俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
学術都市『アカデメイア』。原作的に言えば、中盤位に出て来る場所だ。
主人公とドラゴン娘の特別に強い結びつきに興味を持った総長から、招待状を貰い、足を運ぶのだが、ここまで来たら予想はできるだろう。
「(総長も邪竜だ)」
邪竜信者の大幹部達はヴァルザイアの様に教祖として君臨しているのではなく、既に人間社会で確固たる立場を築いている者が多い。
興味を持たれた理由は幾らでも思い浮かぶが、招待状を出されたメンバーを見るに、やはりドラゴン関係だろう。
「うぉ……。すごいな」
カンザキ教授が困惑と感嘆の混じった声を漏らしている。
ドラマギ学園からアカデメイアに向かおうとすれば、陸路や航路を使う必要があるが、ドラゴンに連れて行って貰えばすぐだ。
「意外じゃな。入真の言うことは、何一つ聞かんと思っていたが」
「普段から機嫌を取り続けた、俺の努力の賜物だぞ」
強制力は無いが、契約のおかげで何となく聞いてくれる。
行く先々で魔獣やら何やらを食わせたおかげ、出掛けた先で飯が食えると学習しているのかもしれない。アカデメイアではどうなるか分からないが。
「ラドン君。そのイルマという呼び方は何だい?」
「妾とマスターだけの秘密じゃ」
気になっていたのはヤウナー教授だけじゃなくて、フェルとファヴ、シンキ達も同じだったらしい。だけど、こればかりは話せない。
「多分だけど、アカデメイアに行けば分かると思う。それまでは、待って欲しい」
「どうして、アカデメイアで分かるんだい?」
『カラバ・イルマイト』は今まで、一度もアカデメイアに踏み入れたことは無い。だけど、『入真』という人間はアカデメイアのことを知っている。
「俺と似たようなのがいるから」
「君と似た人間?」
ヤウナー教授だけでなく、皆が疑問符を浮かべている。
学術都市アカデメイア。この世界で抜きんでて発展している理由は一つ、あの場所に集められた人間達は。
「(俺と同じ転生者達だからだ)」
――
転生者。俺自身もそうであるが、今やファンタジーの世界においては共通言語として認識されているレベルだ。前世の話だが。
ドラクロでも題材にされており、登場人物の中には転生者もいたし、キワモノではドラゴン娘の転生者もいた。
「(作中を思い出すに、スキルとかチートみたいなのは無かった気がするが)」
だけど、俺みたいな例もあるので、現実ではどうなっているかは分からない。敢えて言うなら、培ってきた現代技術や知識もチートみたいな物だが。
「お待ちしておりました」
ドラゴンが降り立った場所には迎えが来ていた。彼が着ている物を見て、皆は不思議そうにしている。何故なら、迎えの人間が着ている衣服は『スーツ』と呼ばれる物だからだ。上から下まで、ビシッと決まっている。
「ドラゴンはどうすれば良い?」
「まずは、検疫検査をさせて頂きます。引っ掛からなかった場合、カラバ様に連絡を入れ、特定のスペースに同行して貰います。検査中の間、皆さまに学術都市のご案内をさせて頂く、タカハシと申します。よろしくお願いします」
相手がお辞儀をして来たので、俺も釣られて同じ所作をした。皆は何も分からず、呆気に取られている。
「皆、どうしたんだ?」
「カラバ君。本当に、ここに来たのは初めて?」
「初めてですよ」
今の俺は、皆にどう見えているんだろうか? ドラマギ学園のカラバか、それとも別の何かなのか、聞く勇気は無かった。
――
アカデメイアの街中は、車こそ通っていなかったが近代的だった。
道行く人達は、皆スーツを着用していて、オフィス街にでも来たような気分になる。屋外ビジョンには天気や時刻が表示され、研究内容がニュースとして流され続けている。
『パラル教授による多次元層の論文は総長からも高い評価を得ており……』
「タカハシさん。この都市はいつから、こんな感じで?」
「私も1年ほど前に来たばかりなので……あ、転移の方です」
ヤウナー教授とカンザキ教授が興味津々といった様子でキョロキョロして、田舎者感丸出しな中、フェルド、ファヴ、シンキ達はあまりに様相が違うので困惑しているし、ラドンは不快そうにしていた。
「入真。なんだ、この街は? 誰も彼も同じ服を着て、つまらんぞ」
「俺が住んでいた所は、こんな街だったよ」
街の雰囲気と前世の名前で呼ばれたことに油断して、うっかり漏らしてしまった。誰にも聞かれていないことを願いながら、振り返ってみた。ヤウナー教授がニッコニッコだった。
「あれれ~? おかしいね。君は、アカデメイアに来たことは無かったはずなのに、住んでいたとはどういうことかな?」
「おや、カラバさん。言っていないんですか?」
不味い。皆の関心を引いたのか、俺に注目が集まっている。内心に焦りが満ちて行く。何を言おうか、言葉にならないでいたが。
「タカハシさん。これは何?」「ヘスペリデスでも見たことがない」
「ソフトクリームですね。よろしければ、皆さんに振舞いますよ」
シンキ達がこちらを見て、頷いた。気を回してくれたのだろう。皆にとっては見たことも無い珍味だが、俺にとっては懐かしい味だ。
「(うっ……)」
酷く気持ち悪い。現実に引き戻される。俺以外に誰もいない部屋が見えた。
今までの出来事が全て夢か何かだったような気がして、数分後にはPC前に座ってそうな気さえする。
「カラバ君? 大丈夫か?」
「大丈夫だ」
見かねたのか。フェルドが俺の背中を擦ってくれた。ファヴも心配そうにしてくれている。
この街は見たくない物が多い。皆がソフトクリームを食い終えた後、俺はタカハシに生返事をしながら、彼の後を付いて行った。
――
「ここが総長室です」
どうやって来たのかさえ覚えていない中、俺達は総長がいるという部屋に通された。ノックをして、返事が返って来たので部屋に入った。
「初めまして。ドラマギ学園の皆さん。ウチはアカデメイアの総長『ダハーカ』や。よろしゅうな」
両サイドにまとめた巨大なシニヨンヘアーが特徴的なドラゴン娘だ。
恐らく、原典の『アジ・ダハーカ』が3つ首であることを踏襲してのデザインなのだろう。ただ、ドラクロと明らかに違っている所があった。
「随分、変わった喋り方をするんですね」
「そうなん? 聞き覚えあると思ったんやけどなぁ」
「なぁ、カラバ。そろそろ、私達にも説明してくれないか? ここに来てから、お前の様子はおかしい」
堪りかねたのか、カンザキ教授が口を出していた。ここまで来たら、いよいよ誤魔化せないか。
「なんや、カラバ君が転生者なん。知らんの?」
「転生者?」
他の皆が不審に思ったりする中、ヤウナー教授だけがずっとテンションが高い。いつもは面倒見の良い人のはずなのに、今日は不気味に見えた。
「せや。この世界の外で死んで、その知識と記憶を持ったまま産まれて来た者達。それが、転生者や。この街におるんは大体が転生者や。外から招くこともあるけどな」
もしも、俺がこの世界の住民じゃないって分かったら、どう思われるんだろう?
もしも、俺が皆のことを物語のキャラクターとして見ているって思われたら、どんな風に接して来るんだろう?
もしも、俺が。
「それでも、カラバはカラバ」「うんうん」
「だから、この街も見慣れた感じだったのか」
「どんな世界だったんですか?」
皆は気にした風が無い。でも、やっぱり。俺は皆と違うっていうことは自覚せざるを得なくて、ラドンに目を向けるけれど薄く笑っていた。
「……ヤウナー?」
カンザキ教授が彼女の方を見た。俺も彼女を見た。普段は飄々としている彼女が、何時になく冷たい視線を俺に向けていた。
「そっかぁ。いやぁ、頑張って来たじゃないか。新天地で災難続きだったけれど、友人にも恵まれたし! 君の努力の賜物だよ!」
顔が笑っていない。上手く言えないけれど、突き放されるというのは、こういうことなんだとぼんやりと分かってしまった。小さく、彼女が呟いた。
「うそつき」
気のせいでなければ、彼女が少しだけ泣いていた様な気がした。