女性不信気味の転生男貴族は貞操逆転世界で暖かい家庭を築きたい 作:冬野晴(旧雪野春)
私の名前はディードリヒ=ゴードン=アルマーク。
フォルシア魔導国の名門貴族であるアルマーク家の長男であり、王侯貴族が通う学園で保険医として勤務しながら治癒魔術と魔術具の研究を行っている。
私には生まれた時から前世の記憶がある。
生まれの親である母を不倫で無くし育ての親である母を病気で亡くしたという記憶だ。
前世の私は母からの愛に飢えていた。2度も大切な母親を亡くした。
そして好きな異性に対して異常に執着してストーカーじみた行為をするという愚行に走って父や妹と疎遠になった。
人生がうまくいかずにいたが勉強していい仕事に就いて金を多く稼げば必ず幸せになれると思ってエリートになろうと必死で努力した。
その果てが肝心の大学受験日に乗車していたバスが交通事故に遭い命を落としたという結果。
後悔ばかりの人生だ。しかし気づいたら剣と魔法の世界に異世界転生していて、言葉を話せる年齢になった頃に違和感を覚える。
この世界の男女比は1:10だ。一体なぜこのように比率が偏っているのか原因は分からない。女性が権力を握り男性がそれに付き従う世界。
数少ない男である私は周囲の女性から度々アピールを受けてきた。
私は今までプロポーズを全て断ってきた。
理由は2つある。
1つはこの世界のほとんどの女性は金髪であるということ。
私の前世における一人目の母親は不倫をするようになってから髪を金髪に染め始めある日突然家を出て行った。私にとって金髪とはトラウマの象徴だ。
もう1つはこの男女比が偏っている世界において女は基本的にオープンスケベであるという事。
王侯貴族の女は権力の大きさを示す象徴として複数人の男を囲うのが当たり前になっている。
私は貴族の生まれである身。当然結婚相手である女も貴族になるであろう。愛人を囲うのはほぼ確実と言っていい。
前世の価値観を持つ私は結婚相手が男を囲うなんて嫌だと思っている。
この世界の母からはなかなか婚約者が決まらずに苦言を呈されている。
おかげで私は25歳というこの世界の常識に照らし合わせて考えると5歳の子供を持つはずの年齢まで年を重ねてしまった。
季節は日が少しずつ短くなり僅かに冷気を含んだ風が吹き始める秋頃。
フォルシア魔導国の王都にある王侯貴族が通う学園では入学式が行われていた。
入学式の会場は古代において奴隷戦士同士による血に塗れた死闘が繰り広げられた闘技場のような建築物。この建築物は約100年前にこの国が際社会から正式に国として認められた記念に建設されたものだ。巨大な魔石を削り上げ組み合わせて作られたその壁面の色は角度や光の加減によって赤の様にも、青の様にも、あるいは空にかかる煌めく虹のようにも見える。
入学式でははじめに王配、王女、学園長の順番で演説が行われる。そして学園長は演説を終えて一息ついた後に続けて今から入学式の伝統である魔剣による生徒同士の決闘試合が行われると宣言した。
会場は男女関係なく大いに盛り上がり決闘の開催を喜ぶ歓声が会場内に響き渡る。
そして会場内の中央にある円状の競技場に2人の4年生が入場する。
1人はポニーテールにまとめた金髪と金の瞳と白い肌、外見上は普通の剣とほとんど変わりがない白い魔剣を持った華奢な女。
もう1人はドリル型の黒い髪と紫の瞳と白い肌、蛇が絡みつく柄を持つ赤い大剣を持つ華奢な女。
2人は観衆の視線を受けつつも堂々と歩む。
審判が戦いの始まりの合図をする。
「私の名前はミミ。ただの平民。貴女の名前は?」
「私の名前はロレーヌ=デボラ=アルマーク。リリさん、今から貴女と行う正々堂々とした戦い、とても楽しみにしていますわよ。」
ロレーヌは満面の笑みを浮かべる。
ミミは表情一つ変えずに両手で握りしめた魔剣を構えてロレーヌの心臓にめがけて振るう。
咄嗟に防御の魔術を展開して間一髪のところで攻撃を防ぐロレーヌ。
ミミの攻撃は急所を外し横に逸れる。前のめりで転びかけたところで体勢を崩しながらも防御の魔術で防ぎきれていない箇所に蹴りを入れる。その後両足に補助魔術をかけて上空に飛翔し再びロレーヌに目掛けて魔剣を振るう。
ロレーヌもまた上空からの攻撃に備えて魔剣を構える。
しばらく上空から攻撃するミミとロレーヌによる魔剣の鍔競り合いが続いた。
鍔競り合いを続けている間、ロレーヌは無詠唱で土で出来た杭を放つ魔術を展開した。しかしミミはその攻撃のことごとくを魔剣で受け流す。
「アクアサークル」
ミミは詠唱魔術で空中で水魔術を展開し土の粉塵と水を混ぜ合わせ泥を作る。
そしてロレーヌの顔以外を泥で覆った。
「こんなもの!」
「ゼロ」
ミミの口から澄んだ声音の詠唱が紡がれる。
ロレーヌは魔剣を振るおうとした。
言葉を発した瞬間に口から冷気が漏れる。
(体が動かない!?)
ふとロレーヌは自分の体を見ると泥ごと凍っている事に気がついた。
ミミはロレーヌの喉元に向かって剣をつきつける。
「勝負あり!」
審判が勝負がついたと判断した。
ミミは魔術を解除し、ロレーヌの泥に塗れた体が露わになる。
ミミは無表情・無言でロレーヌに手を伸ばし、ロレーヌは内心屈辱を感じながらもその手を握り固い握手を交わす。
会場からは再び歓声が上がる。
2人は決闘試合による怪我を治療する為学園の保健室に移動した。
「悔しいですわ!泥だらけですわ!これじゃあ私は伝統と気品あるアルマ―ク家の恥ですわ!
私は今日からどのように生きたらいいのでしょうディードリヒ叔父様!」
「ロレーヌ、カーテンを開けたままシャワーを浴びるのをやめろ。
ちゃんと閉めろ。はしたないぞ。」
「はいはい分かりました分かりました。相変わらず口うるさいですわねえ。」
「体を洗い終わりました。」
「ああミミさん、着替えてから体に負った傷を見せてくれ。」
私は学園の保健室で決闘試合を行ったロレーヌとミミさんにシャワーで泥を流してもらってから無詠唱の治癒魔術で2人を治療した。
ミミさんが私に質問する。
「ところで前から気になっていたのですが、なぜディードリヒ先生は名門の貴族なのに保険医をしているのですか?」
「治癒魔術と魔術具しか使えない魔術師は貴族にとって恥だからだ。」
「そんな!叔父様はとても優秀ですわ!
少なくとも私はそう考えています!」
ロレーヌがドリルヘアーを乱しながら首をぶんぶんと振って私に言った。
「身内だからといって慰める必要はない。」
「でも...」
ロレーヌは納得いかないようだった。