TS転生カードアニメ主人公母は、性癖とマナを破壊する   作:なほやん

10 / 17
第八話で私が優勝賞品になりました

 

「ただいま」

「母ちゃん! 遅えぞ!」

 

 勝男が、食卓から立ち上がった。

 そこには、入れ替えかけのカードが並んでいた。隣のめく郎君は、私を見るなり椅子を引いてくれた。

 

「お帰りなさいでヤンス、奥様」

「待たせてごめんなさい。二人とも、お腹すいたでしょう」

「それよりバトルだろ!」

 

 そうね。約束したものね。

 帰ってきた。ちゃんと、この子の待っている家へ。

 

「今日は、お母さんがしっかり教えてあげるわ」

 

 勝男の隣へ座ろうとした。

 広げてあったカードが、全部裏返された。

 

「……勝男?」

「教わるんじゃねえよ。勝負するんだよ」

「でも、まずはデッキを見せて。どんなふうに変えたのか——」

「駄目だ!」

 

 デッキを胸に抱え込む。

 

「母ちゃんに勝つために考えてんのに、母ちゃんに教わるわけにはいかねえだろ!」

 

 伸ばしかけた手を、止めた。

 

「カイトもバクも、あんな強えカード持ってたのに負けた。母ちゃん、どうやって勝つか、最初から考えてただろ」

「……見てたのね」

「見てたよ! だから俺も考えてんだ。母ちゃんに答え聞いたら、意味ねえだろ! 俺が考えたので、母ちゃんを倒すんだ」

 

 あら。

 もう、自分で。

 

「……成長したのね」

「なんで泣くんだよ!?」

「嬉しいのよ」

 

 勝男は困った顔で、デッキを抱え直した。

 それでも、こちらへは渡してこなかった。

 

「分かったわ。じゃあ、お母さんは向こうね」

 

 食卓の反対側へ回る。

 勝男の顔が、ぱっと明るくなった。

 

「あ。ちょっと待つでヤンス」

 

 デッキを出そうとした私の前へ、めく郎君がスマホを差し出した。

 画面いっぱいに、欠けた太陽が浮かんでいた。

 

 エクリプス。

 黒い招待状と同じ紋章。その下で、銀色の文字が光る。

 

『最強のカードバトラーは誰だ!』

『エクリプス杯、開催決定!』

 

「どこのサイトを開いても、これでヤンス。動画もこれ。カードショップの告知にも、もう出てるでヤンスよ」

「大会!?」

 

 勝男が、私の前からスマホをさらっていった。

 

「すげえ。こんなでけえ会場でやるのか! なあ、誰でも出られるんだってよ!」

 

 大会で待っているぞ。

 

 夫の声が蘇った。

 そうだった。この大会、会場のバトルエネルギーを吸い上げて、世界滅亡に使うのだった。

 参加規約に書いておきなさいよ、そういうことは。

 

「母ちゃん、俺も出る!」

 

 勝男が、画面をこちらへ向けた。

 

「強えやつがいっぱい来るんだろ。そいつらに勝てば、母ちゃんにも勝てる!」

「……そうね。強い相手と戦うのは、大事ね」

 

 でも、今の勝男では、あの人には勝てない。

 私が出て、全員倒す?

 

 ……私が勝つほど、あの人は遠くへ行くのに。

 

 なら、勝男を鍛えて——

 

 ——まただ。

 私はまた、この子を夫へ届かせることばかり考えている。

 勝男は、自分で考えて勝つと言ったのに。

 

 息子が自立した。

 喜んだ。

 困った。

 

「なんか、怪しいでヤンスねえ」

 

 めく郎君が、画面を覗き込んだ。

 

「そう思う?」

「最強、覚醒、魂を燃やせって……自己啓発系の宣伝みたいでヤンス」

「でも、大会だぞ」

「もっといい大会があれば、そっちに行くんでヤンスけど」

 

 私は、めく郎君を見た。

 

「それだわ!」

「何がでヤンス?」

「別の大会を開けばいいのよ!」

 

 勝男が、スマホから顔を上げた。

 

「誰が?」

「私が」

「母ちゃんが!?」

「ええ。同じ日に」

「思いっきり被ってるじゃねえか!」

「被せるのよ」

 

 あちらの会場へ行かなければ、力は吸われない。

 それに、勝男は強い相手と戦いたがっている。

 なら、強い子を全員こっちへ呼べばいいのよ!

 

「勝男。お母さんは教えないわ。あなたは、自分のデッキで勝ってきなさい」

「……出るのはいいけどさ」

 

 食卓へスマホが置かれた。

 画面の向こうでは、巨大な会場を背景に、派手な文字が踊っている。

 

「こんなのと同じ日にやって、誰が来るんだよ」

 

 それは、そう。

 

 優勝賞金で張り合うのは、家計的に無理ね。

 レアカードも、勝男のグレンヴァルドを勝手に賞品にするわけにはいかない。

 

 ならどうすれば。

 そうだ。皆、もう一度私と戦いたがっていたわね。

 

 目の前の息子は、私に勝つためのデッキを、まだ大事に抱えている。

 

「優勝賞品は、私とのバトルでどうかしら」

 

 めく郎君の眼鏡が、光った。

 

「来るでヤンス」

「まだ誰にも聞いてねえだろ!」

「来るでヤンスよ。あの人たちは、絶対」

 

 勝男が、デッキを食卓へ置いた。

 

「カイトも?」

「黒縄バクもでヤンス!」

 

 勝男はしばらく、画面と私を見比べていた。

 

「じゃあ、そいつら全員に勝ったやつが、母ちゃんと戦うのか」

「ええ。あなたも同じよ」

「俺が勝つ。全員倒して、母ちゃんも倒す」

「楽しみにしているわ」

 

 そう。そういう顔が見たかったのよ。

 さて、そんな強くなった息子を、どのデッキで迎え撃とうかしら。

 

「問題は、会場ね」

 

 スマホを引き寄せて、地図を開く。

 

「この辺りに、借りられるところがあれば……」

「任せるでヤンス!」

 

 めく郎君が、エクリプス杯会場の隣の建物を指した。

 

「ここ、使えるでヤンス」

「でも、大きくない? 体育館くらいでいいのよ?」

「ここなら、うちのでヤンスから」

 

 うち。

 うち?

 

 ああ、そうだった。

 

 この子の実家、白鷺院グループよりお金持ちだったわ。

 

「今、家に聞くでヤンス。机も椅子も、まとめて出してもらうでヤンスよ」

「待って。お金は、いくら——」

「奥様のバトルでヤンスよ?」

 

 値段を聞いたのよ。

 価値を聞いたんじゃないのよ。

 

「一つだけお願いがあるでヤンス。会場を貸す代わりに、大会の命名権がほしいでヤンス」

「ええ、もちろんいいわよ」

「奥様が主催なんだから蘭杯、いや、Land Destruction Cup! 略してLカップでヤンス!」

「Lカップなんて駄目よ! お金の力なんかに、絶対負けないんだから!」

「約束をやぶるでヤンスか?」

 

 眼鏡が光った。

 

「……わかりました。それで行きましょう」

 

 お金の力には勝てなかったよ……

 

 めく郎君は続けて告知の下書きを作った。

 

『優勝賞品:大地蘭! Lカップ!』

 

「ちょっと待って。書き方」

「お名前の漢字、違ったでヤンスか?」

「賞品はバトルよ! 私とのバトル!」

 

 名前の後ろに、「とのバトル」と小さく書き足された。

 同じ大きさにしてちょうだい。

 

「あっしが実況をしてもいいでヤンスか」

「もちろん。お願いできる?」

 

 めく郎君は、両手でスマホを握り直した。

 

「最高の大会にするでヤンス」

 

 場所も、賞品も、揃ってしまった。

 

「最後に、一行足してもらえる?」

「何でヤンスか?」

 

 私は、勝男を見た。

 

「私と戦いたければ、息子を倒しなさい!」

 

 めく郎君が、迷わず打ち込んだ。

 

「いい煽りでヤンス。目立つようにしておくでヤンスよ」

「俺は門番じゃねえ! 俺が優勝するんだ!」

「あら。それなら、誰にも負けられないわね」

「当たり前だろ!」

 

 息子が、自分のデッキを握った。

 

「これで出してちょうだい」

「了解でヤンス!」

 

 告知が、送信された。

 勝男が、私の前へデッキを置いた。

 

「でも、今日の一戦は別だからな」

「ええ。約束したものね」

 

 時計を見ると、もうずいぶん遅い。

 

「その前に、ご飯にしましょう。めく郎君も食べていってね」

「いただくでヤンス!」

「母ちゃん、食ったらすぐだからな!」

「はいはい。逃げないわよ」

 

 三人で食卓を片付け、遅い夕飯にした。

 めく郎君のスマホは、ご飯の間も震えっぱなしだった。

 

「もう反応が来てるでヤンス。『野菜の人と戦えるってマジ?』『息子って誰』『息子は家で毎日やれるんだろ、ずりぃ』……」

「……毎日なんてやってねえよ」

 

 勝男は箸を止めて、それきり黙った。

 何度も、自分のデッキへ目をやっていた。

 中身は見せてくれない。私も、もう訊かなかった。

 

「ごちそうさま!」

 

 一番に箸を置いたのは、勝男だった。

 

「……やっぱ、今日のバトルはやめとく」

「え」

「母ちゃんとは、優勝してからやる」

 

 勝男は、デッキを胸に抱えていた。

 

「今やったら、負ける」

 

 あっさり言った。

 

「それに、あいつらも優勝しなきゃ母ちゃんとやれねえんだろ。俺だけ家でやったら、ズルじゃん」

「……勝男」

「だから、約束は大会で返してもらう。全員倒して、強くなって、それから母ちゃんに勝つ」

 

 強い相手と戦わせてあげたい、なんて言いながら。

 本当は、まだこの子を鍛えるつもりでいた。

 

 でも、この子は自分で分かっていた。

 私の心配なんて、とっくに追い越されていたのね。

 

「また泣くのかよ!」

「泣いてないわよ」

 

 その時、玄関のインターホンが鳴った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。