俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
「来たれ。星辰の彼方より――」
大層な詠唱を終えた生徒の前に現れたのは、年頃の少女……ではあるが、体の各所が緋色の竜鱗に覆われており、頭頂部の角は仄かに熱を纏い、背中に生えた一対の翼を広げ、目の前の相手を見据えて言う。
「お前が、私のマスターか?」
「そうだ。俺が――」
1人の男子生徒と1人の少女が差し出した手を重ね合わせると僅かな光が奔り、互いの掌に紋様が刻まれていた。契約完了の印だ。
――契約の儀。『ドラゴ・マギア学園』の生徒達が将来のパートナーとなる彼女達『ドラゴン娘』と契りを結ぶ。『ゲーム』では、スキップしまくる演出ではあるが、現実では飛ばすことができないのでかったるい。
「次! カラバ・イルマイト!」
「はい」
俺は、この世界を知っている。前世で『ドラゴ・マギカ・クロニクル』と呼ばれるブラゲーをプレイしていたからだ。
特筆する程の特徴もない作品だったが、惰性とは言え、プレイし続けたご褒美なのか。この世界に転生して一介の『マスター』になっている。
俺は主人公でもない。転生特典も隠された才能もない。物語の端っこで殺される様なことさえなければ、それでいい。
「(まぁ、学生できる位には良い所に生まれたが)」
この後にチュートリアルが起きることは分かる。敵対勢力が現れて、召喚したばかりのドラゴン娘と一緒に撃退する。という流れだ。
チラリと視線を送った先。フードを目深に被った数名の学生が奇妙な動きをしている。神聖な儀式の途中であるにも関わらず、俺の所へと駆け寄って来た。
「何をしているんだ!!」
傍で監督していた教授が注意をするが、数名の生徒はフードを外した。露わになった姿に周囲は息を呑んだ。
「我々は、此度の偽りの儀式を止める者達である!」
「この世におけるドラゴン娘は邪竜『ヴァルザイア』様、ただ一人!!」
何と分かりやすい敵役か。彼らの1人が契約の儀を中断させようと、俺に攻撃を仕掛けて来るが、詠唱は既に終えていた。
そして、現れたドラゴン娘と一緒に颯爽と撃退するというくだりであるのだが。どうにも様子がおかしい。何も出て来ない。
「(アレ? 普通はスーッと出て来るんだけれど)」
「ハハハ! 我々を恐れたか!」
調子に乗って突っ込んで来た奴は、頭部に杖のフルスイングをぶち当てて黙らせた。だが、複数人の相手はどうにもならない。
「コイツ!! 生意気な!!」
「なんで周りは助けてくれないんだ」
頑張って1人をどうにかしたんだから助けて欲しいのだが、周りは混乱するばかりで助けてくれない。
ならば、死なば諸共と言わんばかりに皆の中に紛れ込んでみようとするが、ピッシリと防護壁が展開されていた。
「オイ! 出せコラ!!」
「イルマイト君! 被害を拡大させるわけにはいかないんだ!」
「俺は被害の内に入らないのか……」
チュートリアル戦はギブアップできない仕様なことが多いが、実情は本当にクソだった。コレには狂信者達もゲラゲラと笑っている。
「やはりドラゴン娘などに頼っている連中は保身しか考えていない様だ!」
「憐れだな! 我々の崇高な供物になるがいい!」
「お前らも閉じ込められているんだよ!」
彼らはとてもポジティブだった。防護壁を張りながら逃げ回っていると。あることに気付いた。召喚に使った魔法陣から白い靄が立ち込め続けていることに。
掌がズキンと痛む。契約はまだ途中だ。俺は失敗した訳ではない。契約は終わっていない。何かが出ようとしている。
「(失敗していないなら。いったい何が?)」
ブラゲーなので隠しルートみたいな物は基本的に存在していない。あるいは、コレはゲームなどではなくただの現実として呆気なく殺されるのだろうか?
展開した防護壁にヒビが入り始めた頃、白い靄は急速に質量を帯び、周囲を吹き飛ばした。慌てて、残った魔力で再度防護壁を展開した。
「――――!!」
目の前に降臨した存在は強大だった。人間の何倍もの体躯を持ち、全身が赤熱したかのような竜鱗に覆われ、強大な四肢は振るうだけで全てをなぎ倒しかねない質量があった。
俺が召喚したのはドラゴン娘では無かった。前世では、多くの者が名を知っている。ファンタジーやサブカルにおける『力』を象徴する存在。
「ドラゴン……」
ポロリと口から漏れ出てしまった。ドラクロでリアルドラゴンが出るなんて、イベントやストーリーは無かったハズだ。
突如として巨大な質量が現れた影響か会場には破壊が吹き荒れていたが、狂信者達は任務の遂行を止めない。
「ば、化け物め!!」
尻尾を巻いて逃げればいいのに。律儀に俺とドラゴンを仕留めようと攻撃して来るが、ドラゴンには何一つとして通じた様子が無い。
「ギャアアアアア!!」
大気を震わす程の咆哮を上げ、ドラゴンが狂信者達に向かって突っ込んだ。
単なる体当たりだが、こんな質量がスピードを持って突っ込んで来たらどうなるかは言わずもがな。壁ごと外へとすっ飛ばされて行った。
後に残ったのは静寂。俺を閉じ込める為に防護壁を展開していたのが幸いしてか、会場は荒れていたが奇跡的な位に怪我人は少なかった。
「(一体、俺は何を召喚したんだ?)」
ドラゴンは俺の方をじっと見ている。彼なのか、彼女なのかも分からない
色々と考えることはあるが、まずは完遂させなければいけないことがある。俺は彼(便宜上、こう呼ぶ)の下へと駆け付けて、左前脚に手を翳した。
「(行けるか?)」
一応、相手にも断るという選択肢は残されている。暫くして、掌から腕にかけて突き抜けるような熱が走り、再度見れば契約の証と言える紋様が浮かんでいた。成立だ。
「よろしくな」
証が浮かんだということは俺をマスターとして認めてくれたということで。ならば、ドラゴン娘でなくともパートナーであることは変わりない。
俺は友好の証としてポンポンと左前脚を叩いた。モゾっと動いた。コレは向こうも何か返してくれるのだろうかと思った。
「ホギャアアアアアアアアアアア!!!」
吹っ飛ばされた。既に壁が無くなっていたことも相まって、景気よく外へと投げ出されていた。何処まで吹っ飛ばされるかと思ったけれど、幸いにして学園には巨大な防御壁が張り巡らされているので、そこで引っ掛かって止まった。
「(何も良くねぇ)」
衝突した瞬間。バリンと割れたのは自分の防御壁だと信じたい。
もしも、学園の設備を破損させていたら責任の追及を免れない。そのまま重力に従って地面に落ちたが激突するということは無かった。
「ギャッ!!」
先程吹っ飛ばされた狂信者達がいた。防御壁も張っていなかったのに生きているとは、とんでもなく頑強な連中である。
とは言え、ダメージが重大なのは俺もコイツらも変わりない。警護の者達が駆け付けて来る。コイツらの侵入を許した不手際は咎めたい気持ちが湧き上がっていたが、今は医療室に連れて行ってくれることを願って……意識を手放した。
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「君は実に興味深い。あの契約した魔獣が何者か? そして、契約の影響で君に何が起きているか」
テントの中で教授から熱弁されていた。相棒であるドラゴンが室内に入らない為、俺の方が部屋を出て行かざるを得なかった。
ひょっこり外に顔を出してみれば、俺の相棒は香箱の姿勢で寝ている。傍にはドンと聳え立つ排泄物。隣では教授が喜んでいる。
「おお! みたまえ! 排泄物だ! この魔獣の消化力! 体内の物質! 栄養が良い状態で残っていれば、魔道具の触媒として! あるいは農民共に堆肥として売り出せばいいか!」
すっかり麻痺してしまった嗅覚を他所に。俺は教授と一緒にコイツの排泄物を処理するために動き出していた。