俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
『ギャアアアアア!』
切り付けられた疑竜の断面から血液の代わりに黒い瘴気が噴出していた。
どうして、あの怪物がラドン抜きで行動できているかを考えた時、邪竜の力がエネルギー源になっているなら説明が付く。
「(ファヴはあくまで邪竜の力を借りていただけ。でも、ラドンは邪竜だったから、彼女が持っていた力の残滓で動いているのか)」
だが、動きは精彩を欠いている。力任せに暴れているだけなので、ハクテイに翻弄され続けている。
テイルブレードで切り付け、相手のブレスを避けては、槍の様に変形した前足で串刺しに行く。加えて、彼女のブレスは巨大な風圧を叩きつける物で、疑竜の全身にヒビが入って行く。もはや、敵ではない。
「ハクテイ。頼んだぞ!」
「ハクテイ。お願い!」
『これで終わり』
彼女は大翼の先端をブレード状に変形させて、疑竜の上で回転してみせた。さながら、ミキサーの様に細切れにされていく様は、少しだけグロかった。
『ガァァ…』
再生する。ということも無く、疑竜は黒い霧になって消えた。邪竜大幹部が作り出した怪物にしては、あまりに呆気ない終わりだった。
ハクテイが俺達を地上へと下ろすと、彼女の姿もまた元のドラゴン娘へと戻っていた。周囲は静寂に包まれていた。シンキが声を上げた。
「戦いは終わった。私達の勝ち」
「皆! 協力、感謝する!!」
付け加えて、俺も声を上げた。程なくして、大歓声が返って来た。
解放されたドラゴン娘やマスター達だけではなく、避難していた住民達も帰って来て、揉みくちゃにされた。
「あのバカデカい魔獣は何だ!?」
「ラドンを倒したのか!?」
「君が、あの娘の彼氏!?」
等、好奇心と感謝が押し寄せて来るというのは、悪いことでは無かったが、どうしても気になることがあった。
「なんか。俺の服、滅茶苦茶ぬるぬるしているんだけど」
「必要だった」「おかげで助けられた」
……とりあえず服は後で洗濯に出すとして、先に解決しなければならない問題が幾つかある。
「ラドンはどこだ?」
シャオチンとプレスが付いていたにしても、押さえ込めるか分からない。
あの時は気絶していたようだが、目を覚まして暴れたり、逃走を企んでいたら止められない。
「坊主の探し物はコイツか?」
人ごみを掻き分けて来たヒュプノーの背後には、プレスとシャオチンによって拘束されたラドンの姿があった。
祝福ムードが一転、マスターとドラゴン娘達から殺意の籠った視線が向けられたので、声を上げた。
「彼女の身柄は俺が預かる。貴重な邪竜信者の大幹部だ。聞かなきゃならないこともある」
普通、こういった物は治安維持組織に引き渡す物だろう。
だが、敗れた邪竜信者の大幹部を預けたらどうなるか? なんてことは、プレス達もよく知っている。
「この小僧の言う通りだ。そもそも、国がこの怪物を留めて置けると思うか? いや、留めた所で契約を破棄すれば逃げられるのだから意味が無い」
プレスが鼻を鳴らしていた。憶えたばかりのことを話して見たかったのだろう。不覚にもちょっとだけ可愛いと思ってしまった。
でも、言っていることは事実だ。仮に引き渡した所で契約を破棄されて逃げられたら、意味が無い。
「坊主。お前に、コイツを引き留めて置けるだけの物はあるのか?」
ヒュプノーから問われた。マスターとドラゴン娘の力の差は明白で、彼女達の意思一つで殺されかねない。……だが。
「俺はマスターだ。『ドラゴン娘』を見捨てるような真似はしない」
項垂れていたラドンが顔を上げた。彼女に手を下さなかったのだから、俺にも一定の責任はある。と、同時に。
「だから、お前も自分が犯して来た罪から逃げる様な真似はするなよ。俺が近くで見張っているからな」
俺の見えない所で起きた罪まで許すことはできない。殺せば終わる訳ではないし、償うという言葉を容易く信じる訳にはいかない。
「カラバ」「それって」
「二重契約はできぬはずだぞ」
マスターやドラゴン娘達の間では常識だが、俺は違うと思っている。
果たして、どこまでがゲーム通りかは分からないが、もしも一人につき一人までしか契約できないなら、原作の光景はあり得ないからだ。
ゲーム的な事情と言えば、それまでだが試してみる価値はある。契約印が刻まれていない方の掌を出した。
「ラドン。俺と契約を交わせ」
「フフフ。お主は、手厳しい奴だな」
互いの掌が合わさった。彼女に浮かんでいた契約印の形が変わり、同時に俺の空いていた手の方にも浮かんだ。片方にはドラゴンとの契約印、もう片方には邪竜との契約印。彼女もまた結ばれた証を見ていた。彼女をドラゴン娘へと引き戻す為の印でもあり、罪と向き合っていく約束の印でもある。
「これを持って、彼女の身柄は『カラバ・イルマイト』が預かる!」
と、宣言した。非難が来るか、あるいは賛同と共に迎え入れられるかと思っていたが、マスターやドラゴン娘達は黙っていた。ドラゴン娘達が動き出した。
「二人目行けるじゃん!! マスターさん! マスターさん! 私と契約しよ!」
「はー!? 男を漁ってんじゃないよ! このクソビッチ!!」
「オラーッ! 元のマスターの元に帰らんか、このボケーッ!!」
「あ!? 勝手に掌を合わせ……うわ!!」
もしかして、俺は戦後の争いを招いてしまったのだろうか。肩を叩かれた。ヒュプノーがラドンの居城を指差していた。
「騒ぎになる前に、報酬持ち出してずらからさせて貰う」
「そうよ。どうせ、国の奴らが来て押収していくだろうしな」
プレスもノリノリだ。今回は共に戦った相手だが、やはりコイツらが悪党であることには変わりない。
「この街を手に入れるんじゃなかったのか?」
「俺はヘスペリデスが欲しかったのであって、瓦礫の街の主になる気はねぇよ。それじゃあな」
ヒュプノーとプレスは去って行った。アイツらとはまた何処かで会う羽目になりそうだ。俺達も騒ぎになる前にズラかろうと思ったが。
「先程から、貴様らを引き連れていた女の姿が見当たらんが。奴はどこに?」
「避難しているんじゃないか?」
後々になってヒョコッと顔を出して来そうな気がする。ヒュプノーと一緒に行動していた様だし、そこら辺も聞いておけば良かったと思いつつ、俺達は荷物の回収をするべくホテルへと向かった。……無事である可能性は低いが。
――
「き、消えた……」
かつて、ラドンのマスターだった男は自分の掌から契約印が消えたのを見て、僅かの間困惑したが、直ぐに正気を取り戻した。
「(何が起きたかは分からないが、アイツが居ないならチャンスだ)」
普段は見張りのドラゴン娘達もいるのだが、今は全員が出払っている。逃げるなら今しかチャンスは無い。逃げだそうとした彼の前に二人のドラゴン娘が立ちはだかっていた。ラドンの側近だった者達だ。
「ラドン様は敗れた」
「我々は暴虐な邪竜と邪悪なマスターによって虐げられていた。だから、この機会に報復する」
「な、何を言っているんだ!?」
自分はラドンに拘束され、彼女をこの世界に留める楔として生かされていた。彼女達に手を出した覚えもない。彼女達は罪から逃れるために、自分を殺そうとしているのだ。
「いやいや。それは駄目だろう」
闖入者は人間の女性だった。ドラゴン娘からすれば、他愛のない相手。
ならば、この男の凶悪さや非道ぶりを強調させる為に彼女を引き裂こうとした。しかし、彼女達の爪は届かなかった。止められていたからだ。びくともしない。
「……は?」
「ドラゴン娘に生まれただけで、なんでも思い通りになるとは思わないで欲しいねえ」
壁に叩きつけれ、床に叩きつけられ、一瞬の内に無力化された。
何が起きたか分からないマスターだった男は、新たなる脅威を前に息を荒くしていたが、ゆっくりと思い出していく。
「貴女は、あの少年達と一緒にいた……」
「助けに来たよ。と言いたいけれど、その前に一つ教えて欲しいことがあるんだ。『黄金のリンゴ』って聞き覚えはあるかい?」
「何故、君がそれを……」
「色々とあるんだよ。さぁ、教えてくれ。他の誰かに取られるより先に回収しておかないと」
かつて、マスターと呼ばれ奴隷の様に扱われていた男は、彼女を案内した。それから数十分後のことである。
「なんでコイツらは気絶しているんだ?」
「俺達と似たような奴がいたんじゃないのか?」
どう考えても人間ではない力で叩きつけられている。プレスは床に落ちている物を拾った。竜鱗だ。
「……なんか見覚えがある様な」
「コイツらの竜鱗なんて全部同じ様な物だろう。早く、取る物取ってズラかるぞ」
かくして、二人も火事場泥棒をする為に姿を消した。国の正式な調査が入った時には、価値のある物は殆どが持ち去られていたという。
――
「かくして。囚われていたドラゴン娘とマスター達は解放され、その上。邪竜の大幹部さえも捕らえた功績を認められ、学園で暴れた一件は国としても飲み込まざるを得なくなったようだね!」
いつもの隅っこスペースで、ヤウナー教授が嬉々として報告してくれていた。今回、出番の無かったドラゴンは欠伸をしている。
「ヘスペリデスが廃墟と化した一件は……どうなりましたか?」
「あそこに通っていた顧客達が新たな主は俺だってドカドカ投資されているらしいよ! 前よりも大きい街になるかもね!」
「その時は人身売買とか悪行が蔓延らないことを祈りますよ」
ある意味、人の縁と言えるのだろうか。ヒュプノーとプレスとは別れ、シャオチンも旅に出るとは言っていた。以後のことは街の人達に任せるしかない。……で、問題は俺の方だが。
「カラバ君。君が留守番をしている間、僕達は彼に食事を提供していたんだけどね。何かある度、バンバン地面を叩いて威嚇して来るんだ。酷いと思わない?」
「特に、私には物凄く威嚇して来て。中々ご飯を食べて貰えなくて。アハハ……」
留守番中、フェルドとファヴにも苦労を掛けた。彼らを労おうと思ったのだが、俺の両隣にいるシンキとハクテイがシッシと追い払う仕草をしていた。
「ファヴちゃんは居ても良いけど、フェルドはさっさと帰るべき」
「保護してくれている学園の皆さんに迷惑かけちゃ駄目」
「なんか、距離近くなっていない?」
色々とあったというか。思い出しただけで顔が真っ赤になる。
おいおい、排泄物だのDV(ドラゴン・バイオレンス)に悩んでいた時と違って、ドラクロ本来の世界観みたいじゃないか。
「何かあったんですか?」
「仲良しに」「なった」
「……ふーん」
フェルドも御立腹といった様子だった。俺の友達と友達は仲良くないと思っていると、契約印が薄く光っていた。反応のある方を見れば、ラドンが居た。
「おや。『マスター』。ここにおったのか」
「は? は? 邪竜!!?」
「フェルド。落ち着いて聞いてくれ」
ファヴが警戒して、彼の前に立つが、ラドンは気にも留めていなかった。隣にいるシンキとハクテイも威嚇している。
「何?」「なんか用?」
「そちらこそ何様じゃ。妾はマスターの相棒ぞ? これが噂のドラゴンとやらか」
ラドンがドラゴンに近付こうとした所、バンバンと地面を叩いて威嚇していた。どうやら、今日は機嫌がよくないらしい。
「カラバ君。何故、邪竜が?」
「国としても、管理しきれないから学園に押し付けるってことらしい」
もはや、火薬庫と化している気がするが、俺にはどうしようもない。そんな俺の気も知らず両隣……は占拠されているので背後からすり寄られた。
「邪魔」「どいて」
「盛りの付いた狗の様に吠えおるわ」
まだまだ、彼女には償って貰うべき罪はある。あるのだが、もう少し汐らしくして欲しいのだが、そんな気配は無さそうだ。
「なんだか賑やかになったね!」
「俺の友達同士が仲が良くない不具合」
仲間は増えたのだが、全員の仲が微妙という惨い環境になっていた。
ドラゴンに続いて邪竜を仲間にしたことで何が起きるか。先の見通しは一層不明瞭になって行くばかりだった。……悪くは無いが。
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