俺がバニーになるんだよ!!!   作:不束な不審者

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オラッシャァッバニー大好き!


大空!飛べよバニー!!

 夜の学校。独特な雰囲気と恐怖を纏うその不思議な空間に、ある男がいた。

 静寂で静か、普段ならば取るに足らない程に気がしれたその道も、今は恐縮する程に暗く心細い。

 

 歩く男の名は「加賀気朔(きがきさく)」。成績優秀、品性方向。まさに優等生と呼べる人物であったが、一つ弱点とも言うべきところがあった。

 それは気が弱いと言うことである。

 

 彼の趣味はメイド服だ。しかしそれが一度クラスの一部に知られてしまうと、それを周囲に広めると脅すようになった。

 彼の気の弱さも助けてやがてそれは、従って当たり前、有り体に言うならばパシりと同じ扱いとなっていた。

 

 彼の同志たちはなんとか彼への横暴をやめさせようと奮闘はしてたものの、その奮闘は振るわず現状維持が続いていたのだった。

 

「はぁ…」

 

 朔は今日も肝試しと言われ、夜の学校に訪れていたのだった。

 外をチラリと見ても、呼び出した張本人たちの姿はどこにもない。あるのはただ深い闇のみ。

 月明かりすら見えない道無き道は、彼の気を重くさせるには十分すぎるほどだった。

 

 置いていかれたというっ実を噛み締めながら彼は進んで行った。

 

 

 

「いい朝だ」

「バニー日和でござるか?」

「その通りだ!」

 

 朧気ながら差し込む陽の光。まさにバニー日和と言えるその日に、行われる会話は世の末を想起させる

 

「何を言っているんだ?」

「おはよ」

「ああ。おはよう」

 

 綺麗な赤髪と太ももの女性、戦いの神であるフィリュテが起きてくる。瑞々しいオーラでも出ているのか、朝にしては爽やかすぎる彼女も、最近この家に転がり込んできた彼女は、大正と同じく居候の身だ。

 

「あ、そうだ。統次」

「どしした?」

「私もお前と同じ学校に通うことになった」

「サプライズバニーだな!」

「さぷらいず?。よくわからないが今日からよろしく頼むぞっ」

 

 そう言って彼女はくるりと一回転する。すると、彼女の姿が一瞬にして変わった。魔法でも使ったのか、魔法少女のように煌めかしきエフェクト共に姿が変わる。

 着ていたもこもこのパジャマから一転、紺色のブレザーとスカートという統次もよく知る格好となった。

 

「あ、うちの制服」

「ああ。どうだ?」

「似合ってるよ。バニーがあればもっといい」

 

 赤い髪に対しての紺のコントラストは綺麗と言わざるを得ない。グラデーションのようにかかる陽の光が、柔らかく花のような美しさを醸し出す。

 ニーソックスから見える白い太ももが輝かしいばかりだ。

 

 制服バニーってのもいいな…。

 

 統次は密かにそんなことを思った。

 

「嬉しいぞっ」

 

 彼女の顔がぱあっと華やぐ。

 可憐にして美麗。まさに咲き誇る花と言った笑顔だ。

 

「あ!もうこんな時間か!」

 

 しかし現実というのは非常なもので、彼らが学校に遅刻するという時間は刻一刻と迫っていた。

 

「早く家出るぞ!」

「お、おう!」

 

 彼らは急足で家から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 お馴染みの始業をしらす鐘の音ともに、ギリギリのタイミングで教室になんとか辿り着いた統次たち。

 変わらぬ光景が、迎え入れる景色が、遅刻というラインを許容したという事実として流れ込んできた。

 

「よお。お疲れさん」

「どう見たってお前も遅刻しそうじゃねえか…!」

 

 後ろから絶え絶えしい親友の声が聞こえる。

 親友、直瀬の息も切れ切れのツッコミを体に受けながら統次は席に座る。

 

「…おはよう、統次」

「おはよう。イーナ」

 

 どんな状態でも挨拶を欠かさない男、統次は隣の席のイーナにも返して行く。

 

「それでさ....このメイド服のデザインってさ....」

「いいですよね!気賀気さん!」

「わかる?だよね!ってあ!兎福さん、おはよう!」

「おう。おはよ」

 

 前の席の気賀気朔にも元気に挨拶だ。

 

 そして、直瀬の方を向き直り、新たな話を始める。

 

「ハダカデバネズミがゴールデンハムスターの地位に着くとどうなると思う?」

「え?そりゃお前…」

 

 先ほどの息も絶え絶えの姿からすぐに復活した統次は、元気よく直瀬に話しかける。

 

「…どうなるんだろうな」

「もっと真面目に答えてくれよ。世界がかかってんだ」

「かかってねえだろ」

 

 他愛もなければ意味もない会話は、ガラガラという戸を開ける音で途切れた。

 

「おーい。席につけー。ホームルーム始めるぞー」

 

 そう、担任が入ってきたのだ。

 

「なんだかさっき先生UMAっぽいの見たんだが…。すげースピードで階段上がってくる人型の」

 

 間違いない。俺のことだ。

 

 統次と直瀬は思い当たる節しかなかった。間に合うためには必要な犠牲だったのだ。彼らは研究所に喜んでついて行く所存である。

 

「先生UMAとか好きだからなぁ…。後で話聞かせてくれよ。な?兎福」

「へ、へえい」

 

 どうやらバレていたらしい。

 変な相打ちしかできない統次は冷や汗を流しながらうなづくのだった。

 

「さて、まあUMAもとい危険走行を問い詰めるのはこの辺して…。今日はお前らにビックニュースがある」

 

 おおー、というどよめきがクラス中から上がった。

 1年未満の付き合いのこの教師だ。あまり期待はしないでおこう。

 クラスの総意が決まる。

 

「転校生を紹介するっ」

「おお…?おお〜!」

 

 人の形をしたニートと呼ばれる担任から放たれる衝撃の一言に、いっそうボルテージが上がった。

 

「よーし。場の温めはこれくらいでいいな。入ってこーい!」

「失礼する!」

 

 凛々しい声と共に、堂々と戸が開く。

 

「と、いうわけで、紹介する。彼女が転校生のふぃ、ふぃりゅて?さん?だ」

「転校生のフィリュテだ。よろしく頼む」

「よしじゃあこんなもんで...。あ、そうだ。この人への質問攻めはやめてやれよー。席は,,,好きなとこ座ってくれ」

 

 ついにフィリュ手の名前を覚えられずこの人って言い始めたぞ。この人。

 

 それはそうと、フィリュテの美貌は誰から見てもわかるようで、男女問わず視線は皆フィリュテに釘付けだ。

 歩く姿はなんだっけ。忘れてしまったが、言いたいことは伝わるはずだ。

 

「あのときの美少女は転校生でお前の知り合いだったってわけか.....。 ファンタスティックだな」

「ふぁんた...?え?なんて」

「そういやお前の英語は壊滅的だったな」

 

 担任が出ていき、ホームルームの終わりを告げる。

 フィリュテはモデルのような美しい姿勢とふともものまま、つかつか、つかつかと統次の方へ歩いてきた。

 

「隣で....いいか?」

「ふぁん...?すてぃ....?え?ああ、もちろん」

 

 英語の意味を深く考え始める統次は、フィリュテの問いに生返事で返した。彼女はそれに眉をしかめることはなく、隣の空いていた席へ座った。

 

「よお。転校生....へラップだっけ?」

「フィリュテだ」

「そうそうフィリュテちゃん....君かわいいね」

 

 体格が良く、明らかに柄の悪い印象の男がフィリュテに近づく。

 

「昼休み、俺達が学校案内してあげるよ」

「気遣いはありがたいが...、それなら統次にしてもらうことにする」

「いやいや、拒否権ねえから」

 

 がははと男は笑い、強引にフィリュテの腕を掴もうとした、その時だった。

 

「さ、さすがにそれは....やめようよ津世(つよ)さん」

 

 朔が彼らの間に割って入り、伸ばされた腕を押しのけたのだ。

 一瞬の静寂。明らかな険悪を時に書いたような空間が一瞬にして出来上がった。

 

「ああ?なんだ?てめえが俺に指図する....」

「あるよ」

 

 間髪入れず、朔は答える。

 芯のある気迫。

 その気迫に多少は押されたのか、津世と呼ばれた男は少し黙る。

 

 だが、次の瞬間。

 

「っははは!あるわけねえだろうが。毎日気持ち悪い話を気持ち悪い仲間としやがってよ...。貧弱メガネに不細工デブ。そして見るからに弱そうなお前。そいつらが毎日メイド服だの何だの話してるんだぜ?気持ち悪いったりゃあらしねえ。その気色悪い趣味をやめてから人に意見を言うんだな!はははっ」

 

 人を馬鹿にするために生まれてきたかのような言葉の数々が無慈悲、いや楽しみながら投げつけられる。

 まるで中核をなしていない罵倒が、ある意味本質を着いた暴言が、響き渡った。

 

「...友達を...。よくも...!」

「なんだ?怒ったのか?気色悪くて短気ときたらもう...」

 

「おい。そのへんにしておけよ」

「ああ?」

「人の趣味を馬鹿すんじゃねえ。好きなものってのはな、誰かが否定しちゃいけないもんなんだよ」

「そういえば...。お前の話もだいぶキモかったな...。フィリュテちゃん。こいつの趣味、知ってるか?バニーガール、だってよ...」

 

 急に話を振られたフィリュテは、なにか不思議なものでも見るような目でこういった。

 

「知っているが...。それがどうした?」

「な....」

 

 絶句。

 一寸の狂いもない純粋な瞳で返答されたその答えに今度こそ津世はたじろぐ。

 純粋というのは狂気になり得る。そう学びを得たのはクラスメイトたちだ。

 

 引きつった顔をした津世。しかしそんな津世を意に介さず、フィリュテは言葉を続ける。

 

「趣味というのは貫くものだ。貫き通し、人がかならず心の底に抱える信条にも近い。それを外野からあーだこーだと文句を言うやつは私は嫌いだな」

 

「...ちっ」

 

 津世はすごすごと教室を出ていった。

 

 静まり返った教室に、フィリュテの明るい声が響く。

 

「なあ統次!この硬い板はなんだ?鈍器か?」

「光る板だ」

 

 無邪気な問いかけに、すこし場が和む。

 それと同時に先程のかっこいい統次はどこへ行ったのかとクラスメイトたちは思った。

 

 

 

「ごめんね...。僕のせいであんな事言われちゃって...」

「そんな!朔くんのせいじゃないでやんすよ!」

「そうですっ。かっこよかったですよ!朔さん!」

 

 放課後、朔たちは喋りながら帰宅していた。

 夕焼けは明るく、日の終わりを予感させるように、気持ちと比例するように暗くなっていく。暁が夕闇に変わりゆく中、朔たちは気を重くしながら帰る。

 

「じゃあ、ぼくはこっちだから....」

「また明日でやんす!朔さん!」

「バイビーっす!」

 

 三人はわかれ、別の道を歩いていく。

 

「はぁ...。もっと僕に力があれば...」

 

 ふっと、冷たい風が通る。路地裏を通り、素早く街を駆け抜けた、それほどの冷たい風。

 冷房から繰り出される冷風のように、悪寒を感じさせる風のように、ただ冷たいだけのはずの風が、すっと心に入り込む。

 

「力がほしいかい?」

 

 後ろから、これが聞こえる。

 少年とも青年ともつかない不思議な声。安心感と不安感、矛盾を与える謎の声。

 そんな、唐突に聞こえる声に、ビクッと体が震える朔。

 

「じゃあ、これを上げるよ。お代はいらない。もうもらったから...」

 

 深い黒のフードの男はにやりと笑いながらそう言うと、光る小箱を朔に押し付ける。

 人の話など聞く意味がない。もうお前の心はわかっているとでもいうように。

 

「うう...!?」

「それは人の願いを叶える魔法のびっくり箱さ。さあ、存分に力を使うんだ」

 

 小箱が溢れる。

 濁流のように流れ出すガラスの欠片のような結晶。人の思い出を模るように、朔の体に張り付いていく。

 まるで質の悪い芸術。模る異形は、たぎる力を握り締め、割れんばかりの力と共に、張り付く結晶を叩き割る。

 

「力が...湧いてくる...!これなら...!!」

 

 異形、ノイターとなった朔は、咆哮のように雄叫びをあげる。

 震える朔に背を向けてフードの男は去っていく。

 

「さあ、スペック2だ....!」

 

 不敵な笑みは風に消えた。

 

 

「むう....」

「どうしたんだ?大正」

「いや、この特売、どっちがいいでござろうかって悩みまして...」

 

 すっかり主夫業も板についた大正が悩ましくも声を上げている。

 

「統次殿はもういくのでござるか?」

「ああ。イーナが待ってる」

「気をつけるでござるよー」

 

 エプロンをつけた大正が玄関まで見送ってくれる。

 その姿はまさにお母さん。

 

「行ってきます」

 

 思わず統次も行ってきますと言った。

 

 

 

 

 

「おはよ。イーナ」

「....おはよう」

 

 統次の家の前で待っていたイーナが、彼に駆け寄り腕を組んでくる。

 

「この腕、離してくれないか?」

「....いや?」

「嫌でじゃないけど...、動きづらい」

「......じゃあ続ける」

 

 ぎゅうっとその豊かな胸を押し付けるように腕を離してくれないイーナ。

 

「怒ってる...?」

「....どうして?」

「バニーを着てと頼みすぎたから…とか?」

「....それは、嬉しいから違う」

 

 どうも彼女の心のうちというのはわからない。俺も乙女心を磨かなきゃな。

 

「.....鈍感」

 

 様々な会話をしながら彼らは学校へ歩いていく。

 

 

「...どうしたの?統次」

「なあ、なんかおかしくないか?」

 

 校門の前。

 様々な生徒が出入りする昇降口を驚いたように指を指す統次。

 

 その方向には、すべての生徒がもれなくメイド服を着て登校しているという衝撃的な光景が広がっていた。

 女子生徒の煌びやかなメイド服はさることながら、男子生徒の筋肉を見せつけるかのようなメイド服。クラシカルなものからポップなものまで、そこはまるでメイド服の展覧会。

 

「.....なにこれ」

「さあ?」

「なんだこれは!?」

 

 追いついたのか、フィリュテが後ろから驚いて声を上げた。

 

「どうしたんだ?そこで固まって...」

「直瀬!?」

 

 声をかけてきた直瀬でさえもメイド服を着ている。

 引き締まった身体がちらりと見えている。彼は着痩せするタイプの細マッチョなのだ。

 

「どどどどど、どうしたんだよその格好!?!?!?!」

「どうしたって...メイド服だろ?何を馬鹿な...。ついに脳のネジが全部はずれたか?いや前からか....」

 

 おかしい...絶対おかしい...。

 

 まるで狂気の現状に、混乱する。常識が、変わった。メイド服がドレスコードになった。それも、一日で。

 

 統次の疑問はそこにいるメイド服を着ていない者全員の共通認識だった。

 

「よし!わかった!」

「....どうしたの?」

 

 統次がぴしゃりとほほを叩き、声を上げる。

 

「すまん!直瀬!」

 

 ばちこーん。

 奇怪な音共に思いっきり直瀬の頬をぶん殴った!

 

「はっ。何だこの格好!?統次お前何した!?」

「俺じゃねえ!」

「ちょっとお前たちは黙っててくれ」

 

 フィリュテの視線の先には、メイド服の生徒たちが登校を始める昇降口が。

 

「なんだなんだこの状況…」

「少なくとも、原因解明のためには中へ突入するしかあるまい」

「....そうだな」

 

 彼らは学校の中に突入した。

 

 

「こりゃひでえ....」

 

 学校の設備や姿に異変はなかった。

 やはりおかしいのは生徒、いやそこに所属するすべての人のようだ。

 教師も、事務員もメイド服を例外なく着ている。メイド服の種類はさまざまだが、やはり異常と言える。

 

「まさかバニーのほうが良かったとかおもってんじゃないだろうな?」

「少しは思ったけど...。無理やり着せたバニーは美しくない」

「お前らしい」

 

 向けられる奇異の目。

 その視線は段々と大きくなり、だんだんと周りの姿が異形と書いていく。

 

 刺々しいメイド服のような姿のそれは、一斉に襲いかかってきた!

 まるでゾンビ。メイド服を着ていないものをメイド服にするために、襲いかかるその生徒たち。

 

「ラーグ!」

『我もこれがどういうことなのかいまいち理解しておらぬが…。やるしかないようだ!』

「応!」

 

「変身!」

 

『キコナシアップ!跳ぶぜバニー魅せるラヴィット!!ラッヴァード!!!』

 

 列車が融合し、装甲にバニーの意匠を、頭部にV字と耳を作り上げた。

 

「お前が....!」

「そういえば言ってなかったな!すまん!直瀬。そうだ!俺が!」

「バニー妖怪!」

「ええ!?」

 

 驚きながらも、メイドの異形たちを蹴散らしていく。切り伏せる骸は両断されると霧散する。

 まるで霧を切るような不思議な感覚に戸惑いながらも、メイド服塗れる通路を切り開き走り抜けていく。

 

「まあでもお前かなとは思っていたよ」

「まじかよ」

「そんな格好のバカお前だけだもん」

 

 何も反論できない....。

 

 階段の踊り場に位置する溜まり場。

 そこはメイドの溜まり場と化していた。

 

「これは…一筋縄じゃいかなさそうだな!…いくぜ!」

『ビクトリースラッシュ!』

 

 紅の刃が軌跡を描き、メイド服たちを一気に蹴散らした。

 爆発的な勢いの一撃が活路を生み出す。

 

「.....大丈夫なの?」

『ああ。黒幕を倒せばきっと彼らはもとに戻るだろう」

「じゃあ善は急げだ!」

 

 踏み出そうとするも、新たなメイド服たちが押し寄せてくる。

 

「まだ来るのか!?」

「これじゃ進めねえな....」

「助太刀いたす!!!」

 

 バキュンという音ともに、窓ガラスが飛び散る。朝日を受けキラキラとガラスのかけらと共に飛び込んでくるのは、奇怪な大正風の衣装を着こなす大正。

 

「大正!?」

「統次殿!どういうことでござるか?」

「わかんえねけど....多分怪人のせいだろう」

「.....納得はできるでござるね」

 

 鉛玉が飛んでゆく。目にも止まらぬ早業で、統次に今の状況を問いただすも、芳しい答えは得られない。

 メイド服を牽制しつつも、大正は困惑する。

 

「よし!ここは某に任せて先にいくでござるよ!」

「俺達も残ろう」

「私も戦えるぞ!」

 

 フォリュテがその拳を振るうと、炎が湧き出る。情熱的なほどの炎がメイド服を焼き付け拳が敵を薙ぎ倒す。

 

「しかし、直瀬殿は危険なのでは....」

「まあ見てろ。直瀬の蹴りは....」

 

「ふんっ!」

 

 ぶおんという風を切る重い音が、メイド服を薙ぎ倒す。ボーリングのように転がるメイドが他のメイドも巻き込み、一気に道がひらけた。

 

「怪人くらい倒せる!」

「これは....頼もしいでござる....!」

「イーナは統次をサポートしてやってくれ!こいつ一人じゃ心配だ!」

「...うん!!」

 

 彼らの奮闘のおかげで、道が拓ける。

 

『統次!わかったぞ!黒幕は屋上だ!』

「わかった!すまんイーナ!」

「へ?」

 

 横抱き、いわゆるお姫様抱っこで抱え上げ、ラッヴァードは階段を駆け登っていった。

 

 

「くそ!ここもか!」

 

 逆バニーで殲滅しようにも、屋上の扉の前は守るように敵がうじゃうじゃいた。主人を守るかのように、立ちはだかっていた。

 

「任せて。私も戦える」

 

 イーナが自発的にラッヴァードの腕から飛び降り、敵の方へ近づいていく。

 儚げな少女が、メイド服に近づく姿はどこか危なげだ。

 

「おい!危ない....」

「.......行くよ」

 

 りんとした声が響いた。そして、次の瞬間敵がすべて吹き飛んだ!

 宇宙的な余波が広がる。まるで衛星軌道のように強い衝撃がメイドへ降りかかる!それは不意打ちの隕石。

 

「これは....?」

「合気道...?」

 

 なぜ疑問形なんだ。

 

『統次!気をつけろ!黒幕は眼の前だぞ!』

 

 開け放たれた扉の先、そこには一人の眼鏡の男。気賀気朔がいた。

 

「朔....?」

「この声は....ああ、統次くんか。それにイーナさんまで...え?なんでバニー?」

「いつの間に....」

「さっき脱いだ、よ」

 

「お前なのか?この騒動の黒幕は!」

 

 彼が黒幕だと信じたくない。ただそれだけの思いで、統次は叫ぶ。

 

 優しかったあいつが、メイド服を愛していたあいつが、こんなこと…!

 

「まあね。この力で、メイド服を、僕の友達を罵倒した奴らを見返すんだ!そして、僕の楽園を作り上げ....」

「歯ァ食いしばれ!!」

「ぐはぁ!!」

 

 渾身の左ストレート。それが朔の頬に炸裂した!

 

「趣味ってのはな!人に押し付けるもんじゃねえんだ!それに… 世界をメイド服だけになんてしてしまったら…メイド服はどう進化する!?バニーは!メイド服は!何も生まれない原型が残るだけだ!」

「バニーは関係ないだろ!!」

 

 朔は立ち上がり、メガネを直す。

 

「でもね。否定もしちゃいけないんだ!だからこれは罰だ!僕の趣味を!友達を罵倒したやつらへの!」

「違うだろ!お前はただ…力を手に入れたからそれに従って力を振るってるようにしか見えねえ…!お前は!お前が求めた世界なのか!?」

「……あ、ああ。そうだ!これが僕の求めた世界!メイド服にこれ以上はいらない!」

「そうか…殴り合うか」

「ああ....!」

 

 交わる視線。

 

「戦うしかないようだな」

「君とは戦いたくなかったさ」

 

「はぁ......!!!」

 

 朔が力をため、異形「メイドノイター」へと変身した。

 

「君を倒す!」

「お前を戻す!」

 

 ラッヴァードの視線の先には、彼の友達がいた。

 

 

 二人が駆け出す。

 拳と拳のぶつかり合い。純粋な肉弾戦は何より激しく、何よりも華麗に連鎖する。空に飛び、嵐をかき分け、魂と魂がぶつかりあう。

 

「統次!周りは私がどうにかするから気にしないで!バニーなら力が湧く!!」

「ありがとう、な!」

 

 ラッヴァードが飛び上がり、かかと落としをメイドノイターへと食らわせようとする。吸い込まれるように踵おとしが叩き込まれる。紅の閃光が、爆発が一身に叩き込まれた。

 しかし。

 

「ふん!」

「硬え!」

 

 真正面から受け止められてしまった。

 しかも、メイドノイターはびくともしていない。鋼鉄のような体が、それを受け止めたのだ!

 

「これで終わりだ!ハァッ!!!」

 

 衝撃波がラッヴァードを襲う!放たれる波状のメイド服は、切り裂くように蔓延し、ラッヴァードを吹き飛ばした!

 

「ぐぁぁぁぁ!!!!」

 

 床に倒れ伏し、ぼろぼろになってしまったラッヴァード。身体中のラインに流れるエネルギーが、途切れ途切れに輝いている。

 

 まさに満身創痍。1歩歩くだけでも激痛と言えるその状態で、統次は考えていた。

 

 どうすれば.....。そうだ!あいつに見せればいいんだ!今のあいつじゃ見れない可能性を!ぶつけろ!ああ、そうだ。あれしかねえ!!

 

「見えた!最強のバニー!!」

 

 電車が彼の下へ到達する。荒ぶる突風も、数々の想いさえも押し退けて、ただ1人の下へ駆けつける!

 

「なんだそれは.....」

「お前の知らない可能性ってやつだ!」

 

 列車が展開する!

 放たれる風の刃を、メイドバニーへと染め上げて、新たな扉が開かれる。

 

「いくぜ.....再変身!」

『キコナシアップ!フリッとフリーに華麗なスタイル!メイトバニー!!』

 

 ラッヴァードの姿が変わる。白バニー然とした姿が、飾り気のなかった腰周りが、黒いフリルなどが調和するように付け足されていく。

 その姿はまさにメイドとバニーの融合。メイドバニーだ。

 

「よく聞け朔!お前のその独りよがりな思考じゃ、このメイドとバニーって組み合わせは見れないんだぜ!」

「だから...」

「これがわかんねえっていうんなら、こいつを喰らえぇぇ!!!」

 

 ブースターの最大噴出が、ラッヴァードを空へ飛ばす。

 メカニカルでクラシカルなメイド服から放たれる超速度の一撃。

 超高速で叩き込まれる空への片道切符が、青空へと向かう翼なとなる。

 

 空中でメイドノイターに拳を打ち付ける。次に蹴り、さらには剣。

 絶えることなき必殺級の一撃が、空へ高く舞いながら、青空へより近づきながら、メイドノイターへ炸裂する!

 

「トドメだァッー!!!」

『メイトラッヴァーニッシュ!!!』

 

 空が煌めく。一筋の光がやがて閃光となる時、拳が地面へと打ち付けられる。

 それが、ノイターへの手向け。メイトフォームの一撃必殺だ!!!

 

「ぐぁぁぁあぁ!!!」

 

 異形は爆散し、煙の中から朔が出てきた。

 

「朔くん!」

「朔さん!」

「みんな....」

 

 元の姿となった作に駆け寄る友人たち。いつの間にか影で朔の無事を祈っていた友人たちは、心の底から安心しているように、朔に駆け寄る。

 

「ごめん!僕がまちがってた!」

「ありがとうございます!俺達のことをこんなに.....」

 

 どこか罰の悪そうな、それでもどこか誇らしげな友人たちの顔。

 そんな彼らを見て、朔も改めて思ったのだ。

 彼らは最高の友人だと。

 

「だって、友達でしょ?」

 

「朔ぅ〜」

 

 彼らは楽しそうに、階段を降りていった。

 

「うんうん。しかしメイドバニーか」

「.....着ようか?」

「え?ほんとか!?」

 

 イーナのその一言に喜ぶ声を切るように、青い空のもとに拍手が響く。

 

「うーん。いい戦いだったよ。さすが龍神だねえ」

「誰だ!?」

 

 ゆっくり通りてくる黒いフードの男。まるで音もなく、無音の世界に住むような。気配すらもまるでない、人ですらないような感覚を持たされる。

 

「僕かい?……今は気にしなくていい」

「…どういうことだ」

「まあその辺はおいおいね。ああ。それと。これまでの怪人「ノイター」を生み出したのは僕だ」

 

「お前…!」

 

「これからもっと増えていくだろうね。期待しているよ。ラッヴァード」

「…何が目的だ」

「性癖など存在しない無の世界。何も無ければ何も発達せず何も起きない。素晴らしいでしょ。何も起きやしないんだ。争いもね」

 

「良い訳ないだろ…!」

「ああ、そうそう。勘違いしないで欲しい。僕は別に世界を平和にしたいとかそういうんじゃない。ただ、世界を無にしたいだけ。発明にも実験にも、あまりにもこの世はうるさすぎる。だから、お片付けってわけさ」

 

 まるで人の話を聞かない男。

 人と話している感覚にしてはあまりにも宇宙を見ているかのような感覚に陥ってしまう。

 

「今回は挨拶だ。龍神♪」

 

 彼が言葉をかけるより前に、男はどこかへ消えていった。

 

「いつかぶっ飛ばす…!」

 

 消えゆく残滓を前に、統次はそう呟くのだった。

 

 ▽

 

「黒いフードの男。そして、ラッヴァード。どこも我が部隊に存在しない筋書き……。これも記しておこう」

 

 音もなく帰るは忍者。

 彼の抱く分厚い日記帳には、これまでの様々なことが乗っていた。

 ノイターの出現、ラッヴァードへの変身。まるで筋書きとの相違点を見つけるように、まるで答案の再試行をするかのように丁寧に丁寧に書き記された日記。

 

「……予想外だ。だが、彼もただの一般人、その程度は計画を崩す小石にすらならない……。ああ、だから大丈夫」

 

 大正然とした奇天烈な格好の男、大正は、顔をあげる。

 

「世界はきっと救われる」

 

 

「いやー今日も良いバニー日和だ。最高だな」

「お前にとってはいつも最高だろ」

「ああ!」

 

 翌日の教室。

 統次たちは楽しそうに過ごしていた。

 

「......今日もバニー着るよ」

「私も着よう」

 

 二人の申し出が重なる。

 

「やっぱりメイド服ってさー」

 

 昨日の中心人物をちらりと見る。。彼らも楽しそうだ。

 

「あ!そうだ!すまん!今日は俺一人で帰る!」

「そうか....。じゃあな!」

「また明日!」

 

 

 

 

 

 

 帰り道。バニーのことを考えながら歩いていた。

 その時、統次の体を爆風が襲う!

 

「うわぁぁあ!!」

「お前か....ラッヴァードってやつは...」

 

 白髪の男が、大剣を構え、ゆっくりと歩いてくる。

 

「お前はなにも気づいていない。その力が、どんなものか。真実を!」

「.....どういうことだ?」

 

 彼の意味不明な言い分に、疑問符を浮かべる統次。

 

「力は巡り、やがて同じところへたどり着く。そういうことだ」

「どういうことだ?」

「その力、俺が奪う!」

 

『キコナシブレイク!アウトサイド!ブラックサイド!ブラックアウト!ノーデス!ノーデス!ノーデス!フハハハハハハ!!デスバニー....!!』

 

 黒い飛行機が男と融合し、黒いラッヴァードのような姿になる。

 

「俺の名はノーデス。闇を狩り、夜に潜むもの.....。そして.....」

 

 大剣を構え、襲いかかってくる。

 

「デスバニーだ!」

 

 

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