俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
「貴様ら! 自分達が何をしているのか分かっているのか!!」
「貴女達こそ! こんなことして、自分のマスターに顔向けできるの!?」
ヘスペリデスの各所ではドラゴン娘同士の戦闘が行われていた。
彼女らの戦いの余波はすさまじく、周囲の建物やモニュメントなどに多大な被害を出していた。
「(ドラゴンの脅威で忘れていたけれど、普通のドラゴン娘達も十分怪物レベルなんだよな……)」
戦う相手が魔獣やゴロツキだったので一方的な展開で終わることが多かったが、同族で戦えば周囲に破壊が吹き荒ぶのも道理だ。
彼女達がかく乱してくれている間、俺達はヒュプノーの案内で『地下ルート』を目指していた。
「いたぞ!!」
「プレス!!」「やれ!!」
「よっしゃ!!」
先程から、ラドン配下のドラゴン娘達による襲撃が増えている。つまり、このルートを通られては不味いということだろう。
俺達ではどうしようも無いが、どういう訳かプレスだけは彼女達に対抗するだけの力を持っていた。戦ってくれるのは彼だけではない。
「わたくしも加勢させて頂きます!」
シンキとハクテイの名を知っている年長のドラゴン娘。名を『シャオチン』というらしい。お淑やかそうに見えて、戦いも流麗な物かと思っていたが。
「売れ残りが! ババアが燥ぐんじゃない!」
「誰がババアか!!」
悪態を吐いたドラゴン娘の顔面にガチビンタを食らわせていた。一撃で相手を仕留めていることから、相当な力の持ち主であるらしい。
その横では、プレスがどっかで拾った調教用の鞭でドラゴン娘の尻をスパンキングしていた。
「痛い! 痛い!! 痛いって!!!」
「痛いってのは分かってんだよ! 痛くしてんだよ!!」
こんな事態の中でもサービスシーンの提供を忘れないプロの鑑。散々に打ち据えられたドラゴン娘は地面に伏して、痙攣していた。
「俺の存在と恐怖、そして与えられた快楽をその胸に刻みこむが良い」
「なぁ、全部終わった後でコイツだけ突き出してくれない?」
「残念だが、無理だ。不義理は今後の進退に関わる」
ヒュプノーが渋い顔をしていた。アウトローはアウトローで通すべき義理みたいなのがあるかもしれない。進む、進む。
「プレス。お前、どうしてそんなに強くなったんだ?」
パッと思い浮かぶのは修行だ。囚人達はすることが無いので筋トレなどに励むことが多いと聞くが。
「理由は分からん。ただ、あの糞便を受けて、しばらくしたら全身に力が漲る様になったんだ。だから、もう一度浴びたいと言ったんだ」
変なプレイに目覚めた訳じゃなかったのか。ドラゴンの排泄にそんな効果が? と、笑い飛ばすこともできない。
「(キャベツ型魔獣にリンゴマンもそうだったけれど。思い返してみれば、ドラゴンの排泄物を取り込んだ物は、何かしらの変化を受けているよな)」
ヤウナー教授の話を思い出す。ドラゴンの消化器官は非常に強力で、腐敗物、毒物、劇物を全て無毒化して栄養に変えているそうだ。
当然、アイツ自身が吸収している部分もあるだろうが、食っている量が量だ。あの巨体にとっては残りカスでも、俺達にとっては豊富な魔力(マナ)の塊だ。それを一身に浴びれば……。
「いやいや」
何を考えているんだ。まともじゃない。……先日、邪竜の祖と一緒に浴びたばかりだ。あの粗相が原因でこんな事態に陥っている。とは思いたくはない。
「見えてきたぞ」
ヒュプノーの声で現実に引き戻された。見れば、既に戦っていたらしく、見覚えのある1組のマスターとドラゴン娘に対し、ドラゴン娘が四人掛かりで襲い掛かっていた。駆け出す。
「シンキ! ハクテイ!!」
「カラバ!」
シンキが俺達を見た。プレスが跳んだのを見て、直ぐにハクテイと自分に防御壁を張り、俺も重ね掛けした。
「クソ!! なんで、止められてないんだ!!」
「お前らの仲間なら、足腰を立てない程に調教してやったぞ。所詮、俺にとって貴様らなど小娘に過ぎないのだ」
こいつのブレなさは何なんだろう? 数の不利など、物ともしないで突っ込んで行った。そして、こちらは。
「貴女達がシンキちゃんとハクテイちゃんね」
「カラバ、この人は?」「……?」
「積もる話は後だ! 来るぞ!!」
二人はプレスが引き付けてくれているが、残り二人が向かって来た。今まで、道中で戦って来たドラゴン娘達よりも強い。
「ハクテイちゃん。合わせて貰える?」
「え、うん!」
シャオチンの脚部を覆っている竜鱗が変形して、まるでスケート靴の様になっていた。滑る様に走る。
だが、相手のドラゴン娘も手練れだった。回避ができない様に剥がした床で面による攻撃を仕掛けたりもしたが。
「残念!」
今まで、鞭や打撃技として使っていた伸縮する腕を使って、屋根や建造物に飛び移りながら、シャオチンを拾い上げて放り投げていた。
「そう。貴女の腕は鞭や槍じゃない。物を掴めるのよ」
ハクテイ自身の身体能力の高さから掴んで飛び移ったりしなくても、普通に飛び移れるのだが、ぶら下がることで移動のアイデアが増えている。
「貰った!」
「油断したな!」
放り投げられて、相手の背後を取ったシャオチンが首筋目掛けて一撃を放つが、相手も尾で薙ぎ払って来た。
手足と同程度の自由さと質量を誇る攻撃だったが、彼女を捉えるに至らなかった。宙に浮かんでいたからだ。
「後は、任せなさい」
「お願い」
二度も同じ手を食らった。腕を使って、宙に浮かんでいたハクテイに掴まって難を逃れていた。
「させるか!」
落下するタイミングを狙って、もう片方のドラゴン娘が火球を放つよりも先に、俺はシンキと共に彼女の周囲に防御壁を張った。壁内で暴発、爆発していた。と、同時にシャオチンの一撃がドラゴン娘の脳天に入った。決着だ。
「やっと片付いたか」
プレスの方はとっくに二人を地面に転がしていた。俺達四人掛かりで倒した奴らをたった一人で片づけたのか……。
「(シャレにならない位に強くなっている)」
「おお! 静かになったかと思ったら!」
頃合いを見計らっていたのか。建物の陰からヤウナー教授が現れて、こちらに駆け寄ろうとしたが、プレスを見て立ち止まっていた。
「うわ! うんこハゲ!!!」
「なんだ、この無礼な女は!!」
こればかりはプレスの言う通りなのだが、事実を言っているだけだから仕方がない。それにしても。
「どうして、教授達がここに?」
「それはね! 私達の方が聞きたいんだけれど! 一人でどこに行っていたんだい!? ここは敵の膝元なんだよ!?」
メッチャ詰められた。教授を宥めつつ、どうして彼女達がここにいたのかということを聞き、俺達に何があったかを話した。
「カラバ。突っ込み過ぎ」
「何かあったら、どうしていたの?」
「ごめんって……」
シンキが自分の持っているアミュレットを見せてくれた。彼女が説明してくれた通り、チカチカと点滅している。
「やはり、貴方も同じ物を持っているのね」
「カラバ。さっきは、聞きそびれたけれど。この人は?」
「詳しくは、シャオチンさんから聞いてくれ」
「マスター共を取り戻しに行く道中でな」
今まで、空気を呼んで黙ってくれていたヒュプノーが入り口を発見し、在庫の時と同じ様に地下へと続く階段が現れていた。
これだけの戦力で守る必要がある物だ。可能性は高い。階段を下りつつ、シャオチンから話を聞いていた。
「ハクテイちゃん。ハクジャという名前に聞き覚えはある?」
「……お母さんの名前。どうして、知っているの?」
「この街にいたことがあるからよ。私達と一緒に」
それが何を意味するか。どうして、ハクジャは契約を破棄してまで元の世界に戻ったのか。
「どうして、ここに?」
「この街を支配する邪竜。ラドンに敗れたからよ。マスターと共に捕らえられてからも、彼女は私達のことを励まし続けてくれた。ここでは心が折られた子達から、邪竜の手先になっていく」
道中で俺達を襲って来ていたドラゴン娘達は、マスターを信じることを諦めてしまったのだろう。
「心が折られたなら、契約を破棄すれば良かったのではないか?」
「そこにラドンが付け込むのよ。下らないマスターなんか捨てて、私に着けと」
とんだマッチポンプだ。彼女達を追い込んだのは、他ならぬラドンだというのに。
「捨てられたマスター達は?」
「取っておく理由が無いし、殺す必要もない。何より、自身の恐怖を拡げてくれるから、放り出すわ。ご丁寧に帰り支度も持たせてね」
やり方がえげつない。多くのドラゴン娘達が売られるか、悪に堕ちるかを見て来たシャオチンは何を思ったのだろう。
「でも、お母さんからそんな話は聞かなかった」
「話せなかったのでしょうね。経緯はどうあれ、彼女は自らのマスターを見捨ててしまったのだから」
カツンと最後の段を降りた先。広い空間が広がっていた。中央にはドラゴン娘。いや、邪竜が一人。
「今宵は随分と愉快な宴を開いてくれたな。妾が自ら足を運ぶ羽目になるとは」
「ラドン!!」
たった一人。護衛のドラゴン娘もいない。何かの罠かと思ったが、彼女は楽しそうに笑っている。
「久しぶりだ。最近は挑もうと考える気骨ある者も来んでなぁ。安心せい。ドラゴン娘は手元に置き、マスター共は飼ってやろう。後は死ね」
殺気が放たれた。全身が痺れる様な感覚が突き抜けて行く。胃に焼ける様な痛みが走る。
「では、妾がお相手仕ろう」
彼女のブロンドヘアーが意志を持っているかのように蠢き、本体から離れたかと思えば、魔力(マナ)で作られた分身体が幾つも生まれていた。
「『黄金のラドン』改め『百頭竜のラドン』が! 覚悟は良いか! 妾の足下を這いずるドブネズミ共が!!」
今度は力を貰った相手ではない。大本である邪竜との戦いが始まろうとしていた。