シュトルーベに赴任してから四か月ほどが経った。既に小規模な木造砦が二つ、元々建てられていた木造砦を改築した小規模な石造砦が一つ完成している。そして現在、その三つの砦を拠点として中規模の石造砦の建設に着手している。
「石材の搬送は八割ほど完了しております!光明のエリス様からの報告によりますと、建造は極めて順調、太陽神ライカール様のご機嫌を損なわなければ三か月ほどで完成する。とのことです!」
「報告ご苦労、下がってよい」
「はっ!失礼いたします!」
連れてきた分も含めて、サングレール兵百八十。そして近隣の都市より徴兵した、石工、大工、合わせて四十。計二百二十の人員がここ、シュトルーベ平定の為、祖国サングレール聖王国発展の為、太陽神ライカール様の為、昼夜を問わず働き続けている。このペースを維持できるのであれば後一年と掛からずにシュトルーベに魔物の近寄れない安全地帯を築き上げれるであろう。そこまでいけば、ハルぺリア侵攻の為の城塞都市建設に移ることができる。
亡霊は未だ現れない。
夜、砦の中で食事をとる。常に一人聖堂騎士が指揮をとらなければならない関係上、処断のグルートとはこの食事時くらいしか顔を合わせることは無い。
「流石は裁断の威光!我らが来てから四か月、亡霊の影すら現れない!!この様な簡単な任務で初陣を飾れるのは幸運でした!!亡霊を討ち果たす栄誉を得られないのはいささか残念ですがね!!」
あはははは、と処断のグルートは声をあげて笑う。どうやら彼の中では既にこの任務は完了しているらしい。ここ最近彼は兵を引き連れて周囲の魔物の討伐によく出ている。おそらくは帰還した後に周囲へと語る用の英雄談を作るためだろう。実践を経験したことのない若者にとってこの襲撃を待つという任務は退屈なのだろうな。
「我々の主な任務はこの砦で指示を出すことだからな、簡単といえば簡単だろう。その点光明のエリスには申し訳ないな、我々とは違い今頃は光を灯して回っているだろうからな」
「何を言いますか!私としては彼女が羨ましいくらいです!!この様な砦に閉じ込められることもなく昼夜を問わず祖国の為に働けるのですからね!私に光魔法の才があれば彼女にその栄誉を独占されることも無かったろうにと、日夜枕を濡らしていますよ!!!」
全く、最前線で働く光明のエリスに聞かれれば怒られてしまいそうな発言だ、若さとは怖いものだね。
「それでは、処断の。後は頼むよ、私は自室で報告書の作成に取り掛からねばならない。何かあれば気兼ねなく呼んでくれ」
「何も起こりませんよ!この砦には彼の裁断がいらっしゃるのですから!!仔細はこの私。処断のグルートに任せごゆっくりとお休みください!!」
「ああ、そうさせてもらおう」
若く、苛烈で、何より愚かな青年との挨拶を終え私は自室へと戻る。どうやら私も少し余裕がなくなってきてるらしい、あのような若者の戯言に不快感を感じてしまうとは・・・。今日の報告書は早めに切り上げ体を休めるべきか、最近は少し気を張り詰め過ぎたようだ。死が迫ってきている気がしてならない。
「おはよう、処断の。特に異常は無かったようだね」
「おはようございます!!勿論異常など何もありませんですとも!!今日もライカール様はご機嫌がよろしいようで!!私はこれより哨戒に出向きます!光明のエリスには既に使者を送っていますのでご心配なく!!」
「ああ、君の勤労さには頭が下がる思いだよ。気を付けて」
「ええ!それでは行ってまいります!!」
いうが早いか、処断のグルートは数名の兵士を引き連れ部屋を出ていく。全く、落ち着きのない男だ。
「・・・それで、何も以上は無かったか?」
「はっ!深夜に一度サイクロプスが砦付近に出没しましたが処断のグルート様が出撃、対処なされました!」
「そうか、ご苦労。今日は休んでくれ」
「はっ、失礼します!」
サイクロプスね、そんな報告は聞いていないが・・・。まぁいい、私の仕事は彼の教育ではないのだから。必要な時に働けるのならば細かい事は言うまい。彼は所詮、亡霊の情報を得るための駒でしかないのだから。
「失礼します!!光明のエリス様より伝令!!砦建設地にシュトルーベの亡霊が出現!!繰り返します!シュトルーベの亡霊出現!!急ぎ援軍を!!!」
そしてこの私も同様に、使い捨てのこまなのだから。
「兵士長、仔細は聞いているな」
「はっ。・・・我等兵士は戦いには参加せず、聖堂騎士様の戦いから情報を探りスピキュール教区に持ち帰ります」
「良し、今回の任務において最も重要な役目だ。しくじるなよ」
「はっ。・・・裁断様・・・貴方にライカール様のご加護がありますように・・・」
「ああ、貴殿にもな。・・・処断への伝言も頼んだぞ。・・・・・さらばだ」
返事を待たず砦を発つ。此度は馬は使わない、光明のエリスが居る砦建設地まではさほど距離は無い。この程度の距離であれば自らの足で走った方が速いのだ。
「シュトルーベの亡霊、私の終わりよ。今行くぞ」
ああ、やはり老いは恐ろしいな。・・・私は今、国敵であるシュトルーベの亡霊の事よりもボルツマンの未来のことで頭がいっぱいだ。
私が砦建設地にたどり着いたとき、既にすべてが終わっていた。
そこにあったのは崩された砦とサングレール兵の死体の山、その頂上に首をへし折られた光明のエリスの死体もある。当然だろう、これまで数々の英雄たちが彼の亡霊に挑み、そして死んでいったのだ。初陣の若者がどうにかできる相手ではない。・・・しかし、だからと言って、その死が無駄だった訳ではない。彼女は果たしたのだ、自らの役目を、いや、使命を。
今の今まで砦を壊していたのだろう、残骸の影から
「初めまして、シュトルーベの亡霊。君を殺しに来たよ」
さぁ、終幕だ。
「『・・・祈れ』」