俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
何故、コイツらが? という疑問を他所に場所を移動させた。
煌びやかな表通りから外れた場所。富の明かりが届かない場所にも生活はあった。浮浪者、乞食、痩せこけた子供達。光があれば、影があるのも当然だ。
「着いたぞ」
文字の掠れた看板が掲げられた酒場に入る。ヒュプノーが入るや、店主は顔を歪めていた。
「お前。捕まったんじゃ」
「あんな間抜け共に俺が捕まえられるか。貸し切りだ」
カウンターの上にガンと麻袋を置いた。解けた口を見れば、中には銅貨と銀貨が詰まっていた。店主は奥へと引っ込んだ。椅子に座ろうと思ったが、脚がガタガタだったので止めた。話を切り出す。
「どういうつもりで俺に話を持ち掛けた?」
「どうもこうもねぇ。お前にラドンを倒させて、俺がこの街を取る。それだけだ」
「背信行為にならないのか?」
「先に裏切ったのは向こうだ。連中は、俺のことを裁判も無しに始末しようとして来やがった」
ヒュプノーの件がバレたら不味い奴が上の方にいるのか? だとしたら、この国は割と腐敗していることにはなるが。
ヴァルザイアもヒュプノーのことを蔑んでいたし、見捨てられたら裏切られるのも当然の話だ。
「よく脱獄できたな」
「俺も覚悟はしていたが」
チラリと横に目をやった。ハゲ頭のプレスは『ブラック・プティング』こと豚の腸詰を銜えていた。隣には黒ずんだポタージュ……。
「美味い!」
食事中に言うのもなんだが、豚の腸詰も黒いポタージュもアレっぽい。コイツをダウンさせるに至った、ドラゴンの排泄アタックを思い出してしまった。俺の目の前にも同じ料理が置かれたが。
「……いらない」
「フン。お坊ちゃまには食えねぇってことか」
「じゃあ、貰うぞ」
特に気にした風もなくプレスに横取りされた。ドラゴン娘だけじゃなくて、飯まで取って行くのかコイツ。
「このハゲはバカだが、力は超人的だ。牢屋を素手でぶち壊しやがった。俺達もついでに脱獄したんだよ」
「……達?」
もしかして、邪竜信者達がまとめて逃げ出したのか。やたらとポップするのはそれが原因なのか?
「他の奴らは?」
「知らねぇよ。俺は伝手があるからここに戻って来た」
「このハゲは?」
「俺が話を持ちかけた。少しでも戦力は欲しいからな」
この二人に改心した様子はない。だが、ドラゴンもシンキ達もいない俺にはどうすることもできない。だが。
「仮にラドンを追い出したとして。お前達が代りに悪行を働くだけだろう?」
この二人と協力してラドンを捕まえた所で治安が良くなる訳ではない。首謀者が替わるだけだ。
「商売リストからマスターとドラゴン娘だけは外してやる。その他の奴らなんてどうでもいいだろ?」
言い返せなかった。もしも、あのホールで見たのがマスターとドラゴン娘じゃなかったら、俺はどう思っていただろうか?
「マスターとドラゴン娘をリストから外したとして、やって行けるのか?」
ゲスな話にはなるが、この街に来ている富裕層の連中が大金を落としていくのは、マスターとドラゴン娘という商品があるからだ。彼女らを欠けば、この街の栄華を維持できるかは怪しい。
「それはテメェが考えることじゃねぇよ。どうする?」
「正直に言うと。信用できない」
土壇場になって報酬欲しさ、あるいは我が身可愛さに俺達を売る可能性の方が高い。信じるに足りうる根拠がない。
「じゃあ、俺もお前もここで終わりだ。俺達は惨めに生きて、お前達は仲間が売られて行く様を見ているだけだ。あるいは、あの女の指でも舐めているかだな」
それもできない。この依頼がこなせなければ融通を図って貰えず、監禁されるとなれば、協力するしかない。
「(タイミングも良過ぎるし、ヴァルザイアが派遣して来たのか?)」
「なんだ、貴様。あの魔獣と付き合える癖に、俺達の案には乗らないのか」
食事を終えたプレスはもう1本部の腸詰めを頼んでいた。何度でも言うが、本当に見た目が良くない。
「なんで、お前は腸詰ばっかり?」
「予行演習だよ」
「なんの?」
「言わせるなよ。ハハッ」
思わせぶりじゃなくて、本当に思っていたという大地獄だった。店主に助けを求めてみたが、首を横に振られた。
「客はおめぇらしかいねぇからな」
「そうですか。コイツにどんな話を持ち掛けたんだ?」
「助けたドラゴン娘を好きにして良いとは言ったが」
「俺はもうヤり飽きたんだ。新たなる境地を目指して、な! 俺をこんな風にしたのは小僧。お前だからな」
ヒュプノーと店主がそっと距離を取って来た。心外だ。大人しく牢獄にぶち込まれていて欲しい。
……それと、悔しいことだが。この二人の強敵ぶりは俺もよく知っている。ドラゴンと言う規格外があったからこそ一蹴できたが、通常では幹部を務めるにふさわしい実力の持ち主なのだ。
「ドラゴン娘の在庫が管理されている場所は分かるのか?」
「知っている。十中八九、場所は変えられているだろうが、引きずり出してやる」
「……信用する訳じゃない。一時的に手を組むだけだ」
相手は元・邪竜信者幹部。少しでも心を許せば、あっと言う間に付け込まれてしまうだろう。決して油断はできない相手だ。
「交渉成立だな」
「ああ。少なくとも、アンタはこの交渉中に一切催眠を使ってこなかった。誠意として受け取っておくよ」
使われていない。という保証は無いが、俺が持っている疑念こそが使われていなかった証として受け取っておこう。……で、ヒュプノーと契約するということは自動的にもう1人とも組むことになるが。
「連中に俺という存在を刻印(プレス)してやろう」
「頼むから、変なことはしないでくれよ……」
コイツだけは本当に牢獄にぶち込まれていて欲しい。だが、原因を探ってみたら俺の顔しか思い浮かばなかった。
かくして、渡りに船と言わんばかりにやって来た二人と手を組むことになった。食事は遠慮して、俺達は在庫のある場所へと向かった。
――
考えれば、表通りに『在庫』なんて後ろめたい物がある訳が無い。この裏通りに存在するのは道理かもしれないが。
「ヒュプノー。どっちが『ヘスペリデス』の本当の姿なんだ?」
「俺達にとってはこっちだ。お前らにとっては表の方だろ?」
聞いたことがある。リゾート地などにも貧困は存在していると。表の華やかさの為に負担を強いられている部分はあるのだと。
「着いたぞ」
一見すると何もない場所の様に見える。しかし、ヒュプノーが近くの壁を押し込むと、壁が変形して地下へと続く階段が現れた。長い階段を下った先には扉があった。
「プレス」
「分かった」
ヒュプノーが扉を開ける。部屋にいたドラゴン娘が反応した。数は二人。
「貴様は!!」
交戦の構えを取ることすら許さず、プレスは瞬時に一人を絞め落し、気絶させていた。俺が見た時よりも、遥かに動きが良くなっている。
「しゃあっ!」
だが、門番を任されるだけにあって残った一人も手練れだったのだろう。直ぐに反撃したが、プレスは軽く払い除けて組み伏せていた。
「暴れんなよ。暴れんなよ」
「貴様、離せ!!」
「そうだ。話せ」
ヒュプノーの目が以前に増しても強い光を放ち、カンカンと歯を打ち鳴らしていた。直撃を受けた、ドラゴン娘は催眠状態に陥ったのかボーっとしていた。
周りを見る。多数の檻が並んでおり、中にはドラゴン娘達が収監されている。マスター達の姿は見当たらない。
「助けに来てくれたの?」
周りのドラゴン娘達がここから出してくれと騒ぎ出すんじゃないかと思っていた。だが、彼女達が言ったのは。
「お願い! マスターのことを助けてあげて!」
「契約の印が薄くなって来ているの! 何か大変なことが」
「私のマスターの名前は――」
自分では無く、マスター達のことを心配する言葉ばかりだった。ヒュプノーを睨んだ。
「この娘達を連れて来たのは、お前だったよな」
「そうだ。俺達がやったんだ」
茶化すでも悪びれるでもない。自分がやったという事実を淡々と受け止めている。殴ろうかと思ったが、仲間割れをしている場合ではないとギリギリで踏み止まった。
「殴り合うのは全部終わってからにしろ。マスター達の方はどこに?」
「そっちは俺も知らされていない。ドラゴン娘達を縛る上では、一番重要な代物だからな」
ここまで来て、手掛かりが途切れるのかと歯噛みした時、ガンガンと檻を揺らす音を聞いた。
「あの、すいません。そこの男の人! その胸に付けているアミュレット。見せて貰えませんか?」
檻を揺らしていた彼女は他のドラゴン娘よりも大人びていた。
胸に付けているアミュレット。これはファヴを監視する際にシンキに持たされた物だ。結局、使うことは無かったが。
「これがどうかしたのか?」
「誰から貰いましたか?」
「シンキというマスターから貰った。知っているのか?」
彼女の表情が変わった。
「……シンキ」
「何か知っているのか?」
「彼女のパートナーのドラゴン娘。もしかして、名前は『ハクテイ』と言いますか?」
「何故、知っている?」
一つだけ可能性が思い浮かんだ。もしも、そうだとしたら。
「彼女の母もここに居たからです。名を『ハクジャ』といいます」
俺は、シンキ達に何を言えば良いのだろうか?