俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
ヘスペリデスは戦場と化していた。多数のマスターとドラゴン娘達が協力し合って、疑竜と変貌したラドンと戦う様は神話を彷彿とさせた。
『ハエ共が!!』
「どうやったら、こんな化け物を倒せるんだ!」
先程から、ドラゴン娘達も攻撃を仕掛けているが、厚い竜鱗に阻まれて攻撃が通らない。一方で、ラドンの一挙一動が必殺とも言える威力を持っていた。
豪華絢爛な街が、彼女が暴れる度に瓦礫へと変わっていく。彼女が持っていた人間的な価値観が削ぎ落されて行くようだった。
「おい! 小娘! このままじゃ、擦り潰されるぞ! あのバカデカい奴をどうにかする方法はないのか!?」
瓦礫の下敷きになっていたマスターとドラゴン娘を助けながら、プレスが吠えた。マスターとドラゴン娘達も次々と離脱していき、自分達も持ちこたえるのは難しそうだった。
「マスター。カラバとファヴちゃんの話。憶えている?」
「覚えている」
シンキは思い出していた。どうやって、カラバがファヴニールの疑竜化を解いたか。あの怪物の中には、力の源となる二人が眠っていると。
だが、あの巨体のどこにいるのかは分からない。飛び乗って調べ様にも、振り落とされるのは目に見えている。
「でも、やるしかない。ハクテイ! プレス! シャオチン! 皆!」
呪文を通して、皆の頭の中にシンキの声が響く。
ラドン側に付いていたドラゴン娘をマスター達が支え、避難した住民達が離脱したマスターやドラゴン娘達の手当てをしている。誰もが戦っていた。
『あの中に、私達にとって大切な人達が囚われているの。どうしても取り戻したい。でも、皆も限界だって分かっている。だから、最後のチャンスが欲しい』
ここにいるマスター達はカラバという少年のことも知らなければ、シンキ達が何者であるかも知らない。それ所か、自分達を誘拐したヒュプノーや邪竜信者関係者達と手を組んでいるらしい。答えは決まっていた。
『やってやれ!』
『後で、貴女達のことも教えて!』
『絶対に成功して来いよ!!』
知り合ってからロクに時間も経っていない相手だ。信じるにしても何も足りない。
だが、マスターやドラゴン娘達にとってはたった一つ。信用するに足りうる理由があった。離れ離れになった自分達を再び引き合わせてくれた。
「シンキちゃん。ハクテイちゃん。分かるの?」
シャオチンには疑竜化については全く分からなかったが、シンキ達には強い自信がある様だった。
「何となく。ずっと動きを見ていたけれど、無意識に庇っている箇所がある」
「頭部を支える首の部分」
近付こうとしても、多数の頭部によって迎撃されることだろう。それだけ防備が堅い場所に、本体を据えるというのは合理的だ。
「あそこに近付ければ良いのだな?」
「うん。プレス。行ける?」
「俺を誰だと思っている? この勇姿を脳裏に刻印(プレス)するが良い。――行くぞ!!!」
前方にプレスが立ち、彼の後ろにシャオチン、ハクテイが並び最後尾にシンキが立った。皆が作り出してくれた、歴史さえも左右しかねない1回限りの挑戦が始まった。
――
今、見たのがラドンの過去だとすれば、俺はやはり彼女の中にいるということだろうか。だが、不思議なことにいつまで経っても彼女の姿は見当たらない。
「(マスターに酷い目に遭わせられたとか、凄惨な過去があったとか。そういう類の物かと思っていたけれど)」
先程、見たのが真実だとすれば、僅かなすれ違いが重なり、邪竜が生まれてしまったことになる。
もしも、マスターがラドンを傍に置いておく勇気があれば。
もしも、結婚相手がドラゴン娘の存在を許してくれていたら。
もしも、彼女がマスターのことを諦めていたら。
もしも、ラドンがあのマスターに呼ばれていなければ。
「(今日に至る悲劇は起きていなかったのかもしれない)
俺の見えない所で引き裂かれたマスターとドラゴン娘達もいただろう。今生の別れとなってしまった者達もいただろう。
フェルドの時は止められたが、起きてしまった悲劇は変えられない。俺が彼女にできるのは、裁くことだけだろうか?
「いいや。お主と妾にできることはある」
背後から声が聞こえた。先程まで見ていたドラゴン娘ではなく、『黄金のラドン』がいた。その気になれば、俺を縊り殺すこともできるだろうが、彼女は薄く笑っているだけだ。
「世界征服だとか言い出すつもりじゃないだろうな? 俺は王様になるつもりはないぞ」
「下らん。それよりも、妾も面白い物を見た。のぅ、イルマ――違うな。お主ら風の発言で言えば、こうか? 『入真』?」
心臓を鷲掴みにされた気がした。だが、考えてみれば道理だ。俺が向こうの過去を見ている様に、向こうも俺の過去を見たのだろう。
「その名前で呼ばれたのは久しぶりだな。で、それがどうかしたか?」
「強がるのは止せ。お主も妾も、この世界では異物だ。ならば、共にどこでもない場所に行かぬか?」
ラドンが言うことは事実だ。この世界の人達は自分が『ドラゴ・マギカ・クロニクル』なんてゲームの世界で生きていると思ったことも無いだろうし、ましてや前世の記憶なんて持っている訳もない。
「お前はどこかに行きたいのか?」
「そうじゃ。マスターもドラゴン娘も邪竜も下らん。妾と二人、誰も知らないどこでもない場所で、何にも縛られずに――共に生きてはくれないか?」
もしも、彼女が血も涙もない邪竜その物であったら。
もしも、彼女が力にだけ酔いしれていたら。
もしも、俺が彼女の過去を知ることもなければ。
もしも、彼女がこんなに寂しそうな顔をしていなければ、俺は主人公然として、彼女に堂々と裁きを下せたのだろうか? 少し前なら、彼女に同意していたかもしれない。でも、今は違う。
「ごめん。俺には、この世界で生きたい理由があるんだ。フェルドやファヴ、ヤウナー教授。それから……シンキとハクテイの所に帰りたいんだよ」
誰の気にも留まらないモブではいられなくなった。俺は『カラバ・イルマイト』として生きているのだから。
「そうか。お前も、妾を見捨てるのだな」
押し倒され、首に手を掛けられた。
彼女がして来たことは許されない。許してはいけない。だけど、これ以上。彼女自身を傷付ける必要もない。背中に手を回して、抱き寄せた。
「でも、正直に言うと。歩み寄ってくれた時は、ちょっとだけ嬉しかった」
――
「(動きが鈍く?)」
「うぉおおおおおお!!」
先頭に立ったプレスが一気に走り出す。どうして、ラドンの動きが鈍ったのかは誰も分からなかったが、好機であることには間違いなかった。
胴体に飛び乗り、首を目掛けて走るが、幾つもある頭部の一つがシンキ達の接近に気付いた。
『ガァアア!!』
「ふんぬ!!」
彼女ら目掛けてブレスを吐き出した。しかし、プレスの反応は早かった。
彼はラドンの体表を覆う鱗の一部を剥がし、盾の様にして掲げた。ドラゴン娘達の攻撃を防いできた竜鱗は城壁の如き、鉄壁だった。
「プレス!!」
「いっけぇえええ!!」
ブレスを押し込むようにしてプレスが進む。彼が押されそうになった時、シャオチンもまた共に支え、脚部の竜鱗をスパイク状に変形させて踏ん張っていた。
「シャオチン!!」
「ここは私達に任せて!」
自分達を守る竜鱗の壁が割れそうになる度、プレスが剥がしてシャオチンが支える。元・邪竜信者の幹部とドラゴン娘という組み合わせとは思えない程の連携だった。そして。
「ここだ」「ハクテイ」
シンキからバフを掛けて貰い、ハクテイが打撃を加えた。厚く覆われた壁の下、金色と黒の竜鱗に囚われたカラバの姿があった。