「やはり出たか、シュトルーベの亡霊・・・。これはまた、ガティアン神殿長が荒れるな・・・」
サングレール聖王国内、スピキュール教区の執務室で私は、裁断の名を授かった聖堂騎士は、手元の資料を前に頭を抱えていた。
ここ十年程、我々スピキュール教区を筆頭とするタカ派は、一人の、或いは一体の、怪物に頭を悩ませていた。通称、もしくは人呼んで、シュトルーベの亡霊。誰も、我々サングレールも、そしておそらくハルぺリアの連中も、その正体を掴めない怪物。シュトルーベ元開拓村跡地に現れる正体不明の何か。
周期的に現れては、サングレール兵を虐殺し、築き上げた砦を破壊する厄介者。奴がいなければ、ハルぺリア侵攻ももう少しうまく事が進む筈なのだがね。
「失礼します!ガティアン神殿長より、裁断、及び後光に呼び出しがかかっております!」
やはりね、大方次のシュトルーベ制圧を任せる人事の話だろう。・・・遂に私の番が来たか。後光のサルバドールは我らスピキュール教区の象徴だ、日陰者達の教育もある。そう易々とは動かせまい。
「ああ、分かった。直ぐに向かう」
出来得る限りのことをしよう。我らがスピキュール教区の、或いはサングレールの、ひいてはライカール様の為に。
「これで何度目か。我等はあと何度、彼の亡霊に煮え湯を飲まされれば良いのか。幾人の聖堂騎士を失った、幾千の兵士を失った。・・・わかっているのか?あの地を、シュトルーベの地を、憎きハルぺリアから取り戻すのにどれほどの同法の血が流れたのか」
ガティアン神殿長、スピキュール教区の神殿長にして元聖堂騎士。若き日には国敵、ハルぺリアを相手に獅子奮迅の働きをした英傑。年老いた今でさえ、我等タカ派の指導者としてハルぺリアは勿論、日和見主義のハト派をも相手する老獪だ。
「ガティアン神殿長のおっしゃる通りだ。我々は現状、昨年即位した聖王フレア様の身柄を保護している。しかし、このままシュトルーベの、いや、ハルぺリアの地を取り戻せない様では、その地位すら危うい。故に今後、シュトルーベの平定は、裁断、後光、貴殿等のどちらかに任せることにした」
神官の口から紡がれた言葉は、やはり、私の想像通りのものだった。だが、秘められた意味は言葉とは違うのだろう。彼の地を平定できる保証はなく、彼の亡霊を討ち果たせる確証もない。であれば、そんな場所に象徴を送る訳にもいくまい。この議題の終わりはすでに決まっている。
「では、私が行きましょう。ライカール様の名の下に、彼の亡霊を裁き、断罪せしましょう」
「おお、裁断自ら出向くとは!後光のサルバドールに唯一並ぶ英傑たる貴殿なら我等も安心して任せられるというもの。いかがでしょうかガティアン神殿長、この勇者に任せるというのは?」
「・・・よかろう。期待しているぞ。裁断の」
「は、お任せください」
こうして、私のシュトルーベ平定の物語が始まった。終わりの物語が始まったのだ。
最初に言っておこう、言う必要すら無いだろうが言っておこう。この物語は私の死をもって幕を閉じる。何も成せず、何も変えられず、無為に命を消費する。そんな物語だ。それでもいいなら、下らない結末でもいいと言うなら、読んでくれると嬉しい。何も残せなかった、そんな男の物語を。
僕は豚まん派