかされていない建物、区切られた壁の中を中を歩く、アリウスの生徒たち。
彼女たちは自由ではないが、以前のようにベアトリーチェに命令され、戦うことを、誰かを殺すことを求められているわけではない。
「未来ですか。私たちアリウスには、随分と縁のない言葉ですよ……あなたは本当に、それだけの理由でここに来ているんですか?」
「ええ」
「私たちが、いつまたあなた方に牙を剥くか分からないのに?」
「それを防ぐ努力もします」
「私があなたを裏切る可能性は?」
「ありますね。それを防ぐためにも、あなたとこうして話をしているのです。話し合うこと、信じ合うこと、それらがどれだけ大切なのかは、私自身、エデン条約や先生との1件で学びましたから」
ナギサがそう言うと、スバルはつまらなさそうに舌打ちする。
「ちっ……本当に、嫌な人ですね。暴力で黙らせるというアリウス式も通用しなさそうですし、錠前サオリ以上に苦手で鬱陶しい存在ですよ。今すぐにでも殺したくなります」
「それは困りましたね。今襲われたら、私は為す術がありません」
全く怯えておらず、困ってるように見えないナギサを見て、スバルは内心苛立ちを感じていた。
「少しくらい怯えてくださいよ」
「本気で殺す気なら怯えますが、今のあなたがそんな事をしないことは理解してますから。アリウスの生徒たちを守ろうと頑張ってるあなたが、彼らを危険にさらすような愚行をするはずがありません」
「……ちっ。本当に嫌な人ですね」
心の内を見抜かれたように思えて、スバルはどうにも居心地が悪かった。こちらが何を言っても通用せず、逆に翻弄されるばかりで面白くない。憎きトリニティ相手に翻弄されてると言うのは、彼女にとって最悪な事だった。
(何か無いですかね。この女を怒らせるような何かは。こちらとしても仕返ししないと気が済まないのですが)
そう思ってどうしようかと考えていた彼女は、何かを閃いたように目を見開く。そして、悪魔のような意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「そういえば、あの女は元気にしてますか?」
「? あの女とは」
「黒月アキナのことですよ。彼女は意識も朦朧としてたので覚えてないでしょうが、私も色々やりましたからね」
その言葉に、ナギサの表情が固くなり、拳を握りしめたのをスバルは見逃さず、笑いそうになるのを必死で堪えた。
「彼女はスクワッドに拘束されてここに連れてこられた後、ありったけの弾丸で撃ち殺すことになりました。ちなみに、彼女を撃ったのは私です。ベアトリーチェの命令だったからというのもありますが、それ以上に、トリニティの人間には強い憎しみがありましたからね。マガジン1個分の弾丸はぶち込みましたよ。復讐は蜜の味なんて言葉がありますが、彼女の腹に弾丸を撃ち込んだあの気分は、甘くて最高の味でしたね。死んでたらもっと良い味がしたのでしょうが」
どこか楽しそうにスバルは語り、ナギサはそれを見て内心に怒りや憎しみが生まれる。しかし、今は感情的になるべきではないと、拳を固く握りながら、必死に感情を抑える。スバルはそれを見て、さらに笑みを深めた。
「秤アツコが何度も応急処置をしていた事は後で知りました。しかし応急処置をされていたとしても、生きていられるのはあまりに異常でしょう。生き埋めにされ、スクワッドの猛攻を受け、巡航ミサイルの一撃を食らい、さらには私に撃たれ続けた。あれだけやられて生きていられる人間など、化け物としか思えません」
「……アキナは、強い人ですからね」
ナギサは無表情で静かにそう答えるが、声はどこか震えており、目つきも少しだけ鋭くなっていた。スバルはそれを見て間違いなく効いていると確信し、内心喜んでいた。
「ふふふふ。ええ、あの人は強い化け物でした。もっと色んな兵器を使えば、もっと沢山の生徒たちが撃ちまくれば殺せたかもしれませんが、たった一人を殺すためにそこまでやるのは、コスパが悪いどころじゃありませんからね。貴重な巡航ミサイルも一発消費させられましたし、あの時は侵攻作戦の準備もあった。私たちとしても、無闇に弾薬や武器を消費する余裕はなかったのですよ。なので、私が撃った後は自治区の奥深くに幽閉していました。食事も与えず放置してたので餓死するかと思ってましたが、秤アツコが食事を分けていたみたいでしてね。そのせいで生き延びていたのは残念でした」
「……そうですか」
ナギサは静かに答えた。机の下で握られた拳は爪が掌に食い込むほど強く握られていた。それでも、彼女は激情に駆られるような真似はしなかった。
今、自分がここで感情を露わにすれば、相手の思う壺であることは理解していたからだ。それに、スバルはアリウス自治区を背負っている存在。
スバルを敵に回すことは、アリウス生徒たちを敵に回すことにも繋がり、トリニティを危険に晒す。だから耐えた。トリニティを守るために、アキナを二度と危険な目に合わせないために。
「……あなたが何を思ってそれを言い出したのかは知りませんが、もし怒らせる目的で言っているのなら、それは無駄だと言っておきましょう」
「無駄ですか。なら1つ聞きましょう。もし黒月アキナが、私たちに殺されていたら、あなたは今と同じように、私たちへ支援を続けていたんですか?」
ナギサは、その質問にしばらく沈黙した。スバルはその沈黙を楽しむように、頬杖をついて彼女を見つめている。その目は相手を傷つけてやろうという悪意がこれでもかと籠もっており、嘲笑の笑みを浮かべていた。
「答えに悩んでますね。もし黒月アキナが死んでいたら、あなたは支援を続けず、今頃ここを焼き払っていたりしたのでしょうか?」
「……いいえ。支援は続けていたでしょう」
「……は?」
スバルの笑みが、わずかに固まった。ようやく怒りに任せて何かを言ってくるかと思っていたのに、出てきた答えはあまりにも予想外なものだったからだ
「アキナが殺されていたとしても、食料や医薬品が必要となる未来は変わらないでしょう。あなたがたが教育を受ける機会も、未来を選ぶ権利もあるのは変わらないですから。それを、私の身勝手な感情で壊して良いものではありません。アリウスとトリニティの間にあった歴史を考えれば、私個人の感情で好き勝手していい訳ありませんから」
「……本当に、反吐が出るほどお優しいことで」
先ほどまでの嘲笑はなくなり、スバルは心底鬱陶しそうにナギサを睨みつける。
「ただし、アキナさんを殺したら、あなたがたはもっと辛く、惨めな生活を送っていたでしょうね。流石に大切な人を殺されて怒りを抑えられるほど、私も大人ではありませんから。今だって、あなたのお話を聞いて平静を保つのに苦労しています」
「それほどの怒りを抱いても、支援は続けると?」
「ええ。私個人の怒りを、アリウスの生徒全員に押しつけるわけにはいきませんから。私はティーパーティーのホスト。私の行動1つがトリニティの命運やアリウスとのこれからの関係を左右する。あの時のように、私の暴走でトリニティを危険に晒すなんて事は、あってはならないんです」
ナギサの脳裏に浮かぶのはエデン条約での自分の行動だった。あの日を思い返すたび、彼女は何度も後悔していた。
もっと自分が優秀な存在であれば、全てを見抜く知能があれば、ミカの裏切りを見抜けていれば、補習授業部に入れた生徒たちのことを理解していれば、アキナが傷つくことはなかったし、トリニティを危険に晒すことも無かったのかもしれない。先生とも、もっと別の方法で話し合い、事件を円満に解決出来たはずだとナギサは考えている。
エデン条約の1件を終えてから、彼女はずっと後悔に苛まれて苦しんできた。それでも、アキナが側にいて支えてくれるからこそ、彼女は前へと進み、こうしてアリウスとも交渉することが出来るのだ。
「ですので、怒りは私自身で抱えておきます。あなたとするべきことは過去の事で憎み、怒りに囚われて争うことではありません。未来についてお互いに考え、これからどうするべきかを話し合うことですから」
スバルはしばらく何も言わなかった。先ほどまでなら、さらに嫌味を重ねてナギサを苛立たせようとしていただろう。だが今は、何故か言葉が出てこなかった。
(この女は、本当に自分を抑えている。私を感情のままに殴りつけてもおかしくないほど怒っているのに。それでも、トリニティや私たちのことを考えて抑えている)
「……つまらない人ですね」
スバルは吐き捨てるように言い、持っていた資料を机に叩きつけた。
「あなたと話していると、まるで私が悪いことをしているような気分になりますよ。実際、悪いことをしたのは事実ですが」
「それを理解しているのなら、これからどうするかを考えましょう。過去を変えることはできませんから」
「はいはい。分かりましたよ、桐藤ナギサ」
スバルはわざとらしく肩をすくめる。しかし、その瞳は反省など全くしておらず、むしろ憎しみが籠もっていた。
「……一つだけ覚えておいてください。私はあなたを信用していません。支援も、教育も、仕事の斡旋も、いつか私たちを従順にするための首輪にしか見えない」
「構いません。今すぐ信用していただく必要はありませんから。いつか、あなたたたちが自分の意思で未来を選べるようになったとき。その支援が無意味ではなかったと思っていただければ、それで十分です。では、今日の会議はここまでにしましょう。教員の手配や人選については、あなたがたとも話し合う必要があります。トリニティに都合の良い歴史を教えるのではなく、トリニティとアリウス。両方を公平に見れる方が必要ですから」
ナギサはそう言って資料をまとめ、挨拶をして会議室を出ていく。
「本当に、嫌な女だ」
スバルはそう言って、ナギサを憎しみの籠もった目で見送る
信じるつもりなどない、期待するつもりもない。それなのに、あの女の言葉が妙に耳に残ることが、スバルには何よりも腹立たしかった。
「教育だの、未来だの……本当に反吐が出ますね。あんなものを、本気で信じろというんですか」
スバルは不機嫌そうに資料を引き寄せ、教員派遣計画に目を通し始めた。信頼したわけではない。ただ、アリウスの生徒たちにとって何が得になるのか、それを確かめる必要がある。そう自分に言い聞かせながら。無意識に抱いた、ナギサを信じようとする想いを封じ込めながら。
ナギサはアリウス自治区を出た後、自治区に建てられた壁を見つめていた。
支援物資の購入費用は歌住サクラコを中心として、シスターフッドの面々や救護騎士団が手配してくれた。
そして壁の購入費用は聖園ミカの所持していた財産であり、財産のほぼ全額を使い果たして購入している。
ナギサは自治区にある壁を見ながら、過去の事へと思いを馳せた。
当初、ナギサは壁の購入費用をどう捻出しようか悩んでいた。壁の購入費用はかなりのもので、トリニティの予算を充てれば、かなり圧迫してしまう。かといってシスターフッドや救護騎士団に頼るのも躊躇ってしまう。なので、最初は自分のお金で補填しようと思ったのだが、そんな時に、パテル分派の聖園ミカ管理担当者がやってきた。
『聖園ミカからの伝言です。もしナギサ様がお金に困ってることがあったら、自分のお金を遠慮なく使ってほしいとのことで』
『……はい?』
突然そう言われ、訳の分からない事態に困惑したナギサが後日確認しに行ったのだが、ミカは何の躊躇もなくOKした。
『ナギちゃんのことだし、アリウスの事で困ったことがあったら、自分のポケットマネーで補填しそうだなあと思ったからさ。それなら、私のお金を遠慮なく使ってもらおうと思って。あ、足りなかったら、私物を好きに売却しても良いよ。ブランド物が結構あるし、売ればかなりの大金になるはずだから』
『しかしミカさん。それではあなたの私物は。それにお金だって』
『大丈夫大丈夫。今の私には、お金や私物がいくらあっても、使い道無いんだしさ』
その時の彼女の顔はどこか晴れやかというか、憑き物が落ちたかのような顔をしていた。
ナギサは、彼女が虚無感や喪失感にやられてしまったのかと一瞬考えたが、その瞳は元気に満ち溢れており、とてもそんな風には感じられない。それでも、思わずナギサはミカに質問した。
『ミカさん。あなたは本当にそれで良いのですか? 私のやろうとしてること、あなたなら予想はついてるはずですが』
『分かってるよ。アリウスの子たちを壁か何かで閉じ込めるとかそんな所でしょ? 今のトリニティやゲヘナにアリウスの子たちを全員収容するなんて不可能だし、かといって矯正局もそんな数は入れられないからね。なら、あの子たちを閉じ込めるしかない』
『そのために、自分のお金を使われても構わないと?』
『うん。むしろ使ってほしいな。だって、ナギちゃんはアリウスの子たちを守るため、そうしようとしてるんでしょ?』
『……守る、ですか』
『そうじゃないの? ナギちゃんがアリウスの子たちを閉じ込めるのは監視や管理のためだけじゃない。あの子たちがまた暴力に手を染めないことを防ぎ、外敵から守るための処置。だったら、私のお金を好きに使ってよ。私のお金が誰かの役に立つなら、躊躇する理由もない。それに、ナギちゃんならきっと、アリウスの子たちを良い方向に導けるって信じてるから』
『……はあ。随分と私のことを理解してるような口振りですね』
『そりゃあそうでしょ。私はナギちゃんの幼馴染なんだよ。ナギちゃんへの理解度なら、アキナちゃんにだって負けないんだから』
ミカとの会話を思い出し、ナギサは笑みを浮かべる。
「ミカさんも、少しずつ変わっているのですね。私も負けていられません」
ナギサは壁から視線を離し、静かに歩き始めた。
アリウスの生徒たちを守ること、そして、彼女たちがいつか壁の外へ出て、自分の足で未来を歩けるようにすること、その道のりは決して楽ではないだろう。
梯スバルのように、トリニティを憎み、支援すら疑っている者もいる。すぐに理解し合えるとは思っていなかったが、諦めるつもりはなかった。
「アキナが私を信じ、支えてくれているのです。なら、それに恥じないような行動をしないといけませんからね」