俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
「アカデメイアに向かうに辺り、君には私の研究室に入って貰う訳だけど。アレ? ラドン君は?」
「少し学園を見て回るってさ。偶には1人で行動したくなるんだって」
改めて、彼女の研究室の一員になった訳だが、相変わらず部屋はキチンと整理されている。適当な椅子に腰掛けた。
「研究生って何をするんですか?」
「研究内容に従って教授のサポートをしたり、自身も研究をしたりね。今、やっているのは君の相棒君の観察だよ」
「それ以前は何を?」
ドラゴンの研究は急遽組み込まれた物に過ぎず、契約の儀を行う前に取り組んでいた内容もあるとは思うが。
「魔獣自身の観察や、彼らが及ぼす生態への影響だね。最近、君達はあんまり魔獣に関わっていないだろう?」
ヒュプノーの陣営に攻め込んだ時以来、魔獣関係はあまり触れていない。
この世界の主役はマスター、ドラゴン娘、邪竜となっているが、魔獣達だって立派な住民だ。……ドラゴンの餌という印象が強いが。
「よし。では、研究生君に問題だ。魔獣とはそもそも何だ? 原生生物とは何が違う?」
この世界にも普通の動物はいる。狼や猪だって、魔獣だけという訳ではない。両者に違いがあるとすれば。
「生物が魔力(マナ)を取り込んだことによって変貌したのが『魔獣』でしたっけ?」
「正解。彼らは与える魔力(マナ)の指向によって、ある程度の行動を操作できる。邪竜信者達が番犬的に使っているよね」
全部ドラゴンの餌になっていたから、そういう細かいことを忘れていた。でも、考えたら割とロクでもない話である。
「人工的に取り込ませる場合もあれば、自然に摂取して変容する場合もある。普通はどっちも長い年月が必要なんだけれどね!」
ドラゴン印の肥料のおかげという訳か。……こういう話をしていると、当然浮かんでくる疑問がある。
「教授。俺達も魔力(マナ)の影響で変化したりとかは?」
「我々は魔力(マナ)に対する適応力が高いから問題ないよ。もちろん、ドラゴン娘も同様だね」
俺達が勝手に振り撒いといて、変化を受けるのは周囲だけというのは幾らなんでも一方的すぎるが、そういう物だと受け取るしかない。
「座学はこれ位にしといて、実際に我々が及ぼした影響を見る為にフィールドワークに行こうか。相棒君と一緒にね」
「ラドンやシンキ達は?」
「いや、むしろ来ない方が良いと思う。私の予想が正しければ、とんでもないことになっているだろうからね」
何か見せられない物でもあるのだろうか? シンキ達は兎も角、ラドンは相棒だから一声掛けて行かないのもどうかと思うので、テント内に書置きだけ残してドラゴンを引き連れて、観察に向かうことにした。
――
訪れたのは、かつてプレスが根城としていた邪竜信者達の拠点だ。かつてはスケベ魔獣やら番犬代りの魔獣が闊歩していたが。
「キーッ!!」
入り口付近では狼がウサギ型の魔獣にかみ殺され、ウサギ型の魔獣は木からニュルリと出て来たニョロニョロ魔獣によって絞殺され、養分とされていた。アイツ、スケベ以外のこともできるんだな。
「ま、不味いよ。こんな方向転換したらR-18にGが付いちゃうよ」
「なんで、こんなことになっているかって言うと、森全体に魔力(マナ)が満ちているからだね。覚え、ない?」
思い出す。プレスという邪竜信者の幹部との対決、ドラゴンの上で戦い、俺達は防壁によって難を逃れたが、アイツは……。
「教授、もしかしてプレスが異様に強くなったのって、源泉のかけ流しをしたからとか。ですかね?」
「研究者として調べたい気持ちがある反面、事実だと判明した瞬間、地獄絵図が広がるから結論は出させないでくれ」
俺は静かに頷いた。……俺も浴びたけれど特に変化はない気がする。あっても困るが。思い返すのは止めよう。ドラゴンの方を見た。
『ガァ』
まるで、積み木を崩す様に環境破壊に乗り出した。前回と全く同じことをしていることから、コイツにとって木々とは破壊対象に過ぎないらしい。
引きずり出されたバイオレンスニョロニョロはしっかりと頂かれていた。ただ、今回は魔獣の質も量も違ったのか、一斉に出て来た。
『ェーッ!!』
『キャーッ!!』
『エキッエキッ!!』
前回は狼型とかだったのに、今回は猿型、鳥型、熊型、鹿型に加えて変異した木々がツタや音を使って攻撃して来た。
が、ドラゴンを止めるには全く足りないのか。概ねが捕食され、後は踏み潰されていた。俺達は死骸が転がる道を辿って行く。
「ハッハッハ! 見たまえ! 殺された魔獣と原生生物の命が溶け合って、森の中へと帰って行くよ! 魔力(マナ)の循環が素晴らしい! 色褪せることなく、瑞々しいまま還って行く!」
「この世の終わりみたいな光景なんですけど!」
ヤウナー教授的には興奮せずにはいられない光景であるらしい。追いかけている内に開けた所に出たが、そこにあった物を見て固まった。
「……木?」
しかも、根っこを使ってワサワサと動いている。分類的にはキャベツ型魔獣と似たような物だろうが、ここまで完全に木だとは思わなかった。
「おいおい、樹人(トレント)じゃないか。まさか、生きている間に拝見できるとは思わなかったよ」
「そんなに珍しいんですか? キャベツ型魔獣と何が違うんですか?」
「あんなバカみたいなのと一緒にしないでくれ。見ろ。アイツに実っている物を」
トレントと呼ばれた魔獣の樹上には一つだけ果実が実っていた。テカテカと黄金色に光るリンゴだ。ラドンが喜びそうだ。
「アレは一体?」
「黄金のリンゴだよ。カラバ君、相棒君に手加減するように指示は」
できる訳無いだろというよりも先に、ドラゴンの前足パンチが決まった。
突然の暴力に晒されたトレントは何とか持ちこたえ、葉を手裏剣の様に飛ばしたり、ツタで打ち据えたが、ドラゴンには全く効いている様子が無い。
対するドラゴンは猫が爪とぎをする様に、トレントの樹皮に爪を立てて引っ搔いていた。もちろん、内部まで届いての致命傷である。立ったまま力尽きていた。
「でかした!」
ヤウナー教授が飛び出し、トレントの体にピョンと飛び移って樹上に成っていた果実をもぎ取っていた。ちょっと待て。
「教授。運動神経、滅茶苦茶良くないですか?」
「え? そうかい?」
研究者だからドン臭いとかインドアだということは無いと思うが、こんな身軽だったなんて。……それは、置いとくとして。
「このリンゴは一体?」
「ざっくり言うと、純粋な魔力(マナ)の結晶だね。かなり複雑な条件下で無いと生成されないんだけれど、君の相棒君のおかげだよ」
懐から取り出した小箱に入れて厳重に保管していた。ドラゴンがウンコした、というだけで実る訳じゃないのだろう。
「食べるんですか?」
「君は何を言っているんだ。研究用だよ」
それもそうか。ドラゴンの暴力ビュッフェも終えたので、俺達は荒れ果てた自然を背景に学園に戻ることにした。
――
「カラバ君。最近、学園の方はどうだい?」
帰り道のことである。いつもはドラゴンの排泄物やら、研究がどうだとかって話をするのに、急に先生みたいなことを言い出した。
「なんか、知り合いとか事情がいっぱい増えて大変です」
「まさか、君がこんな有名人になるなんて思ってもいなかったよ。今じゃ、対邪竜の先鋒とかって言われているんだよ」
やっていることだけを見れば、その通りとしか言いようがない。
だが、将来的なことを考えれば対抗手段を備えておく必要はあるのだ。来るべき未来、ドラマギ学園は戦場になる。だからこそ。
「邪竜の先鋒とかはどうでも良いけれど、仲のいい奴らと過ごす学園は楽しいと思っているよ。教授も含めてね」
「へぇ。意外だね。君って、そこまで私に友情を感じてくれているんだ?」
今日は距離が近い気がする。いつもは他人事みたいな感じで聞くというのに、妙な感じだ。思ったままに返事をする。
「そりゃあね。教授が居なかったら、独りで何していたか想像もできない」
「ウム。生徒を導いてこその教授だからね。アカデメイアに行っても励みたまえよ。我が研究室初の研究生君よ」
「初の課外授業が森への加害授業なんだよな……」
俺が学園で初めて仲良くなった人と、こんな風に話しながら帰るのも久々な気がした。この先、研究課題としてどんな無茶振りをされるかと思うと、溜息がこぼれるのであった。