俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
「イヤァ。ここ最近の君は学園の人気者だねぇ。寄付も増えて、教授や校長は甚く喜んでいるよ」
あれから数日。俺とドラゴンは邪竜信者のみならず、山賊や盗賊と言った与太者達の拠点に乗り込んでは破壊しつくすという野蛮極まる行為を繰り返していた。かと言って、報酬で懐が温いかと言われたら。
「『奪われた資源が焦げていた』『既に大半が食われていた』『我々も苦しい』『これが精いっぱいです』。とか! 全員ロクに報酬払いやがらねぇんだけど!!」
「そう言う依頼を優先的に回しているからね。我々は誰も受けたがらない任務を消化できる。君は認められる。WIN-WINだね!」
「俺のWIN! 何処!!?」
俺を認める為の試験と言う体でクソみたいな任務を押し付けているってことか。
依頼の遂行課程で魔獣を捕食するので、ドラゴンが飯を催促する間隔は伸びているが、良いことばかりでもない。いつも通り残飯を食わそうとするが。
「……ッシャァアアア!」
「駄目だ。コイツ新鮮な肉の味を覚えたせいで、選り好みする様になりやがった」
ちゃぶ台を叩く親父の様に。ドラゴンは地面をバンと叩いていた。ちゃんとした供物を用意しろと言っている様だ。隣ではヤウナー教授がゲラゲラ笑いながら、排泄物の採取をしている。
「私としても嬉しい限りなんだよね。ほら! 大量の魔獣が捕食され、中で消化され混ぜ合わされて、全く未知の素材になっている!」
ウンコが着いた棒を突き付けながら力説するのは止めて欲しい。
渋々、残飯を食い終えたドラゴンが昼寝に入ったのを見計らって、俺は道具一式の入ったカバンを手に立ち上がった。
「何処に行くんだい?」
「授業だよ!? 俺、学生!!」
「あ。そうだった」
皆して、俺を何だと思っているんだ。授業を受ける前に、体の臭いを落としてから教室へと向かった。
――
「皆さんは、ドラゴン娘達と契約を結びましたが、彼女達に任せっぱなしでは優秀なマスターにはなれません。むしろ、彼女達を活かして上げられるように一層精進する様に……」
使役するタイプのゲームで主人公は後ろから指示を飛ばしているだけ……なんてことは無く、実技と知識を詰め込まれる。
「お前、もうクエストは受けた?」
「受けた、受けた。薬草採取なんてショボイ依頼だと思ったけど、魔獣が現れたりして大変だったよ」
「俺なんて邪竜信者達の妨害が入って来てさぁ。まぁ、パートナーと一緒に乗り越えたんだけれどね」
生徒の大半は、自分達の頑張りやパートナーの素晴らしさを語り合っている。俺も参加したいのだが、イキリ散らす痛い子になりそうなので遠慮した。
幾ら、惰性でやっていて愛着がそこまであった訳でないにしても、青春没収の罰は辛過ぎる。
「クエストを受けた者達は実感している様ですね。だからこそ、互いが互いを支え合う為、お互いをよく知る必要があります。何が得意か、何が不得意か」
ここら辺はゲームの説明でもあった。耐久力が低い娘には防御呪文を。決定打に欠ける子にはバフ呪文を。特殊能力を持つ娘は特性を強化したりと。
先程の自慢大会からシームレスにお互いが得意とする分野の議論や試行錯誤。実に学生らしくて良いとは思う。
「……」
「(俺と似たような奴もいるのか)」
だが、全生徒が友好的という訳ではないらしい。同じ様に、教室の隅で背の高い女子生徒が自分のドラゴン娘と遣り取りしていた。
俺も同じ様に1人で防御壁を作る練習ばかりしていると、教授が見かねたのか話しかけてくれた。
「カラバ君。君の事情は察するが、ドラゴン娘ではないにしても。パートナーではあるのだから互いの在り方は考えるべきだ」
「だから、巻き込まれない為に身を守る練習をしているんです。その方が、アイツの力を引き出すことにも繋がるでしょう?」
教授が渋い顔をしている。変なことは言ったつもりはない。
アイツの力は強大で傍若無人だ。態々俺が何かしてやらなくてもどうにでもしてくれるはずだ。
「真摯ではない。考えることを放棄している」
「放棄ねぇ……」
教授に悪態を吐いて、評価や単位に影響することは避けたい。
だが、俺の背負っている苦労を知らずに正論をぶつけられるのも癪だ。俺は授業で習った初歩的なバフを唱えた。対象は言わずもがなだ。
「ゲェエエップ!」
教室にまで爆音が響いて来た。アイツにバフを掛ければ、たかがゲップでも凶器に変わり得る。生徒達は戸惑い、教授が溜息を吐く中。俺は防御壁の練習をしていた。
――
「何故、俺はあんなことを……」
昼休み。俺は食堂の隅で自己嫌悪に陥っていた。イキリを我慢した結果、変な方向で噴き出してしまった。教授が言っていることは間違っていないことは分かっていたが、正論だったのでカチンと来た。
ズルズルとカボチャのスープを啜りながら、ふわりと柔らかいパンを齧る。上等な料理のハズなのに味は殆ど感じられない。
やっぱり、ドラゴンと一緒に飯を食うかと考えていると、前の席に座る女子が1人。先程の授業で俺と同じ様に隅っこで何かやっていた女子だ。
「良いと思う」
「何が?」
ヤウナーと言い、俺に絡んで来る女は変な奴しかいないのか。
いや、まだだ。単にコミュ力が低いだけかもしれない。彼女の隣に座るドラゴン娘に解説を求めようと視線を投げてみたが。
「良いと思う」
「何が!?」
よく見たら、ドラゴン娘であるはずなのに容姿から体つきまでマスターと瓜二つだ。違いがあるとしたら四肢を覆う竜鱗と背中からはみ出している翼位か。
「人間如きがドラゴン娘とパートナーであるという思い上がった考えは受け入れられるべきではない。カラバの様に私達はドラゴン娘達に仕えるべき」
「やったね! ちゃんと変な奴だよ!」
こんな所に居られるか! 俺はテントに戻ろうと思ったが、席に着かされていた。後ろにも同じ顔。前にも同じ顔。前門の虎、後門も虎。
「私。カラバ君みたいにドラゴン娘を崇拝する相手とお話をしたいと思って」
「残念だったな。俺のは娘じゃないんだ」
「違う。大切なのはドラゴン娘をパートナーだとか友達だとか。思い上がったことを考えないスタンス」
「もしかして、邪竜信者のスパイか何か?」
ドラゴン娘に奉仕し、仕えるという点ではあっち側の人としか思えないが、彼女は目を見開いた。
「違う。アイツらは信奉していない。力をくれるから媚びているだけ。本質はここに居る奴らと変わらない」
「だったら、俺も同じだな。俺も相棒が強いから身を粉にして仕えているだけだからな。特別じゃなくて残念だったな」
相手のロジックに則って、会話を打ち切る流れに持って行った。俺でも友人は選びたいからな。
「違う。それなら逃げ出せばいいだけ。でも、貴方は汚物に塗れることも厭わず、共に死地に赴くことも拒まず、孤立しようとも仕え続けている。力を頼りにしているだけでは説明できない位の奉仕ぶり」
思い返してみた。残飯を運搬して排泄物を処理して、共に死地へと向かい、それが原因で孤立しても逃げ出さずに世話を続けている。
「俺は信者だった……?」
「自覚できて、えらいっ」
無遠慮に頭を撫でられた。同類と想い込んだ瞬間の距離の縮め方がバグっているとしか言いようがない。
「そもそも、お前らは誰だよ」
「シンキ。『シンキ・ジェーヌ』が私の名前。この子は『ハクテイ』。覚えた?」
「私が『ハクテイ』。こっちは『シンキ』。分かった?」
2回言われなくても分かる。にしても、このドラゴン娘は見たことがない。思い返してもマスターそっくりの姿に化けるキャラがいたことも無かったハズだ。
「(ゲーム内で世界の全てが描写されていたという訳でもないだろうしな)」
「この後は何をするの?」
シンキがソワソワしている。彼女が折れに期待していることは1つ。
「残飯を回収してアイツの所に持って行く」
「私達も行く」
「万が一のことがあったら責任を負えないからダメ」
「ケチ」「ケチ」
2倍抗議されてもダメ。食器を下げるついでに残飯を回収しようとしたが、人の言うことも聞かんでついて来る奴が2人。
「ハクテイならゴミ箱。簡単に運べる」
「……絶対にハクテイから離れて行動するなよ」
見た目は少女であるが、軽々と中身の詰まったゴミ箱を持ち上げていた。
俺が台車で運んでいた苦労が何だと思う反面、この楽さに慣れたらテント付近に面倒臭い奴が増えそうなのだが。
「(楽できるのは。良いことだよな)」
そればかりは悪くないと思えた。
ヤウナー教授のシーンを書く時、いつも職場に提出する検便のことを思い浮かべます。