娘を救うため、最強陰陽師の俺はTSする。 作:匿名杯参加者
「
ママの両手両足の蒼炎がさらに勢いを増す。
不動明王系統の浄化能力に身体強化……!
「御力、お借り致します――」
そう呟くママに向かって槍のように研ぎ澄まされた黒い水が襲いかかって来る。
「ママ……! 危な――!!」
ジュワっ!! っと蒸発するような音を立てて、ママの右手の蒼炎が黒い水を消し飛ばした。
……は? 無敵?
「黒や紫は五行において水を表す色。そして黒は穢れにも通じる……。その辺を術式に組み込んでいるんでしょうけど、私の浄化特化の蒼炎とは相性が悪いみたいね?」
私に教えるように、ママはその手の蒼い炎を見せる。
確かに黒い水が焼かれて少量の透明な水になってる……。
「す、凄い! これならあんな奴余裕じゃない!」
そんな私を見て、少し困った顔をするママ。
あ、あれ? 変なこと言った?
『くはははは! なるほどのぅ! まだその鬼子は幼い。術師同士の戦いの機微を理解しておらぬか!』
カラカラと笑う黒い水形代。
これでも元の人格は十八歳なんですけど!?
そんな私の内心に答えるように、黒い水形代の周りに幾つもの黒い水球が現れる。
『さぁて、何本捌けるのかのぅ?』
は! そんなもんウチのママにかかれば何本あっても無駄――。
水球の数がどんどん増えていく。
十、二十、三十……。
嘘でしょ……?
一斉にこちらに飛んでくる無数の水槍。
それはもう一枚の壁に見えた。
「南無――。咲き誇れ……! 蒼炎華郷!!」
ママの力ある言葉と共に、周囲に蒼い炎が満開となって咲き誇る。
大量の水蒸気を撒き散らしながら黒い水の槍が蒸発する。
やっぱりママ凄い!!
『後、二手と言ったところか――?』
嗤う黒い水形代。
その瞬間にママが大きく後ろへ飛び退く。
な、なんで――!?
シャン! っと金属質な音を立てて、飛び散った透明な水が刃物のように切り立つ。
『良い反応じゃあ。誰も穢れていない水は操れんとは言っておらんしのぅ? そこの赤子とは役者が違う』
そう言って次々と生み出された黒い水槍と白い水刃がママを襲う。
「南無――。打ち据えよ……! 蒼炎火弾!!」
放たれた蒼い火球が黒い水槍を蒸発させ、白い水刃を無力化させて行く。
術式を直接焼いてる!?
す、凄い……!
しかし、水形代は動じない。
慌てることなく次々と飽和攻撃を仕掛けてくる。
アイツ……ママを逃がさない気だ……!
この時になって、ようやく私にも現状が読めて来た。
アイツはママを倒そうとしてるんじゃない。
攻撃の全部が、ママを殺すためじゃなく、逃がさないために組まれてる。
ママが右へ跳べば、その先に黒い水球が増える。
後ろへ退けば、今度は透明な水が刃になって道を塞ぐ。
一度空いたはずの場所まで、次の瞬間には別の水球で埋められていた。
いつの間にか、逃げられる場所がどんどん狭くなっている。
気付けば、ママの周囲を囲うように黒と白の水球が配置されていた。
その理由は、多分私だ。
「環、絶対に前に出ちゃ駄目よ……」
私が状況を把握したことに気付いたのだろう。
ママが私に念を押してくる。
「……うん。分かってる。あいつ、私に戦わせたいんだ……」
理由までは分からない。
しかし、あいつの赤と青の目がじっとりとこちらを見ていた。
『おうおう、ようやく気付いたか? さぁ、どうする白炎の鬼子よ。戦況は膠着。いやさ、体力の限界が先に来るのはどっちかのぅ?』
ポタポタとママの顔から汗が滴り落ちる。
それだけじゃない。
さっきから呼吸が浅い。
着地する度に僅かに膝が沈み、私を抱く腕も何度か小さく持ち直している。
それでも私を支える左腕だけは、一度も緩まない。
私のせいだ……。
ママは妊娠中、私に大量に霊力――つまり、生命力を吸われいてるんだ……。
まだ産後一ヶ月。本調子なはずがない……。
それなのにコイツ……!
『さぁて――残り一手じゃ』
私たちの上空に、無数の爆弾蛭子が生み出される。
十や二十じゃない。
視界を埋め尽くすほどの不気味な赤子の群れが、一斉にこちらへ降ってくる。
同時に周囲を取り囲んでいた黒槍と白刃まで放たれた。
「ママ……!」
逃げ場がない。
咄嗟に私も術式を展開しようとした瞬間、まるで相手の動きを知っていたかのようにママが先に術を展開する。
「南無――! 御仏の守護を顕現せしめん! 蒼炎結界・廻向!!」
ママを中心に蒼炎が爆発するように広がった。
無数の爆弾蛭子を焼き払い、黒槍を蒸発させ、白刃に込められた術式そのものを焼き切っていく。
轟音。
水蒸気と蒼炎で、辺り一面が真っ白に染まる。
全部、凌いだ!
そう思った。
『――これで詰みじゃ』
「……え?」
水蒸気の向こう。
ママが全力の結界を展開した、そのさらに上空。
巨大な影が落ちてくる。
二本の角。
でっぷりと膨れ上がった腹。
崩れた赤子の顔。
そして、その全身には今にも弾けそうなほどの霊力が詰め込まれていた。
「オギャアアアアアアアアッ!!」
あれは――鬼神蛭子!?
パパが死んだあの夜を思い出し、背筋が凍る。
そうか……。さっきまでのは攻撃じゃない。
ママに結界を使わせるための囮だったんだ。
黒槍も、白刃も、爆弾蛭子も。
全部、この一体を通すために――!
膨れ上がる鬼神蛭子。
あれがもし爆発したら――!
咄嗟に私は術式を組む。
どれだけ叱られたっていい! ママが死ぬところなんか見たくない!
「天にましま――!」
術言を唱えようとしたその瞬間。
黄金の炎が天を焦がした。
極大の炎の渦が鬼神蛭子身体を遥か上空へ吹き飛ばす。
再びの轟音。
少し遅れて衝撃が辺りを襲う。
ビリビリと震える振動を浴びながらも、私は見た。
キラキラと降り注ぐ金の火の粉を浴びてたなびく赤い長髪。
安堵と不安が入り混じった顔を引き締め、敵を睨みつける紅蓮の瞳。
「パパ!」
「おう。待たせたな!」
私の叫びにいつものように、パパは自信満々な顔を作って応える。
あぁ、不思議だ。
さっきまで感じていた不安が消えた。
口ではなんと言っても、それだけ私はパパに信頼を寄せているのだろう……。
――まぁ絶対口にする気はないけども。