──気が付けば、男は赤ん坊になっていた。
一瞬混乱したものの、すぐに生前何があったのかを思い出し、自らが死んで転生したことを知った。そんな彼は、今世で“志々雄真実”という名を両親から貰い、五歳くらいまでの間は共に過ごした。
志々雄は、この名前と家にあった【無限刃】という刀、それから昔の日本家屋のような家や街並みから、始めはこの世界が〘るろうに剣心〙の世界だと考えて幼少の頃から剣術と体術の鍛錬を積んでいった。鍛錬は苦ではなく、寧ろ憧れていた志々雄になれたことに歓喜していた為、嬉々として行っていた。
だが、成長するに連れて色々な事を学んでいった結果、そして志々雄の今目の前にある物が、真実に重大な事を教えていた。
「………ここ、るろうに剣心の世界じゃなくて……ONEPIECEの世界じゃねぇかっ!?」
そう、この世界が〘ONEPIECE〙の世界だということだ。志々雄が生まれた今いる国の名がヤノ国という特徴的な名前。他にも海賊や海軍。更には、真実の前にあるグルグル模様の果実──悪魔の実。ここまでくれば、ONEPIECEを知っている者ならどんなバカでも分かる。
そんな事実に気付けば、流石の志々雄も目を見開き驚愕するが、すぐに驚愕は不適な笑みへと変わる。
「……上等だ…!るろうにの世界より厳しいのは間違いねェが……やってやる!!国盗りならぬ世界盗りをなァッ!!!」
生前では特に目立つようなこともなく、唯の一会社員として退屈な人生を送っていたが、こうして折角志々雄として──しかもONEPIECEの世界に転生したのだ。派手にいこうと、野心を滾らせる。
「──と言っても、今の俺はまだ五歳児…。しかも親はどっちも殺され、さてどうするか……」
ヤノ国はガラの悪い連中が多く、物騒な事も多い。所謂ヤクザみたいな裏の人間も大勢居る。志々雄の両親もそんな裏社会の住人であり、八方から恨みを買っていた。
よって、この結果は必然だったのだろう。弱いから負け、殺されたのだ。今はまだ弱い志々雄も、その場にいれば同じく殺されていただろう。偶然出掛けていたのは、志々雄にとって幸運だった。
「所詮この世は弱肉強食──強ければ生き、弱ければ死ぬ!それを教えてくれて、刀と悪魔の実もくれたあんた達にゃァ…感謝しといてやるよ」
物心ついてからはまだ一、二年程。その上いつも何かしらやっていた両親との思い出など皆無。故に殺した者への恨みや憎しみなどはなく、死んだ事への悲しみもなかった。
だが、両親が裏ルートで手に入れた貴重な悪魔の実と、強奪してきていた“最上大業物”の一刀─“無限刃”。家が荒らされており、金目の物は殆どが盗まれていたが、この二つと幾つかの金銭だけは、家の隠し部屋に保管していた為盗まれてはいなかった。
これらを残してくれていた両親、或いは残っていた幸運には感謝している。
どれも志々雄の為に用意した訳ではないのだろう。そんな事は、志々雄も分かっている。しかし、結果的には生き残った志々雄の物になった。
よって、その感謝の証に二人の遺体を荒らされた家の庭に埋め、一言感謝の言葉を告げてから、その場を立ち去るのだった。
───十三年後。
両親の死後、家から出た志々雄はヤノ国の裏社会に入って暴れ回る日々を過ごした。殺し屋として働けば、金も手に入って腕っぷしも鍛えられる。そして何より志々雄自身、これは殺し屋として戦い始めてから気付いたことだが、志々雄は戦いに愉悦を感じるのだ。
志々雄真実になったからなのか、前世からの性なのかは分からないが、それは志々雄にとってはどうでもいい。それならそうと、愉しんでいくだけなのだ。
そして今日も丁度、長く決着のついてない男と遭遇していた。
「ジハハハ、こうして会うのも何回目だろうなァ……!志々雄ォ!!」
「野郎と会った回数なんざ覚えちゃいねェなァ!シキィ──!!」
後に“金獅子”と恐れられる極道の若頭、シキと“煉獄”と語られる殺し屋、志々雄真実。まだ年若いこの二人は、故郷であるこの国で度々衝突し、何度も激闘をしたライバルのような関係になっていた。
「そろそろ着いたか?俺の部下になる決心はよォ────」
「バカが…!!俺を従えられる奴が居たとしても、俺より強い奴だけだァッ!!」
殺し屋として充分な実力のついた志々雄をシキが部下にと勧誘し、志々雄が断っているのが二人の関係だ。そして断られたシキがそのまま黙って見逃す筈はなく、毎度戦闘になるのだ。
それは今回もまた同じで、志々雄にはっきり拒絶されたシキは、額に青筋を浮かべて剣を抜く。
「その答えは、殺してくれって事でいいんだよなァ……!!?」
「フハハッ!面白ェ……!!やれるモンならやってみろォ──!!!」
「「──!!?」」
シキと志々雄。互いに王の資質に選ばれた者同士、放った覇王色の覇気が激しく衝突し、周囲の建物に罅を入れていった。
「──
「──参の秘剣・
「!!!」
睨み合う二人の内、最初に動いたのはシキ。上空から飛来するシキが放った黄金の飛ぶ斬撃。その対応する為に、志々雄が鞘ごと武装色を纏った刀を抜き、摩擦で着火し放つ。
その炎を纏った飛ぶ斬撃がシキの斬撃と衝突し、大気を激しく揺らす。
「流石だなァ志々雄……!!益々部下に欲しいぜ!!」
「戯言をほざいてんじゃねェよ…!!」
自分の斬撃を相殺した志々雄を褒め、益々欲しいと言うシキに戯言をと切って捨てながら変形し始める志々雄。
志々雄があの日手に入れた悪魔の実は動物系の実で、リュウリュウの実幻獣種モデルアルバトリオンだった。五種の属性を操ることが出来る禁忌とも謳われた龍の名前。しかしこれは、志々雄の前世で流行っていたゲームに登場するモンスター。この世界には存在する訳がないのだが、志々雄は気にしなかった。
寧ろこの世界に本来存在しない能力ならば、その情報を知っている者はいない。これから志々雄が使っていけば情報はいずれ知れ渡っていくが、それは避けられないことだと受け入れている。
そんな志々雄が今回選んだ変形形態は、人獣型だった。
額から突き出した逆鱗に覆われた二本の角。両手両足と胸にも逆鱗がびっしりと生え、腰からも尾が生えており、身長も百七十から二百を超えて筋肉質な体型になっている。そして極めつけは、背中から生えた漆黒に輝く大きな翼。その為鱗に覆われていないのは、口周りと顎下を通って腹の部分だけ。
その異形の姿を見たシキは、不適な笑みを浮かべて鋭い視線を向ける。
「ジハハ、
「フハハッ!待たせちまったか?」
「良いってことよ。……それじゃァ続きを始めようぜ」
「あァ」
和服と羽織りから突き出した翼を広げて、飛翔した志々雄とシキの視線が交差する。互いに戦闘を愉しんでいるからこそ、戦意をギラギラと滾らせる。
「!!!」
「──流石だなァ……シキ!!大した剣技と覇気だ!!!」
「──俺と戦れるお前も大概だろうが!!志々雄!!!」
空中にてぶつかり合う両者の刀と覇気。それらは轟音と共に周囲にも衝撃として伝播し、街の住民達は巻き込まれては堪らないとばかりに逃げ出していく。
「クソッ!またあの二人だァ!!逃げろォッ──!!」
「何回目だあいつら!?毎回被害関係なく暴れ回りやがって──!!」
毎度毎度街への被害などお構いなしに戦う二人に、悪態をつきながらも逃げる住民。力ではあの二人には遠く及ばず、文句を言おうものなら斬撃や岩、雷などなど様々な攻撃が飛んでくる。それを身を持って知っている住民達は、脱兎の如く逃げるしか出来ないのだ。
そんな慌てふためく住民を尻目に、シキと志々雄は更に激しく互いの剣をぶつけ合い、シキが上に志々雄が下に弾かれる。
「ヌゥ……!ジハハ!これでも喰らえェ─!!!
「グッ……!これは……!!」
地面に着地した志々雄を見たシキは、弾かれた衝撃から態勢を立て直しながらも笑う。そして地面を隆起させて獅子の顔を創り出して志々雄を囲い、その獅子達が一斉に襲い掛かる。
志々雄が獅子に呑み込まれ、地面を太巻状に硬めた後も、シキが沈黙したまま油断なく地面を見据えていると、すぐに硬めた太巻が弾けて人影が出てくる。
「お返しだ…!!
「オワッ!!危ねェ──ッ!!」
振り注ぐ雷を避ける事に集中したシキの、隙とも言えない一瞬を突いて接近した志々雄が刀を振るい、それをシキがギリギリ受け止める。が、咄嗟に差し込んだシキの防御には力が充分に込められておらず、志々雄に弾かれ胴体がガラ空きになった。
「ッ!しまっ──」
「フハッ!隙ありだァ──!!壱の秘剣・
「!!!」
「グアァッ!!!」
シキの剣との摩擦で着火した刃を振るい、シキを斬りつける志々雄。切り傷と火傷の二重ダメージに呻くシキが地面に落下していき、志々雄も後を追う。
「死ねェ───!!」
「───!死ぬのはテメェだ志々雄ォッ!!!」
落下中のシキに追撃をかけようと、突きを放つ態勢で追いかけて来る志々雄。それに気付いたシキが落下しながら能力を発動し、左右の地面から大岩が浮かび上がる。
それからシキが腕をクロスさせて大岩を操り、志々雄を押し潰すように激突させた。
「!!!」
互いにぶつかり合った事で大岩二つは砕け、中から志々雄が現れる。直撃した以上ダメージは免れず、額から血を流す志々雄だが、それでも大したダメージにはなっていない。
「フハハハ!………痛ッてぇな…!!血が出ちまった……」
「ジハハハ!ちゃんとダメージになってんなら何よりだ」
両者共に血を流しながらも、その表情には愉悦の笑み。ヤノ国という一国の中において、お互い以外に強敵と呼べるような存在が殆どいなくなった二人にとって、この戦いは最高なのだ。
「シャアァッ!!!」
「オラァァッ!!!」
「!!!」
──再びぶつかり合う志々雄とシキの剣。互いに血を流していようとも、微塵も戦意を落とすことなく戦い続けるのだった。
「あァ〜クソ!また引き分けか……」
「そうらしいな、ジハハ──ッ!痛てて!!」
数時間くらい互角の戦いをしていた俺とシキは今、全身傷だらけで地面に仰向けになって転がっている。
俺の体には切り傷に加えて打撲傷が、シキには切り傷に加えて火傷が、それぞれ刻まれている。俺もシキもまだ戦えない事はないだろうが、ここいらが潮時だろうと考えていた。
「……なァ、シキ」
「─ん?何だ?」
「俺はこの国を…出ようと思う……!」
「!……そうか」
俺は、この国でライバルとも言える関係になっていたこの男にだけは、伝えようと思っていた事を最後に口にする。──国を出ようと思っていた事を。
それを聞いたシキは、特に驚いたりすることもなく一言返すだけ。それを不思議に思った俺は聞き返す。
「…驚いたり、理由を聞いたりしねェのか?」
「ジハハハハ……。俺もお前も、もうこの国で殺り合おうなんつう輩が凶以外いなくなっちまった……。それが退屈…。そんなとこだろ?」
「………まァな」
「俺も最近は同じ事考えてたからなァ……。今更驚いたりゃしねェよ」
どうやらシキも俺と同じような事を思っていたようで、俺も同じだろうと予想していたから理由を聞いたりしなかったようだ。俺もそれを聞いてそんなもんかと納得し、立ち上がる。
「──おっ?もう行くのか?」
「あァ。数日後には、この国も発つつもりだ」
「そうか。ジハハハ……!精々俺が海外に勧誘に行くまで死ぬんじゃねぇぞ…?未来の俺の右腕よォ──」
「誰が右腕だ!!………フッ、じゃあな」
立ち上がった俺を見て、右腕にするから死ぬなと冗談なのか本音なのか分からない事を言ってくるシキ。勿論突っ込んだ俺は少し可笑しくなって鼻で笑ってしまったが、シキに背を向けて歩き出し、その場を後にするのだった。
シキと別れたその夜、俺はシキとの戦いでついた傷の治療をするべく、ヤノ国一の闇医者の元を訪れていた。
「……よォ爺さん!今日も金はあるからよ……治してくれ」
「──あぁ?おう、お前さんか」
呼ばれて奥の部屋から出てきた爺さん。俺は爺さんと呼んでいるが、本当に齢八十を優に超える男で医月療という名の爺さんだ。
そして恐らくは、世界中の医者の中で一番の腕を持っていると言っても過言ではないと、俺は思っている。
「…今日もこの通りだ……。頼むぜ」
「また派手にケガしおって!!……そこに寝転がれ」
俺の全身の傷を見た爺さんは、処置台の上に転がるよう促した。俺が言われた通り寝転がった後、爺さんは半円状の異空間を展開して処置を始めた。
これが、俺がこの爺さんが世界一の医者だと思う所以であり、爺さんの持つ能力はオペオペの実の能力だ。爺さんが裏の闇医者をしている理由もこの能力にあり、面倒な政府関係者や国の要人に狙われないよう身を潜めているのだ。
「──ほれ、傷の処置は終わったぞ」
「今日もしっかり傷が塞がっている……。流石だな…!金は──」
「その前にお主……。もう一つ、手術を受けていかんか?」
「──ハァ?何だその手術って……」
他の医者よりも格段に早く終わった処置代を、俺が払おうと金を用意していると、爺さんが何やらもう一つ手術をと誘ってきた。それを不審に思った俺は、詳細を聞く。
「……“
「!!それは爺さんにメリットが一つもねぇ提案じゃねェか!?何で俺に…………」
「何じゃ、知っておるのか……?これをやれば、術者が必ず死ぬ事を」
爺さんが言った不老手術という言葉には、誰もが驚くだろう。何故ならこの手術は、術者である爺さんが術後に必ず死ぬという代物で、爺さんにとって何のメリットもない。だからこそ、何を対価として要求しても釣り合うとは思えず、俺も驚いた。
そして爺さんも、俺がこれを知っている事に驚いていたが、すぐに何故こんなことを言い出したのかを語り出す。
「儂の余命はあと数年もない……。病気とかではない正真正銘、寿命じゃ。能力を使えばもう少し延ばせるかもしれんが、空間の展開には体力を使う事を考えると思うようにはならんじゃろう」
「………それで最後に医者として最高の究極手術を───ってことか…?」
「うむ、どうじゃ……?受けてみんか?」
要するに、このまま老いて死ぬくらいなら医者として究極の手術をしてみたい、ということのようだ。一般的な優しさを持つ奴なんかは、ここで諭して考え改めさせるだろうが、生憎と俺はそんな奴ではない。寧ろ、受けるべきだと考えた。
不老になることが大きなメリットだとか以前に、ここで受けずに老衰させるという事は、爺さんの医者としての誇りを踏み躙る行為だ。
俺は志々雄真実として、世話になった爺さん相手にそんな事はしない。つまり、答えは既に決まっていた。
「フハハ、いいぜ!!爺さんが医者としての誇りを貫くってんなら……俺がそれを見届けてやる…!!!」
「──フ。流石志々雄じゃ、感謝する」
不老手術については術者が死ぬということしか分かっていない。もし失敗した場合、手術を受けた俺がどうなるのかも分からない。それが分かっていても受けた俺に対して、皺だらけの顔に微笑を浮かべて礼を言ってくる爺さん。
「ならばこのまま始めるが、手術が成功してもそれはあくまで不老。不死になる訳ではない。……それは良いな?」
「勿論だ、早くやってくれ」
「では麻酔をかけるぞ」
爺さんが最後の確認をしてくるが、俺の答えは変わらない。それを聞いた爺さんが俺に麻酔をかけ、俺の意識はここで途切れた。
「──ん、ん~~?……何だよ爺さん。終わったなら起こしてくれても───!」
手術開始から数時間後、麻酔の効力がきれて目を覚ました志々雄は、何故起こさなかったのかと医月に顔を向けたが、口にしていた言葉を途中で止めた。何故起こさなかったのかを、志々雄は理解したからだ。
「──そうか…手術後は死ぬって話だったか……。なら起こせねェのも当然だな……」
本当に手術後すぐに死んだのだろう。傍らで息絶えているのを見た志々雄は、処置台から身を起こし、服を着る。
そして医月の遺体を抱えると、医月の家から離れた山に訪れた。誰も近付かない山の奥へ。
これは、人と関わるのが嫌いだった医月ならこんな場所が良いだろうと考えた志々雄が、気を利かせて選んだ場所だ。
その場所へ医月の遺体を埋め終わると、盛大に啖呵を切った。
「精々あの世から見てろ…!俺が世界の王になるその時をなァ……!!!」
志々雄なりに自信のある態度で語る事で、心配するなと示す。そして背を向けた志々雄は旅立ちの準備をする為に、朝日の昇る中自らのアジトに戻るのだった。
──翌日。
船大工に特注で造らせた港に停めてある船に、志々雄は荷物を積み込んでいた。船は一応帆船だが、一人でも動かせるような小型であり、普通サイズの人間が数人暮らせるくらいの大きさで部屋数も少ない。
そんな少ない部屋の一つを丸々占領するかのように、志々雄が趣味で掻き集めた刀剣類のコレクションが安置されている。るろ剣の志々雄の趣味は湯治だったが、ここの志々雄はそれに加えて刀剣のコレクションと女遊びもある。
よって、今まで集めた名刀達を積み込んでいるのだ。
そして、酒や水等の飲料や肉や野菜等の食料。それらを調理する調理器具に、ソファや布団等の必要な家具等々を積み込み、準備を整えた。
そして、志々雄は港に船を括り付けていたロープを外し、船を出港させた。
「ここからが俺の始まりだァ……!!世界中に俺の悪名を轟かせてやるぜェッ!!!」
こうして、ギラギラとした底知れない野心を叫んだ志々雄真実の覇道が、今ここから始まった──。