TS転生カードアニメ主人公母は、性癖とマナを破壊する 作:匿名
「実況は、いいのですか」
「あっしが優勝したら、誰か代わってくれるでヤンス」
めく郎さんは、マイクを隣の椅子へ置いた。
予選二回戦の対戦卓には、五枚ずつのライフが並んでいる。
ノートを開く。合宿で見た無色のジェスターズ。太鼓と汽車の働き、先に戻すべき小型、殴らせていい順番。
何度も一人で回した。引いた札に合わせて、どこで繋ぎ方を変えるかも確かめてある。
「合宿の続きといくでヤンス」
あの夜は、旅館の消灯に止められた。
今日は終わらせる。勝って、次へ行く。
先攻のめく郎さんは、山札からカードを探すスペルを使った。
公開されたのは、《希望のショー星》。場だけでなく、手札や墓地からも色を消す札だ。
合宿でも、一度これに止められた。
最初のマナは《魔法器・選別の羅針盤》。次の番には《魔法器・研磨の手鏡》で二枚引き、《一尾の部隊イワシロウ》を捨てる。その効果でもう一枚引き、青のモンスターを捨てた。
「その魚を捨てるなら、もう一枚引けるでヤンスね」
こちらが説明するより早い。
使った魔法器と捨てたモンスターを、別々に数えている。
ここまでは、ノートの通りだった。
「《ポクチン坊》を手札へ加えるでヤンス」
出た時に、墓地を丸ごと山札へ戻すモンスター。
合宿で見た札の欄には、ない。
次の番に出されたら、準備が消える。
捨てる順番を変えても、間に合わない。
「そのページには、書いてないでヤンスか」
めく郎さんが、私のノートを見ていた。
隠したところで、もう顔に出ている。
『お前、欲しい札を引いた時、すぐ分かるぞ』
合宿でバクさんに言われた。
分からないようにするには、と訊いた私へ、彼は笑った。
『逆に、引いたふりすりゃいいだろ』
あの札は、まだ手札だ。
私は、ノートを閉じた。
「いいんでヤンスか?」
「もう、見ません」
私の番。三枚目のマナを置き、《ブラッディ・サイクロン》で山札の上を三枚見る。一枚を手札へ、二体のモンスターを墓地へ。
「今日は、随分モンスターを捨てるでヤンスね。合宿ではその竜、マナに置いてたでヤンス」
気づいている。
同じ青い札でも、置く場所が変わったことまで。
このままなら、あの墓地対策が出てくる。
「魔法器は、残していますよ」
私は手札の端を一枚前へずらした。
口元を青い袖で隠し、慌ててその札を奥へ戻す。
「引いたでヤンスね」
めく郎さんが一枚引き、四枚目のマナを置いた。
それから、手札のポクチン坊を半分だけ抜き出す。
「そっちの墓地、戻しておきたいでヤンスねえ」
出すとは言っていない。
私の顔を見ている。
今それを出されたら、私は止まる。取り繕わなくても、怖かった。
手札の端を揃え直した。
「どうぞ」
声は、震えなかった。
「欲しかった札を引くと、口元を隠す。新世廻を引いた時も、そうだったでヤンスね」
「手札まで、お教えするつもりはありません」
「墓地からスペルを使える。こっちも放っておきたくないでヤンスが……」
顔だけで、決めてはくれない。
私は手札を伏せて待った。
彼のマナは四枚。墓地を消すモンスターと、色を消す星。両方出すには、一枚足りない。
「ここは、使えるうちに色を消すでヤンス」
ポクチン坊が手札へ収まり、星が抜き出された。
「《希望のショー星》でヤンス!」
卓の上に、白い星が浮かんだ。
マナの青が消える。手札の青も、墓地の青も。
「新世廻が呼べるのは、青のスペル。無色になったら、呼べないでヤンス」
「よく、見ていますね」
「実況してたでヤンスから」
私は一枚引いた。
「貴方なら、見逃さないと思いました」
「……そういうことでヤンスか」
「理解が早くて助かります。来てください、《絶望神サーガ》」
星の下に、神が降りた。
めく郎さんが、サーガの効果欄を確かめる。
「色ではなく、種族を見る能力でヤンスか」
手札を置こうとはしなかった。
「選び損ねたのは認めるでヤンス。でも、まだ負けてはいないでヤンスよ」
晩餐で狼を竜に、竜を電脳王に変え、途中からは神が神を呼び始めた。
山札が最後の一枚になったところで、手を止める。
「では、ここからループを証明します」
めく郎さんは手札を伏せた。
「どうぞでヤンス」
「山札は蘇生スペルが一枚。墓地には同じスペルがもう一枚と、晩餐、サーガ、ペディア。ウォズロックの登場時能力で、墓地の蘇生スペルと晩餐を使います。サーガを蘇生し、イザナギアを破壊してペディアを蘇生。使った二枚は、蘇生スペル、晩餐の順で山札の下へ。ペディアの登場時能力は使わず、サーガを先に処理します。元から山札にあった蘇生スペルを引いて、そのまま捨て、イザナギアを蘇生してサーガを破壊。イザナギアで山札の晩餐を手札へ加え、撃って、ウォズロックを破壊します。七コストはまだ手札なので、ここでは誰も蘇生しません。手札から撃った晩餐を、ペディアの能力でもう一度。今度はペディアを破壊して、ウォズロックを蘇生。山札へ戻すペディアはもう場にいないので、晩餐は墓地へ。これで場はイザナギアとウォズロック、墓地には晩餐とサーガとペディア、山札は蘇生スペルが一枚。二枚の蘇生スペルの位置だけが入れ替わっています。同じ手順をもう一度行えば、カードの位置もすべて元通り。ただし、使わなかったペディアの登場時能力が二回分、残ります。最初に保留したサーガの一回分も、残したままです。循環に使うサーガとは別の一枚ですから、途中で使い切ることもありません。この二周をもう一度。ペディアの能力は四回分。最初の一回で、墓地のエマージェンシー・ハリケーンを撃ちます。引くのは二枚まで。ゼロ枚を選んで、手札の七コストを捨てます。残り三回はすべて晩餐。ウォズロックの六を七へ、七を八のルギノスへ、八を九へ。ルギノスの登場時能力も、九コストの墓地を戻す能力も、まだ処理しません。忘れていませんよ。どちらよりも先に、最初から残しておいたサーガの一回を使います。最後の一枚を引いて、私の勝ちです」
途中で一度も、待ったが入らなかった。
めく郎さんは山札と墓地を、もう一度見比べた。
「四回分。ちゃんと残るでヤンスね」
「はい」
彼が頷いたので、証明した通りに札を動かした。
六から七、七から八、八から九。
「《深海第九院シャコガミ》」
水の底から、巨大な甲殻がせり上がった。
私の山札は、まだ一枚。
「墓地を戻す能力より先に、残しておいたサーガの効果を使います」
めく郎さんが、伏せた手札から手を離した。
「異議なしでヤンス。最後の一枚、どうぞ」
私は頷いて、その一枚を引いた。
山札切れによる敗北を、勝利に変える。
彼のライフは五枚とも、裏向きのままだった。
めく郎さんは、ショー星を持ち上げた。
「次は、喜んだ顔も疑うでヤンス」
「では、本当に喜びます」
ノートを鞄へ戻した。
星を選んだ彼の指を、まだ覚えていた。
「面倒くさい相手になったでヤンスねえ……」
マイクを拾っためく郎さんが、会場へ向き直った。
「ミオ選手、勝利でヤンス! ただいまのバトルの解説は——」
「頼む! 短く!」
勝男さんの声が飛んだ。
◇ ◆ ◇
次の予選三回戦。対戦表に並んだ名前は、私とランデスマンだった。
バクさんを倒したデッキは、もうケースにしまわれている。仮面が、別のケースを開けた。
三マナで始まる。
これなら、マナを焼く大型が出る前に勝てる。
さっきの連鎖を、今度こそあの人へ。
「ランデスマンさん」
「うむ!」
「貴女がなぜそんな格好をしているかは、想像がつきます。感謝します」
銀色の仮面の前へ、デッキを置く。
「今度は、貴女を倒します」
「君の神は、三マナで動くのだったな」
「ええ」
「ならば、三マナためさせなければいいのだろう?」
相手のマナへ、赤い札が一枚置かれた。
「まさか」
「来い。《天雷王機ジェバンニ十一世》。そして、スペル。《スコル・ドリール》!」
たった一マナでマナを破壊するスペル。
私のマナが一枚、墓地へ落ちる。相手のマナも一枚減った。
「ジェバンニは、自分のターンの終わりに、墓地の一コストスペルを何枚でも手札へ戻せるのだ!」
使い終えたドリールが、その手へ戻った。
私はマナを置く。
二枚。
「《スコル・ドリール》!」
また、一枚。
マナチャージ。
エンド。
「《スコル・ドリール》!」
また、一枚。
マナチャージ。
エンド。
「《スコル・ドリール》!」
また、一枚。
マナチャージ。
エンド。
「三枚に、ならない……」
墓地には、必要な札が揃っていた。
手札には神がいる。
あと一枚。たった一枚のマナを、最後まで置かせてもらえなかった。
向こうは一マナの釣り竿で、墓地のスペルを山札の上へ釣り戻している。
同じやり取りを繰り返すうち、先に私の山札が尽きた。
負けた。
あんなに練習した連鎖を、一度も始められずに。
三マナになる、その前を狙ってきた。
私のために、こんな嫌なデッキを。
「ひどい人」
そう言って、私は笑った。