娘を救うため、最強陰陽師の俺はTSする。   作:匿名杯参加者

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そのパパ、職場に行く

 陰陽庁。

 

 それはこの国に古くから存在する無駄に由緒のある官公庁である

 

 この国における霊的事件全般の専門家であり関係省庁からの丸投げ先。

 

 丸投げされついでに、権限をどんどん要求して行ったせいなのか、俺たち陰陽庁の上には内閣府が存在するだけどなっており、実は内閣も裏から操っている――なんて嘘か誠か分からない噂もあるらしい。

 

 しかし、それがあながち嘘と笑えないほど巨大なビルが都心のど真ん中にそびえ立っている。

 

 それこそが特殊災害対応庁――通称、陰陽庁だ。

 

 

「いやぁ、流石にこれは無理があるでしょ?」

 

「で、でも、本当に本人でして……!」

 

 何言ってんだこいつ? みたいな内心を隠そうともせず、警備員のオッサンが肩を竦める。

 

「とりあえず、本人確認が出来ないと中に入れることは出来ないんですよ。規則ですし」

 

 そう言って突き返される俺の顔写真(男の時)付きのIDカード。

 

 わかってる。

 

 事情を知らない立場なら俺だってそうする。

 しかし、残念ながらそうではないんだ……!

 

 

 陰陽庁の本館ビル。

 ――の入口に設置された守衛所。

 

 俺のIDカードで中に入ろうとしたら呼び止められてしまったのだ。

 

「んー、まぁ髪色とか感じる霊力的にね? 君が日野江の関係者だとは分かるんだ。でも、流石に日野江晴臣さんとは認められないよ。親戚かなんか?」

 さっきからこの調子である。

 

 警備の優秀さを褒めればいいのか、頭の硬さに文句を言えばいいのか分からない。

 

 いや、この場合は俺の迂闊さが非難されるべきか?

 

 そもそも、親父も親戚連中もここの所属だ。

 

 だから俺の状況もある程度伝わっている――そうでなくとも行けば何とかなると思っていたのだ。

 

「それに、その格好も……なんというか、流石にちょっと……ね?」

 

 格好……。

 

 チラリと自分の格好を見下ろす。

 

 黒い厚底ブーツにニーハイ。

 赤いチェックのミニスカート。

 せめてこれくらいはと言い張り、何とか環から許可を貰って締めたネクタイ。

 

 その上からダボダボのカーディガンを着た環オススメの地雷系制服コーデ。

 

 うん。やっぱり悪いのは俺だな……。

 

 諦めて帰ろうとしたその矢先、思わぬ助け舟が入った。

 

「コイツの身元は俺が保証する。スマンが通してやってくれないか?」

 

 聞き馴染みのある渋い声に釣られ、背後を振り返る。

 

「宗鉄さん……!」

 

 目の前には真っ黒な袴姿の職人が立っていた。

 

「――愛刀をなくしたと聞いた。兎にも角にも刀がないと話にならんだろう? 着いてこい」

 

「あ、ちょっ……! こ、困りますよ! 勝手に連れて行かれては……!」

 

 それでも食い下がる警備のオッサン。

 中々仕事熱心な人だ。

 

 ふむと頷く宗鉄さん。

 懐から自分のIDカードを出して警備員のオッサンに見せる。

 

「金野江宗鉄だ。こいつを連れていくのは俺たちの管理区域、地下の鍛冶場だけ。それでも文句があるなら、金野江に言ってくれ」

 

 そこで警備のオッサンも目の前にいる人が誰か気付いたようだ。

 

「金野江の『刀匠』……!」

 

 そう。この人こそ金属全般を司る金の一族。

 その十大棟梁の一人。

 

『刀匠』金野江宗鉄。

 

 刀を打つ奴は多いが、金の一族で刀匠と呼ばれるのこの人だけである。

 

 

 ◇

 

 

 小さな駆動音を立て、巨大なエレベーターが地下に向かって降りていく。

 

「しかし、宗鉄さん。こんな格好になったのによく俺って分かりましたね? 」

 

 壁にもたれて腕組みをする宗鉄さんに恐る恐る声をかける。

 

 俺の元の姿も大概だが、この人は黙ってると怒ってるように見えるタイプだ。

 

「……ん? あぁ、歩き方の癖とか立ち方はそのままだからな。性転換したと聞いたが、筋肉の付き方が変わったのは驚いた」

 

 ……見た目はノーコメントなの!?

 け、結構変わったと思うんですけど!

 

「あまり人の趣味にとやかく言うつもりはないが、筋肉量を落とすのは頂けないな。見た感じ霊力量が増えているから霊的なアシストをメインにした戦い方に鞍替えするのか?」

 

 ……あれ? なんか発言おかしくない?

 え? 鬼子とか火の一族の話とか聞いてないの?

 

「あ、あー、もしかして俺の性別変換した事情とか聞いてない感じッスか……?」

 

「何か聞いた気もするが……。まぁ刀を振るうにはさして関係ないだろう? そんな事より教えてくれ。お前の愛刀……『スーパー斬魔刀EX』の最後を――!」

 

 一点の曇りのない眼で自分の打った刀の話を聞きたがる宗鉄さん。

 

 ……スーパー斬魔刀EXは、マジで俺の愛刀の正式名称だ。

 結局、あの刀を振るって十四年。

 一度たりとも銘を誰かに告げることはなかった。

 

 神はこの人に何故ネーミングセンスを授けなかったのか……。

 

「えっと、その話は後にしましょう。も、もう着きましたし……」

 

 

 タイミング良くチーンと間の抜けた音を出し、エレベーターの扉が開いた。

 

 目の前には巨大な通路。

 

 しかも、ズラリと十メートル級の大鳥居が並べられており、その奥には小さいながら社が見えた。

 

 地下通路に大鳥居のトンネル。

 所々、無造作に怪しい配管やら謎の札が貼られた電源ケーブルが壁から生えている。

 

 通路はいくつも分岐し、さながらそこは迷宮の様だ。

 

 

 通路から見える部屋の中には幾つもの大型機械が並んでいる。

 

 誰がどう好意的に見ても、怪しい実験室。

 

 科学と陰陽術が混じりあったような異様な雰囲気。相変わらず、ここは独特だ。

 

 いや、金の一族が独特なのだ。

 

 陰陽師なんて仕事は伝統技術を絶対視する傾向が強い。

 それは俺たち火の一族も変わらない。

 

 使える物は何でも使えという家訓がある反面、使えるならばと古い儀式や術式はそのまま使う傾向にある。

 

 この間の鏡火の儀式なんかが良い例だ。

 

 

 しかし、金の一族は違う。

 

「古きを踏み越えてこそ技術は意味がある」を家訓に掲げ、大昔から各国様々な技術をどん欲に吸収していった。

 

 実際、大学や国、企業の研究機関に金の一族はかなり食い込んでいる。

 その研究成果と霊的な技術を組み合わせ、様々な霊具を作り出しているのだ。

 

 

 連れてこられたのは宗鉄さんの個人部屋。

 

 様々な本やら機械やらが積み上げられ、部屋の片隅では真っ赤に燃えた炉が置かれている。

 

 

「またなんか機械が増えてません?」

 

「ああ、いくつか新素材開発用の装置が増えたな。合金開発用の炉とか成分分析装置とかその辺を新調したんだ」

 

 そう言って雑多な機械に囲まれたスペースに申し訳程度に置かれた椅子をすすめられる。

 

「お前の新しい刀を考える必要もある。今のお前に合わせた相棒を打つ前に、色々と話を聞かせてほしい」

 

 そう言って缶コーヒーを手渡される。

 

 

 自分の打った刀を、まるで人格があるように扱う職人気質な渋いオッサン。

 

 人として尊敬できる、古き良き職人魂を感じる人だ

 

 しかし――。

 

「さっきの続きを聞かせてくれ。あいつの、スーパー斬魔刀EXの話を――」

 

 あぁ……クソ……。

 名前のダサさが全てを台無しにして行く……。

 

 

 ◇

 

 

「グス……。う、うぅ……そ、そうか……。あいつは新たな生命を祝福するために散ったのか……」

 

 目頭を抑え、大粒の涙を零す宗鉄さん。

 

 号泣である。

 

「あ、いや……。あー、俺の方も申し訳ない……刀を生贄に捧げたみたいになって……。結局俺だけ生き残っちまったし……」

 

「グス……い、いいんだ。良い刀ってのは、使い手より先に死ななきゃならねぇ。アイツも、スーパー斬魔刀EXも本望だっただろう……」

 

 

 いい歳したオッサンの本気泣き。

 まあまあどうしていいか悩む。

 

 ……あ、そうか。

 例の大太刀、この人に聞いてみるか……。

 

 

「あー、と、ところで宗鉄さん。ちょっと小耳に挟んだんだが、ここに封印された大太刀があるって聞いたんだけど……」

 

 ピタリとと宗鉄さんが止まる、

 あ、あれ?

 

 

「……どこでそれ聞いた」

 

「あ、あー、ちと怪しい出処の情報で……」

 

 宗鉄さんがグイッと乱暴に涙を拭い、立ち上がる。

 

「あるぞ」

 

 そう一言呟いてスタスタと部屋を出て行く。

 

 ちょ、ちょっと!?

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