俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
邪竜信者と一言で言っても、活動内容は多岐に渡る。
近隣の村々への襲撃や略奪。あるいは、信者の勧誘などが大凡の活動であるが、中には特別な任務を与えられている者達もいる。
「まさか、学園の奴らもプレス様が捕縛された後に活動している団体があるとは夢にも思うまい」
「しかも、我々のボス。『ヒュプノー』様は狡猾にして残忍だ」
下っ端の邪竜信者が畏敬混じりに向ける視線の先には、件の男『ヒュプノー』がいた。彼の目の前には巨大な檻があった。
中には、数人のマスターとドラゴン娘がいたが彼らは一様にして首輪が付けられており、目の焦点も合っていない。
「コイツらを売り飛ばすぞ。ドラゴン娘なんて上物、欲しい奴は幾らでもいる」
容姿端麗で強大な力を持つ彼女らを欲しがる人間は後を絶たない。
この拠点で行われているのはマスターとドラゴン娘の人身売買だった。しかし、学園にも、国にも、誰にも存在を知られていない。ヒュプノーの目が妖しく光り、カチカチと牙を打ち鳴らしていた。
「お前達は奴隷だ。これから娼婦になるべく、売られて行くんだ」
「……はい」
彼の目に魅入られた物は、自らの意思を剥奪されたかのように言いなりになっていた。邪竜信者幹部『ヒュプノー』は恐るべき催眠術の遣い手であった。
この能力を用いて、近隣の村人達に食料等を貢がせ、されど困窮しない程度に絞り上げて、着実に成果を上げていたが。
「申し上げます!! プレス様や多数の拠点を潰して来た、例の魔獣が襲来しに来ました!!」
「……え?」
――
「ま、待て! 俺達は何もしていない! 邪竜信者ではあるが、何を信奉するかは自由だろう! 実害を出していないんだぞ!!」
「黙れ! 邪教を信奉している時点で、お前達も加害者だ! 言い訳がしたければ、連行された後にでもするんだな!」
フェルドが意気揚々と言っているが、弾圧が過ぎる。
しかし、国中に迷惑を掛けている邪竜を信奉している時点で糾弾されることは本人達も覚悟の上だから仕方ない。
「ウ”ゥ”ウ”ウ”ウ”~~!」
おまけに。門番として熊型の魔獣を飼っている所を見るに、疚しいことをしてそうな雰囲気がすごかった。
ドラゴンがボタボタと涎を垂らしていると、拠点の奥から大柄な男が出て来た。顔面が竜鱗に覆われ、収まりきらない牙が出ていた。恐らくだが、幹部級だ。
「おや、マギア学園の生徒さんですか。こんな所に何の御用ですか?」
「ここが邪竜信者の拠点となっていることを聞いてね。罪を告白するなら、僕も弁護しようじゃないか」
「困りましたね。信仰の自由は誰にでもあります。確かに、同胞の中には過ちを犯した者達もいるでしょうが、それは彼らだけが裁かれるべきです」
困ったな。正論だ。そもそも、邪竜信者の拠点だからって焼き払いに来た我々の方が横暴な訳で。
「いいや。隠し事をしているに決まっている! 監査に入らせて貰おうか!」
幾らなんでも見過ごせないと思い、呼び止めようとした所で大柄な男はフェルドの方を見ながら、牙を打ち鳴らしていた。
「おやめなさい。貴方の品性をも汚す行動ですよ。見なかったことにしますから」
「……そうだな。それもそうか。済まなかった」
やけにアッサリと引いた。それこそ不自然な位に。
この時、俺は原作の記憶を咄嗟に思い出した。エッチなブラゲーと言えば、寝取り以外にも必要な物がある。催眠だ。
「(と言うことは、コイツはヒュプノーか!!)」
バカみたいな案件で来たのにとんでもない大物と相対することになった。
だとしたら、無実な訳が無い。この拠点には囚われたマスターとドラゴン娘達がいるはずだ。
「(まさか、カンザキ教授はこの事を見越して……)」
とんだ慧眼の持ち主だ。どうやって中を探るかと考えていると、ヒュプノーがドラゴンの方を見上げていた。
「彼は貴方の魔獣ですか?」
「そうですね。大飯食らいで大変でね。その上、我がままと来た物で」
「ハハハ。手が掛かる子ほど可愛い物ですよ」
「本当にね。手を焼かされるんですよね。ハハハ」
ヒュプノーがカチカチと歯を打ち鳴らしている。催眠の動作に入っている。
ドラゴンの方に視線を投げて、頷いた。基本的に言うことは聞いてくれないが、それでも何となく伝わることはある。この合図は非常に単純な物だ。
「食え」
「グワァッ!!」
門番として構えていた熊型の魔獣に襲い掛かった。合わせて、近くにいた魔獣達も触発されて、あっと言う間に乱闘状態に突入した。
これで冤罪とか人違いだったらクビが飛ぶが、その場合はカンザキ教授に全部責任を背負って貰おう。……無理だとは思うが。
「クソッ。茶番か! お前達! やれ!」
このパターンになったら後はもう簡単だ。ドラゴンが暴れ散らかして終わるので、後方で待機。と行きたいのだが。
「(この拠点に捕まっている娘達がいるかもしれないから、雑に暴れさせるわけにはいかないんだよな)」
「う、うーん……」
ヒュプノーが注意を逸らした為か、フェルドも正気に戻っていた。そして、周りの光景を見てすぐに把握して、命令を下していた。
「さぁ! 快進撃だ! 僕達が正義の鉄槌を下す!! 蹂躙せよ!」
下手に慌てられるよりかはずっと良い。が、当然のことだがドラゴンが言うことを聞く訳もなく、襲い掛かって来る魔獣を蹴散らしては捕食するばかりだ。
その隙に邪竜信者達は蜘蛛の子を散らす様にして逃げ出していく。ドラゴンは人間に興味が無いので、進んで彼らを傷付けたりはしない。
「おい! 逃げているじゃないか!」
「フェルド! そんなの放っておけ! 俺達は拠点を潰しに来ただけだ! ハクテイ! ファヴ! 適当な大型の魔獣を捕まえといてくれ!」
「分かった」
「はい!」
パニックになってこっちに向かって来る猪型の魔獣が1体。
ハクテイの腕が伸びて鞭の様にしなり、打ち据えた後、ファヴが振り下ろした爪が魔獣の首を刎ねた。そのまま、担ぎ上げる。ドボドボと血がこぼれ続ける。
「なんでだよ! アイツらを逃がしたらまた、拠点を作るだろ! 逃がすんじゃない! トドメを刺すんだ!」
「フェルド様……」
フェルドの言うことはドラゴンには伝わらない。ファヴが心配そうにする中、俺は声を張り上げた。
「フェルド!」
「くっそ!!」
未だ、かつてない位の悪態を吐いていた。暴れるドラゴンを背景に俺達は拠点の奥地へと進む。
――
「お前達は避難するんだ。俺に着いて来い。そして、俺の逃亡を助けるんだ」
檻から出されたマスターとドラゴン娘達は胡乱な瞳のまま、ヒュプノーへと随伴する。この奴隷達だけでも拠点以上の価値がある。
「(俺の能力なら幾らでもやり直せる。いや、むしろ。あの魔獣から生き延びて建て直せば、箔が着くことすらありうる)」
邪竜信者の誰もが逃れられなかった魔獣から生き延び、もう一度勢力を築き上げる。その暁には、自分は不死鳥のあだ名でも授かるだろう。見事な手際で逃走経路を辿って行くが、出口に待ち構える者達がいた。
「そのマスター達とドラゴン娘に何をしたの?」
「その子達に何をしたの?」
全く、同じ容姿を持つ少女が二人。片方はマスターで片方はドラゴン娘だ。
「お前達! 俺を守れ!」
ヒュプノーの双眸が激しい光を放ち、牙が砕けんばかりに打ち鳴らしていた。
胡乱な表情のまま、首を装着したマスターとドラゴン娘達が彼を守るべく動く。そして、彼もまた仰々しいローブを脱ぎ捨てた。
「このヒュプノー様が、お前らの様なガキにやられると思うなよ!!」
「いいえ、終わりです」
バン! と、戦いの場に投げ込まれたのは頭部の無い魔獣の死体だった。と、同時に二人のマスターと一人のドラゴン娘が現れた。
「ふん。ちょうど良い。貴様らまとめて奴隷にして玩具にしてやる」
「残念だけど、これから玩具になるのはお前の方だ」
ドン。ドン。地鳴りが響いて来る。生存本能が全力で警鐘を鳴らしている。拠点を破壊しながら現れたのは、件の魔獣だった。
「何故ここに!? 表にいた魔獣共は!?」
「食い足りないだろうなと思って、1匹取っておいたんだよ」
投げ捨てられた魔獣(エサ)を食らうべく現れた魔獣は、操られたマスターとドラゴン娘達をいとも簡単に蹴散らしていた。
「俺が捕まると思うなよ!!!」
眼球が飛び出さんばかりに目を剥き、催眠光を放ったが、既に誰もいなかった。全員が退避していたのだ。残された魔獣は、食事の邪魔をする障害を羽虫の様に払い除けていた。
――
「大丈夫。マスターとドラゴン娘達はなんとかなる。怪我はしているけれど」
「これ位なら、学園で治療をすれば何とかなる」
シンキ達の診察に溜息を洩らした。これでもしも死んだりされていたら、俺も責任に問われる所だった。結果を見れば、捕まっていた人間も開放して、邪竜信者の幹部も捕まえたと大戦果を挙げたと言える。
ドラゴンも散々に捕食できて満足したのか、早く帰りたそうにしていた。彼の足元にはフェルドとファヴの姿。
「フェルド様?」
「どうしてだよ……」
ファヴが心配そうに手を伸ばしたが、フェルドは払い除けていた。
「うるさい! どうせ、お前も僕のことなんかどうでも良いんだろう!?」
「そんな。私……」
「おい、フェルド。そんな言い方は無いだろう!」
「お前らもどうせ僕のことをバカにしているんだろう! そいつが欲しければくれてやる!」
あまりに急に癇癪を起されたので、俺も戸惑っている。まさか、ドラゴンが言うことを聞いてくれなかっただけでここまで怒るのか? ……さすがにそれだけではないと思うが。
呼び止めようとしたが、制止を聞く間もなくフェルドは1人でどこかへと言ってしまった。俺達が戸惑っていると、何の気なしにシンキ達は言った。
「私達も帰ろう」
「そうしよう」
「ちょっと、薄情過ぎないか?」
「いいの。そっとしておこう」
「そうしよう。頭冷やす時間も必要」
そう言われたら、そうだが……。折角、幹部を捕まえたというのにスッキリしない。ファヴの方を見れば、緊張で完全に固まっていた。
「……なんで?」
それは俺も聞きたい。ドラゴンの尻尾にロープを括りつけて、ヒュプノー達を連行しに行く間、俺達に会話らしい会話は無かった。
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