TS転生カードアニメ主人公母は、性癖とマナを破壊する   作:なほやん

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第二話でライバルと出会うのは主人公のお約束

 

 息子が泣いて家を飛び出していった。

 母親のすることは決まっている。追いかけて説教——ではなくて、まず握り飯を三つ握ることだ。塩は濃いめ。

 

 男の子には、一人で泣く時間が必要なのだ。

 前世は私も男だったから、負けて泣いている顔を見られたくない気持ちは分かる。

 

 置き去りにされたリュックにお昼を詰めて、私は駅前のカードショップへ向かった。

 

「お、奥様、歩くのが速いでヤンス!」

「ごめんなさいね。冷めないうちに追いつきたいの」

 

 店の外まで対戦卓の歓声が漏れているのに、うちの息子は隅っこで膝を抱えていた。

 

「勝男。ほら、忘れ物。お昼も持ってきたから」

「……母ちゃん、なんでここに」

 

 目が真っ赤。差し出したリュックを、むっつりと受け取る。

 息子の隣に座ろうとしたら、声がかかった。

 

「騒がしいと思えば」

 

 白いコートの少年が、対戦スペースの奥から歩いてくる。歳は勝男と同じくらいなのに、歩き方だけが大人のそれだった。

 

「は、白鷺院(はくろいん)カイトでヤンス……! 白鷺院グループの御曹司で、この街の大会を総なめにしてる天才でヤンス!」

 

 会いたかった、勝男の生涯のライバルだ。

 原作では、ここで二人が火花を散らす。

 いま目の前にいるのは、白いコートの御曹司と、母親の後ろで洟を啜る息子だ。

 こんな出会い方、原作にはなかったわよ。

 

 カイト君は泣き腫らした勝男を一瞥して、それから私を見た。

 

「その少年の母親か」

「あら、よく分かったわね」

「さっきから『母ちゃんに勝てない』と泣いている。……実の息子の心を折ったのは、貴女か」

「心を折った覚えはないわよ。勝負に勝っただけ」

「初心者を泣くまでいたぶって、勝っただけだと? カードバトラーの風上にも置けないな」

「誰が初心者だ! 俺は本気で勝負したんだぞ!」

 

 勝男が私の後ろから出てきた。

 

「なら、泣いていないで次に勝つ方法を考えろ」

「考えてる! お前に言われなくても!」

 

 かばわれた息子のほうが怒っている。

 ……あら。ようやく二人で火花を散らし始めたわね。

 

「それで? わざわざ出てきた以上、悪口だけじゃないんでしょう」

「礼儀を教えてやる。名を名乗れ」

「大地蘭です」

「大地、ランデス……。ふざけているのか」

「本名なのに」

 

 カイト君は白い手袋を脱いで卓に置き、向かいの席を私に示した。

 

「それは失礼した。だが、僕が勝ったらその子に謝れ。心を折っておいて、勝っただけで済ませるな。その余裕、僕が消してやる」

「ずいぶん自信があるのね。じゃあ私が勝ったら——一緒にお昼ご飯、食べましょうね」

「……は?」

「はい、交渉成立。めく郎君、審判お願い」

「……ふん。僕が負けた時の話など、好きにすればいい」

 

(三つ目の握り飯、行き先が決まったわね)

 

「ま、待てよ!」

 

 割って入ったのは、勝男だった。私の袖を引いて、声を潜める。

 

「やめとけって! こいつ、本物の天才なんだ。大会で見たけど、大人だってボロボロにされて……母ちゃんとは場数が違うんだよ」

 

 自分を泣かせた母の心配をしてくれる。

 なんていい子だ。親の顔が見てみたい。

 

「じゃあ、勝ったら自慢できるわね」

「僕が誰か知って、それでも挑むか。その勇気だけは買おう」

「母ちゃん!」

 

 ◇ ◆ ◇

 

「先攻はカイト君、バトル開始でヤンス!」

 

「僕のターン。マナチャージ。《ひかりの雛》を召喚。出た時に、一枚引く」

 

 まばゆい小鳥が卓上に舞った。羽ばたきの風圧で、ストレージの山が震える。

 

「プレイヤーを殴れない代わりに、攻撃を受け止めるブロッカーの小鳥でヤンスね」

 

 記憶通り。小型の壁で時間を稼いで、大型ブロッカーを出すことを目指すタイプね。

 

「私のターン。《ごつごつカボチャ》を召喚」

 

 カボチャがごとりと卓に転がった。

 

「今朝のカボチャでヤンス! 奥様の切り札は——」

「大きな声出すなよ、めく郎。聞こえるだろ」

 

 勝男がめく郎君の袖を引いた。

 母のデッキ情報を守ろうとしている息子が天使すぎてかわいい。《ひかりの雛》よりかわいい。

 

 カイト君は二人を見たが、何も尋ねず、次のターンには《白翼の騎士》を並べた。

 

 こちらもブロッカー。けど、アニメでは見なかったカードね。

 対戦相手が私になったから使う札も変わった? それとも、映らなかっただけ?

 

 こちらは《種まき》でマナを増やし、余った一マナで《ころころジャガイモ》。向こうに二体目の騎士が加わる頃には、私の畑でも収穫が始まった。

 

「スペル《豊作》。二枚引いて、トマトちゃんも植えましょう」

「母ちゃん、また野菜かよ」

「育ち盛りがいるもの」

 

 《つやつやトマト》が、ジャガイモの隣に並んだ。

 こちらもゆっくりと数を揃えて押し切るか。……いえ、今回は大きいのが並ぶ前に叩いてみましょう。

 

「ジャガイモちゃんで、ライフを攻撃」

「騎士、受け止めろ」

 

 盾が割り込み、ジャガイモを受け止めた。パワーで押し負けた騎士の腕が砕ける。だが、散った光がすぐに集まり、元の形へ編み直された。

 

「壊れねえ……?」

 

 覚えている展開だけを当てにはできないわね。

 一度だけ耐えるのか、何度でも戻るのか。確かめておきましょう。

 

「では、カボチャちゃん。お相手は、今ブロックして休んだ騎士さん」

 

 カボチャが転がった。

 騎士は盾ごと押し潰され、それでも、起き上がった。

 

「あれを食らって、まだ立つのかよ!?」

 

 勝男が卓に手をついた。

 こちらはジャガイモとカボチャが休み、向こうは騎士一体が膝をついただけ。力で押せても、壁の数は減らせない。

 

「無駄だ。僕は、バトルでもスペルでも破壊されないモンスターだけを揃えている。騎士も天使もだ」

「……へえ、いいカードじゃないの」

 

 次のターン、カイト君はマナを置くだけで終えた。私のライフには一度も触れない。

 私には手札を増やさせたくないのね。

 

 私は二度目の収穫を済ませ、《おこりんぼピーマン》を植えた。

 

「もう一度。ジャガイモちゃんで、ライフを攻撃」

「通す」

 

 今度は、同じ騎士が盾を上げなかった。割れたライフを手札に加え、カイト君は残りの四枚を揃え直す。

 

「なんで今度は止めないんだ?」

「割られたライフは手札になるでヤンス。カイト君、わざと攻撃を通して手札を増やしてるでヤンス!」

 

 手札は増えるけれど、大型が並んでからではライフに届かない。トマトちゃんでも、今のうちに削っておきましょう。

 

「続けて、トマトちゃん」

「その攻撃も、ライフで受けよう」

 

 割れたライフが、光った。

 

「ライフ・トリガー! マナを払わずに使えるでヤンス!」

「スペル《天上の門》。手札から、二体。——来い、《聖天使アークライト》」

 

 店内が真っ白に染まった。

 光の扉から大きな翼が抜けてくる。一体、もう一体。対戦卓が軋み、ショーケースに白い影が二重に落ちた。

 

「コストを無視して大型ブロッカーを! しかも二体!? まるで、そこに《天上の門》が埋まっているのが分かっていたみたいでヤンス……!」

「ライフは三枚残っている。止める機会なら、まだあった」

 

 トリガーが引ければラッキー、なくても手札補充になってよしということね。

 ピーマンは出したばかり。カボチャではライフを攻撃できない。私の攻撃は、ここまでだった。

 

「……母ちゃんでも、駄目なのか?」

 

 勝男が私を見た。

 今朝、グレンハウルすら潰したカボチャが、小さな騎士一体を倒せない。その向こうには、もっと大きな天使が二体。

 

「強いわねえ」

 

 けれど。

 この動き、このアーキタイプ。カードは多少違うけれど、分かる。

 初期のカイト君だ。まだ完璧にこだわりすぎていた頃。

 ならばやりようはある。

 

「母ちゃん……なんで、そんな楽しそうなんだよ!」

 

 あらあら。顔に出ていたらしい。

 この壁をどう崩そうか考えていたら、息子を慰めるつもりで来たことを忘れかけていた。

 

 だが、勝男はやめろとは言わなかった。天使を見上げていた顔を下げ、私の手元を真剣に見ている。

 

 そう。カードゲーマーの目。

 あなたのその目が見たかったの。

 

「あえて言おう。僕の手札にはこのカードがある」

 

 カイト君は手札の一枚を、二体の大天使の間に掲げた。

 

「次の僕のターンにはこの《聖域解放》が使える。そうなれば、小鳥も騎士も、すべて攻撃に加わる」

「殴れないはずの壁たちが、全部殴ってくるのかよ!?」

「だからカイト君のデッキは、殴れない壁ばかりだったでヤンス! 奥様に反撃の手札を渡さず、次のターンに一気に決めるつもりでヤンス!」

 

 私のライフを全部割って、それでも直接攻撃要員が二体も残る。

 しかも、破壊するタイプのトリガーは効かない。

 さすがカイト君、勝ち筋(リーサル)がよく見えているわね。

 

「これがパーフェクトバトルだ」

 

 ちゃんと勝ちに来るの。いい子ねえ。

 ——でも。

 

「はたして、それはどうかしら?」

 

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