女性不信気味の転生男貴族は貞操逆転世界で暖かい家庭を築きたい 作:冬野晴(旧雪野春)
入学式が終わった後、私は学園から少し離れたところにある現在の住まいへと帰宅した。魔石を建材として使って建てられた中古の家だ。人間が暮らす家の部分は一般的な広さだが、治癒魔術と魔術具の研究をする為の書物や実験体を保管している倉庫の大きさはその3倍ある。よく家と倉庫が逆だと誤解される。
すっかり夜の時間帯になっており、帰り道では虫の鳴く声が聞こえてきた。
私は扉のベルを鳴らした。10秒後、私に仕えるメイドであるアリョーシャが笑顔で出迎えてきてくれる。
「おかえりなさいませディードリヒ様。入学式はどうでしたか?」
「ただいまアリョーシャ。入学式は例年通り盛り上がったよ。ロレーヌが決闘試合で負けてしまったのは残念だが。」
私はアリョーシャに鞄を預け、研究室に直行して魔道具の製作を行う事にした。
研究室の外壁と床は黒で、白いテーブルが三つある。一番大きいテーブルには何も置いておらず、二番目に大きい移動式テーブルには実験の為の道具であるフラスコや薬品が置いてあり、三番目に大きい移動式テーブルには魔術の実験体をホルマリン漬けにした瓶が置かれている。
私は魔力を込められた複数の薄いガラスレンズを傷つけないよう慎重に重ねていく。
10枚のガラスレンズを重ねる作業を何度か繰り返しとりあえず5個製作した。
私はそのうちの1つを手に取り自分の右目に重ね合わせ鏡の前に立つ。
鏡の前の私の体の周辺にガラスレンズが取得した名前や性別や魔力量を示した情報が示される。
「心を読むにはまだ遠いな。」
私は小さく呟いた。
研究が終わった後、私はアリョーシャと共に食事を摂る。
本日のメニューは牛のテールスープ、固めのパン、トマトとラディッシュと葉物をドレッシングで和えたサラダ、マフィン、葡萄酒だ。
私達は無言で食事に口を運ぶ。もう少しで食事を食べ終わるところでアリョーシャが私に疑問を投げかけてきた。
「ところでディードリヒ様は最近どのような魔術具を製作しているんですか?」
「鑑定の魔術具を製作している。もっと改良すれば心も見通せるようになるかもしれない。」
「その魔術具は王室から依頼されて製作したのですか?」
「いいや、個人的な興味で製作した。完成したら君にも使って貰おうと思っている。」
「ありがとうございますディードリヒ様。」
この鑑定の魔術具を製作したのは私のタイプである女性を探し出す為。
しかしその目的を人に話したらお前のタイプの女性は手から砂漠に落とした一粒の砂を真剣に探し出そうとする行為だと言われそうなので黙っておく事にした。
食事を摂った後、私は明日に備えてさっさと風呂に入って眠る事にした。
風呂は1日の中でも特に楽しみな時間だ。しかし最近はシャワーを浴びている時に悪寒がする。アリョーシャに相談してみたが彼女に心当たりはないという。誰かから呪殺の魔術をかけられているんだろうか。家中をひっくり返して本当にかけられているかどうか確認しなければ。
ディードリヒがお風呂場でシャワーを浴びている時、アリョーシャは透視の魔術でディードリヒの裸をガン見してあられもない妄想に耽っていた。ニヤニヤとした顔をしながら彼女は心の中で呟く。
(心を読む魔術具...厄介なものですね。可憐かつ清楚で通っている私の心を見抜かれたら嫌われてしまいます....。しかしディードリヒ様をオカズにする事はやめられません...。私はどうすればいいのでしょうか...。)
アリョーシャはドールのような美しさを持つ少女である。しかし例に漏れずこの世界の女性らしい価値観を持つムッツリスケベであった。
幼い頃に屋敷で貴族らしく誇り高い振る舞いのディードリヒを一目見て忠誠を誓い主人に気に入られるよう努力した。しかし思春期を迎えると主人に忠誠を誓う理由が一番身近な立場でオカズにできるからというものに変質する。
アリョーシャは懐から念写で撮ったディードリヒのヌード写真を取り出してじっと見つめた。