俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
契約の儀が執り行われてから数日。学園内では学生とドラゴン娘達の初々しかったり、甘酸っぱかったりする様相が呈されている中。俺はと言えば。
「はいよ。残飯はあっちにまとめているよ」
「助かる」
二束三文で調理場から出た残飯を回収していた。コレは決して俺が食う為ではない。俺が食われない様にする為の物だ。
チラリと覗いた食堂では、ドラゴン娘とマスター達が同じテーブルについてワイワイと食事を楽しんでいる様子が見えた。キレそう。
「(どいつもコイツも甘酸っぱい時間を堪能しやがって。こちとら酸っぱいのは胃だけだというのに!)」
台車に残飯の入ったバケツを乗せて学園を横断する俺は、間違いなく同学年一惨めな男だろう。当然ながら、すれ違う生徒達からは怪訝な目を向けられ、何も知らない無垢なドラゴン娘達は指差して言うのだ。
「アレ、何してんのー?」
「見るな!!」
酷過ぎる。だが、覚悟するがいい。学年一のマスターを決める催しが開かれた際にはR-18でGな目に遭わせてやる。
「イヤァ。邪悪が隠し切れないねェ」
ゴミ箱に入ったご馳走をウーバーしていると、いつの間にか隣には教授の姿。
薄汚れた白衣を身に纏い、いつも薄笑いを浮かべている彼女は学園一の変人であり、ドラクロでも強化画面でしょっちゅう目にする存在。
「『ヤウナー』教授。手伝って貰えませんか?」
「こんなか弱い女性に手伝わせるってのかい!」
周囲に聞こえる様に仰々しく驚いてみせた。当然の様に周りから『うわぁ……』みたいな目で見られた。いったい、俺が何をしたって言うんだ。
仕方なく1人で台車を押し続けているのだが、その間も教授はずっと纏わりついて話し続けていた。
「この学園の歴史をも紐解いても。ドラゴン娘以外が召喚されたという記録は残っていなかった。校長や教授達も今回の事態をどうするかということで日夜協議が続いていてね。そ・れ・で! 事態の解明の為に私が派遣された訳だ!」
「なんと、聞いて驚くなかれ! あの魔獣! ああ、君的に言うとドラゴン。か? 彼の消化力はすさまじくどんな毒物でも有害物質でも無害化できる程に強力だ。実は、私が彼に上げた食料の中には特定の手順を踏まないと廃棄できない物もあったんだが、糞便を調べた所。残留毒素は無かった! この時点で私は最高の処分場を確保できたわけだ!」
「加えて、彼の体内における魔力(マナ)は極めて潤沢で、糞便に残った分でも上質な物になり得る! 劇物も処理できる上、素材まで生み出してくれるなんて。君はいつの間に錬金術師になったんだい!?」
「うるせェ!!」
ゲーム内では面倒くさそうにドラゴン娘達を強化してくれるのだが、今の彼女遠足前の子供めいてハイテンションだった。
「はしゃぎたくもなるだろう! ガキ同士が乳繰り合っている様なんて見飽きているからね!」
「テーマ全否定~~!」
そりゃキャラの数だけベッドシーンがある学園物となれば、在籍している教授達は見飽きているだろう。ここは勉学に励む場所であって、お見合い会場ではない。それと聞き逃せないことが一つ。
「結局、学園側は俺達をどういう風に取り扱うつもりなんですか?」
「分からない。というのが現状だ。早急に決断、採択って言うのは役所のすることだよ。この学園はより良い選択を探求する場所だからね」
追放されずにホッとした。外の世界でも生きていけそうな気はするが、この学園に通わせてくれている両親の顔に泥を塗らずに済んだ。
「でも、コイツについて何か分かりそうです」
キュっと台車を止めた。食事が運ばれたことを察したのかパチリと目を開けて、こっちの方を見ている。口を大きく開けた。食わせろと言うことらしい。
「これも一種のあ~んなんだよなぁ!」
スコップを使って、持って来た残飯をドラゴンの口へと放り込んで行く。
爪楊枝が刺さっていたり、ぐちゃぐちゃになっていたり、腐っていたり。人間に回せない分の残飯でもコイツには関係なく消化できるらしい。
ただ、この作業は本当にキツイ。まず当然の様に残飯の臭いが鼻腔に入り込んで来るし、目の前にいる奴の口臭もキツイ。
「(だからと言って、雑に上げてはいけない)」
一度、このスコップをコイツの歯にぶつけた所。威嚇されて心臓が止まりそうになったことがあるので、丁寧に召し上がっていただく必要がある。
「そんなに給餌が嫌なら、目の前に餌をぶちまけたら?」
「一緒に心臓止まる覚悟あるならやっていいですよ」
「遠慮しておくよ」
スコップの先端から伝わるネチャっとした感覚はいつまで経っても慣れそうにない。コレを繰り返すこと数時間ほど。空になったゴミ箱を水で濯いで、貯まった水をコイツの口へと放り込む。
「フルコースだね。じゃあ、次は私の番だね」
一連の遣り取りを終えた後は、ヤウナー教授と一緒に生態調査を始める。ここ数日で幾らか分かったことがある。
「まず、体表を覆っている鱗だけれど。コレはドラゴン娘達の物とは明らかに違っている。それと既存のどの生物とも違うね」
そもそもの話。ドラゴンなんて物は空想の産物であり、名前や存在を知っていたとしても本物かどうかなんて見分けることもできない。……それよりも先に知りたい事として。
「コイツは人間になったりとかするのか?」
「知らない。どうやって確認するんだよ」
実は擬人化したらちゃんとドラゴン娘と言う甘えは許してくれなかった。分かったこともあったが、圧倒的に分からないことの方が多い。とりあえず、俺のことを食おうとする気が無いことが分かったのは幸いであるが。
「やはり、彼のことを理解するためには従えて動かしてみることも必要だと思う。いつまでもタダ飯食らいをさせても、君が消耗していくばかりだろうし」
ここに来て、始めて気遣いみたいなものが見えた気がする。
実益も兼ねた物であるのだろうが、実際。コイツの食費と日々費やされる労働力は馬鹿にならない。
「と言うことは……」
「そう。コレは君達を確かめる試験でもある。カラバ君がドラゴン君を制御できているのか。学園に舞い込む依頼をこなして、示して欲しい」
戦力になり得る存在をいつまでも遊ばせておくつもりはないということか。
ゲームでもお馴染みの『クエスト』だが、どんな依頼か。と、渡されたスクロールに書かれていた内容を見る。非常に単純な物だ。
「邪竜信者の拠点を制圧して欲しい。ここの学生達は騎士団のメンバーか何かと思われている?」
「それだけ邪竜信者達が脅威だってことさ。中には捕まって……みたいなこともあるんだけれど」
預かった子達に少年兵させるんじゃねぇ。とは思うのだが、こういった学園物で青少年達が討伐に行って名を上げるのが誉となっている。という感覚はどうにも慣れそうにない。
「君達にはそう言う心配も無いだろう」
「どうでしょうかね?」
2人してドラゴンを見上げた。……コイツを捕まえられる奴が出て来るのはブラゲーではなく、アクションゲーだと思う。
――
「よっし! 近くの村の奴に依頼を出させたな!」
ここは邪竜信者達による拠点にあるテント。。近くの村々から略奪と脅迫を繰り返しながら規模を拡大させており、監視対象にも置かれている危険な場所だ。
「へい! やって来た連中を返り討ちにしてやりましょうや!」
信者達は邪竜からの力を授かっており、体の一部には竜鱗が浮かんでいた。
特に頭領と思しき男性は両腕の部分にまで竜燐が浮かんでおり、授かった力の大きさが現れていた。
「その上、大金を叩いて危険な魔獣も買ったんだ! 奴らに八つ裂きにさせるのもいいかもな!」
下卑た笑いがテント内を埋め尽くしていると、慌てて駆け込んで来る信者が1人。全身ボロボロだった。
「申し上げます! ヤバい魔獣に襲撃されています!」
全員が慌ててテントの外に出れば、大枚叩いて買った魔獣を食い散らかしていく魔獣が1体。拠点の施設や牢を破壊しつくし、ついでに信者達も戯れに吹っ飛ばしていた。
「制圧!! お前がやるのは破壊の限りを尽くすんじゃなくて! 制圧!!」
「ホンギャアアアアアアアア!!!」
隣にいる青年が必死に訴えているが、まるで言うことを聞く気が無さそうだった。あの化け物が相手なら無理でも、マスターっぽい? あの男を何とかすれば行けるのではないか?
そう考えたのはテントにいた者達だけではなく、警備に当たっていた魔獣も同じだったのだろう。
「シャアアアア!」
「うわぁああああ!?」
その内の1頭。狼型の魔獣が青年に飛び掛かり、見事に腕へと嚙みついた! が、盛大に嘔吐して倒れた。青年は自分の袖に鼻を当てていた。
「そんなに臭いのか……」
うなだれる彼を他所に。横にいる魔獣の怒りに触れたのか大口を開けて、咆哮を上げていた。
「―――!!」
「耳割れる!! 耳割れる!!」
それでも化け物の気は収まらなかったのか。癇癪を起して近くのテントに向かって火球を放ち始めた。拠点を燃やすついでに、住民達から奪った資源にも引火していた。
「待て! 待て! それは燃やすな!」
「ホンギャアアアアアアアア!!」
間一髪で逃げおおせた悪党たちは遠目に見た。
燃え盛る拠点に蓄えた略奪品に回った火だけ消火して、自分達が活動していた後だけが消されて行く。冷酷に、冷淡に。必要な物だけが奪われて行く。
「あ、悪魔だ……」
この日、彼らの中に恐怖の対象が増えた。1つは崇拝する邪竜。そして、もう一つは学生のフリをした悪魔を。