自称モブ、魔法少女を推してただけなのにめっちゃ警戒されてます 作:マジカル☆おっさん
「んおおおお……っ!」
とある家の一室で、地獄で絶え間ない責め苦を受ける亡者のような低い呻き声が響き渡る。
「んぼぼぼぼぼぼぼおおおおおお!!」
……というか、俺だった。
俺はデウス・エクス・マキナという超絶胡散臭い意志持つ武器を使い、本来なら命を落とすはずだった軍荼利姉さんを絶体絶命の危機から救い出すことに成功した。
そこまではいい。それは最高の結果だし、オタク冥利に尽きるというものだ。
だが……問題は、その
「なんだよ……なんなんだよ改訂者《リライター》って⁉ アホか俺は!」
ベッドの上で頭を抱え、足をバタバタとさせながら絶賛悶絶中であった。
戦闘のために女の姿へ変身したのは、俺自身が選んだことだから別にいい。
行使するための必要なプロセスだったからな。
衣装に関しても、マキナが歯車やからくりを思わせる意匠だったため、全体的にそれに合わせた演劇風の仕上がりにしたのだ。
そもそもデウス・エクス・マキナ《機械仕掛けの神》というのは古典演劇における有名な演出技法の一つだ。
劇の内容が複雑に入り組み、もつれた糸のように解決困難な破局へ陥った際、絶対的な力を持つ存在(神)が唐突に降臨し、混乱した状況を一気に解決へ導いて物語を強引に終幕させる。
ゆえに、俺もそれに合わせて物語の改訂者という演劇めいたキャラ付けで舞台に上がったわけだが──。
そこから先が、本当によろしくなかった。
マキナから流れ込んできた全能感と万能の魔力に泥酔し、「もう何も怖くない」状態になった俺は、想像以上に役に入り込みすぎてしまったのだ。
言わなくてもいい臭い台詞をノリノリでぶちまける……。
初陣を終えて無事に帰宅し、正気に戻った瞬間から激しい羞恥心に苛まれている。
数分前のノリノリだった自分をタイムマシンに乗って殴りに行きたい。
『先ほどからやかましい奴だな。我としては、先ほどの演劇とやらは中々に楽しめたぞ? それに貴様が救いたいと願っていたのはあの女なのであろう? ならば、何をそこまで頭を抱えて苦しむ必要があるのだ』
俺がベッドの上でゴロゴロと悶え転がっていると、心底不思議そうにマキナが頭の中に話しかけてくる。
「俺としては、あそこまでノリノリで痛いキャラを演じる気はなかったんだよ! ……って、お前やっぱ普通に話せるんじゃねーか。なんでさっきまで黙ってたんだよ」
幸い、力の使い方や魔法の行使手順に関しては脳内に直接インプットされたから戦えたものの、事前に意思疎通できていればもっとマシな助け方があったかもしれないのに!
『ふん、貴様の精神の狂気に当てられたのだ。我に触れた瞬間、その身体と精神を乗っ取ってやろうと侵食を試みたのだが……まさか逆に貴様の妄念に取り込まれかけるとは思わなんだ。ギリギリ致命傷で回避できたが、なんなのだ貴様のあの底なしの狂気は。およそ人間が持ち得る領域のモノではないぞ……』
致命傷であれば回避できてないのでは……?
というか、誰がヤバい狂気だ失礼な。
俺はただ、大好きな原作キャラたちが理不尽な悲劇やバッドエンドに巻き込まれるのが許せない、純粋で情熱的なただのオタクである。
「つーか、乗っ取ろうとしてたとかサラッと恐ろしいこと言ってんじゃねぇよ。そんなこと言う奴にとやかく言われる筋合いはないぞ。……そもそも、お前は一体何なんだ? 妄念具《ディザイア》なんて聞いたことがない。アーケインデバイスとは何が違うんだ?」
『ふん! あんなアーケインデバイスなどという代物は、所詮我らを模して作られた劣化版の模造品に過ぎんわ。我らディザイアこそが、原初にして至高の存在よ』
……また俺の知らない設定が出てきたぞ。
原作ゲーム『カルマレイド』において、アーケインデバイスの力の源泉は全く別の設定だったはずだ。
業魔たちの根源──『女王』と呼ばれるラスボスが存在する。
その女王には妹がおり、姉の暴走を止めるべく妹が人類側へ接触し、自らの力を授けた。その力を解析・組み込んで造り上げた人類の希望こそが『アーケインデバイス』である……というのが原作の公式設定だ。
考えられる可能性は二つ。
この世界は『カルマレイド』の世界と酷似しているだけで、歴史の根底が微妙に異なるパラレルワールドである可能性。
あるいは……俺が前世で死んだ後に、続編や大型DLCが発売されて新たな設定が追加された可能性だ。
もし後者だとすれば非常に厄介だ。俺の原作知識という唯一の武器が、アテにならなくなることを意味するのだから。
ただでさえ死ぬはずだった軍荼利姉さんを救ったことで、既に原作の歴史は大幅にズレ始めているというのに。
『我らディザイアは、それぞれ七つの大罪を司る。その咎を極限まで高めて造り上げられ、所持した者に絶対的な力を与えるのだ』
原作の用語は基本的に仏教(軍荼利、妙覚など)に関連するものが多かったのだが、この妄念具《ディザイア》に関しては西洋の概念らしい。
『傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲……貴様も一度は耳にしたことがあろう。我は傲慢を司る大剣。我らディザイアは、その所有者が秘める大罪の波長と深く共鳴するのだ。つまり、貴様の中にある罪に惹かれたからこそ、我は眠りから覚め、声をかけたというわけだ……まあ、実際に繋がってみたら想像以上にはヤバい奴だったわけだがな』
確かに……決められたルートを変えようっていうんだから、それは傲慢であるかもしれない。
だが、そこまでメタクソに言われるほどではないはずだ。
しかし、本来ならこの世界に存在しないはずの異端である俺が、こうして異質な力を引き寄せてしまったのは紛れもない事実だ。
話を聞く限り、やはり俺の知らんDLCか続編の設定である可能性が濃厚だな。
俺の願いは一つだけだ。
原作の主人公たちには、俺の知っている本筋の物語を無事に駆け抜けて、最高のハッピーエンドを迎えてほしい。
軍荼利姉さんは原作開始前に戦死する唯一の犠牲者だったが、基本的に『カルマレイド』は全年齢向けの王道作品であり、メインキャラたちに死者が出るような陰鬱な展開はない。
だが、こうして俺の知らないディザイアなどという新要素が介入しているとなると、話が変わってくる。
最悪の場合、原作の知識にない場面で他のメインキャラが命を落とす危険性だって否定できないのだ。
姉さんが生存したことで味方側の戦力自体は大幅に強化されたが、それでも不安は拭いきれない。
ちなみに原作に登場する天魔は、さっき俺が一刀両断した奴を除けばあと4体。
姉さんを殺した天魔はいわゆる試作品《プロトタイプ》であり、天魔の中では最弱の個体だった。
残りの4体は幹部……いわゆる四天王と呼ばれる連中だ。
奴らは大概ヤバい性能と狡猾さを持っているが、最終的には主人公たちの絆と成長によって倒される存在なので、原作通り進めば問題ないはずなのだが……。
「ちなみに、他のディザイアはもう誰かに所有されているのか?」
『さあな。我が目覚めたことがトリガーとなり、何人かの妹共も目覚め始めているようだが、誰が手にしているかまでは分からん』
「……所有者が俺たちの敵に回る可能性は?」
『何をもって敵と呼ぶかによるが……まあ、我の妹共に魅入られるような人間に、まともな奴などほとんどおらんのは確かだ』
ということは、高確率で敵対勢力として現れると考えておいた方が良さそうだ。
7つのディザイアのうち残る6人全員が敵になるとは限らないが、仮にマキナと同等の規格外な能力を敵が使ってくるとしたら、極めて危険な脅威となる。
推しである姉さんを救うという最大の目的は果たしたため、これからは影の薄いモブに徹しようと思っていたのだが……最悪の場合、主人公たちがピンチに陥った際、再び改訂者《リライター》として裏から介入して助ける必要があるかもしれないな。
……流石に次は、もう少し控えめで痛くない演出に留めたいところだが!
『ところで話は変わるが……貴様、あの赤毛の女にずいぶんと執着していたな。我の力を求めたのもあの女を助けるためだったようだし、恋慕の情でもあるのか?』
「ん? まあ、好きか嫌いかで言われたら、そりゃ大好きだけど」
『ならば話は早い! 今後、我が妹共を叩きのめす手助けをしてくれるというのなら、我の力を使ってあの女を貴様の意のままに服従させてやってもいいぞ? 命の恩人という立場を利用して恩を着せ──』
「おい、今すぐ訂正しろ。ぶち殺すぞ貴様」
『ヒエッ⁉』
俺の眼光と殺気に気圧され、マキナが情けない悲鳴を上げる。
「いいかマキナ、よく聞け。原作キャラというのはな……俺のようなただのモブ市民が軽々しく手をだしていい存在ではないんだよ。彼女の恋心や想いは、彼女自身だけのものだ。それを力だの恩だのといった汚い手段でコントロールしようだなんて、おこがましいにも程があるんだよ!」
姉さんが原作主人公の久遠くんのハーレムに入るというのなら、それはそれで微笑ましいから大歓迎だ。
あるいは他のヒロインと美しい百合の花を咲かせるというのなら、それもまた尊い至高の芸術である。
実際、原作ゲームでも攻略対象外のサブ魔法少女たちの中には、それっぽい匂わせのあるカップリングが何組か存在していたからな。
NL、GL。人の数だけ尊い愛の形がある。 俺はすべての公式・解釈一致カップリングを深く慈しみ、温かく見守る者だ!
……ただし! 美しい百合の間に野粋に割り込んでくるクソ男や、解釈違いのNTRだけは絶対に許さん。
そんな不届きなクソ男はチョン切ってメス堕ちさせちゃおうねぇ( ꐦ◜ω◝ )
というオタクの高尚かつ崇高な思想を、俺はマキナに対して懇切丁寧にレクチャーしてやった。
『げ、原作キャラというのがイマイチ理解できんが……貴様の言わんとすることは痛いほど良く分かった……。うむ、もう二度とこの手の話題は出さん……絶対にだ……』
うむ、理解してくれたのなら実に結構だ。
『ち、ちなみにだが……美しい百合カップルの間に挟まって乱してくるのが女だった場合はどうなるのだ……?』
「……無罪かな」
美少女は無罪。これは宇宙の法則であり、法でもそう定められているのだから仕方がない。