TS転生カードアニメ主人公母は、性癖とマナを破壊する   作:なほやん

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第十二話で優勝賞品を忘れかけました

 

「Lカップ、決勝のお時間でヤンス!」

 

 めく郎の声が、会場に響いた。

 自分の予選落ちが決まった時にも、マイクだけは離さなかった。その声で、今は僕たちを呼んでいる。

 

 予選を全勝したランデスマンは、決勝トーナメントの前に棄権した。

 残った枠へ進んだのは、僕と勝男、バク、ミオの四人。準決勝では僕がミオを倒し、隣の卓では勝男がバクに勝った。

 

 負けた二人は、もう客席にいる。ミオは閉じたノートを膝に置き、バクは身を乗り出して、勝男のデッキを見ていた。

 対戦表に残った最後の線が、僕と勝男を繋いでいる。

 

「母ちゃんと戦うのは俺だ!」

「ここまで来て、まだお母さんの話か」

 

 そう言った僕も、さっきまで客席を見ていた。

 決勝の卓からは、最前列がよく見える。銀色の仮面をつけたランデスマンは、もうどこにもいない。

 代わりに、大地蘭が涼しい顔で優勝者を待っている。

 

 やりたい放題だ。

 優勝賞品が予選に混ざってくる大会なんて、聞いたことがない。

 

「お前だって母ちゃんとやりてえんだろ!」

「だから、君に負けてあげる理由がない」

 

 卓の上へ、五枚のライフを伏せる。

 あの人に初めて負けた日から、組み直してきた。野菜を相手に負けるための天使なんて、一枚も入れていない。

 勝男が毎日同じ家に帰れることと、この席に座る権利は別だ。

 

「息子だからと、順番は譲らないよ」

「いらねえよ! 勝って取る!」

 

 向かいで勝男が山札を置いた。もう僕の手札を見ている。

 客席へ向けかけた顔を、卓へ戻した。

 

「Lカップ決勝、始めるでヤンス!」

 

 めく郎の声に、拍手が重なった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 勝男は二ターン目で、手札を一枚にした。

 先にいた《ひのこトカゲ》へ二体を足し、残る一枚を叩きつける。

 

「《爆走王ブラスト》! 手札がこいつだけなら、マナはいらねえ!」

 

 小さな火の粉の後ろで、排気筒が炎を噴いた。

 七マナのモンスター。まだ二枚しかマナを置いていないのに、赤い巨体が卓の端まで乗り出してくる。

 登場と同時に一枚引き、勝男はそれを手札に残した。

 

「お前が壁を揃える前に、こっちは並べるんだよ!」

 

「トカゲ! 続けてブラスト!」

 

 最初からいたトカゲが、一枚。

 出たばかりの爆走王が、さらに二枚。

 

 僕のライフは、もう二枚しかない。

 

「よし! これなら母ちゃんにも——」

「僕を倒してから言え」

 

 割れたライフの一枚を、卓へ戻した。

 

「ライフ・トリガー。《天上の門》」

 

 手札から、二枚。

 白い門が開き、二体の《聖天使アークライト》が降りる。爆走王より大きな盾が、僕の前へ並んだ。

 勝男は残るトカゲを見たが、どちらも今出したばかりだ。続く攻撃は来なかった。

 

 次の僕のターン。

 二枚のマナを休ませる。

 

「スペル。来い、番人」

 

 四マナの番人を、二マナのスペルから出した。

 番人の力で、山札の一番上を残るライフへ重ねる。表向きになったのは、黒い牙だった。

 

「白のデッキに、黒?」

「《凶牙パラノイド》。ライフにある間、君のモンスター全員の力を三千奪う」

 

 三体のトカゲから、火が消えた。

 勝男は唇を曲げ、三枚とも墓地へ置く。爆走王は残るが、踏み出してくればアークライトが倒す。

 

「牙がライフにいる限り、小さいモンスターは出た端から消えるでヤンス! 勝男君の得意な数で押す手が、封じられたでヤンス!」

 

 めく郎の実況が、客席へ飛んだ。

 

「小型を増やしても、残らない」

「分かってる!」

「では、その手札をどうする?」

 

 合宿なら、ここでうなっていた。

 今度は、最初の爆走王が引かせた札をマナへ置いた。引いてきた二体目の爆走王だけを手札に残し、また無料で呼ぶ。

 そちらが引かせた一枚も、次のマナになった。

 

 だが、二体とも攻撃してこない。

 いつもなら「一体ぐらい通るだろ!」と、突っ込ませるところだ。

 

「殴らないのか」

「今殴ったら、なくなるだろ」

 

 勝男は四枚のマナを休ませた。

 出したのは、赤い小鳥だった。小さな翼を広げた途端、黒い牙の下で消えていく。

 

「出た時の仕事は、するんだろ!」

 

 小鳥のカードを墓地へ置き、それから山札を広げる。

 選んだ一枚を、僕へ見せた。

 

 《覇竜グレンヴァルド》。

 あの店で引いた、最終覚醒。

 

「そいつで勝つつもりか」

「おう」

「出せれば、の話だ」

 

 六マナ。ドラゴンの上へ重ねて覚醒し、一度休んでも起き上がる。

 残り二枚のライフと僕まで、その二撃で届く。合宿で、何度も見た。

 だから、その下に置く小竜を残させない。

 

 勝男は山札を混ぜ直し、僕へ差し出した。

 切って返すと、覇竜を手札の右端へ持っていく。

 出したいものを隠すのは、相変わらず下手だ。

 

 番人を三体まで増やす間に、勝男のマナも六枚になった。

 こちらには大天使が二体。あちらの覚醒元は、まだいない。

 

 引いた札を、そのまま卓へ置いた。

 

「スペル。《聖域解放》」

 

 五枚のマナが休む。

 番人が盾を下ろし、大天使の翼が開いた。普段は守るしかできない者まで、このターンは全員が攻められる。

 

 勝男のライフは五枚。

 受けられなければ、ここで終わる。

 あの竜を出されるまで、待ってやる気はない。

 

「番人から行け」

 

 壊される方を先に使う。

 一体目がライフを割り、勝男は一枚を手札へ加えた。トリガーの宣言はない。

 二体目を続かせる。

 

「ライフ・トリガー! 《グレンの迎撃竜》!」

 

 割ったライフから、赤い竜が降りた。

 着地と同時に、まだ攻撃していない三体目の番人へ向かう。

 

 黒い牙は、まだ効いている。

 それでも、竜の足は止まらなかった。

 

「墓地の赤、一枚につき千!」

 

 三体のトカゲ。小鳥。

 僕が消した四枚が、竜の力になった。

 

 五千。

 番人の盾が砕け、竜は残る。

 

 小さな覚醒元は、残させなかった。

 なのに、僕が殴ったライフから、代わりの竜が出てきた。

 

『それを考えてから殴りたまえ』

 

 合宿で言った。確かに、僕が。

 

「そんな使い方は、教えていない」

「そこは俺が考えた!」

 

 勝男の手札には、あの覇竜がある。

 こんなところで負けていては、あの人に——。

 

「お前、ほんっとに殴らせてくれねえからさ!」

 

 勝男が、僕に笑いかけた。

 母親のデッキの話ではなかった。

 僕の天使を抜くために、こいつは自分のデッキを変えたのだ。

 

 さっき、僕は何と言った。

 

 アークライトへ伸ばしかけた手を止める。

 勝男のライフは三枚。大天使二体で割り切っても、とどめがない。そのうえ、返しに守る者までいなくなる。

 

 全部割って、全員を休ませた卓を思い出した。

 あの人へ渡した最後の一枚を。

 

「続けねえの?」

「続けない」

 

 勝男の目が、一瞬だけ客席へ動いた。

 

「なら、もう一度考えろ」

 

 二体のアークライトには、盾を構えさせたままにする。

 

「まだ僕は、ここにいる」

 

 勝男が、僕を見た。

 手札の端から、覇竜を抜き出す。

 

「分かった」

 

 次の一枚を引き、七枚目のマナへ置いた。

 六枚を休ませ、迎撃竜へカードを重ねる。

 

「覚醒! 《覇竜グレンヴァルド》!」

 

 赤い翼が広がった。

 黒い牙に力を削られても、天使より大きい。だが、こちらの盾は砕けない。

 二体とも残した。二撃とも、止められる。

 

「それから、こいつ!」

 

 残る手札は、一枚。

 僕が最初に割ったライフから来た、三体目の爆走王。

 

 無料で出し、引いた札を捨てる。吹き出した炎が、攻撃済みの番人を一体焼いた。

 勝男の手札は、空になった。

 

 覇竜と、爆走王が三体。どれも、まだ攻撃できる。

 初めからいた二体を、こいつはここまで失わずに持ってきた。

 

「行け、グレンヴァルド!」

「アークライト!」

 

 天使の盾を、その竜へ向ける。

 残りのライフへ、いきなり通すわけにはいかない。

 

 攻撃を始めた覇竜が、すぐに起き上がった。

 その最初の一撃を、天使が受け止める。

 盾と爪がぶつかり、白い火花が卓の上を走った。どちらも倒れない。

 受けた天使は休む。起きている盾は、あと一つ。

 

 勝男は、すぐには二撃目を命じなかった。

 僕の天使と、自分の竜を、もう一度見比べる。

 

「こっちからだ。ブラスト!」

「止めろ!」

 

 二体目の天使が、初めからいた爆走王の一体を倒した。

 盾は無傷だ。だが、ブロックした天使は休む。もう一度は止められない。

 

 もう一体の、温存していた爆走王が来る。

 残ったライフを、二枚とも割らせた。

 

 黒い牙は墓地へ落ちる。

 その下の一枚が、手に触れた。

 

「《天上の門》!」

 

 もう一方のライフから来た札を、そのまま出す。

 三体目のアークライト。

 白い翼が、僕の前へ戻った。

 

「まだ止まる!」

 

 勝男は覇竜へ伸ばしかけた指を、横へ移した。

 今出したばかりの、最後の爆走王に。

 

「頼む、もう一回こじ開けろ!」

 

 新しい天使を、前へ出した。

 赤い巨体が盾へぶつかる。爆走王が砕けた。

 

 守った。

 けれど、三体とも盾を下ろしている。

 まだ起きている竜を、止める者がいない。

 

「行け! グレンヴァルド!」

 

 二撃目。

 竜の向こうで、勝男が叫んでいた。

 僕を倒すために。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「大地勝男選手、優勝でヤンス!」

 

 会場の表示が切り替わった。

 僕の名前は、二位の欄に入っていた。

 

『白鷺院に、二位はいらない』

 

 卓の上には、天使が残っている。

 あと一度、盾を上げられれば。

 

「よっしゃあ! カイトに勝った!」

 

 勝男が立ち上がった。

 客席より先に、僕へ手を突き出す。

 

「お前に、勝ちたかった!」

 

 知っている。

 最後の方は、嫌というほど。

 

「僕の負けだ」

 

 差し出された手を握る。

 勝男は、痛いぐらい握り返してきた。

 

「次は、僕が勝つ」

「おう。もう一回やろうぜ!」

 

 今すぐやれるような顔で言う。

 こっちは、まだ負けたところなんだぞ。

 

 手を離すと、勝男は差し入れの置かれた台へ駆けていった。

 僕は天使を集める。一枚ずつ、元のデッキへ戻す。

 最初から組み直すつもりだったのに、どれを抜くか、すぐには決められなかった。

 

「食おうぜ」

 

 塩むすびを二つ持って、勝男が戻ってきた。

 

「今は、君の顔を見たくない」

「じゃあ、隣な」

 

 椅子を引いて、僕の横へ座る。

 そういう話ではない。

 

 包みを一つ僕の前へ置くと、自分の分を開き、大きく齧った。

 歪な三角形が、一口で半分近くなくなる。

 

「君、次もあるんだろう」

「腹減った」

 

 僕だって、減っていた。

 包みを開く。海苔の端が、少しずれていた。

 

 一口齧った。

 塩が利いている。

 負けたのは、変わらない。

 

「勝男君、賞品がお待ちでヤンスよ!」

「ちょっと待てって!」

 

 頬を膨らませたまま返事をした。

 僕が勝っていたら、こんなみっともない優勝者にはならなかった。

 

「食べてから行け」

「分かってるよ!」

 

 急に齧る量が小さくなった。

 僕は自分の包みへ目を戻し、もう一口食べた。

 

 最後の一口を飲み込んで、勝男が立つ。

 あの人が待っている卓へ、デッキを持っていく。

 

「勝男」

 

 振り向いた。

 さっきまで、僕が座るつもりだった席だ。

 

「勝ってこい」

 

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