俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
時間はわずかに前後する。カラバ達がラドンを相手取っている間、奥へと進んだヒュプノーとヤウナー達はお目当ての物を見つけていた。
「あ、アンタ達は……」
マスター達は牢屋の中に収監されていた。ドラゴン娘達の物とは違い、環境は良いと言い難かった。
「助けに来たんだよ。君達のパートナーも頑張ってくれている」
淀んでいた空気が明るくなったのも束の間、囚われていたマスターの1人がヒュプノーを指差した。
「嘘だ! 俺は、ソイツのせいでこんな所に来たんだ! 他の奴らだってそうだ! どうせ、俺達を騙して何処かへ連れて行こうってつもりだろう!」
「そうよ! アンタのせいで、私もこんな目に……!」
場の空気が困惑と疑念へと変わる。ヒュプノーが彼らを助けようとしているのは善意からではなく、ラドンへの対抗策でしかない。信用される理由が無い。ここにいるマスター達を解放した所で、彼の罪が消える訳ではない。
「どうするつもりだい? 頭でも下げる?」
「そんなことして何の意味がある? コイツらが俺を許すとでも?」
いつの間にくすねていたのか、鍵束を取り出していた。彼は牢屋の鍵を次々と外していき、奥へと進んで行く。
「さぁ、付いて来なよ! ちなみに私達が来た側から出て行ったら、戦いの余波に巻き込まれて死ぬから止めた方が良いよ!」
ヤウナーの忠告もあり、マスター達は全員不承不承といった具合でヒュプノー達に付いて行く。
行き止まり。の様に見えたが、壁や床を操作することで、壁の一部が変形して地上へと続く階段が現れた。
「これはどこに出るんだい?」
「街の外れに出られる」
全員が疑念の視線を向けているが、こんな所に留まっている理由が無い。ヒュプノーが先導し、階段を駆け上がって行く。間もなくして、外に出た。
「おお……」
街の外れからでも、ヘスペリデスで騒ぎが起きているのは分かった。ドラゴン娘達が飛び交い、各所で激闘を繰り広げているからだ。
「お前達は暫く、外で待機していろ。どうせ行った所で……」
「ふざけんな! 俺の相棒が戦っているんだぞ!」
「そうよ! あの娘が戦っているの!」
折角、危険から逃れたというのに全員が街中に戻る気満々だった。
あまりの異様さにヒュプノーが呆気に取られていると、ヤウナーが両手をパンパンと叩いていた。
「はいはい! 皆! 身の着一つで行っても無駄死にするだけだよ!」
「でも!!」「じゃあ、どうすればいいの!」
「なので」
ヤウナーは懐から重量感のある麻袋を取り出していた。口を開いてみれば、中にはギッシリと金貨が詰められていた。
「装備 を 整えて 行こう! ツケだよ!!」
「止めねぇのか……」
ヒュプノーだけが至極当然の反応をし、マスター達は一斉に賛同した。
かくして、騒ぎの渦中にある『ヘスペリデス』の目に付いた魔法道具店に転がり込んだ一同は、強盗もかくたるやと勢いで杖、ローブ、アミュレットと引き換えに金貨を叩きつけて行き、この争いに突っ込んで行った。
「いやぁ、さすがだね! こんな異常事態でも金さえ出せば商売してくれるなんて! 助かったよ!」
「それは良いが、あの金貨はどこから?」
「昼間にね」
街中で起きているドラゴン娘同士の戦闘に変化が生じ始めた。
マスターが駆け付けたドラゴン娘達の動きは別人の様に冴え渡り、経験に勝るラドン側のドラゴン娘達を次々と撃破していく。
やがて、彼らはヤウナーとヒュプノー達を目印に一つの場所へと集まって行く。カラバ達が突入した秘密の入り口だ。
「君達は邪竜の大幹部と私の自慢の教え子達。どっちが勝つ方に賭ける?」
ヤウナーとヒュプノーが階段を下って行く。彼女らに続いて、解放されたマスター達も続々と下って行った。
――
カラバを引っ手繰ったラドンの周囲が金色と黒色の竜鱗に覆われて行く。巨大な胴体が編み込まれ、四肢、大翼、顎、頭部と形作られて行く。シンキやヤウナー達は、この現象を知っている。
「疑竜化!!」「来るよ!!」
「皆! 来た道を戻って!!」
折角参上したのに、気絶しているシャオチンやプレスを抱えながら慌てて全員が地上へと出るのと同時に、彼らの背後で爆発が起きた。
『ハハハハハ!! この力があれば、ドラゴン娘はおろか! ヴァルザイアすら恐れるに足りぬ!!』
地下空間をぶち抜いて現れたのは、金色と黒色の体表。そして、幾多もの頭部を持つ疑竜と化したラドンだった。
マスターやドラゴン娘達が絶句し、かつて拠点を壊滅させられたヒュプノーも恐怖を抑えきれぬ中、シンキとハクテイが皆の前に出た。
「聞いて。あの中に大切な人が捕まっているの」
「助けるのを手伝って欲しい」
疑竜と化したラドンは力を振りかざしていた。移動するだけで床がめくれ上がり、建物を破壊し、街を蹂躙していく。
規格外の怪物。殆どの人間は疑竜という存在も知らない。ようやく、再会できて自由になった中、どうして自ら危険の中に突っ込む必要があるのか。
「俺はあの女に酷い目に遭わされたからな。やってやるぜ!」
「そうね。あの脅威はこのまま放っておけない」
最初に名乗り出たのは、目を覚ましたプレスだった。続いて、シャオチンが一歩前に出た。彼女が手伝うなら、と。同じ空間に閉じ込められていたドラゴン娘達もマスターの方を振り返る。引き留めるマスターは居なかった。
「マスターとドラゴン娘ってのはイカれている奴しかいないのか?」
「そんな奴らと同じ船に乗ったんだ。最後まで付き合って貰うよ」
溜息を吐くヒュプノーの背中を、ヤウナーがバシバシと叩いていた。シンキが号令を飛ばした。
「皆で! カラバを助けよう!!」
応! と号令が飛んだ。かくして、史上に残る邪竜大幹部とマスターとドラゴン娘達による決戦が始まった。
――
「なんだ、あの化け物は!?」
ラドン側に付いていたドラゴン娘達はパニックに陥っていた。
何一つとして事情を知らされておらず、唐突に街中に怪物が現れたのだから、混乱するのも無理はない。
おまけに彼女らは交戦して体力も気力も使い果たしているのだから、満足に逃げることもできない。疑竜による破壊の余波が、建物の崩壊という形で彼女らに降り注ごうとした時、何者かに屋根へと引き上げられていた。
「大丈夫?」
「怪我は?」
マスターとドラゴン娘だった。何故、自分達を助けたのか? 今、何が起きているのか? 疑問は大量に浮かんだが。
「無事なら逃げて」
「暫くは近付かないで」
容姿が瓜二つのマスターとドラゴン娘は自分に、そう忠告した。彼女らは街中で暴れている怪物を見据えている。自分よりも遥かに強大な相手を。
「ならば、お前達も逃げろ。あんな物、我々ではどうしようもない」
懇願にも近い物だったのかもしれない。誰がやっても無理なのだから、何をしても無駄なのだから。一緒に諦めて欲しい。一度、折れてしまったが故に染みついた諦観だった。だが、彼女達は首を横に振った。
「大丈夫。私には彼女がいて」
「私にも彼女がいる」
かつて、自分が捨てた物を目の前で見せつけられ、目を逸らすしかなかった。二人はそれ以上、何も言わずに巨大な魔獣に向かって行く。
彼女らがどうなろうと自分には関係ない。右手に残っただけの契約印から目を逸らして、自分だけは逃げようとした。が。
「お前達は逃げろ!」
「待って! 私も付いて行く!」
少し離れた場所で、自分と同じくラドン側に付いていたドラゴン娘が、別のマスターとドラゴン娘達に付いて、巨大な魔獣へと向かって行く。
「なんで!?」
「だって、私のことを助けてくれたし! 契約印は残っているけれど、気にしないで! これが終わったら、二人目になるから!」
「私とマスターの間に入るんじゃねぇ!!」
他にも同じように、マスターとドラゴン娘のコンビに追従するドラゴン娘達の姿が見受けられた。
自分もマスターを捨てて、ラドンに着いた。それでもマスター、あるいは、マスターとドラゴン娘という関係に未練は残っている。
「……クソッ」
街の外れへ逃げようとしていた彼女は踵を返して、皆と同じ方向へと向かった。
――
暗い、意識の底。ラドンに引きずり込まれてからの記憶が無い。どれだけの時間が経ったのかも分からないし、右も左も分からない。
近い感覚はある。前にファヴを迎えに行った時も似たような感じだった。だったら、これはラドンの中ということか?
「(邪竜にどんな過去が?)」
原作で知ることが無い部分だ。前と同じ様に、この暗がりを進んで行けば見えて来るだろうか。あの傲岸不遜ぶりに悲しい過去は想像し辛いが。
『お主がマスターか。妾の名はラドンだ』
信じ難い物が見えた。分かっていたことだが、彼女達は最初から邪竜。という種ではなく、他の者達と同じドラゴン娘だった。
彼女の手を取るマスターも普通の少年だ。どうして、こんな組み合わせから現代に繋がる悲劇が生まれたのだろう?
『マスター? 何故、妾でなく、その娘を?』
『親同士が決めた結婚なんだ』
『それだけで? ロクに顔も名も知らぬ娘を?』
なるほど。特別な悲劇ではなかった。マスターはあくまで人間だ。家名に社会。あらゆるものに縛られている。ドラゴン娘は強大な力を持っているが、力を持っているだけだ。
『家名、名誉、財産。そんな物が、そんなに大事か』
結婚相手の娘は容姿こそ美しかったが、ドラゴン娘である自分の陰口を叩く癖に、自分一人では何もできない無価値な人間だった。だというのに、周りの人間は彼女を可愛がり、誉めそやしていた。
『良家に生まれただけのクズが』
力を持っているのだ。悲恋で終わる結末を覆せるほどの暴力を。
護衛として雇われていた衛兵達や雇われていたマスターとドラゴン娘をも蹴散らしていた。圧倒的な力を見せつけられ、式に参加していた者達は次々と跪き、彼女を讃えた。
そして、マスターの結婚相手だった女は全員から糾弾され、痛めつけられていた。アレだけ可愛がっていたというのに庇う人間は誰もいなかった。
『くだらん』
彼らが信じている物は、自分の力一つで覆せるほど脆く、下らない物だった。世界が色褪せて見えた。マスターと呼ばれた男が風景に埋もれた。
『妾が決めてやらねばな。こんなに盲目的な者達ばかりとは思わなんだ』
それが、ラドンと呼ばれたドラゴン娘が、人間の相棒であることを止め、邪竜となった始まりだった。なんてことはない。極々ありふれた失恋だった。