俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
「なんで、カンザキの奴らに協力して貰っているの?」
ヤウナー教授が恨みがましく俺の方を見ている。
今回の件は思ったより大事になったので、カンザキ教授に報酬を吹っ掛けて、世話や観察も含めて、向こうの研究室に丸投げしたのが気に食わないらしい。
「そういうのは専門家に任せといた方がよくないですか?」
「いいや、良くないよ。これでアイツらに研究成果を取られたらどうするんだい。私の方に回ってくるはずだった予算が取られるんだよ?」
「また、コイツのウンコを売れば良いじゃないですか」
今日は久々に台車に乗せて来た残飯を上げている。
久々に顔を出したら『ごみ処理の手間と金が浮くから、急に止めないでくれ』と言われた。前世でいう所のエコってやつか。
「ア”ッ!!」
当然の如く、ドラゴンはお怒りだった。だが、地面をバンバン叩きながらも食ってくれる所を見るに、案外面倒臭くない奴なのかもしれない。
「(裏を返せば。今まで、上等な食事を用意していたのも無駄だったんだよな)」
残飯と大差がなかったということを知ったら、アイツはどう思うだろうか?
いつもの様にヤウナー教授が排泄物を採取しようとしていると、ゾロゾロと訪れるカンザキ教授と学生一団。多分、ゼミの生徒かな?
「やぁ、カラバ君! ここでは超良質な肥料が取れるらしいね! 植物学の研究室に分けて欲しいんだけれど!」
「は???」
ヤウナー教授の目が言っている。これはどういう事だね? と。
「キャベツ型魔獣の下りを話しただけですけれど」
「人の研究を流出させるんじゃないよ!!」
ちょっと知識を借りに行っただけでこんなことになるなんて。ガクガクと揺さぶられる位に詰められているが、カンザキ教授が彼女の肩を叩く。
「なぁに。ヤウナーが発見したことにして、私達が共同研究を進めよう」
「何が共同だ! どうせ、お前らが根こそぎ持って行くだけだろ!」
早速、カンザキ教授のゼミ生達が排泄物を採取して、よく分からない機材に掛けている。結果が出る度『おお』という感嘆の声が漏れている。
「カラバ君。よければ、植物学の研究室に来ない?」
「考えておきます」
研究室の生徒達からも優しい言葉と共に勧誘を受けるが、彼らが俺の背後にいるドラゴンしか見ていないことは流石に分かる。ヤウナー教授が間に入った。
「何を言っているんだ! 彼は私の研究室に来ることになっているんだぞ!」
「初めて聞きました。そもそも、先生の研究室の専攻って?」
なんか色々とやっている人という印象しかないのだが、実際は何をしている人なのだろうか?
「『環境・異種生態学』だ。ざっくり言うと、魔獣や原生生物の生態の研究に加え、彼らが環境に及ぼす影響を研究している」
「いつも暇しているだけの人じゃなかったんですね」
「君は失礼な奴だな」
それっぽいワードが出て来た。なるほど、そういうことならドラゴンに興味を持つのはおかしくない。のだが。
「何故、この学園に?」
この学園は主にドラゴン娘に関する研究をする機関なので、ヤウナー教授の専攻からはズレている気がする。
「何を言っているんだい。ドラゴン娘だって異種生態だろ? あくまで人間っぽくて、人間と繁殖できるってだけで」
「……今の持説。絶対にドラゴン娘達やシンキには言わないで下さいね」
そういう意味で考えれば、彼女はこの学園に相応しい教授だ。支持されるかどうかは別として。
「だから、お前の研究室には学生がいないんだよ」
「いいや、この学園が学問に励むための機関であれば誰かしらは来るはずだ。どの学生もドラゴン娘と乳繰り合うことに夢中になってはいるが」
ギャースカ、ギャースカ教授同士が言い争いを始めたのでテントの方に避難した。昨日の疲れもあってシンキ達は来ていないけれど、気になるのはもう一方のペアだ。
「(フェルド達の奴、どうしているんだろうか)」
ドラゴンが言うことを聞いてくれなかったことで自尊心を傷つけられたと思ったのか。もっと別の理由があるのか。……ただ、放置することはできない。
「(原作と流れは違うが、辿っているルートは同じだ。このままだと暴走して、敵対するハメになる)」
その場合、仲良くなっているファヴだけ助け出してフェルドは諦めるという選択を取るのか。パートナーである彼女が納得するとは思えないし何より。
「(フェルドはそんなに嫌な奴だったか?)」
原作だと、寝取り役を強調する為にそう言った面がフォーカスされがちだったが、実際のアイツはどうだったか?
ドラゴン相手に歯に浮くようなセリフを言って、ご馳走やら詩やらを振舞って。バカみたいな奴だったけど、家族のことを話す時は人が変わった様にして達観していた。……ファヴの言葉を思い出す。
『どんな所が似ていると思ったんだ?』
『寂しそうな所』
アイツと過ごして来たつもりだったけれど、俺もアイツのことを『寝取り役のキャラクター』としてしか、見ていなかったんじゃないだろうか?
「と言う訳で! 植物学の研究室に来れば、将来的にも良いことが沢山あるんだ! 来たくなっただろう!」
「何を言っているんだ! 学問は短絡的な利益の為だけではなく、人間が持つ知識への探求という崇高な目的のために!!」
なるほど。今、ちょうど似たような気分を体験していた。求められているドラゴンの方はと言うと、退屈そうにあくびしていた。
――
『ジーク・フェルド。例の魔獣を手に入れる。もしくは、始末する算段は付いたのか?』
フェルドは水晶の前に跪いていた。言われた課題は何一つとして達成される見込みはなく、虚偽を述べるのはもってのほかだった。
「例え、マスターを殺害しても奪える確証は無く、始末するのは不可能です」
『何一つとして成果は無いということか。もういい、お前には何も期待しない』
「お、お待ちください!」
処罰すらされない。完全に見放されることは耐え難い苦痛だった。
パートナーであるファヴニールはマスターであるフェルドのことを見守っている。いつもの様に諦観に染まった物ではなく、決意を秘めた目で。
『下らぬ案であれば、相応の対価を支払って貰う』
「マスターを直接拉致するのです! 前回の作戦時、従っているとは言い難くはありましたが、付いては来ていました!」
『あの魔獣を抑えて、か?』
拉致をするにしても、防衛のために動く可能性は十分に高い。苦し紛れの提案として終わるかと思われたが。
「主様。私に力を与えて頂ければ、件の魔獣を抑えるために動きましょう」
『貴様が? どういう風の吹き回しだ』
邪竜信者の多くはドラゴン娘を憎み、あるいは蔑んでいる。フェルドからの命令でもない限り、協力することはあり得ないと考えていた。加えて。
『聞けば、貴様は件の男とも良好な関係であるそうだな?』
「はい。カラバさんと過ごして……少しだけ、分かった気がするんです」
ギリリ、とフェルドが歯ぎしりした。だが、次に彼女から放たれた言葉に目を見開いた。
「だから、私は自身の考えでフェルド様を支えたいのです」
『……忌々しい。良いだろう。お前に力を貸し与えてやる。ドラゴン娘であるならばよく馴染むだろう』
変化は直ぐに訪れた。ファヴニールに大量の魔力が注ぎ込まれ、全身を覆う竜鱗が赤黒く染まり、体躯も巨大化していく。
「お前、なんで」
「フェルド様。……私は貴方を助けたいんです」
自分に従うだけの卑屈な存在だと、忌々しいドラゴン娘だと足蹴にしていた。優越感を覚えていた。
実際は違った。彼女は自分よりも先に進んでいた。今までの連中みたいに置いて行くのではなく、自分の手を引こうとしていた。
「待っ」
フェルドもまた手を伸ばそうとした。ファヴニールは静かに笑って、窓を蹴破って外へと出た。間もなく、学園に暴風が吹き荒れようとしていた。