TS転生カードアニメ主人公母は、性癖とマナを破壊する   作:匿名

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 ※前話について
 昨日(9月18日)22時頃、第六話終盤の展開を一部改稿しました。
 大筋に変更はありませんが、本話にも関わる部分ですので、改稿前にお読みいただいた方は、よろしければ第六話終盤をご確認ください。


第七話でよそ見をしたら叱られました

 

 ストレージは、お宝の山だ。

 いくらでも掘れる。無心で掘れる。

 

 夫のことも忘れて——

 

 闇が、あの人の身体を使っている。

 前世の記憶を持った私は、あの人の妻の身体を使っている。

 

 ……何が違うの?

 

 また考えてしまった。

 もっと無心で掘ろう。

 

「あら。このカードもあるのねえ……」

 

 五十円の箱から、《豊穣の巫女パセリ》が出てきた。

 毎朝、山札から小さな野菜を呼んでくれる巫女さんだ。

 

「うちの畑に、いらっしゃい」

 

 買い物かごへ入れた。

 これで、まだ帰らなくていい。

 

 夫には会えた。バトルにも勝った。一度は、ちゃんと取り戻した。

 

 それなのに、あの人は自分から闇へ戻った。

 

 私に負けたから。

 私が、あの人の癖を知っていたせいで。

 

 本来、あそこで戦うのは勝男だった。

 あの子なら、違ったのだろうか。

 

 ……考えても、分からない。

 

 勝男は、家で待っている。

 

『絶対だぞ』

 

 帰ったら、もう一回。

 私からそう約束した。

 

 だから、まだ帰れない。

 

「お待ちしていました」

 

 青いパーカーが、ストレージの向こうに立っていた。

 首には大きなヘッドホン。勝男がパックを開けた時、確率がおかしいと言っていた女の子だ。

 

「ここに来ると、思っていました。貴女の行動は計算していましたから」

「あなたは……」

「……青瀬(あおせ)ミオです。貴女に、対戦を申し込みます」

 

 ミオちゃんは、少し待った。

 私が返事をしないので、自分から話し始めた。

 

「貴女と戦うために、組んできました」

 

 青いデッキケースが、箱の脇に置かれた。

 その上には、鉛筆で何度も書き直したらしい、小さなノート。

 

「一戦、お願いします」

 

 断って、帰る理由はあった。

 帰りたくない理由のほうが、まだ強かった。

 

「……ええ。先にお会計だけ、させてね」

 

 デッキから一枚抜いて、空いたスリーブへ買ったばかりのパセリを収めた。

 フリースペースの卓へ移ると、ミオちゃんは向かいの椅子を引いた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 序盤にマナへ置いた《大地なる母》は、二枚ともナスの代金になった。

 山札からニンジンを畑へ植え、その代わりに、使った大地を墓地へ送る。

 向こうでは、青いスペルで引いては捨て、欲しい札を選んでいる。

 小型のモンスターは、一体も出てこない。

 

「小型を出せば、高いパワーの野菜に殴り返される。大型を出せば、マナへ送られる」

 

 引いた中から、一枚が墓地へ落ちた。

 八コストの、大型。

 

「なら、小型を出す必要はありません」

 

 墓地のスペルが四枚、卓の中央へ並べられる。

 今捨てたばかりの大型が、その上へ重なった。

 

「魔法器を四枚、捧げます。開け、新月の扉。《ガル・ラ・ノクターク》を、コストを支払わずに召喚」

 

 黒い翼が、青い魔法陣を覆った。

 首のない異形。胸の奥で、ひとつ目が開く。

 

 青魔法器……!

 原作では普通の水デッキを使っていた子が、どうしてこんな構築に!?

 

「私のガルは倒せません!」

 

 ガルって呼んでるのね……。

 

「相手のスペルでは選べません。そして、貴女のターンに、召喚以外で貴女のモンスターが出るなら、代わりに墓地へ置きます」

 

 《大地なる母》では対象に取れず、退かせない。こちらの竜も呼べない。

 私の一番便利なスペルが、どちらの使い方でも役に立たない。

 

 ノートも見ずに、ミオちゃんは続けた。

 

「バクさんに使った墓地対策も確認しました。ですが、下に重なった魔法器は、もう墓地にはありません」

「……よく、考えたのね」

「はい。貴女に勝つために」

 

「四マナ。《おすそわけニンジン》を召喚するわ」

 

 葉っぱを風呂敷代わりに背負ったニンジンが、私とミオちゃんへ一本ずつ、小さなニンジンを差し出した。

 

「お互いに、山札の上から一枚、マナに置きましょう」

「相手にも加速を与える効果、ですか」

「ええ。おすそわけだから」

 

 ミオちゃんは効果欄を確かめてから、自分の山札を一枚めくった。

 

「山札切れも考慮しておきましょう」

「あら」

 

 ばれている。

 なら、大事に配らないといけないわね。

 

 増えたマナでもうひと回しスペルを唱えると、二体目の《ガル・ラ・ノクターク》が出てきた。

 

 あらまあ。制限カードでも四枚入るのね。

 この世界でなら禁止カードが使える! と喜んでいたのは私だけれど、相手にも同じ権利がある。当たり前だけど。

 

 攻撃で割れた残り二枚の《大地なる母》で、場のナスをマナのニンジンと植え替える。

 

「あなたのターンなら、呼べるのよね」

「ええ。存じています」

 

 こちらの番には、《お茶妖精ハーブティー》を召喚した。

 ティーカップに腰かけた妖精が、墓地のジャガイモをマナへ戻す。

 

「ハーブがあると、野菜もよく育つのよ。コンパニオンプランツね」

「その効果で戻せるのは、墓地のカード一枚。種類は問わないんですね」

 

 ミオちゃんは攻撃を急がず、次の怪物を用意していた。

 

 待つのね。確実に、勝てる時を。

 あの人も、そうだった。

 

「——どう思いますか」

「……え?」

 

 ミオちゃんの手に、スペルがあった。

 

「この構築についてです」

「ああ。ええ。とてもいいと思うわ」

「どこが、ですか」

 

 答えようとして、夫の声がまだ頭に残っていることに気づいた。

 お前が相手なら、俺でいる限り勝てない。

 レギオンではなく、あの人自身の声だった。

 

「今、他の人のことを考えていたでしょう!」

 

 青い袖が、卓を叩いた。

 

「私、ずっと考えてきたんです。どうしたら、貴女に勝てるか。あの竜を出させないために、何を抜いて、何を入れるか! あの二人を倒した時の貴女は、そんなものじゃなかった!」

 

 気晴らしに付き合ってもらっているつもりだった。

 この子は、そのために来たんじゃない。

 

 私はまた、ここにいない人を見ていた。

 

「貴女と戦っているのは、私です!」

 

 ミオちゃんの目に、涙が溜まっていた。

 勝っているのに。

 

「……そうね」

 

 伏せていた手札を、取り直した。

 

「失礼なことをしたわ。ごめんなさい、ミオちゃん」

「謝ってほしいんじゃ、ありません」

 

 墓地。マナ。怪物の下に重なった魔法器。残りの山札。

 彼女が選んできたものを、最初から数え直す。

 

「分かったわ。続けましょう。あなたのデッキ、もっと見せて」

 

 ミオちゃんは、青い袖で目元を拭った。

 

「後悔しても、知りませんから」

 

 カブでマナのニンジンを収穫して、通常召喚。

 四度目のおすそわけを受け取ると、ミオちゃんは、場に揃った四本と残りの山札を見比べた。

 顔を上げたミオちゃんと、目が合った。

 

「七マナ。《豊穣の巫女パセリ》。次の私のターンから、お仕事をお願いね」

 

 五十円の巫女さんが、野菜たちの真ん中に立った。

 

「ターンのはじめに休ませて、四コスト以下の野菜を山札から呼ぶ。ですが、ガル・ラ・ノクタークがいる限り、出せません」

「そうね」

 

 ミオちゃんは、最後の準備へ入った。

 

「《魔法器・深海の封瓶》。四コスト以下のモンスターを、山札の一番下へ。そのニンジンです」

 

 最初に出した一本が、青い瓶に吸い込まれた。

 手札へは帰ってこない。山札の底へ、沈んでいく。

 

「引き直すには、遠いでしょう?」

「ええ。随分、深いところへ植えるのね」

「そして、三体目のガルを召喚します」

 

 使い終えた魔法器を敷いて、三体目が降りた。

 ミオちゃんは、二体を壁に残した。

 こちらの殴り返しにも、隙をくれない。

 

「攻撃。ライフを二枚」

 

 カボチャと、カブが手札へ来た。

 カブのトリガーは、使わない。今すぐ収穫したいものは、まだ畑にない。

 

 ライフは一枚、残った。

 次のターンには、三体とも攻撃できる。最初の一撃を受けたら、その後を止められない。

 

 ミオちゃんの山札は、残り二枚。

 

 私の場には、ニンジンが三本。

 もう一本は、山札の底。

 どれかを、もう一度出せれば勝てる。

 

「その顔。まだニンジンを出し直すつもりですか?」

 

 ミオちゃんが、少し嬉しそうに言った。

 

「でも、間に合いません。貴女のマナは八枚。次に一枚置いても、九枚です」

 

 青い袖が、私のマナの前を滑った。

 

まず、貴女の手札にニンジンはありません。場に三枚、山札の底に一枚。ナスも場に一枚、マナに三枚。手札にも山札にもありません。カブに三、ナスに二、ナスで山札からニンジンをマナへ置いて、別のカブに三、最後にニンジンを召喚する四。合計十二。もちろん、ナスで置いたニンジンは使えるマナですから、その一枚を差し引いて十一。回収するナスを先に支払いへ使っても、墓地へ置くマナを使用済みから選んでも、これ以上は減りません。二枚足りない。手札にカブが二枚あったとしても、です。ならば、場のニンジンを大地で埋めて回収する。ですが大地も四枚とも、墓地へ落ちました。ハーブティーでマナへ戻し、カブで回収、大地を唱えてニンジンを埋め、さらにカブで収穫して、通常召喚。三、三、三、三、四で十六。ハーブティーと大地で使えるマナが一枚ずつ増える分を引いても、十四。今度は五枚不足です。大地でカブを出せば三マナ節約できる、なんて言いませんよね? それを墓地へ置くために、このガルがいるんですから。使用済みのニンジンを回収すれば、残りのマナを減らさずに済む。その支払い方も含めて、十四です。山札を掘る経路も届きません。二枚引いて、さらに二枚引いて、回収に回すマナを全部使い切るまで引いたとしても、あの底には届かない。もちろん、そのパセリなら底まで届きます。確認しています。ですが山札から呼んでも、ガルの効果で、出る代わりに墓地へ置かれる。場には出ていないから、おすそわけも発動しません。墓地からマナへ戻すことはできます。そこから回収して召喚する経路も確認しました。ですが、それでも足りません。召喚なら通る、でも手札へ持ってこられない。手札へ持ってくる方法はある、でも召喚まで払えない。場へ直接出せば支払いを省ける、でもガルが通さない」

 

 この子、原作からこんなだったかしら……。

 

「貴女なら、ここまで考える。だから私も、ここまで考えました。つまり! ニンジンは、もう出せません!」

 

 胸を張ったミオちゃんは、ちょっと息が切れていた。

 九マナでは、どちらの回収も間に合わない。

 計算は、合っている。

 

「よく、私を見てくれたのね」

「貴女に、勝ちたいので」

 

 言い切ってから、今度は私の返事を待った。

 

 一瞬だけ、ためらった。

 けれど、負けてあげれば喜ぶ子なら、さっき泣きそうな顔で怒ったりしない。

 

「私もよ。あなたに、勝ちたいわ」

 

 ミオちゃんの口が、少し開いた。

 

「……どうぞ。ターン、終了です」

 

 私のターンが来た。

 マナを起こす。それから、カードを引く前に。

 

「パセリちゃん。朝のお仕事よ」

 

 巫女さんを横にした。

 山札を広げ、いちばん下に沈められた一枚を取る。

 

「《おすそわけニンジン》を呼びます」

「出させません。ガル・ラ・ノクタークの効果で、墓地へ。場に出ないので、おすそわけも発動しません」

「ええ。ありがとう」

「……ありがとう?」

 

 ニンジンを、墓地へ置いた。

 おすそわけは、まだ届かない。

 残りの山札をシャッフルし、一枚引く。カボチャをマナへ置いて、九枚。

 

「三マナ。《お茶妖精ハーブティー》」

 

 小さなティーカップが、もうひとつ並んだ。

 ミオちゃんは、私が墓地へ手を伸ばすより先に立ち上がった。

 

「……墓地から、ニンジンを?」

「ええ。ハーブがあると、よく育つのよ」

 

 さっき墓地へ行ったばかりの一本を、マナへ置いた。

 使えるのは、七枚。

 

「でも、そこからカブで回収して、召喚するには——」

 

 言いかけて、ミオちゃんが黙った。

 

「……ナスが、いらない」

 

 ミオちゃんが、自分の怪物を見た。

 

「私のガルが……ニンジンを、墓地へ運んだ……?」

「カブちゃん。収穫をお願い」

 

 そのニンジンと、ほかの二枚を横にする。

 三マナで《引っこ抜きカブ》。支払いを済ませたニンジンを、手札へ戻す。

 起きているマナは、四枚。

 

「《おすそわけニンジン》を、召喚します」

 

 今度は、ちゃんと代金を払った。

 黒い翼の下を、小さなニンジンが歩いてくる。

 葉っぱの包みを開いて、私へ一本。ミオちゃんへ、一本。

 

「お互いに、山札の上から一枚。マナに置きましょう」

 

 彼女の山札が、二枚から一枚になった。

 

「……九マナ」

「ええ。ぴったりね」

「私のモンスターは、全部、残っているのに」

「強い子たちね。最後まで、倒せなかったわ」

 

 ミオちゃんが、涙を拭った。

 

「ターン、終了よ」

 

 彼女のターンが来た。

 ミオちゃんは、山札の最後の一枚を引いた。

 

「山札切れ。私の……負けです」

 

 青い光が、彼女の前で砕けた。

 

「……この子たちが、貴女を手伝うなんて」

「私も困ったのよ。ちゃんと考えないと、負けるところだったわ」

 

「……本当に?」

「ええ。次は、その道も塞いでくるでしょう?」

 

 ミオちゃんが、私を見た。

 

「次も、戦ってくれるんですか」

「もちろん。今度は最初から、ちゃんとあなたを見るわ」

 

 そうだ。

 家でも、もう一回と言って待っている子がいる。

 

 帰れない間、ずっと考えていた。

 あの時、勝男ならどうしただろう。

 あの子なら、夫を取り戻せただろうか。

 

 でも。

 

『貴女と戦っているのは、私です!』

 

 ……そうね。

 

 家で待っているのは、原作の主人公じゃない。

 私の息子だ。

 

「ありがとう、ミオちゃん」

「……え?」

「おかげで楽しかったわ。それに、帰れそう」

 

 そう言うと、ミオちゃんは口元をパーカーの襟に埋めた。

 カードを片付ける手が、妙にゆっくりだった。

 

「……私だけを」

「ん?」

「最後は、私だけを、見てくれた……」

 

 ノートを抱え、椅子から立ち上がる。

 

「ふふ……ふふふふ……」

 

 そのまま、含み笑いと一緒に店を出ていった。

 負けた子の足取りではなかった。

 

「……あの子、大丈夫かしら」

 

 私はデッキをしまって、勝男の待つ家へ向かった。

 





 本日はこのあと19:05に、おまけの「幕間の研究ノート」も投稿します。
 あの子が持っていたノートに、何が書いてあったのか。
 よろしければ、そちらもどうぞ!
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