俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
「おい! まだか!」
プレスが叫んだ。竜鱗を防壁の様に用いるにしても、体力にも気力にも限界がある。ましてや、本体とも言える部分を引っこ抜こうとしているのだから迎撃は苛烈な物になっていた。
「抜けない!」「絡みついていて!」
金色と黒色の竜鱗はカラバを絡め取っていた。引き千切ろうにも堅牢で、仮に一つ破った所で別の物が絡みついて来る。
「余程、彼のことを手放したくないのね。でも、私にいい考えがあるわ。ちょっとの間、防御をお願い!!」
「……ちゃんとした策なんだろうな!!」
疲労のせいか、シャオチンのテンションが若干高くなっていることに言いようのない不安を覚えた。防御をプレスに任せたかと思えば、彼女はカラバに向かって両手を差し出した。
すると、どうだろうか? 彼女の両腕の竜鱗が湿ったかと思えば粘液が染み出し、カラバにボタボタと注がれていく。頭から爪先までじっとりと。
「これで全身がヌルヌルになれば、拘束から抜け出しやすくなるはずよ!」
「おお」「すごい」
絵面は最悪だが合理的ではあった。実際、竜鱗鎖の下までヌルヌルになったせいで彼を動かし易くはなったが。ここに誤算が一つ。
「シャオチン! ヌルヌルして掴めない!!」
「滑る!!」
当然の話だが、掴みにくくなっているのはシンキ達も同じだった。
だが、シャオチンは慌てなかった。直ぐにハクテイとシンキの両手を自らの竜鱗で覆った。
「これで滑らずに掴めるはずよ!」
「うん!」「手伝って!」
3人掛でカラバを引っ張り上げようとしていた。竜鱗鎖が絡みつこうにも、粘液のせいで上手く拘束ができなくなっている。徐々に、彼の体は引き摺り上げようとされていた。
――
浮遊感を覚えた。外の様子は分からないけれど、誰かが俺を引き上げようとしてくれているのかもしれない。……だが。
「駄目だ。やはり、お主は渡さん」
ハグし返したのが効いたのか、首締めを止めてくれたのは助かったが、今度は覆い被さる様にして、全身で拘束された。
何故か、その時。俺の頭には表で戦っているであろうハゲ頭の大男の顔が浮かんだ。そう、この体勢。一般的には『種付けプレス』と呼ばれている物だ。
「苦しい。どいてくれ」
「どかん」
マーキングする様に首を噛まれた。痛みの後に生温い感覚が首筋をなぞる。舌を這わせていた。怖気が走った。
会ってから1日しか経っていないというのに、気に入られる要素があったのか。あるいは、そんな相手にすら縋らずにいられない程なのか。だけど、彼女の意思とは裏腹に、俺の体は宙に浮いて行く。
「お主は、妾を突き放さなかった! だというのに、妾の元から去ろうというのなら! 何故、期待させた!? 希望を持たせた!?」
拒絶された方が楽というのは分かる。これ以上、何かを期待しなくても良いし、裏切られずに済む。繰り返した先の孤独に邪竜が生まれたとしたら。
「じゃあ、お前も来い」
手を差し伸べた。彼女に掴む意思があるか無いかは……いや、関係ない。ラドンの腕を掴んだ。
「なっ……」
「そっちが離す気が無いって言うんなら、俺も離してやらないからな。人のことをベチャベチャにした責任取れよ」
落としてしまわない様に、離してしまわない様に、彼女の腕を掴んだまま俺は引き上げられていた。
――
「カラバ!」「待って。横にいるのって」
意識が浮上する。どこか高い場所にいるらしい。シンキ、ハクテイ、シャオチンがいて、プレスが膝を着いていた。
「カラバさん。その掴んでいるのは……」
シャオチンが指差した先にはラドンがいた。ぐったりとしているが、息はある様だ。何が起きたかを思い出そうとして。
『ぐぉおおおおおおお!!』
「離れるぞ!!」
プレスがラドンを、シャオチンが俺を、ハクテイがシンキを担いで近くの建物の屋上へと移動していた。周囲の光景を見て唖然とした。
華やかだった街は瓦礫の山と化しており、中心では超大型の魔獣が暴れている。恐らくだが、状況的には疑竜化したラドンだろう。……待て。
「なんで、止まらないんだ?」
俺もラドンも引きずり出されたんだから、既に中身が無いハズだ。ファヴの時を考えれば、崩壊していておかしくないハズだ。
「分からん。だけど、コイツが元なのだろう?」
プレスが拳を構える。ラドンに向かって振り下ろそうとしていたので、間に割って入った。
「待て。殺すな。彼女からは聞きたいことがある」
「じゃあ、あの化け物はどうするんだ? 例の相棒が助けに来てくれるのか?」
「だからといって、ラドンを殺したら止まるなんて保証は無い」
だが、他に取れる手段が無い。街の惨状を見れば、シンキやプレス達が散々に交戦して来たことも分かる。ドラゴンの奴が助けに来てくれたら話も早いのだが……。
「カラバ。ラドンと近い」
「何かあったの?」
「色々と話を聞いた。詳細は後で話す」
なんだろう。シンキとハクテイの目が怖い。シャオチンがクスクスと笑っていて、プレスも怒っていた。
「その小娘達は解放されたマスターやドラゴン娘達に声を掛け、自ら危険を買って出てまで、お前を助け出したというのに労いの一つも無いのか?」
「あ……。その、皆。ありがとう」
状況が状況だから後回しにしていたが、皆の尽力に礼を言うのを忘れていた。しかし、二人は許してくれそうにない。
「駄目。気が済まない」
「私達も怒っている」
「全部終わった後で、埋め合わせはするから」
暢気すぎる。今は事態の打開方法を考えるべきだ。というのに、シンキとハクテイはジィっとこっちを見ている。
「だったら、いい方法がある」
「事態もどうにか出来るかも」
ジリジリとにじり寄って来る。なんだか嫌な予感がして、後退していたがプレスとシャオチンに拘束された。
「覚悟を決めろ」
「女子に恥をかかしてはなりませんよ」
何をするつもりか思い出す。俺が意識を失う前、ラドンに何をされたか。あの前後で疑竜化したというなら、シンキ達がしようとしていることは……。
「待て。そういうのは必要に迫られてやるべきじゃない。もっと、ちゃんとした場所で好きな人とするべきだ」
「うるさい」「知らない」
急に、ドラクロのゲーム性を思い出すような展開になるのは止めて欲しい。
ラドンに無理矢理されたからって、性のハードルを下げるのは良くない。プレスやシャオチンが言う様に覚悟を決めるべきかと迷っていると、両頬に柔らかな感触が二つ。……チークキスという奴か
「来た」「シンキ?」
シンキの契約印の紋様が全身に浮かび上がる。呼応するようにして、俺の体にも浮かび上がっていた。気のせいでなければ、以前に浮かんだ紋様の形と違う気がする。内側から灼ける様な痛みもない。
「カラバ。今、どんな感じ?」
「なんか靄が掛かった様な。ふわふわした感じがする」
「私も、そんな感じ」
以前、フェルドに聞いた時は『溶かされる様な痛み』と言っていたが、パートナーの特性に応じて、マスターにも弊害が出るということだろうか? 何故、俺にも症状が出ているかは分からないが。シンキの手を握った。
「俺がボーっとしていたら、強く握り返して欲しい」
「分かった。私がボーっとしていたら、カラバもお願い」
「行こう」
ハクテイの全身が白亜の竜鱗で覆われて行く。彼女は俺とヤウナー教授の次にドラゴンを見て来た。巨大な体躯と四肢が忠実に再現されて行く。
ドラゴンが灼熱を纏った力の象徴であり、ファヴの疑竜化が暴毒だったとしたら、ハクテイは空に浮かぶ雲の様に。
「ハクテイ!」
『あの魔獣を止める!』
飛翔し、相手の頭上を取ると、かつてドラゴンがやった様にテイルハンマーを繰り出した。アイツと違うのは、彼女が作り出した尾は刃の形へと変貌して、疑竜の一部を寸断したという所だろうか。
『ガァアアアアアアアアア!』
疑竜と化したハクテイは雲の様に変幻自在だった。ヘスペリデスでの戦いは間もなく終わりを迎えようとしていた。