娘を救うため、最強陰陽師の俺はTSする。 作:匿名杯参加者
「刀ってのは人を斬るためのもんだ。しかし、陰陽師の刀は霊刀――。つまり、人ではない何か、形のない何かを斬るためのもんだ」
分かるか? とこちらをチラリと振り返りつつ、ズンズン奥へ進む宗鉄さん。
大鳥居のトンネルを抜けると、そこには芝生が植えられ、中心には小さなお社が立っていた。
まぁ、刀の機能を突き詰めればそういうことになるんだろうな……。
「お前の炎術式、火之迦具土みたいに術の発動媒体として使うこともあるが、そんなもんはオマケだ。ただ斬るだけ……あの大太刀はそれを突き詰めようとした成れの果てみたいな刀だ」
そう言って小さなお社の戸を開くと、そこには似つかわしくない赤いレバーがあった。
宗鉄さんは躊躇なくそのレバーを引く。
ガコンと何かが動き出す音を立て、お社が後ろに倒れた。
そこには地下への扉……というより、少し大きめのマンホール。
しかも、ご丁寧に『封印』と書かれた札がびっちりと貼られている。
「……ウチは神道系ではないけど、罰当たりな気分になりますね」
神様の家に何仕込んでんだ、この人は……。
「厄介なもんは神様に護ってもらうのが当然だろう?」
◇
地下には異様な光景が広がっていた。
元は地下シェルターみたいなものだったのかもしれない。
二十畳ほどの部屋の壁から、ゴツイしめ縄が部屋の中央に向かって四本。
ご丁寧に、山ほどの封印札を垂れ下げている。
そして全ての中央には、四本のしめ縄に縛り上げられた一本の大太刀が吊るされていた。
「ゴリッゴリの妖刀ッスね……。ちょっと見たことないレベルの化け物だ」
クラスで言うなら神代級の霊遺物。
ウチの家宝だった反転の黒真珠に勝るとも劣らない逸品だ。
「霊刀としての効果はシンプルだ。持ち主の霊力を斬撃に変換すること」
宗鉄さんがジッと大太刀を見る。
その視線から、どこか熱っぽいものを感じた。
「よくある効果、ですよね? 普通の霊刀の基本機能だ」
というか、その機能があるから霊刀は霊刀たり得るのだ。
単なる鉄の棒では邪霊を斬ることはできないからな。
「そうだな。コイツはこれを突き詰めようとしたんだ。――使い手の霊力を、生命維持すらできないレベルで要求する大喰らい。放っておくと周囲の霊力すら吸い込もうとするから、ここまで封印しなきゃ保管もできん」
不気味な気配を撒き散らす妖刀を見ながら、俺は奇妙な繋がりを感じずにはいられなかった。
無限の霊力を持つ鬼子。
霊力を吸い取る蛭子。
そして、無尽蔵に霊力を吸い取り、力に変える妖刀……。
そして、もう一つ気づいたことがある。
「――珍しいですよね。宗鉄さんが古い霊具をこうやってしまい込むなんて」
「あん? どういうことだ?」
宗鉄さんが訝しげな声で尋ねてくる。
しかし、その目線は大太刀から決して離れようとはしなかった。
「……いや、いつもならこの手の古くて強い刀はバラして解析して技術を理解して、より強い刀を作るじゃないですか?」
「――!」
この部屋に入って初めて、宗鉄さんと目が合う。
目を丸く広げ、驚いた顔をしていた。
妙な話なのだ。
この人は根っからの金の一族。
古い技術を踏破し、先へ進めることを義務とする、徹頭徹尾の技術屋なのだ。
なぜ、この大太刀を封印するだけで、解析したり分解したりして新たな技術を得ようとしないのか。
それが俺には疑問だった。
観念したようにため息を一つ。
頭を掻きながら、宗鉄さんはポツリと呟いた。
「……コイツは可哀想な奴なんだ」
お、おぅ……。そう来たか……。
「霊力を喰らう力は強いのに、斬撃への変換効率が言うほど高くないんだ。――コイツはもっとやれる奴なんだ! なのに、中途半端な力しか与えられず、ろくに斬ることもできねぇまま、こんな封印措置をとられて何百年も……」
まさかの男泣き再び。
「半端なまま放置されたコイツを殺して解析する……そんな非道な真似、俺にはできねぇ……!」
うーん、困ったな。
全く理解でき……いや、あぁ、そうか……。
あの大太刀は、未来の環と同じなのか……。
その通りだ。
それは違う。
頭の中で相反する言葉が浮かぶ。
しかし――。
「――宗鉄さん。あの刀、打ち直せますか? 宗鉄さんの思う通りに……」
「!? 晴臣、お前何を言ってんのか分かってるのか!? ありゃ掛け値なしの妖刀だ。俺が打ち直したところで、アイツの性質は変わらねぇ。むしろもっと酷くなるんだぞ!?」
分かってる。
馬鹿なことを言ってるのも分かってる。
何なら、あの黒い水人形が言っていたのは間違いなくこの大太刀のことだ。
怪しいなんてもんじゃない。
しかし、一瞬でも環の顔が浮かんでしまったのだ。
もう無視はできない。
「――お、おい! あんまり不用意にコイツに近づくな! この封印措置だって完璧じゃあないんだぞ!」
宗鉄さんの言葉を振り切り、ズンズンと大太刀に向かって進む。
一歩近づくたびに、チリチリと俺の身体から霊力が吸われていく感覚。
コイツはなかなかの大喰らいだ。
「だが、うちの子ほどじゃあねぇ」
ニッと口角を上げて術式を解放する。
吹き上がる黄金炎が、大太刀を縛る封印術式の要を焼き切った。
支えを失ったしめ縄が弾け、落ちてきた大太刀を受け止める。
数百年放置されていたからだろう。
鞘や柄はもうボロボロだ。
握り潰さないよう慎重に、その刃を抜き放つ。
四尺ほどの大太刀。
質実剛健な造りは悪くない。
「あーあー、妖刀と言っても素材は鉄。錆び錆びじゃねぇか……」
正直、刀としては使い物にはならんだろう。
しかし、この刀の性質は死んでいない。
むしろ怨念とも呼べるレベルまでに熟成されている。
ズンッと身体にかかる負担が増す。
通常の術師なら昏倒するであろう霊力の吸収量。
それはまるで、戦える身体を早く寄越せと叫んでいるように思えた。
「こういうのを、魂とでもいうのかねぇ?」
「――お、おい。お前、身体は大丈夫なのか!?」
血相を変えて宗鉄さんが走ってくる。
あ、駄目だ!
「近づくな! コイツはここからが本番だ!」
ギクリとした顔で立ち止まる宗鉄さん。
まるで久しぶりの食事だと言わんばかりに、周囲の霊力まで吸い始める大太刀。
吸収が強すぎて、焼き切れて宙ぶらりんになったしめ縄や札がギシギシと揺れる。
次第に風が逆巻き、強風となる。
轟!!
まるで部屋中のものを吸い込むかのように、強烈な烈風が巻き起こった。
コイツ、悪食すぎるな……。
「霊力を吸いたいなら俺からだけにしろ! ブチ折るぞ……! 駄剣!」
そう威嚇を込めて、思いっきり霊力を叩き込む。
その勢いが強すぎたのだろう。
刀身にひびが入り、腐っていた柄と錆びついた鍔が弾け飛ぶ。
「は、晴臣!? お前何してんだ!! その子が可哀想――うぉっ!?」
あ、宗鉄さんが吹っ飛んだ!?
しかし、まるでそれが切っ掛けだったように、暴風が次第に収まっていく。
「お、ようやく腹が膨れたのか……」
やれやれと呆れながら辺りを見渡す。
ズタボロになった封印。
頑丈なはずの壁にもひびが入っている。
あーあ。めちゃくちゃになっちまった……。
これ、やっぱり俺が悪いよな?
ワンチャン、宗鉄さんの権限で不問にしてくれたり――あ。
「そ、宗鉄さん!? 大丈夫ですか!?」
慌てて辺りを見渡すと――いた!
部屋の隅で倒れている。
「……やはり思った通りだ。あの大太刀に足りないのは収束能力だ。霊力を吸う力だけが強すぎて、吸収元も出力先もまともに絞れてねぇ。本来なら持ち手からピンポイントで吸い上げ、それを余さず斬撃に変えるべきなんだ」
部屋の隅に倒れたまま、宗鉄さんが熱に浮かされたように呟き続ける。
「コイツを満たせる使い手が、今までいなかった。それだけだ……。くくっ。だが晴臣が使う前提なら話は変わる! 吸収経路を持ち手だけに絞り、斬撃への変換効率を引き上げる術式を刻めば……! できる! できるぞ! 最強の妖刀が俺の手で!!」
うっわ……。やべ……。
ブツブツなんか言ってるよ……。
どうやら宗鉄さんも、頭以外は無事らしい。
なし崩し的に刀も手に入りそうだし、これで良かったのかね?
そんなざっくりしたことを思いながら、手に持つ大太刀を見る。
すると、茎に文字が彫られているのが目に入った。
掠れた古い文字。
しかし、しっかりとこう明記されていた。
神刀、赫玖坤《カグヅチ》。まだ見ぬ我が愛しき宿敵に捧ぐ。――水野戸八千代。
「水野戸……!?」
どうやら、こいつは思った以上に劇物かもしれない……。