A.「M(モカ)G(グランド)F(ファミリア)」の略です
ヴァルデニャン王国警察がルーズドギーファミリーの捜査を始めていた頃─────例のギャング〝ハッピースマイル〟のアジトではルーズドギーファミリーと同様……否、それ以上の地獄絵図が広がっていた。
先陣を切って突入したシグマにより意表を突かれたギャングのメンバー数人が殺られ、他の者達もまた後に続いて入ってきたクロノ、ハチワレ、ミツバ、クレリアによって次々屠られて行った。
辛うじて銃を手に取れた者達が一斉にモカへと向かって発砲するも、その弾丸全てが斬鬼丸の刀によって弾かれ、背後から襲いかかろうとした者はサイファーによって首をへし折られた。
次々に地面の上に遺体が転がる中をモカは悠然と進むが、ギャングのメンバー達がそれを止めようとするもその両側を斬鬼丸とサイファーによって固められているため、その凶刃が彼女の身体に届く事は無い。
「ほらほら折角チャカ持ってんだから撃ってこいよ?」
「ひぃぃ……当たってるはずなのに……当たってるはずなのに死なねぇよぉ!」
「はぁ……銃を構えてから撃つまで時間がかかり過ぎですよ。その程度で私達を潰すなんてよくもまぁ言えたものですねぇ」
「なんだコイツ……速すぎ─────ぎゃあっ!」
「あ〜痒い痒い。そんなちゃちなもんじゃ俺の身体は貫けんよ」
「きゃはは!弱過ぎて草〜w」
「このパンダ野郎硬すぎ……ガキもそんなちっちぇ身体のどこにそんなでけぇハンマー振り回せる力が?!」
「あらあら〜……私が使ってるのはただの金属バットですよ〜?」
「な、なんだこのアマ……たった一振で何人もの首をへし折って……」
赤猫ファミリー大幹部を相手にしていたギャングのメンバー達は恐怖に慄き、アジトの中はもはや赤猫ファミリーによる一方的な蹂躙劇と化していた。
「おっと……この金庫の中に書類やらブツやらがありそうだな」
「おいテメェ!その金庫に触れんじゃね─────ぅえ?」
頑丈そうな金庫を前にしていたシグマに、近くにいたメンバーの男がその銃口を彼に向けるが、その瞬間男の身体からまるで骨格標本宜しく男性一人分の骨が抜き取られ、それは地面に落ちると同時に砕け散る。
そして骨を抜かれた男はその身体がぐにゃぐにゃとスライムのように崩れて地面へと落ちた。
「……!?……!!?」
「流暢にお喋りしてる暇があんならさっさと撃たなきゃ駄目だろぉ?さてと……箱の中身はいったい何じゃろなっと」
シグマが両手を金庫へと伸ばすと、その手はその扉をするりとすり抜け、その中をゴソゴソと探る。
そしてそこから取り出されたのは小さなパケに小分けにされた白い粉と、いくつかの紙の束であった。
シグマはそのパケを興味なさげに放り捨てると、紙の束に目を通し始める。
「おっ、なんか見つけたんかシグマさん?」
「おん。誘拐した女達の売り先や違法薬物の取引先について書かれた資料やね。これ、警察に渡したら大捕物になるんじゃねぇか?」
「でも相手が貴族や議員だったら癒着あるんやないか?」
「あ〜……じゃあ俺らで叩きのめしてから警察に引き渡すか?例え逃げれたとしても俺らからは逃げらんねーぞって頭に刻み込んでやる感じでさ」
「それなら警察も見て見ぬふり出来ひんそうやね」
「だろ〜?ところでギャングのリーダーはどうしたん?」
「シグマさんがそれ呼んどる間にクロノさんが取り押さえたで?」
「流石クロノさん。仕事が早いこって」
そう話しながらシグマはギャングから女性を買った者達のリストに記された名前に目を通してゆく。
「うぉ!こいつ今奴隷解放を推奨してる議員じゃねぇか。こっちは慈善事業で話題の貴族だし、こっちは麻薬撲滅を宣言してるはずの貴族じゃね?か〜、表では善人ぶって裏では女と麻薬を買って好き放題ってわけかい」
「ここの名前って、以前から裏カジノで警察に目をつけられてる人じゃなかったっけ?」
「こいつに至っては俺らと敵対してるマフィアのボスじゃねぇか。ラッキー、潰せる名目が出来たわ」
シグマは一通り資料に目を通したあと、それをモカへと手渡した。
その様子を見ていたギャングのリーダーはクロノに取り押さえられながらも怒声を放つ。
「テメェらそれを返しやがれ!良いのか?俺らのバッグにはルーズドギーファミリーがついてんだぞ!」
「それなら既に潰しとるわ」
「……へ?」
下卑た笑みで自身の背後にいる組織を口にするリーダーの男……しかしモカのそんな一言でその表情は崩れる。
「ちなみにこのリストにある貴族や議員達に守って貰えると思うなよ?コイツら全員これから俺らが潰して回るからよ。つまりテメェを守ってくれる奴は誰一人としていねぇってこった」
「こいつどうするシグマさん?うちとしてはさっさと始末してもええんやけど」
「あ〜……それならこうしようか。クロノさん、そいつそのまま抑えといてくれや」
「別にいいけど……何をするつもり?」
「こうすんだよ」
訝しげな表情をするクロノの前でシグマは粉が入ったパケを全て開封すると、クロノ達にリーダーの口を開けさせその粉を全てリーダーに飲み込ませた。
「今までテメェらがばら蒔いたコイツで人生を狂わせられた奴らが何人いんだろうな?心の中でソイツらに詫びながら地獄に落ちてゆけ」
大量の違法薬物を飲み込まされたリーダーの男はその場で泡を吹きながら全身を痙攣させ始める。
そして次第にその身体を
そんなリーダーの男を背にモカ達はアジトを後にする。
そしてこの日、いくつかの貴族や議員が襲撃された。
その全員が悲惨な末路を迎えており、警察は連続襲撃事件として捜査を始めるも、ヴァルデニャン国王の命令により捜査は強制的に打ち切られた。
そして匿名で国王の元に送られた資料は大々的に報道される事となり、この事件は貴族と議員の闇を暴いた事件として幕を閉じたのであった。
しかし市民達は知る由もない─────
その闇を暴いたのは一つのマフィアである事と、そして極秘裏に国王からそのマフィアに恩賞が送られた事を……。
これはヴァルデニャン王国の裏社会にて、そこに蔓延る闇を屠るマフィア〝赤猫ファミリー〟の日常を描いた物語である。