俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
「カラバはどこに行ったァ!」
時間は少し前後する。男女別で部屋を分けた後、ラドンの件をどうするか? という件を相談すべく、彼の部屋に向かったヤウナー達が見たのは『街の様子を見て来る』という書き残しだけだった。
「なんで?」「どうして?」
「ここがら邪竜の膝元だって忘れているのか!?」
積極的に敵対をしている訳ではないが、ドラゴン娘を商品として扱う様な連中だ。拉致されたり、痛い目に遭わされる可能性だって十分に考えられる。
「もしかして」
「1人じゃないといけない所に行く。とか?」
ヤウナーに稲妻の如き衝撃が走った。どうして、彼は昼間。あんなに大人しかったのか。ギャンブルにも珍しい商品にも興味を出さなかったのか?
「(彼は既にギャンブルや珍品よりも別の物に狙いを定めていたからだ)」
金、物。意外に男が欲しがるもの。そんな物は古今東西、決まっている。女だ。しかも、彼はドラゴン娘の様な乳繰り合うパートナーもいない。
「(この街に来たのは絶好の機会! 金を払って美女と……)」
ヤウナーが知る限り、カラバという少年は驚く程にピンクな話に興味が無い。
学園内にいるドラゴン娘は割と際どい格好をしている者も多いし、鼻の下を伸ばしている学生も多いが、彼からはそう言った浮ついた話は一切聞かない。
「教授。何の話?」
「カラバはどこに?」
「いや、待てよ?」
性愛の対象が同性である可能性も捨てきれない。思えば、彼はファヴやフェルドの件に対応している時、まるで我が身を顧みていなかった気がする。ドラゴンを預けた時も厚い信頼を寄せていた気がする。
「(まさか、不味いぞ……)」
ドラゴン娘の件でも分かる様に、ヘスペリデスには娼館などの風俗も存在している。男性向けではなく、女性向けのサービスもあるらしく、噂によれば絶世の美男子が在籍している所もあると聞く。つまり。
「分かった! シンキ君! きっと、彼は男娼を漁りに行ったんだ!」
ヤウナー教授、渾身の迷推理である。補足しておくと、今の彼女は決して冷静ではなかった。シンキ達は真顔だった。
「する訳ないでしょ」
「カラバがそんなこと」
「あ、うん。そうだね」
等と与太話をしていると、シンキが首から掛けているアミュレットが点滅していた。ヤウナーの頬を冷や汗が伝う。
「あの。コレって確か、カラバ君に預けたお守り。だよね?」
「何かあった」「行こう」
シンキ達は躊躇うこと無くホテルを出た。そんな教え子を見ながら、ヤウナーも嘆いていた。
「君らは! どうして!! 私の言うことを聞く気が無いんだ!!」
部屋に戻って支度を整えた後、シンキ達の後を追った。
――
「ちょっと待ってくれ。どうして、アンタはシンキの名を聞いただけで、彼女のドラゴン娘の名前が『ハクテイ』だって分かったんだ?」
驚愕に染まっていた頭を落ち着かせて、情報を整理する。
通常、マスターは契約するまでどんなドラゴン娘が出て来るかは分からない。言い方は俗っぽいが、ガチャという奴だ。だから、シンキの名を聞いただけでハクテイの名前が出て来るのはおかしい。
「分かりますよ。何故なら、貴方が知っているシンキという方とハクテイと呼ばれているドラゴン娘は姉妹なのですから」
「そう言えば、奴ら。顔そっくりだったな」
二人を見たことがあるプレスも頷いていた。ずっと疑問に思っていたが、答えは至極単純だった。彼女達は姉妹だった。
「それも。ハクジャから聞いた話なのか?」
「はい。自分には『シンキ』という娘がいると。こんな所から、マスターと一緒に出て行って、家に帰るんだと。……叶いませんでしたが」
「今、彼女と彼女のマスターは?」
「マスターの方は知りません。ですが、彼女は契約を破棄して元の世界へと戻りました」
契約の破棄。マスターにとって最大の屈辱であり、ドラゴン娘においては最上の怒りとされている。
「契約を破棄したら元の世界に戻れるのか? だったら、捕まっている奴らは全員破棄すれば良いじゃないか」
マスターでも何でもないプレスは軽く言ってのけるが、そんなに単純な話じゃない。捕まっているドラゴン娘達からシュプレヒコールが飛んで来た。
「何を言っているのよ、このハゲ!」
「そうよ! 契約の破棄なんかしたら、マスターの所に一生帰れないじゃない! ハゲ!!」
「毛も生えていないから、気も使えないのね! ハゲ!!」
「じゃあ、こんな所に閉じ込められて良いのかよ!」
一斉に罵倒されていた。堪らず言い返していたが、説明してやるか。
「契約を破棄されたマスターは二度とドラゴン娘と契約できなくなるんだよ」
「それに。コイツらはマスターの安全を確保するために残っているんだろうさ。ドラゴン娘を持っている『マスター』が粗雑に扱われることは無いからな」
ヒュプノーが補足も入れていた。理解している癖に、彼女達をこんな所に連れて来られる精神が分からない。
ドラゴン娘達が保管されている場所は分かったが、問題はマスター達がどこにいるかだ。何かあれば、彼らが人質にされることは間違いな……。
「そうか。何かあれば良いのか」
「ほぅ、いいこと思い浮かぶじゃねぇか」
「なんだ?」
ヒュプノーも同じ発想に至ったのだろう。いや、むしろ奴隷商売なんてことをしていたのだから、同じ発想に行きつかない訳がない。プレスだけが疑問に思う中、やるべきことは決まった。
「ヒュプノー。確認するぞ? ドラゴン娘達と同じく、マスターにも価値はあるんだよな?」
「外付けの制御装置だからな。何なら、坊ちゃんやお嬢様も多いから、奴ら自身にも価値がある場合もある。プレス。コイツらの牢屋を全部ぶち壊せ」
「分かった!!」
プレスが嬉々として、彼女らを閉じ込めうる程に堅牢な牢を破壊し始めた。解放されたドラゴン娘達も困惑をするが、俺は彼女らに意図を伝えた。
「聞いてくれ。これから皆には大脱走をして貰う。皆はマスターがどこかにいる。ということは契約をしているから分かるだろうけれど、具体的な場所は分からないと思う。でも、それで十分だ」
これだけの人数が街中を飛び交えば、パニックになるだろうし、目の届かない場所は存在しなくなるだろう。しかも、彼女らが薄っすらと場所を把握できるのは、ラドン側も理解しているはずだ。
「事態を感知したら、連中はきっとマスター達を見つからない場所へと移動させようとするだろう。そこが狙い目だ」
ジッと同じ場所で隠し続けていることなんてできない。もしかしたら、地下ルートや表のルートを使わずに移動させる方法があるかもしれないが。
「そう言うルートは俺に覚えがある」
そっちはヒュプノーに任せるとしよう。解放されたドラゴン娘達の表情が困惑から変化して、決意と覚悟を秘めた物になる。皆の気持ちは1つだ。俺は高らかに宣言した。
「さぁ! 皆でマスターを助けるぞ!」
俺の掛け声と共に『在庫』が一斉に出荷された。ヘスペリデス史上、最も騒がしくなるであろう夜が始まった。
――
「なんだか。街の様子が……」
夜のヘスペリデスは騒がしくなっていた。街には大量のドラゴン娘が飛び交い、何かを探している様だった。
例の品評会を見ていたヤウナー達は、少しの時間を必要としたが何が起きているかを察した。
「カラバだ。」
「うん。ホールに来ていた子達もいる」
シンキとハクテイも何が起きているかは分かった。アミュレットが点滅していたのは、こんな工作をしていたからだろう。直ぐに、三人はドラゴン娘達が何故、飛び交っているのかが分かった。
「自分達のマスターを探している」
「うん。皆、どこにいるか探している」
シンキとハクテイがヤウナーを見た。何か良いアイデアを持っているのではないか? そんな目をしていた。
「あのね。私は捜査のプロでもなんでもない。ただの教授だよ?」
チチチチと彼女らの目の前を数匹のネズミが横切って行った。栄華を極めた街には相応しくない、不衛生な動物だった。
「『環境・異種生態学』のね。おかしいね? 彼らがこんな大量に表に出てくるなんて。まるで彼らが本来の住処から追い出された様じゃないか!」
嬉々として、ネズミ達が来た場所を逆順に辿って行く。足跡や糞等、まるで彼らがどうやって来たのかが見えているかの様だった。そして。
「な、なんだ貴様ら!?」
こんな人気のない場所に、焦った様子のドラゴン娘が二人。シンキとハクテイが前に出た。
「あの娘達からマスターを奪うなら」
「ドラゴン娘だろうと、許さない」
「黙らせるぞ!」「応!!」
ドラゴン娘を敬愛してやまないシンキ達がドラゴン娘と相対している。彼女らも覚悟を決めていた。