俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
「カラバ君。浮かない顔をしているね」
翌日のことである。俺はフェルドと一緒に色々な検診を受けながら、昨日のことを思い出していた。
居住スペースを宛がわれ、翌日のスケジュールを渡されたのだが、いずれも健診や調査で埋まっていた。どうやら俺達は学生じゃなくて、実験体として招かれていたらしい。……俺が憂いてるのはそっちじゃない。
「昨日、ヤウナー教授に言われたことにな」
うそつき、と。転生者であることは伏せていたが、嘘を吐いていた訳ではない。素性を隠していたことを指していたのかもしれないが。
「そもそも、転生者というのは一体? 君はどんな世界から?」
総長の説明はあまりにざっくりしていたから理解できないのも無理はない。『違う世界』というのも想像し難いのだろう。思い出してみる。
「ドラゴン娘も邪竜もいない。戦争はあったらしいけれど、俺が生きていた間に遭遇することは無かった」
「その上、さっきの街中みたいに発展しているんだろう? それは素晴らしいことじゃないか!」
フェルドだけではない。この世界に生きる人達からすれば、学術都市と近似的な『現代』というのは素晴らしい世界だろう。
医療や技術も発展していて、娯楽も溢れ、ボタン一つで誰とでも繋がれる。地域にはよるが、何かしらの暴力に脅かされることも無い。
「でも、俺は馴染めなかった。フェルド、お前になら分かるだろう?」
「……まぁね」
マスターの母親とドラゴン娘、父親もそれなりに地位のある人間だったろうに、窮屈な思いをしていたフェルドになら分かるはずだ。環境の充実が必ずしも幸福に繋がる訳ではないと。
『次、カラバさん。診療室にお入りください』
案内に従って、診療室に入って機材で色々と測定しているようだが、何をされているかはサッパリ分からない。
「幾つか質問をさせて頂きます。ドラゴンの契約で生じた身体の変化などはありますか?」
「日常では特に無いですね。ただ、ドラゴンが戦闘態勢に移った時は、契約印の紋様が全身に浮かび上がり、体内に激痛が走ります」
シンキの時は靄が掛かった様な感じだったので、疑竜化する際に起きるフィードバック的な物かもしれない。
「貴方は二重に契約している様ですが、魔力(マナ)枯渇による疲労などの症状はありますか?」
「ありません。敢えて言うなら、新しくパートナーになったドラゴン娘がやらかさないかという不安がある位ですが」
今頃、ヤウナー教授は何をしているんだろうか? どういう意味で言ったのか、何が悪かったのか。……きっと、はぐらかされるんだろうな。
「最後に。貴方は転生して来る前に、転生前の記憶を持っていましたか?」
「……転生前の記憶は全部持っている訳じゃない。忘れていることも多い」
「ありがとうございます」
奇妙な質問だ。ゲーム的な考え方で行けば、3周目以降の奴を探しているんだろうか? 総長自身も転生でも考えているのだろうか? 次の検査場所に向かいながらも、俺はやるべきことについて考えを巡らせていた。
――
「皆、検査を終えた後はやることは決まっているな?」
午前中は検査で終えたが、午後からまた別の検査が始まるまでは好きにしてくれて良いということらしい。ヤウナー教授とカンザキ教授はやることが色々とあるらしい。
「カラバ」「相棒のお世話は?」
「アカデメイア給食が気に入ったらしい」
今の所は、大人しく検査されているらしい。多分だが、美味い物だけじゃなくて廃棄物や毒物の試験もされているんだろうなとは思うが。
「もちろんじゃ。妾はしっかりと理解しておるぞ」
「はい! 私も分かっていますよ! ね、フェルド様!」
「そうさ。することは一つだ」
ラドン、ファヴ、フェルドも自信をもって頷いている。だけど、俺は知っている。この手のパターンで出てくる答えが何なのか。念の為に聞いてみよう。
「シンキ、ハクテイ。何をするべきか言ってくれ」
「遊ぶ!」「お出かけ!」
「だろうと思ったよ! 捜索だよ!! 例の依頼にあった、ドラゴン娘達の!」
俺達がヴァルザイアの依頼で来ていることを忘れてはいけない。俺達の扱いを鑑みて、買われたドラゴン娘達が無事かどうかも怪しい。故に、一刻を争いかねないのだが。
「カラバ君。ならば、我々は遊ぶべきだ。バカ真面目に捜索しています。なんて、行動をしたら却って怪しまれるだろう?」
「む……」
「それに、昨日からずっとカラバさんの様子がおかしいですし」
フェルドやファヴからも窘められた。実際に、彼が言うことは一理ある。捜索の為に街中をぶらぶらしている奴の方が不審だ。仕方ない。
「……分かった。はしゃぎ過ぎない位にな」
「イェイ」「やった」
シンキとハクテイがハイタッチをしていた。
かくして、俺達は街中に繰り出した訳だが、皆の興奮ぶりや通行人から微笑ましく、見守られるレベルだった。
カメラを始めとした文明の利器や洗練されたデザインのファッション。そして、美味な食事と一通りの道楽を堪能したのだが、俺の心は浮ついている。
「(皆が心配してくれているのに)」
あのフェルドでさえ俺のことを気遣ってくれているんだから驚く。ファヴは元々優しい子だから、驚くことも無いけれど。
「(ファヴが疑竜化した時、シンキとハクテイも助けに来てくれたんだよな。ヤウナー教授も走り回ってくれたらしいし)」
先日のヘスペリデスの一件から、シンキとハクテイとの距離もさらに縮まった様に思う。ラドンとはこれからだけれど、彼女の過去の一端に触れたからこそ、手を伸ばせた。皆の優しさと共に経緯を振り返っていると、あることに気が付く。
「(アレ? ヤウナー教授って、どんな人なんだ?)」
いつも飄々としていて、騒ぎが起きた時は近くで支えてくれていた。ヘスペリデスの時も引率として付いて来てくれて、色々と便宜を図ってくれた。
俺達のことを気に掛けてくれているのは、教授とだからという責任感だけではなく、本人の優しさもあるのだろう。だから、どうしてもあの言葉が引っ掛かった。
『うそつき』
思えば、ドラゴンを召喚してから最初に接してくれたのは彼女だった。他の生徒や教授達が遠巻きに見てくる中、彼女だけは俺と接してくれた。
「(なのに、どんな人か全然知らない)」
ここにいる者達の過去は大なり小なり触れて来たのに、ヤウナー教授だけはすっぽり抜け落ちている。
「カラバ?」「どうしたの?」
「やりたいこと。見つかったかも」
ヤウナー教授がどこで何をしているかは把握している。俺は皆に事情を話して、先に帰るという旨を告げた。
「ならば、妾が」
「いや、その。できたら、1人で行きたいんだ。ダメかな?」
ゾロゾロ行ったら迷惑だろうし、何より多人数で押し掛けたら追い払う口実を与えてしまう。何か文句を言われるかと思いきや。
「ふむ。それで、お主の気が晴れるなら行くが良い。我々はもう少し、街中を見てから戻る故」
妙に物分かりが良いというか。あるいは、元々俺を励ます為に連れ出してくれたし、事情を汲んでくれたのかもしれない。皆の気遣いに感謝しながら、俺はヤウナー教授がいる場所へと向かった。
――
「行ったな?」
カラバの姿が見えなくなった頃、ラドンが立ち上がった。同じ様にしてシンキとハクテイも立ち上がる。フェルドとファヴは疑問符を浮かべていた。
「え? 君達は何を?」
「決まっている。あやつが自分から女に会いに行くと言ったのだ。付いて行かない、訳にはいくまい」
「ヤウナー教授と何があったのか」「私も知りたい」
三人の決断は早かった。直ぐにカラバが消えた方向に向かって走って行き、残されたフェルドとファヴも慌てて追った。
「ハクテイ君とラドン君は兎も角、なんでシンキ君まで早いんだ!?」
「フェルド様! 疲れたら私がおんぶしますね!」
身体能力は一般人と変わらないフェルドと三人の距離は開いて行くばかりだった。