娘を救うため、最強陰陽師の俺はTSする。   作:匿名杯参加者

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そのパパ、娘とお出かけを計画する

 陰陽師の中でも特に古い十の家がある。

 それこそが五行十家。

 

 木・火・土・金・水の五行それぞれに陰と陽の二家があり、合わせて十家だ。

 

 基本的にどれが上とか下とかの序列はないのだが、土地持ちが多い土の一族の発言権が大きい気がする。

 

 俺たち火の一族は、まぁ政治とかは我関せずに好き勝手やってる感じだな。

 

 ただ、静華から聞いた話では、ここ最近そんな十家のパワーバランスがおかしいらしい。

 

 色んな家が手を組んだり、逆に距離を置いたりと何だか怪しい動きが見られるのだそうだ。

 

 そして、その切っ掛けになったのが、数百年ぶりに誕生した鬼子……。

 

 

 我が娘、環だという――。

 

 

「――落ち着け、環。話せばわかる。そうだろ?」

 

 努めて冷静に。

 顔に全力笑顔を貼り付けて、敵意のなさを全開でアピールする。

 

 幸い気付いたのが早かった。

 今ならまだ致命的な問題には――。

 

 しかし、無情にも愛娘の眉間に深いシワが刻まれる。

 

 や、やばい……!

 

「うぇ……うぇええ……」

 

 く、くそ……! 力を溜めてやがる!

 

「ふぎゃぁああああぁあ! うぁぁあああ!」

 

 

 夜泣きである。

 

 

「ほぉーら、た、たまちゃん? パパですよぉ! え、えっと……お、おっぱい吸う?」

 

 最近手に入れた胸部装甲をアピールしつつ、ベビーベッドで寝ていた環をソッと抱っこする。

 

 深夜三時四十分。

 流石に辛い時間帯だ。

 

 それなりに防音はしっかりされているとは言え、ここ賃貸だし……。

 

 五行十家とかマジどうでもいい。

 むしろご近所への迷惑の方が大事である。

 

 こちらをジッと睨みつけてくる真っ赤な瞳。

 お、これは泣き止ん――。

 

「……ちぁいぃい! うぁああぁあぁあん!!」

 

 ガン泣きである。

 

 そっぽを向いてバタバタと暴れる環。

 

 生後一ヶ月そこそこなのに、首が座るどころかもうふんぞり返っている。

 

 身に宿した無限の霊力のおかげで鬼子は成長が早いらしい。

 

 いや、それにしても早過ぎる……!

 

 

「晴臣くん……。やっぱり難しそう?」

 

 眠そうに目を擦りながらのそりとベッドから起き上がるマイワイフ。

 

「す、すまん……」

 

「んーん。最近まで一人でやってたしねぇ。大丈夫大丈夫……ふぁあ……」

 

 しっかり者の彼女にしては珍しく大きな口で欠伸をする。

 

 なんせ静華が寝たのはついさっきだからな。

 くそ……不甲斐ない……。

 

 俺から環を受け取ると、静華は手馴れた様子で寝かしつける。

 

 ものの数分で環はスゥスゥと寝息を立て始めた。

 

「よし……。オムツも大丈夫だし、後よろしくねぇー。おやすみー」

 

「お、おう。頑張る……!」

 

 そう言って自分の寝床に潜り込む静華。

 なんかもう既に歴戦の強者感すら感じる。

 

 くそぅ、俺も一緒に出産したのに……。

 

 微妙な嫉妬を覚えつつ、俺はベッドを背に座り込む。クッションを使った寝かしつけの素振りだ。

 

「うーん、何が違うんだ……?」

 

『何って……安心感?』

 

 チラリと見ると、ベビーベッドの柵にもたれ掛かり、頬杖をつく環がいた。

 

「安心感!? 結構頼れるパパじゃね? 俺!」

 

『ちょっ……! うるさい! ママが起きる!』

 

 小声で叫ぶ環に言われて、慌てて口を塞ぐ。

 やべ。つい……。

 

 仕方ない、みたいな顔をして、ふよふよと宙を浮いて俺の膝の上に座る環。

 

 毎回思うのだが、これどうやって浮いてるんだろうか? 環の術式はかなり特殊だ。

 

 

『――どお? パパ。食事も睡眠も要らない鬼子の身体は』

 

 俺の顔を少し心配そうに見上げて来る環。

 そんな環の頭を撫でながら笑う。

 

「んー、まぁ慣れねぇな……。特に寝るタイミングがよく分からん」

 

 そう。理屈上、鬼子に睡眠も食事もない。

 

 要するに無限の霊力なるチートパワーで常時回復術式がかかっている無限バフ状態なのだ。

 

 俺が鬼子になったのは擬似・陰陽循環霊力炉による人工的なものだが、その恩寵……いや、呪いはしっかりと受けている。

 

 

『体力はともかく、精神的にはしっかり摩耗するから意識的に目を瞑るのを忘れないで。慣れてきたらスイッチを切るみたいに寝れるから』

 

「出来るかなぁ? ま、気をつけてみるわ。……環はその辺どう訓練したんだ? 誰かに教わったとか?」

 

 そもそも鬼子の生態なんて資料もろくにないと思うんだが……?

 

『ん? 私は生まれつき鬼子なんだから、そんなの自然に出来たわよ。自分の毒で死ぬ蛇なんていないでしょ?』

 

 あっけらかんと答える環。

 

 嫌な例えだが、まぁ分からんでもない。

所詮は俺の陰陽循環霊力炉は後付けだからな。

 

「しかし、食事とかも別に食べられないことはないだろ? 美味いもん食うのは趣味としても良さそうだけどな」

 

 そう言って環に哺乳瓶を手渡す。

 

『嫌よ。トイレに行きたくなるし』

 

 プイっと顔を背ける環。可愛い。

 

「あぁん? 別に行けば良いだろ?」

 

『今はともかく、赤ちゃん返りしてる時とかだとオムツにしちゃうじゃん』

 

 便宜上呼び方を変えてはいるが二人の環は生きた時間軸こそ違えど、どちらも同じ存在らしい。

 

 切り替わるトリガーは感情。

 肉体の状態に強く引っ張られるとの事である。

 

 まぁよく分からんが、環は環。俺たちの娘である、というのが俺と静華の結論だ。

 

「別にすりゃ良いだろう? 尻くらいいくらでも拭いてやるぞ?」

 

 これでも父親なのだ。

 張り切ってYouTube動画とか見まくったしな。予行練習はバッチリだ。

 

『絶対に嫌……! ママですら恥ずかしいのにパパとかほんと無理!』

 

「同性だろ!?」

 

『見た目はともかく、中身がもうオッサン過ぎるのよ。何その格好?』

 

 格好……?

 そう言われて自分の格好を見る。

 

 別に普通のTシャツに短パンだ。

 五月も半ばになって夜も暑くなってきたしな。

 

『そんなヨレヨレの小汚いTシャツに、サイズの合ってない短パンはくのはオッサンくらいよ……。単純にダサいし』

 

「へ、部屋着くらい何でもいいだろ? 誰に見られる訳でもないんだし……」

 

 それに女物の服なんて持ってないのだ。

 

 そもそも三十年以上男でやって来たのに女物の服を着るのも恥ずかしいし……。

 

『ふーん? ママや私にどう見られても良いってこと? あーショックだなぁ。どーでもいいとか思われてたんだ』

 

 わざとらしい棒読みで煽ってくる環。

 こ、このガキ……!

 

『別に毎日よそ行きの格好しろとは言わないけどぉ、多少はねぇ?』

 

 く……! 言いやがる……!

 

「分かった。分かったよ。明日買い物に行くから服を選んでくれ。あー、三人で出かけよう」

 

『え、ほんと!? やった! 私、鬼子は危険だってずっと閉じ込められてたからお出かけってしたことないんだ!』

 

 予想外に嬉しそうな顔をするマイドーター。

 そして想像すらしたくない壮絶な過去を匂わせてくる。

 

「……明日は三人で遊ぼうな。欲しいものがあるなら何でも言え。どこでも連れて行ってやるし、何でも買ってやる」

 

 思わず目を潤ませて余計な事を言ってしまった俺は悪くないと思う。

 

 

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