俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
「お前は邪竜信者の大幹部じゃないのか?」
原作では彼女が裏切るなんてシナリオは存在していなかった。ボスとして何度も対峙はするが、勧誘を掛けて来ることは一度も無かった。
傲岸不遜に全ての者を見下し、価値ある物だけを蒐集する女。それが、黄金のラドンだった。
「お主は不思議に思わないのか? 何故、我々が『邪竜教団』と呼ばれないか」
言われてみれば。邪竜信者達とは言うが、教団と呼称されていた覚えは殆ど無い。教義や教会の様な物が存在しないからだと思っていたが。
「我々は奴らを認めてはおらんからな。信者等、自称しているに過ぎない。ヴァルザイアは奴らに施しを与えているようだが、妾には我慢ならない」
「……方針の違い。か?」
「そうだ。力を持つ者は価値ある物だけで良い。有象無象に力をばら撒く奴をのさばらせておけば、この世界の価値が下がる」
デフレーションを危惧しているのか。だが、それは彼女達に力の占有を許すということに繋がる。
「だから、例の力を持つ俺を取り込んで、謀反を起こすという訳か?」
「そうだ。だが、悪い話でもあるまい?」
邪竜信者が野盗や山賊になるだけだが、力を持たない連中は簡単に制圧できるだろう。今よりも少しだけマシになるかもしれない。が。
「信用できない。こういう話は大抵、共通の敵を倒した後は用済みになるってパターンだ。俺達を信用させたいなら、この街に送られて来たマスターとドラゴン娘達の無事を確認させてくれ」
ラドンの傍に立っていたドラゴン娘達が殺気立つが、彼女が手で制していた。
「ならば、付いて来るが良い」
VIPルームの一角の壁が変形して、奥へと続く通路が現れた。……この先にある物を俺は知っている。シンキとハクテイを見た。
「カラバ?」「どうしたの?」
恐らく、その光景を見れば二人は激怒する。そうなれば、依頼の遂行に支障を来すのは間違いない。だが、彼女達を置いて行く理由が無い。
「何でもない」
ラドン達の後を付いて行く。彼女は振り返り、俺の顔を見て薄っすらと笑っていた。間違いない、この先にある光景を使って交渉を進める気だ。
――
通路を進んだ先、開けた場所に出た。少し高い位置にあるのはここがVIP席だからだろうか?
どこかのホールらしく、大舞台がある物の幕は上がっておらず、出席している者達は雰囲気からして品の良さが伝わって来るが、皆が仮面を付けていた。
『紳士淑女の皆さま。よくぞお集まりいただきました。それでは今宵の品評会を始めさせていただきます』
幕が上がる。現れた物を見て、シンキ達も息を呑んだ。
華美絢爛なドレスに彩られたドラゴン娘達の隣には全裸のマスター達が並べられていた。
「いやはや。ドラゴン娘達の麗しさと比べ、彼らのなんと惨めなことでしょうか!」
「信じられませんわ! 彼女達が可哀想よ!」
観客達が好き勝手に言っている。努めて平静を装っているが、舞台に立っているドラゴン娘達も何を思っているか。そして、侮蔑と嘲笑の的にされているマスター達の屈辱たるや。胸糞悪い。
「どうだ。ここに集まっているのは名士や有力者ばかり。妾の眼鏡にかなうだけの者達が集まっている」
「だとしたら、次は品性も兼ね備えているのかを見るべきだね」
「価値の一つとしては見てやろう」
いつもヘラヘラしているヤウナー教授も真顔になり、シンキとハクテイも敵意を隠そうともしていない。しかし、ラドンは楽しんでいる様だった。
『もしも、彼女達を憐れむ心がございますなら! どうか、救いの手を差し伸べて貰えないでしょうか! まずは1番のペアから!』
そして、人身売買オークションが始まった。ドラゴン娘の契約は彼女達の意思によって行われる物だ。人間の意思でどうにかならないなら、人間であるマスターの方をどうにかする。
自分の身だけを考えれば、彼女達は即契約を破棄すれば良い。直ぐにでも、元の世界に戻れることだろう。だが、残されたマスター達がどうなるかは想像するまでもない。あるいは失望せずにはいられない。
「こんな物を俺に見せて、お前と協力する気になるとでも思うのか?」
「思うさ。お主が、妾に協力を申し出ればすぐにでも、奴らは解放される」
会場を無茶苦茶にする。という方法は使えない。何故なら、ホール内の天井や隅。客に混じってドラゴン娘が何体も配置されているからだ。
「この大量のドラゴン娘達は、どうした?」
「気付かせてやった連中よ。見よ。あの惨めな連中を。マスターと呼ばれていたが、ドラゴン娘がいなければただの小僧、小娘よ」
晒し者にされているマスター達を嗤いながら見ている。俺が彼女に従えば解放されるらしいが、絶対にお断りだ。
ハッキリ言ってヴァルザイアよりも不快だ。アイツはドラゴン娘やマスターのことを見下してはいたが、ラドンはマスターとドラゴン娘の間にある物を踏みにじっている。こんな奴がトップに立てば、碌でもないことになる。
「(ヴァルザイアもそれを見越しての依頼だったか)」
不快なのはラドンだけじゃない。この競売に集まっている紳士・淑女ぶった連中もだ。マスターとドラゴン娘は世界に貢献し続けているのに、彼らに痛罵を飛ばし、あまつさえ身柄を買おうとしている浅ましさに反吐が出る。
だが、ここで暴れたりはできない。俺達ができるのは返事を保留にして、引き下がることだけだ。この場はどうにもできない。
「カラバ」
「耐えてくれ」
ハクテイが今にも飛び出さんとしているが無謀だ。この場にドラゴンを連れて来ていれば、どうにでもできたかもしれないが。
ドラゴン娘達に次々と値段が付けられ、外付けの制御装置(マスター)も買い取られて行く。彼らはどうなるのだろうか?
「価値ある物は、価値ある者が所有しなければならない。お主の力があれば可能じゃ。返事は明日にでも聞こう」
熱狂渦巻くホールを俺達は後にした。今は、焦ってはならない。他に方法があるはずだと心に言い聞かせながら。
――
一旦、頭を冷やす為にも俺達は宿へと行った。時間はあまり残されていないので、俺だけが持つ情報アドバンテージこと原作の知識を思い出す。
「(経緯は違うけれど、ラドンに挑むシナリオはあった)」
ヴァルザイアからのイベントではなく、直前のシナリオであるフェルドを撃破した後、邪竜信者達が主人公を罠にハメるというイベントの体で招かれるのだ。
そこで主人公達は、あの悪趣味な品評会に潜入し、会場をぶっ壊してラドンに喧嘩をボコすという野蛮極まりないスタンスなのだが。
「(そんな、上手くいく訳ないんだよなぁ)」
ソシャゲでは無数にユニットを編成できるので、どれだけ敵が現れても薙ぎ倒して行けるのだが、現実でそんな奴はいない。
そのまま、雑に囚われていた奴らを助けていたが、そんなことができたら苦労はない。何より味方が少なすぎる。
「(ヤウナー教授は戦闘員としては期待できないし、どうした物か)」
部屋でウジウジ考えていても答えは出ない。夜もまた夜で別の盛り上がりがあるだろうと思い、外に出ることにした。
―
本来、深夜徘徊は危険という他無いのだが、こういった街では夜にしか入手できない情報もあるはずだ。
街を練り歩いていると、人集りができている場所があった。何があるのか? 近付いてみて、直ぐに分かった。
「見ろよ。3番の子。あの竜鱗の造詣とか好みだ。マスターのガキもそこそこに可愛いじゃないか。お得だな」
「それを言うなら、ワタクシは5番が良いわ。ドラゴン娘を使役しているとなれば、ウチの子の格式も上がる。マスターの男の子も男娼として使えるわ!」
まるでガチャのピックアップ画面みたいに、品評会に並ぶ予定のマスターとドラゴン娘を下見できる場所だった。当然、警護にはドラゴン娘が付いているが場所的に大量には付けられない。
「(これは、チャンスじゃないか?)」
思えば、こういった場所があっても不思議ではない。何が並ぶか? 当日まで期待させるのも悪くは無いが、予め知っておいた方が財布の口も緩む。
だが、ここを襲撃しただけでは意味が無い。他の奴らは別所に移されるだろう。そのままシームレスに『在庫』まで行かなければいけない。そんな手段があるのだろうかと考えていると。
「動くな」
「ゆっくりと振り向け」
背中に切っ先を突き付けられた。油断していた。
ラドンと交渉を控えた手前、手を出して来ることは無いと踏んでいたが、そんなことも無いのか。ゆっくりと振り返れば、そこには。
「お、お前達は」
「久しぶりだな」
「覚えているか?」
大男が二人。知らない顔ではないが、なんでこんな所にいるのかという疑問符が大量に浮かんでいた。
「……プレスとヒュプノー?」
「覚えていたか」
「用件だけ言う。あのラドンって女をぶちのめすぞ」
もう誰が味方で敵かも分からない。第3章はシナリオが跡形もなく砕け散る位に混沌としていた。