俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
俺達の戦力はハクテイ、シャオチン、プレスの三人。俺やシンキはマスターとして補助する為に残るにして。
「ヒュプノー。行けるか?」
「……商品を引っ張ってくればいいんだろ? おい、ヤウナーって言ったな」
彼女の前に来て、背中を見せてしゃがみ込んだ。ヤウナー教授は迷うことなく、ヒュプノーの背中に飛び乗った。
「しっかり、しがみ付いていろよ」
彼が懐から取り出したのは手鏡だった。自身の顔を映し出し、目を妖しく光らせ、牙を打ち鳴らす。
「教授。そいつの面倒は頼みました」
「私の教え子は素行不良な奴ばっかりだなぁ!」
自分に催眠を掛けて身体強化をしたヒュプノーが走り出すと同時に俺達も交戦に入った。大量の分身体が一斉に襲い掛かって来た。
当然、ドラゴン娘達だけではなく、マスターである俺達にも攻撃が飛んで来る。本体程の力が無い分身体の攻撃だというのに、一発毎に防御壁にヒビが入る。
「ほれ、どうした! 守ってみせるがいい! 我らより遥かに劣る人畜生を!」
「良い気になってんじゃねぇぞ、ババァ!」
プレスがラドン本体に攻撃を仕掛けた。道中多数のドラゴン娘達を仕留めて来た一撃だが、難なく受け止められていた。
「何故、貴様如きがその様な力を持っているかは分からんが」
プレスの下腹部に蹴りが入り、壁際まで吹っ飛んでいた。
常人が受ければ内臓が破裂する所か下半身が千切れかねない程の威力だというのに、彼は直ぐに立ち上がった。
「堪んねぇな。病み付きになっちまうぜ」
効いていないアピールをするかのように自らの胸板を叩いていた。ラドンの眉間に皺が寄った。
「不快だ。性交にしか興味が無い畜生が、妾を誘うか。よかろう、お主の亡骸はバラバラにして珍獣として晒し者にしてやる」
シャオチンとハクテイが分身体達の相手をしている中、プレスはたった一人でラドンと戦っていた。彼女の攻撃は猛攻なんて言葉すら生温い。
彼女のブロンドヘアーはまるで1本1本が意思を持つ蛇の様にプレスを突き刺し、打ち据え、彼を破壊しようとしている。
「プレス!」
「貴様はそっちを見ていろ!!」
制された。シャオチンとハクテイの二人が分身体を処理できるにいるのは、連中が俺とシンキを執拗に狙って来るからだ。
敵を倒すことに集中しようとすると、すかさず俺達を狙って別の分身体が動いて来る。マスターとドラゴン娘の弱点をよく分かっていた。
「カラバ!」
このままじゃ、消耗戦の末に全滅する。どうすれば良いかと考えた時、プレスを見た。変態でアホだが、アイツはドラゴン娘も何も無いというのに1人でラドンを食い止めている。ならば。
「シンキ。一緒に、覚悟。決めて貰えるか?」
「何をするの?」
失敗すれば、俺達は死ぬか、もしくは二度と日の目を浴びない世界に連れていかれるだろうが、これしかない。端的に告げた。
「今から少しの間だけ、全力の防御壁で分身体の攻撃を耐える。シンキはバフに回して、シャオチンとハクテイの二人を強化してくれ」
もしも、俺の防御壁が持たなければ、シャオチンとハクテイの二人が分身体を処理し切れなかったらどうなるかは考えるまでも無いが、じり貧の果てに待ち受ける結末も変わらない。
「分かった。ハクテイ! シャオチン!」
シームレスに同意してくれた。シンキは二人にバフを回してくれたので、全力で防御壁を展開する。動きが変わる。
「ハクテイちゃん!」
シャオチンの体から竜鱗が離れたかと思えば、ハクテイの両腕に形を変えて張り付いていた。彼女の腕部に竜鱗製のブレードが出現していた。
「早く! 頼む!!」
物凄い勢いで攻撃が飛んできて、蜂の巣もかくたるやと言わんばかりに防御壁が穴だらけになるし、隙間から飛んで来た攻撃で頬や衣服が切り裂かれて行く。もう持たない。
「うん!」
打ち据えたり、物を掴んだりという戦い方も三次元的には強いが、この攻撃は長射程を持つ斬撃だ。俺達への攻撃に気を取られていた分身体達が切り裂かれ、霧散していた。
「助かった……」
「ほう。やるではないか」
一体、いつ出現したのだろうか? 先程まで、プレスの相手をしていたラドンが目の前にいた。視界の端には転がされている彼の姿がある。
「カラ――」
シンキが目を見開いていた。殺されるのか。いや、待て。コイツは飼うと言っていた。いきなり始末されることは無い。いや、でも気が変わったのか。
思考が真っ白になる。命乞いをするにも、気勢を張るにも口を開かねばと思っていたら塞がれていた。目の前にラドンの顔がある。
生暖かい物と匂いが口中に入り込んで来たが性的興奮よりも先にとある可能性が思い浮かんだ。
「(吸魔!!)」
体内から魔力(マナ)が抜かれて行く。ラドンはドラゴンに興味を持っていた様だし、取りうる手段の一つとは考えていたが、こんな状況でやるとは。
「カラバを……離せ!!」
ハクテイが背後から攻撃を仕掛けたが、ラドンは容易く受け止めていた。分身体を葬ったブレードの攻撃が通らない。
「番の味見をした程度で憤るでない。貴様もドラゴン娘だろう? まさか、乙女という訳でもあるまい」
取る物を取って満足したのか、放り捨てられた。あの数秒程で魔力を吸い上げられたのか、呪文1つも唱えられない。
「カラバ。こっちに」
シンキに引きずられて、離れた場所に移動するが、ちょっとしたことで戦いの余波が飛んで来そうな勢いだった。
シャオチンとハクテイが二人掛で襲い掛かるが、相手はあのプレスをも撃破している。正直に言えば、勝てる見込みは薄い。所か。
「ハハハ! 身体が軽い! あの小僧が持つ魔力は素晴らしきかな! 決めた。貴様らを追い払った後、奴は妾の夫に迎え入れよう!」
「あの時より、ずっと強くなって……!」
シャオチンの一撃も軽々受け止めていた。ラドンの動きが明らかに良くなっている。分身体を作り出し、プレスの相手をした後だというのに。
「今宵は気分が良い。あの夜を思い出す。妾を追い詰めて来た手練れのマスターとドラゴン娘が来た時のことだ」
サブカルを見ていて、突然過去について話し出す奴を見て疑問に思っていたが、理由が分かった。
酔っているのだ。欲しい玩具を手に入れた子供が喜ぶように。全能感に打ち震えている。ハクテイを見た。
「奴はお主の様な戦い方をしていたな。よく見れば、顔も似ておる。……そう言うことか。不快な夜だとは思っていたが、今宵は宴であったか!」
嗜虐に満ちた笑みを浮かべていた。二人を相手取りながら、それでも余裕なのか。ラドンはシャオチンの方を見た。
「シャオチン。お主はどこまで話した? この小娘の母親がどうして契約を破棄したか。何を置いて行ったのか。話しておらんのか?」
「黙りなさい!」
焦ったシャオチンの一撃は容易く避けられ、返す一撃で壁際まで吹っ飛ばされていた。残されたハクテイが立ち向かうが、遊ばれている。
「お主の母親は辛抱強い奴だったよ。何があってもマスターを信じ、妾を打ち破る勇者が現れると言っておった」
ハクテイも必死に攻撃しているから喋る余裕なんてある訳もない。だけど、ラドンにとっては彼女の抵抗はそよ風みたいな物だった。
「だが、捕らえてから一年ほど経った頃だ。面白いことが分かった。奴は身籠っていたのだ。しかも、ドラゴン娘をな! 当然、祝ったさ。我の手元にもう一つ、価値のある物が手に入るのだからな」
その価値のある物が誰だったか。俺達は答えを見ている。知っている。
「そうしたら、奴はどうしたと思う? 契約を破棄したのよ! 身籠った娘の為にな! マスターと! 既に生まれていた『娘』を置いてな!」
ラドンがシンキを見た。彼女の証言が全て真実であるという保証は無いが、俺達には否定できる程の材料は無い。
「私の為……?」
「そうさ。先に生まれていたのはただの人間。一方で、お主はドラゴン娘。どちらを取るべきかは言うまでもないだろう?」
俺にはシンキとハクテイの母親がどんな人だったかは知らない。でも、ラドンが言っていることが彼女を侮辱していることは分かる。
「お母さんは、そんな人じゃない!!」
「なら、どうしてお主のマスターは何も知らない? お前に何も知らせていない? 人間達に価値を見出していなかったからよ! そんな貴様らがマスターとドラゴン娘等と。滑稽極まるわ!!」
彼女達の母親が何を思っていたのかは俺には分からない。でも、俺には知っていることがある。地面に杖を突いて立ち上がる。
「そんな訳! ないだろ!! お前に、この二人の何が分かるってんだ!」
「カラバ……?」
魔力が空っぽで全身脱力状態だけど、これだけは絶対に言わないといけない。
「俺が学園でぼっちだった時に声を掛けてくれて! ビビることも媚を売ることも無く接してくれて! そこで伸びているプレスとか幹部相手でも力併せて戦って! お前らが崇拝するドラゴンとファヴの戦いの時だって、唯一助けに来てくれた! 俺だって二人が羨ましいと思っているんだからな!!」
最後に余計なことを言った気がする。ラドンが怪訝な顔をする中、シンキとハクテイは笑っていた。
「うん」「そうだよね」
二人の表情から迷いや焦燥が消えた。と、同時に入り口から大量のドラゴン娘とマスター達が押し入って来た。遅れて、ヒュプノーとヤウナー教授が姿を現した。
「悪い。少し手間取った」
「でも、間に合ったみたいだね!」
形勢逆転と言いたい所だが、ラドンに焦った様子はない。それ所か薄っすらと笑っていた。彼女の体から金色と黒色の瘴気が立ち込めていた。俺はこれを見たことがある。ファヴが疑竜化する直前に見せていた物だ。
「小僧。着いて来い」
ハクテイを放り投げ、シンキを突き飛ばし、捕まえられた。俺達を金色の竜鱗が包み込んで行く。視界がブラックアウトした。