TS転生カードアニメ主人公母は、性癖とマナを破壊する   作:なほやん

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第十一話で絶望と希望がぶつかりました

 

「実況は、いいのですか」

「あっしが優勝したら、誰か代わってくれるでヤンス」

 

 めく郎さんは、マイクを隣の椅子へ置いた。

 予選二回戦の対戦卓には、五枚ずつのライフが並んでいる。

 

 ノートを開く。合宿で見た無色のジェスターズ。太鼓と汽車の働き、先に戻すべき小型、殴らせていい順番。

 何度も一人で回した。引いた札に合わせて、どこで繋ぎ方を変えるかも確かめてある。

 

「合宿の続きといくでヤンス」

 

 あの夜は、旅館の消灯に止められた。

 今日は終わらせる。勝って、次へ行く。

 

 先攻のめく郎さんは、山札からカードを探すスペルを使った。

 公開されたのは、《希望のショー星》。場だけでなく、手札や墓地からも色を消す札だ。

 合宿でも、一度これに止められた。

 

 最初のマナは《魔法器・選別の羅針盤》。次の番には《魔法器・研磨の手鏡》で二枚引き、《一尾の部隊イワシロウ》を捨てる。その効果でもう一枚引き、青のモンスターを捨てた。

 

「その魚を捨てるなら、もう一枚引けるでヤンスね」

 

 こちらが説明するより早い。

 使った魔法器と捨てたモンスターを、別々に数えている。

 ここまでは、ノートの通りだった。

 

「《ポクチン坊》を手札へ加えるでヤンス」

 

 出た時に、墓地を丸ごと山札へ戻すモンスター。

 合宿で見た札の欄には、ない。

 

 次の番に出されたら、準備が消える。

 捨てる順番を変えても、間に合わない。

 

「そのページには、書いてないでヤンスか」

 

 めく郎さんが、私のノートを見ていた。

 隠したところで、もう顔に出ている。

 

『お前、欲しい札を引いた時、すぐ分かるぞ』

 

 合宿でバクさんに言われた。

 分からないようにするには、と訊いた私へ、彼は笑った。

 

『逆に、引いたふりすりゃいいだろ』

 

 あの札は、まだ手札だ。

 

 私は、ノートを閉じた。

 

「いいんでヤンスか?」

「もう、見ません」

 

 私の番。三枚目のマナを置き、《ブラッディ・サイクロン》で山札の上を三枚見る。一枚を手札へ、二体のモンスターを墓地へ。

 

「今日は、随分モンスターを捨てるでヤンスね。合宿ではその竜、マナに置いてたでヤンス」

 

 気づいている。

 同じ青い札でも、置く場所が変わったことまで。

 このままなら、あの墓地対策が出てくる。

 

「魔法器は、残していますよ」

 

 私は手札の端を一枚前へずらした。

 口元を青い袖で隠し、慌ててその札を奥へ戻す。

 

「引いたでヤンスね」

 

 めく郎さんが一枚引き、四枚目のマナを置いた。

 それから、手札のポクチン坊を半分だけ抜き出す。

 

「そっちの墓地、戻しておきたいでヤンスねえ」

 

 出すとは言っていない。

 私の顔を見ている。

 

 今それを出されたら、私は止まる。取り繕わなくても、怖かった。

 手札の端を揃え直した。

 

「どうぞ」

 

 声は、震えなかった。

 

「欲しかった札を引くと、口元を隠す。新世廻を引いた時も、そうだったでヤンスね」

「手札まで、お教えするつもりはありません」

「墓地からスペルを使える。こっちも放っておきたくないでヤンスが……」

 

 顔だけで、決めてはくれない。

 私は手札を伏せて待った。

 

 彼のマナは四枚。墓地を消すモンスターと、色を消す星。両方出すには、一枚足りない。

 

「ここは、使えるうちに色を消すでヤンス」

 

 ポクチン坊が手札へ収まり、星が抜き出された。

 

「《希望のショー星》でヤンス!」

 

 卓の上に、白い星が浮かんだ。

 マナの青が消える。手札の青も、墓地の青も。

 

「新世廻が呼べるのは、青のスペル。無色になったら、呼べないでヤンス」

「よく、見ていますね」

「実況してたでヤンスから」

 

 私は一枚引いた。

 

「貴方なら、見逃さないと思いました」

「……そういうことでヤンスか」

「理解が早くて助かります。来てください、《絶望神サーガ》」

 

 星の下に、神が降りた。

 めく郎さんが、サーガの効果欄を確かめる。

 

「色ではなく、種族を見る能力でヤンスか」

 

 手札を置こうとはしなかった。

 

「選び損ねたのは認めるでヤンス。でも、まだ負けてはいないでヤンスよ」

 

 晩餐で狼を竜に、竜を電脳王に変え、途中からは神が神を呼び始めた。

 山札が最後の一枚になったところで、手を止める。

 

「では、ここからループを証明します」

 

 めく郎さんは手札を伏せた。

 

「どうぞでヤンス」

 

「山札は蘇生スペルが一枚。墓地には同じスペルがもう一枚と、晩餐、サーガ、ペディア。ウォズロックの登場時能力で、墓地の蘇生スペルと晩餐を使います。サーガを蘇生し、イザナギアを破壊してペディアを蘇生。使った二枚は、蘇生スペル、晩餐の順で山札の下へ。ペディアの登場時能力は使わず、サーガを先に処理します。元から山札にあった蘇生スペルを引いて、そのまま捨て、イザナギアを蘇生してサーガを破壊。イザナギアで山札の晩餐を手札へ加え、撃って、ウォズロックを破壊します。七コストはまだ手札なので、ここでは誰も蘇生しません。手札から撃った晩餐を、ペディアの能力でもう一度。今度はペディアを破壊して、ウォズロックを蘇生。山札へ戻すペディアはもう場にいないので、晩餐は墓地へ。これで場はイザナギアとウォズロック、墓地には晩餐とサーガとペディア、山札は蘇生スペルが一枚。二枚の蘇生スペルの位置だけが入れ替わっています。同じ手順をもう一度行えば、カードの位置もすべて元通り。ただし、使わなかったペディアの登場時能力が二回分、残ります。最初に保留したサーガの一回分も、残したままです。循環に使うサーガとは別の一枚ですから、途中で使い切ることもありません。この二周をもう一度。ペディアの能力は四回分。最初の一回で、墓地のエマージェンシー・ハリケーンを撃ちます。引くのは二枚まで。ゼロ枚を選んで、手札の七コストを捨てます。残り三回はすべて晩餐。ウォズロックの六を七へ、七を八のルギノスへ、八を九へ。ルギノスの登場時能力も、九コストの墓地を戻す能力も、まだ処理しません。忘れていませんよ。どちらよりも先に、最初から残しておいたサーガの一回を使います。最後の一枚を引いて、私の勝ちです」

 

 途中で一度も、待ったが入らなかった。

 めく郎さんは山札と墓地を、もう一度見比べた。

 

「四回分。ちゃんと残るでヤンスね」

「はい」

 

 彼が頷いたので、証明した通りに札を動かした。

 六から七、七から八、八から九。

 

「《深海第九院シャコガミ》」

 

 水の底から、巨大な甲殻がせり上がった。

 私の山札は、まだ一枚。

 

「墓地を戻す能力より先に、残しておいたサーガの効果を使います」

 

 めく郎さんが、伏せた手札から手を離した。

 

「異議なしでヤンス。最後の一枚、どうぞ」

 

 私は頷いて、その一枚を引いた。

 

 山札切れによる敗北を、勝利に変える。

 彼のライフは五枚とも、裏向きのままだった。

 

 めく郎さんは、ショー星を持ち上げた。

 

「次は、喜んだ顔も疑うでヤンス」

「では、本当に喜びます」

 

 ノートを鞄へ戻した。

 星を選んだ彼の指を、まだ覚えていた。

 

「面倒くさい相手になったでヤンスねえ……」

 

 マイクを拾っためく郎さんが、会場へ向き直った。

 

「ミオ選手、勝利でヤンス! ただいまのバトルの解説は——」

「頼む! 短く!」

 

 勝男さんの声が飛んだ。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 次の予選三回戦。対戦表に並んだ名前は、私とランデスマンだった。

 バクさんを倒したデッキは、もうケースにしまわれている。仮面が、別のケースを開けた。

 

 三マナで始まる。

 これなら、マナを焼く大型が出る前に勝てる。

 さっきの連鎖を、今度こそあの人へ。

 

「ランデスマンさん」

「うむ!」

「貴女がなぜそんな格好をしているかは、想像がつきます。感謝します」

 

 銀色の仮面の前へ、デッキを置く。

 

「今度は、貴女を倒します」

 

「君の神は、三マナで動くのだったな」

「ええ」

「ならば、三マナためさせなければいいのだろう?」

 

 相手のマナへ、赤い札が一枚置かれた。

 

「まさか」

「来い。《天雷王機ジェバンニ十一世》。そして、スペル。《スコル・ドリール》!」

 

 たった一マナでマナを破壊するスペル。

 私のマナが一枚、墓地へ落ちる。相手のマナも一枚減った。

 

「ジェバンニは、自分のターンの終わりに、墓地の一コストスペルを何枚でも手札へ戻せるのだ!」

 

 使い終えたドリールが、その手へ戻った。

 

 私はマナを置く。

 二枚。

 

「《スコル・ドリール》!」

 

 また、一枚。

 

 マナチャージ。

 エンド。

 

「《スコル・ドリール》!」

 

 また、一枚。

 

 マナチャージ。

 エンド。

 

「《スコル・ドリール》!」

 

 また、一枚。

 

 マナチャージ。

 エンド。

 

「三枚に、ならない……」

 

 墓地には、必要な札が揃っていた。

 手札には神がいる。

 あと一枚。たった一枚のマナを、最後まで置かせてもらえなかった。

 

 向こうは一マナの釣り竿で、墓地のスペルを山札の上へ釣り戻している。

 同じやり取りを繰り返すうち、先に私の山札が尽きた。

 

 負けた。

 あんなに練習した連鎖を、一度も始められずに。

 三マナになる、その前を狙ってきた。

 

 私のために、こんな嫌なデッキを。

 

「ひどい人」

 

 そう言って、私は笑った。

 

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