俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
依頼を遂行するために学園を空ける必要がありそうなのだが、問題があった。ドラゴンの世話についてだ。
フェルド達に頼もうかと思ったが、立場的に難しい物があるだろう。加えて、俺の交友範囲は狭い。頼める相手がいるとすれば。
「それで、私達に頼むと?」
「カンザキ教授しか頼れる相手がいないんです。アイツの肥料とか色々と貰っていますよね?」
植物学研究室くらいしかいない。そもそも彼女が出した依頼が、ヒュプノー討伐に発展し、回り回ってこうなっているのだから。
「冗談じゃない。あんな化け物の世話なんて、命が幾らあっても足りない!」
感覚がマヒしていたが、普通の人達からすればドラゴンは学園に破壊を撒き散らした張本人であり、得体のしれない怪物なのだ。
「あ、あれだけアイツの堆肥やら何やらを利用していたのに」
「だって、世話とか面倒なことは全部君がやってくれていたし……」
道理だ。だが、諦める訳にはいかない。誰もアイツの世話をしなければ癇癪を起しかねないからだ。ならば。
「では、教授の裁量でフェルド達の奴を世話役に起用することは?」
「保護観察処分中の彼らを?」
今の二人は、一学生である自分にはどうにかできる立場には無いが、教授ならばどうにか……と思って気付いた。
「(アレ? ヤウナー教授に頼めば良いんじゃね?)」
「ちなみにヤウナーの立場じゃ、あの二人を借りて来るのは無理だぞ」
「普段から積み立てといて! 学園内での立場!」
そういうのに執心しているヤウナー教授も解釈違いではあるが、こういった時に困る。カンザキ教授からスクロールを渡された。
「人に頼むときは、タダではいかない。というのは分かっているな?」
依頼の為に依頼を遂行するというのは、オープンワールド系にありがちな『おつかい』を彷彿とさせる所だが、貸し借りを意識しなくて良いので楽だ。
「ゲヘヘヘ。カンザキ教授、今日はどこの農地拡大に乗り出しますか? 食い溜めもさせたいので、適当な所を襲撃しましょうや」
「お前は、私が地上げ屋かなんかだと思っているのか? 依頼だよ。ウチが管理しているリンゴ果樹園で起きている異変の解決」
この世界にも地上げ屋って概念があるんだ。というのは、一旦置いといて。
「病気とか害虫とかの関係ではなく?」
「それなら、研究生に任せればいい。お前の相棒君の肥料を使って問題が起きそうになっている。そういうことだ」
「これ、もしかして。ヤウナー教授が売り歩いた分、俺が討伐に出掛けなきゃいけない奴?」
「予行演習に良いかもな」
優しく肩を叩かれた。だけど、きっとアイツの肥料は便利過ぎて使用をやめるとかできないんだろうな。そんな予感はしつつ、俺はシンキ達に協力を取り付けに行った。
――
「久々に三人」
「久しぶりかも」
「大体、ヤウナー教授やフェルド達がいたからな」
あの居住スペースに新たなる仲間が! みたいな展開が起きるとしたら、次はどんな奴が来るんだろうかとか。余計な考えは一旦置いといて。
「カラバの両親ってどんな人?」
「また、急な質問を」
「この間『家名に泥を塗る』ってことを気にしていたから」
シンキからこんな質問が飛んで来るとは意外だった。いつもは復唱しているハクテイも静かに見守っている。
「立派な人達だよ。父さんは物静かだけど思慮深い人で、母さんも明るくて優しい人だよ。俺を学園に通わせるだけの甲斐性もあって、作法や勉強も色々と教えてくれた。尊敬している」
「……なんか違う」
嘘は一切言っていない。両親が立派であり、人格的にも社会的にも尊敬できる人だっていうのは本当だ。
「違うって?」
「なんだか、預けられた親戚の人の話みたい」
一瞬、心臓が止まりそうになった。彼女の指摘は間違っていない。
俺が話したのは『カラバ・イルマイト』としての両親だ。だが、こうして記憶も人格も形成されている上での転生となれば、真の意味で生みの親とは言い難い部分もある。
「どうして、そう思うんだ?」
「私と似ているから」
結構デリケートな話に入って来た。最近はフェルドの件と言い、誰かの生い立ちに立ち入ることが増えた気がする。
「シンキはどうなんだ?」
「叔父さんの家で育った。良い人だった。本当の両親は知らないけれど、お母さんにだけは会ってみたい」
「どうして?」
「優しい人。だったらしいから」
ハクテイの方を見た。彼女もまたシンキを見た。引き取ってくれた、叔父さんが良い人だったことは幸いだ。ただ、気になることがあるとすれば。
「もしかして、お前のドラゴン娘に対するスタンスは叔父さんから?」
「うん。ドラゴン娘の水着大会とか競技大会に連れて行ってもらったし、握手したこともある」
原作でもそういうイベントはあったが、あの大量にいたモブ達の中にシンキと彼女の叔父さんがいたことを考えると世界の狭さを実感する。とか、他愛のない話をしていると件の場所へと着いたのだが。
「カラバ君! 早速だけど、助けてくれ!!」
果樹園に辿り着くや、いきなり助けを求められた。慌てる研究生に着いて行けば、研究生とドラゴン娘達が必死で応戦していた。
「カラバ」
「アレは何?」
シンキとハクテイが指差した先。人間サイズに肥大化したリンゴボディから果肉で作られた直立歩行用に手足を生やした魔獣がいた。きもい。
「マスター! コイツ、強いって!!」
研究生とドラゴン娘達が応戦するが、見た目とは裏腹に俊敏な上に硬いのか。物理攻撃も、彼女らの属性毎のブレスも効かない。
「そ、そうか―ッ!! リンゴの表面を覆うワックスが空気摩擦の抵抗を減らし、俊敏さだけではなくブレスへの抵抗力をも生んでいるんだーッ!!」
「なんて冷静かつ的確な分析力なの! マスター!」
眼鏡を掛けた女子研究生がお手本にしたくなる位のデータキャラをしていた。直後に彼女のパートナーらしきドラゴン娘がぶっ飛ばされていた。
……キャベツ型魔獣と違って、今回はスピードタイプの魔獣だ。シンキと同時にバフを掛けて、ハクテイの動きを強化する。
「駄目。殴ろうとして表面が滑る」
「カラバ。どうする?」
「硬いんじゃなくて、ずらされるのか」
ハクテイの腕が伸び、鞭の様に撓って相手を打ち付けようとするが上手くいかずにスルリと抜けて行く様な感じだった。あの魔獣も意識している訳じゃないのだが、体質が自然に受け流しをさせるのだろう。
「動きを封じられるか?」
「ハクテイ! 魔獣の動きを封じて!」
「分かった!」
彼女の腕が伸び、リンゴ型魔獣の股下や腕の下を通り雁字搦めに拘束していた。だが、この状態ではお互いに身動きが取れないし、他のドラゴン娘達に攻撃させてもフレンドリファイヤを招く可能性がある。
「シンキ。カラバ。どうすれば?」
「食べよう!」「食べちゃおう」
言葉を聞いた瞬間、リンゴ型魔獣も動きが止まった。
魔獣のヘタが1回転してハクテイを見た……様な気がした。何となく、こう言っている気がした。『まさか、本当に食ったりしないよな?』
「頂きます」
シャリシャリ。捕食と言う最も原始的な攻撃方法でリンゴ型魔獣は討ち取られた。そして、恒例のドロップ品と言わんばかりに巨大な種が現れた。
「助かった! ありがとう!!」
研究生達は感謝を述べ、出現した種の分析やら何やらを始めたが、俺達には関係ない。さっさと帰ろうとした所で、シンキに止められた。
「ダメ。ハクテイの体を拭かないと」
「美味しかった」
信じ難いことだが、あの見た目でも魔獣の中身はちゃんとリンゴだったらしく、ハクテイの体は果汁に塗れてベチャベチャだった。
汲んで来た水でタオルを濡らして、甲斐甲斐しく彼女の体を拭く姿はまるで双子の姉妹のようだと思った。