「はぁ、はぁ、・・・ハアァァァァア!!!」
「踏み込みは良し。・・・だが」
全身に身体強化を施したボルツマンの両手を使った薙ぎ払いを、右手のバスタード・ソードで受け止める。
踏み込みは良し。されど、それだけだ。
左手に握ったもう一振りのバスタード・ソードを使うまでもなく、ボルツマンの得物を絡めとり、弾き飛ばす。すかさず蹴りを放っては来るが、その一撃が届く前に私の得物がボルツマンの首に添えられる。
鍛練用に刃を潰してはいるが、剣は剣だ。自身の首が跳ね飛ぶ幻覚でも見えたのであろう。ボルツマンは足を振りぬくことなく、その場に崩れ落ちる。
「はぁ、はぁ、・・・参りました・・・」
「握りが甘い、得物に流す魔力量もムラがある。何より身体強化で劣っているのが分かっているのなら正面から攻めるな、身体強化の前では片手か両手かなど、誤差でしかない」
「・・・ですが、ですが先生!私にはギフトが、先生と同じ
また始まった・・・負けず嫌いで、強さを求め、鍛練に明け暮れる。それはボルツマンの美徳ではあるが・・・、いかんせん頭が固い、未だ本物の殺しあいを経験したことがないのだから仕方がないことではあるが・・・、師としては少し面倒くさいのだ。
「まずは、ボルツマン」
「はい、先生」
私の発言を一言一句逃すつもりがないのだろう、ボルツマンが真剣な顔で私を見つめる。故に、私は、師として、教え導く者として、同じギフトを持つ先達として、・・・ボルツマンの頭に特大の拳骨を食らわせた。
「ぁぁぁぁあああ!!!?何をするんですか先生!!?!」
「こんな誰が聞いてるかもわから場所で、それもあんな大声でギフトの話をする奴があるか!!この戯けが!!!頭を出せ!もう一発食らわせてやる!!!」
お許しを~などとふざけた声をあげながら逃げ出すボルツマン。信仰心が篤く生真面目な良い生徒だ、いずれは私の後を継いで聖堂騎士に選ばれるだろう。だが、けれど、しかし、それは裏を返せば、視野が狭く向こう見ず。一度信じたものを曲げられず猪突猛進に進み続けることになる。確かにそれは英雄に必要な素質の一つではあるのだろう。だがその素質は同格以上の相手を前にしたとき明確な弱点に変わる。・・・私が亡霊と相対する、その時までに矯正できれば良いのだが・・・。
「・・・今日の鍛練はここまでだ、しっかり食事をとり体を休ませるんだぞ」
「はい!先生!」
返事だけはいいんだがなぁ・・・。
鍛練後、使っていた鍛練道具を片していると、周囲を見渡しながら恐る恐るといった様子でボルツマンが話しかけてきた。
「・・・先生、さっきも聞きましたが何故、鍛練中はギフトを使ってはいけないのでしょうか?我々がこの鍛練場を使うときは人払いをしているのでしょう?」
「・・・私たちのギフト
「?剣に付与できる能力で、浮遊させた剣に手に持った剣と同じ動きを強制する能力です。これにより実質的に手数と間合いを増やせるのが強みです。先生が教えてくれたじゃないですか」
「その通り、よく覚えているな。・・・だがこのギフトの強みであるその二つは、同時に弱みにもなりうる。・・・一つ、あくまで手に持った得物と同じ動きをさせるだけだ、決して自由自在に動かせるわけではない。故に、基礎的な戦闘能力がギフトの性能に直結してしまう。二つ、武器を失えば何もできなくなる。戦場では武器を失うこともある。連戦による摩耗であったり、格上との戦闘であったりな。そうなれば私たちはただの剣士に過ぎない、手に持った剣のみで戦うことを強いられる。・・・戦場ではそれが当然のように起きるんだ」
「・・・なるほど、結局は地力がなければ意味をなさないということですね!」
どうにか納得してくれたらしいボルツマンはそのまま思考にふける。おそらくこれまでの自分の考えを修正しているのだろう。頭は固いが、一度納得させれば勝手に説明していないところまで補ってくれる。本当に頭のいい子だ。ただ思考にふけり、鍛練後の掃除を師に任せるというのは、どうなのかと、失礼なのではないかと、私は思うがね。
「それでは先生、失礼します!」
「ああ、気を付けて帰るんだぞ」
はい!と元気よく返事をしてボルツマンは走り去っていく。あれだけの鍛練の後であそこまでの元気があるとは、若さとは羨ましいものだ。
「そうは思わないかい?後光の」
「まったくもって同感だね、裁断の」
振り返るとそこには我らがスピキュール教区の、或いはタカ派の象徴たる後光のサルバドールが立っていた。全く心臓に悪い、何故毎回気配を消して後ろに立つのか。勘弁してほしいね。
「随分とあの若者、ボルツマンだったかな、に目をかけているようだね。やっぱり同じギフトを持っているからなのかな?」
「まあ、それもある。実際あの子は私の後を継ぐことになるだろうしね」
「それはまた、裁断の後釜とは中々に重い期待だ」
何が面白いのか、サルバドールは、ははははは、と声をあげて笑う。相変わらず良くわからない男だ。戦場ではこれ以上ないほど頼りになる相棒ではあるが、日常的にかかわると少し気疲れするタイプだ。象徴として敢えて被っているのだろうが、サンセットコケッコの金面は正直あまり隣を歩きたい見た目ではないしね。口には出さないがね。
「それで?何の用かな。日陰者の指導で忙しい君がわざわざこんなところに出向くなんて珍しい」
「・・・シュトルーベ平定の為、スピキュール教区を発つ日付が決まったと聞いてね。特に要はないが、顔を見に来たんだ。迷惑だったかな?」
「迷惑なものか。なるほどな、出発は来月末に決まったよ。・・・しかし、そうか。同年代の聖堂騎士はもう私と君だけになってしまったものな。まさか私がここまで生き残ることになるとはね」
「ああ、我々は長生きをしすぎた。何度同胞を見送ってきたことか。・・・何度経験してもなれないものだね、どうも」
サルバドールは、白髪に黒のメッシュが入った壮年の男はそう言って悲しそうに眉を下げる。いつもは同胞の前ですら脱がないサンセットコケッコの金面を、私の前では脱いでいるというのは彼なりの信頼の表し方なのだろう。
「友よ、一つ頼みごとをしていいかな」
「!ああ、勿論だとも、友よ。何でも言ってくれ」
「・・・あの子を、ボルツマンを頼む。少し頭の固い子だが筋は良い。良い指導者の下で鍛えればいずれは、私を超える騎士になるだろう」
「・・・ああ、任せてくれ。彼は私が立派な聖堂騎士に、裁断の後釜としてふさわしい騎士に育てて見せよう。だから・・・、安心してくれ」
お互いに分かっていることだ。来月末、私がこのスピキュール教区を発てば二度と会うことはないと、今日の、今の、この会話が、最後のまともな会話になることを。
「・・・すまないな」
「何を言うんだい、水臭い。私と君の中じゃないか、気にすることはないよ」
「違うよ、・・・君を一人にしてすまない」
私が死ねば、ライカール様の下へ行ってしまえば、このスピキュール教区にすら彼の理解者はいなくなってしまう。
「・・・気にすることはない。私も遠からずライカール様の下に行くだろう。そしたらまた向こうで会えるさ」
全く、いくつになっても別れというのは慣れないものだね。
「それじゃあ友よ。またいつか」
「ああ、またいつか」
こうして私は今世最後の友との今生の別れをすました。亡霊と相対すまでにやるべきことを一つ済ませることができたんだ。それでもまだやるべきことは沢山ある。物語は、まだ終わらない。
サルバドール、実は結構好きなキャラ。多分もう登場しないけど。