俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
普段なら日中の疲れもあって寝ていることが多いのだが、ドラゴン以外の気配を感じて目を覚ました。テントの外に出れば異常事態が起きていることは直ぐに分かった。
「……ファヴ?」
ドラゴン娘がいる。パッと見はファヴなのだが明らかに違う。
全身を追う竜鱗はどす黒く変色していたし、何より彼女の体躯が肥大化している。血走った眼が俺を捉えていた。
確信は無いが、とある可能性に思い当った。『ヴァルザイア』から力を受け取り、俺達を襲撃に来た。と。
「カラバ、さん」
「フェルドはどうした。何があった?」
まさか、先日のヒュプノーの件がトリガーになったのか。一回の失敗で行動を起こす位に、アイツは追い詰められていたのか?
「私が、フェルド様を助けるん。です」
「……え?」
肝心のアイツの姿がどこにもない。原作では、彼も邪竜の力を受け取り、主人公を殺しに来るのだが。
「(ファヴニール自身が、こんなに変化するイベントでは無かった)」
パートナーである彼女も受け取った力の余波で、多少の強化はされるが、見た目はあまり変わらなかったハズだが。
会話をしている間にも彼女の姿が肥大化していく。それに伴い、全身を覆う竜鱗の密度は上がって行く。いや、彼女自身が竜鱗で埋め尽くされて行く。
「嘘だろ……」
キャベツ型魔獣と戦った時と同じく、四肢を使って地面を掴むような態勢だが、全身が竜鱗で覆われ 最後まで残っていた人間の顔さえも鱗で覆われていく。
それだけには留まらず、更に積み重ねられ、拡張され、顎(アギト)を備えたもう一つ頭部が生み出されていた。――見た目は完全にドラゴンだった。
「ガァアアアアア!」
俺の掌に薄っすらと浮かんでいた紋様が激しい光を放つ。と、同時に全身に灼ける様な痛みが走る。
ドラゴンは俺に起きた事態なんて気にしてもいない。全身が巨大に膨れ上がり、普段は閉じている両翼を展開して飛翔した。
「(あ、死んだ)」
その余波だけで地上にあったテントや木々が吹き飛び、俺も吹き飛ばされそうになったので防御壁を展開したが。
「(何だ、これ?)」
普段とは比べ物にならない強度と範囲の物が出現した。何度もバウンドしたのに、俺自身には怪我の一つもない。安心している場合じゃない。
朦朧とする意識の中、自身にバフを掛けて走る。奇妙な話だが、頭は重いのに、全身は羽の様に軽い。飛ぶ様な勢いで、目的地へと向かった。
――
「何が起きている!?」
学園側としても、一生徒が所持している巨大魔獣の存在は把握していたが、新たな個体が出現するとは想像もしていなかった。
「まさか、件の魔獣を狙って外から!?」
「いや、学園の警備網には何の反応も無かった!」
「まずは、生徒達の安全確保を! 学園全体の防御壁構築式を緊急事態用に切り替え、学生達がいる建物限定に範囲を縮小、硬度強化に!」
彼らの動きは早かった。呪文を得手としている教授達は直ぐに学園全体を覆う防御壁の術式を展開したまま、緊急事態用に適応させていく。
それ以外の教授達は直ぐに、学園に取り付けられた連絡用の金属管を用いて避難放送を入れて行く。
『生徒達は屋外に避難せず、安全が確保できるまで建物内に! 窓には絶対に近付かないで下さい!』
―
夜の学園が騒がしくなる中、ヤウナー教授の研究室に駆け込んで来る者が二人。シンキとハクテイだ。
「教授! カラバはどこ!?」
「私も事態の把握をしきれていない。君達は、この研究室に待機しているんだ。何、大講堂と同じ位の強度はある」
「待って。それじゃあ、カラバはどうなるの?」
こんな大規模の戦いを起こせる存在は、この学園に1体しかいない。
彼が本気で応戦する程の事態になったということは、巻き添えも避けられない訳で。あまりに簡単に導き出せる結論に三人が押し黙っていると。
「勝手に殺さないでくれ……」
「カラバ!」「カラバ!?」
「生きていたのかい!」
全員が胸を撫で下ろしたのも束の間、彼に異常が起きていることが明らかだった。マスターとドラゴン娘の契約の証である紋様が、顔面を含む全身に浮かび上がっていた。
「なにが起きているんだい?」
「俺も分からない。ただ、俺は無事だってことを伝えときたかったんです」
3人の顔を見て安堵したカラバは、そのまま研究室から出て行こうとするが、彼のシンキとハクテイが腕を掴んだ。
「どこに行くの?」
「何をしに行くの?」
「……ファヴを。止めに行くんだ」
信じられないことが起きていた。ハクテイが引き留めようとしていたが、止められない。力で抑えることができない。
「ハクテイ君。手を離したまえ」
自分に理解を示してくれたのだと。カラバが気を緩めた一瞬、ヤウナーは彼の口に何かを染み込ませたガーゼを押し当てていた。
「!?」
「ハクテイ君。彼を押さえ込んで!」
何かの薬品を染み込ませていたのか。カラバの意識が遠のき、ハクテイが抑え込む。シンキは戸惑っていた。
「教授……?」
「何故、生徒を見殺しにする必要がある?」
恨まれてでも止める気でいるらしい。だが、薬が効くよりも先にカラバは2人を振り解いていた。
信じられないスピードで研究室から飛び出し、瞬く間に姿を消した。呆然とする3人だったが、シンキが言った。
「カラバ、ファヴのことを止めに行くって言った」
「じゃあ、フェルドが?」
「問い詰めに行こう」
「待ちたまえ。勝手な行動はするな! ああ! もう! 君達と言う奴は!!」
ヤウナーの叫びも空しく、シンキとハクテイは研究室から飛び出して行った。そんな彼女達に少し遅れる様にして、ヤウナーも後を追った。
――
駆ける。駆ける。まるで、俺が俺でなくなった様な感覚だ。光に誘われる虫の様に、俺は表へと飛び出す。学園の外には破壊が吹き荒れていた。
「ギギャアアアアアア!」
「グガァアアアア!」
地を這う竜。アレはファヴだろうか? 彼女は放水するかのように大量の毒液を、宙に浮かぶドラゴンに向かって放っていた。
対して、アイツはいつもみたいに火球を吐き出すのではなく、吐息の様に火炎を吐き出していた。いわゆる『ブレス』という奴だろうか。
「(おいおい。いつから、ドラマギはエッチな学園ゲーからハンティングゲーみたいになったんだ?)」
本能が警鐘を鳴らしているって言うのに、こんな軽口が出てくる辺り。俺もおかしくなっているのだろう。
火炎は毒液を焼き払い、ついでにファヴも焼いていた。だが、表面の鱗が剥がれ落ちるだけで本体には届いていない様に見えた。
「ガァッ!!」
毒液を吐いて直ぐ、彼女は尻尾を振るった。生え変わったばかりの無数の鱗が手裏剣の様に放たれ、ドラゴンの翼膜を貫いた。この世界に置いて、アイツにまともなダメージが入ったのは始めてじゃないだろうか。
浮かんでいられなくなったのか地上に降りて来たのを見計らって、ファヴが肉薄して大口を開けて噛みついた。ここから何が起きるかを俺は知っている。一度見てきたからだ。ならば。
「させるか!!」
防御壁の呪文を唱える。だが、ドラゴンに対してではなく。ファヴの顔面部分を覆う様にして展開した。
内部が毒液で満たされ、溺れさせられるかと思ったが、防御壁はあっと言う間に溶かされたが、ドラゴンの体内に注がれるのを防げた。
アイツの体に飛び乗った。俺の全身に浮かんでいる紋様が更に強く、赤く、光を放つ。焼け付く様な痛みが和らいだ気がした。
「(ファヴ……)」
倒す為ではない。俺が知っているファヴは破壊を撒き散らす怪物などではない。少し卑屈だけど、笑いもすれば、誰かを思える優しい娘だ。
フェルドの差し金か。あるいは、ヴァルザイアが直接手を下したかは分からない。だけど、今は彼女を止める。いや、止めたい。
「力を。貸してくれ」
今まで、頼んだところで受け入れられることは無かったし、こっちが誘導する位しか無かった。いつものように無視されるかと思ったが。
『来い』
脳内に直接響いた声は、男性の物とも女性の物とも言えなかった。ドラゴンが俺を一瞥していた。杖を握る手に力が入った。