コントロール奪取。
TCG──トレーディングカードゲームにおいて、相手のカードの制御、つまりコントロールを奪う効果をそう呼ぶ。
苦労して出した切札が、あっさり奪われた経験はあるだろうか?
ならちょっとだけ見せてあげよう。
俺の──《NTR》デッキの力を!
「手札から《Neoの誘惑》を発動。その効果で相手のモンスター1枚のコントロールを奪う。俺が奪うのはキミの《姫騎士の王子、シュヴァリエ》!」
「そんな!?僕のシュヴァリエが……」
ぬるりと、ドロドロとした黒いスライムのようなものがデカパイボーイッシュ王子様女子系カードであるシュヴァリエにネバネバと絡みついていく。
苦悶の表情を浮かべるシュヴァリエ──そのヴィジョンが、主に助けを求めるように手を伸ばす──
使い手のショタがその手を掴もうとヴィジョンに手を伸ばす──が、その直前に黒がシュヴァリエを完全に取り込んだ。
「ふっふっふ、残念だねぇwこのバトル中、今からシュヴァリエは俺のカードになったのさ!さぁ、元マスターに見せてあげなよ、シュヴァリエ!」
俺の言葉に答えるようにぬちゃりとスライムが解け、中からシュヴァリエが現れる──
しかし、先程までの凛とした佇まいに純白のタキシード、そして銀のアーマーを纏っていたはずのシュヴァリエは、今や淫猥な目つきににへらと下卑た笑みを浮かべ、その身は紫がかった黒のボディスーツがぴったりと貼り付き、豊満な肉体美を際立たせていた。
「ああ……そんな……シュヴァリエ……」
「さてさて、これでキミの場のモンスターはいなくなった。このままアタックに入るよ。さぁシュヴァリエ、元の主にトドメを刺せ!」
俺の攻撃宣言に呼応し、シュヴァリエが高く跳躍する。
かつての主を見定めると、口角が上がり、まるで月のような狂気に満ちた笑みを浮かべ──その手に握るレイピアで貫いた。
少年のライフが勢いよく減り──ピッという電子音とともに、大きく0と表示された。
「ゲームセット──俺の勝ちだ。」
周囲に展開されていたバトルフィールドが少しづつ消えていく──それに伴い、コントロールが元の持ち主から移動していたシュヴァリエも、持ち主に戻ろうとしていたが、消える前に俺が掴む。
「じゃあ開始前のアンティルールに乗っ取り、俺はキミの一番のレアカード──《
俺の宣言により、消えようとしていたシュヴァリエのカードが実体化し、俺の手元に残る。
そのカードイラストは、《Neoの誘惑》が発動する前の姿に戻っていたが、以前と違いどこか淫美な表情を浮かべていた。
「そ、そんなぁ!返してよ!シュヴァリエは僕の……僕のカードなんだ!
そんな妄言をのたまいながら、少年が俺の前に立ちふさがる。
「……何それ?そんなに大切なら、最初からアンティを受けなきゃ良かったじゃん。キミが勝ったら、俺の持ってるレアカードから好きな物を五枚あげる。その代わりに、俺が勝ったらキミの一番のレアカードをもらう──そういうルールだっただろ?」
そうキッパリと告げる。このバトルはアンティルール──バトルに参加するプレイヤーは、法が許す限りの、お互いが望む条件をつけてバトルを行い、勝者に敗者はアンティに従い、賭けた物を与えるという条件。
俺はそれに従っただけだ。
やる前は大口叩いてたくせに、いざ負けたらやっぱり返してください?虫が良すぎるね。
「そ、それは……」
「往生際が悪いなぁ。負けたんだからさっさと俺の前から消えてくれないかなぁ?あ、でもまたアンティでバトルするならいいよ。でもキミの《
そう言って目の前に立つ少年──年は10歳ぐらいだろうか?
「ほらほら、やるならやるでさっさとバトルディスクを展開しなよ。こちらとしては大歓迎だよ?」
腕に付けたゴテゴテした金属製のバトルディスク──結構な重みがあるそれを、倒れこんだ彼に押し付ける。
少し呻くが、そんなことは気にしない。
この世界では老若男女、誰でもこれを持っている。
それは娯楽のためであり、
闘争のためであり、
万が一の時、命を守るためでもある。
「そんなこと言ったって、もう僕には……」
「だよねぇ、ならさっさと帰りなよ!」
俺はそう言うとバトルディスクを振り上げ、彼に叩き下ろそうとした──
「──やめなさい!」
直前で、動きを止める。
声のした方に目を向けると、中学……いや、高校生ぐらいだろうか?
初めて見る女の子だ。
背は小さく見えるが、その胸は豊満であった。
「……オネーサン誰?この子の知り合い?」
「知らない子だ、だけど私には戦う理由があるッ!」
そう言いながらズンズンこちらに近づいて来て、俺に向かってビシッと指を突きつける。
「一部始終は見ていたわ。あなた、私とアンティで勝負しなさい!私が勝ったら、彼にあなたが奪い取ったカードを返しなさい!」
「……いきなり来て何を言い出すかと思えば、アンティのお誘いか。別にいいけど、このカードに釣り合うぐらいのカードは持ってるのかなぁ?」
《姫騎士の王子、シュヴァリエ》をこれみよがしに見せびらかす。
《
『姫/騎士/王子』レジェンドモンスターカード(レジェンドを持つ同名のカードは、あなたの場に一枚のみ存在できる。二枚以上ある場合は、どちらかを墓地に送る。)
コスト(5)(白)(白)/パワー5/タフネス6
このカードを場に出す際、自分の場にある、種族に姫を持つモンスター、及び騎士を持つモンスターの数だけ、このカードの無色コストを軽減しても良い。
そうしたなら、このカードはターンの終わりに手札に戻る。
このカードを対象として
そうしたなら、その装備カードはターンの終わりに手札に戻る。
うーん強い。
無色コスト5に白のダブルシンボルにしてはパワーやタフネスは抑え気味だが、自前の軽減能力のおかげで先行4ターン目ぐらいにはだいたい場に出る。
軽減は《姫騎士》なら簡単に達成できるし、《姫騎士》にはテーマ内装備品カードも多い。
ターンの終わりに戻るのは一見すればデメリットのように見えるが、相手の除去カードが当たりづらいというメリットがあり、また時渡のおかげで実質的な不休持ちのように扱え、相手ターンにブロックに回ることも可能。
このカードは間違いなく相当なレアカードだ。
カードイラストも良いし、売れば相当な額が付くだろう。
「勿論よ。私が負けたら、あなたにこのカードをあげましょう。」
そう言いながら、彼女はベルトに付けていたデッキケースから、一枚のカードを取り出す。
「どれどれ……?!こ、このカードは!?」
『ジェネレイト/法務官』レジェンドモンスターカード
コスト(5)(白)(白)/パワー4/タフネス7
あなたがコントロールする他のモンスターは+2/+2の修正を受ける。
あなたの対戦相手がコントロールするモンスターは-2/-2の修整を受ける。
「どうかしら?間違いなくそのカードと釣り合うぐらいの価値はあるわよ。」
「駄目だよお姉ちゃん!僕のことはいいから、アンティはやめて!そんなレアカード、もし負けたりしたら……」
「安心しなさい!何が何でも私は勝ちますからね。安心して見守っててちょうだい。」
少年と巨乳が話しているのが、どこか遠く聞こえる。
「おいおいおい……このカードって……ていうことは、まさか……そんなことって……」
「……?どうしたの?さっきからブツブツ喋って。アンティなら受けるって、あの子に言ってたじゃない。」
何だか心配そうにこちらを覗きこんでくる
うおっおっぱい近っ。
「……あのー、つかぬことをお聞きしますが、お姉さんのお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか……?」
「……何で急に敬語になったのかしら。まぁいいわ、私は【
「あっ……【
ペコリとお辞儀をして、相手に顔を見せないようにする。
だって今の俺は間違いなく顔面蒼白になっているからだ。
【宣言 歩美】、《聖清の法務官、エリス・ノア》、巨乳……
うん、アニメ版主人公だこの人!?
圧倒的強者からの甘美なる誘惑に、抗える者などいない。
──Neoの誘惑