俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
「今日も貴方は美しい」
歯の浮くようなセリフを真面目に言えるのは才能だと思う。まるで挨拶の様に言うのだから、本当に思っているんだろうとは感じるが。
もはや、フェルドがドラゴンの面倒を見るのは日常光景と化していたが、他にも変化は起きていた。
「カラバさん。これ……」
可愛がりタイムに入ったフェルドを放置して、ファヴから小さい壺を渡された。開けてみれば目と鼻が防衛反応を起こした。
中身を覗いてみれば粘着質な紫色の液体に満たされており、一切れのキャベツ、肉の破片、小麦のダマが浮かんでいる。
「なんだこれ」
「モンジャヤキ? って言うのを作ってみました。焼いたら食べられるかも……」
「食べられるかもってなんだ。食えない可能性の方が高いのか?」
壺からは刺激臭が溢れている。食ったらデッドエンドに直行しそうだが、とりあえずは受け取った。一連の遣り取りを見てシンキとハクテイが驚いていた。
「カラバ。ファヴちゃんと仲良くなっている」
「ファヴちゃん。カラバと仲良くなっている」
我も続けと言わんばかりに二人も距離を詰めようとしていたが、ファヴは威嚇していた。やはり初手のフェルドへの対応が壁を作っているらしい。
と言っても、現状は割と助かっている面もある。毎日の給仕と運搬が無くなったおかげで体は大分楽だし、クエストに関してもプレスの一件以来、学園から一つも回って来ない。
「(ドラゴンの戦力を出し惜しみする様にしたのか。あるいはもっと重大な案件を取って来ているか)」
どちらにせよ、俺には何も知らされていない。今の俺ができるのは、相棒を寝取ろうとする間男を妨害すること位なのだが。
「力という物が形を取れば、君の様な姿になるのだろうな」
当然だが、ドラゴンが人間の意思を汲み取ってくれる訳もない。
用が終われば、どっか行けと言わんばかりのDVぶりを発揮してくれるのだが、フェルドは特に気にもせず好き勝手にしている。
ある日は詩を詠んだり、ある日は絵を描いたり、ある時は添い寝をしようとして全員に止められていた。そして、今日はと言えば。
「カラバ君。先日はファヴニールが世話になったね。帰って来てから色々と話を聞いたよ」
俺の隣にいるファヴを一瞥する瞳は冷たい。なんだか、俺の間男ぶりが詰められている様な気がして気後れする部分が無い訳でもないが。
「ちょっとしたトラブルに巻き込まれたけれど、随分と頑張ってくれたよ」
「当然だ。その為のドラゴン娘だからね」
先程まで、ドラゴンと戯れていた年頃の男子はいない。俺がよく知っている『ジク・フェルド』がいた。彼の視線が壺へと移る。
「ファヴニール。それは何だ?」
「あの、これは……」
彼女の行動に問題が無いとは言わない。マスターに相談もなく譲渡することで起きるトラブルもあるだろうし、加えて、渡された物はどちらかという毒物に近い物だ。十分に咎められる理由になるが。
「俺が頼んだんだ。昨日の討伐任務で彼女の毒液が気になって組成を調べてみたいと思っていたからな。事前に許可を取らなくて申し訳ない」
「……友人であるから咎めはしないよ。ただ、僕にもマスターとしての立場があるんだ。次回からは許可を取ってくれ」
マスターがドラゴン娘を御せていないというのは体裁的にもよろしくはないし、こればかりはフェルドに迷惑を掛けたことになる。だから。
「分かった。今後、お互いのパートナーに対する接し方について相談したい。場所を変えて話さないか?」
「それは良い。お互いの誤解は少しでも減らせた方が良いからね」
2人でファヴに目配せをした。二人だけで会話をするから、お前は待っていろ。と、その場で棒立ちになった彼女の肩を叩く奴がまた二人。
「ファヴちゃん。仲よくしよう」
「ファヴちゃん。友達になろう」
「え……?」
去り際に見た彼女はいつもみたいに卑屈だったり、不安そうな物ではなく、割と真剣に嫌そうな顔をしていた。
――
「単刀直入に言おう。僕達はお互いのパートナーを交換するべきだ。全員が幸せになる最短のルートだと思わないか?」
一理ある。マスターとしての才覚と環境に恵まれたフェルドはドラゴンを従える存在に相応しい。だが、見方を変えれば。
「ファヴニールのことは良いのか?」
「僕に相応しくない。卑屈な上、汚らわしい毒竜だ」
マスターにあるまじき発言だ。原作では、コイツがどんなことを考えていたかなんて知る由も無かったが。
「じゃあ、なんでマスターなんかをしているんだ?」
「母上にやらされている」
この学園に通っている生徒は上から下まで家柄が良い。故に、大なり小なり親の言うことは強いという印象だが。
「父親から。ではなく?」
空気が変わった。いつもの気障っぽい態度が鳴りを潜め、溜息を吐いた。年恰好に合わない諦観があった。
「父上は何も関係していないよ」
「関係していないって。子供を名門の学園に通わせるんだぞ?」
「あの人は何も決めないからね」
単純に子供の将来を決めるというだけの話ではない。引いては、自分の社会的ステイタスにも関わって来るのだから、無関係でいられる訳が無い。
「何も決めないって。どういうことだ?」
「全ては母上が決める。父は従う。そして、影で文句を言う。あの家で一番、力を持っていたのは母上だった」
女系の一家や婿入りと言うこともあり得るだろうが、それだけの力を持つ女性と言えばすぐに結びつくものがあった。
「まさか、お前の母親はドラゴン娘か?」
「いいや。僕の母上はマスターだ」
ドラゴン娘をパートナーに持つ女性の結婚生活。なんて物は想像ができないが、普通とは言い難い物にはなるのだろう。
「家庭の方はどうだったんだ?」
「表向きは何も問題が無かったよ。ただ、母上は父上や僕よりも、ドラゴン娘と一緒にいる時間の方が長かった」
母親は家族よりもドラゴン娘の方を愛していたのか。真実は分からないが、フェルドがコンプレックスを抱くには十分すぎる環境だったのだろう。だが。
「意趣返しをするにしても、ファヴニールは関係ないだろう」
「だが、ドラゴン娘だ。それで十分だ」
刺激すると思ったので言わずにいた。お前がファヴニールにやっていることは、お前が母親にやられたことじゃないのか? と。
「……どうして、俺に接して来た?」
「邪竜信者を打ち破ったマスターのドラゴン娘がどんな物か気になったらしくてね。母上から調査して来いって言われたんだ。そこで見た物には驚いたよ」
ドン引きでも困惑でもない。あったのは大いなる力に対する畏敬と言った所か。
「彼は素晴らしい! マスターもドラゴン娘も人間のことも気にも留めていない。あの超然たる姿! 在り方! 誰もが目を向けずにはいられない!」
急にクネクネし始めた。ただ、何者にも縛られないドラゴンの姿に憧れるのは分からなくもない。分からなくもないのだが。
「アイツを手に入れた所で何か変わるのか?」
「……何が言いたい?」
俺もよく分かっていない。ドラゴンと言う力の象徴は誰もが欲しがる。そんなのは当然であるが。
「アイツがパートナーになったとしても、お前自身は何も変わらないだろ?」
「意味が分からない。あの強大な力が手に入ったら、全てが変わるさ」
「……どちらにせよ、契約の破棄とかはアイツにゆだねられているからな」
「そうかい。それは残念だ。お互い、合意した上で交換できると思っていたけど」
席を立ちあがる。ファヴや皆の所に戻って、適当な結論でまとめるとは思うが。
「(お前が本当に欲しいのはそんな物か?)」
本人に言った所で否定されるだけだろうから、俺もまた何気ない風を装って、皆が待つ学園の端っこへと戻って行った。
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