俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
ドラゴンの一挙手一投足は細やかに観察をされていた。生態から表皮を覆う竜燐の硬度、その中で特に注目されたのは排泄物だった。
彼は非常に巨大なので、出て来る物もデカイ。だが、これは研究の的だった。消化物がどういう状態になっているのか、付着した細菌の状態に加えて、どれだけの魔力(マナ)などが含まれているのかなど。
「これはすごいですよ。これだけ潤沢な魔力(マナ)を残した素材は見たことがない」
「それは、私個人でも分かるんだよ。どうして、こんなに魔力(マナ)が残るかの解明を進めてくれたまえよ」
「はい! 排泄物の解析結果がでるまで少々お待ちを!」
研究者の興奮した様子とは裏腹にヤウナーのテンションは低かった。
こんな最新の装置で分析できるのであれば、彼女も喜びそうな物だが、胸に引っ掛かり続けていることがあった。
「(何故、私はあんなことを……)」
思い出すのは、昨日のこと。ダハーカと面会した時、教え子に、余計なことを言ってしまった。ただでさえ、彼の調子が悪い時にだ。
今日は研究の都合上、会わずにいられるが、次に顔を合わせた時はどうするかと考えていると、ドアが開いた。カンザキだ。
「ヤウナー。お前に客が来ている」
「え?」
彼女の返事を待たずして、現れたのは件の教え子ではなく、アカデメイアの総長『ダハーカ』だった。
「どや、研究は順調か?」
「あ……、おかげさまでね。視察ですか?」
「そんな所やね。提出してくれた論文読んだけど、やっぱり『疑竜化』の項目は興味深いわ」
「どうして、そう思うのですか?」
釘をさす様にヤウナーは問うた。疑竜化によって強大な力を得られることは分かっているが、使い方次第では世界に暴虐を撒き散らす。
「力や。疑竜化はドラゴン娘が本来持っとる力を取り戻してくれるもんやと思っとんねん。センセも興味あるやろ?」
「危険な考え方だと思うよ。総長が私欲の為に力を使う可能性もある」
「心配性やなぁ。悪用するなら、もっと早うにやっているって。それこそ、ヴァルザイアとか言う邪竜がイキる前にな」
恐らく、ダハーカが本気になればもっと簡単に人々を跪かせることができるだろう。故に、不思議だった。
「どうして、それをやらない?」
「なんで、ウチらが学も無いアホ共の為に知識を授けたらなアカンねん。どうせ、碌なことに使えへんやろ?」
分かりやすい位に外の人間を軽蔑していた。付け加える様に、彼女に耳打ちをして来た。
「これはウチらドラゴン娘と転生者と一部の知識人で積み上げて来たモンや。簡単に渡すワケあらへんやろ?」
ラドンと同じ様な選民思想を持っていた。彼女に『疑竜化』を渡したら、取り返しのつかないことになる気もしたが、アカデメイアという環境は研究者にとってあまりに魅力的だった。
「違いない」
「せやろ? もしも、疑竜化のメカニズムが解析できたら呼んでや。ドラゴン娘はこっちで用意するから。次はカンザキ君の研究の視察に行くで。排泄物の有効活用はメッチャ興味あんねん」
「あ、はい!」
用意するドラゴン娘がどこから調達された物かと聞くよりも先に、目を輝かせたカンザキ教授に連れられて、ダハーカは姿を消した。
彼女が去った後、ヤウナーは暫く考えていた。アカデメイアが興味を持っているのは、ドラゴンという超常生物であり、自分が知っている程度のことは直ぐに把握されるだろう。
「(そしたら、私も彼女が言う所の『アホ共』の仲間入りかな)」
アカデメイアスタッフ達も慣れた手付きで、ドラゴンの観察や調査を進めている。彼らに混ざって、判明したことを整理すべきだとは思うが、自分である必要はない様に思えた。
現時点で取れているデータを確認することもできたが、そんな気も起きなかった。スタッフに声を掛けた。
「食事でもして来るよ」
「いってらっしゃい」
引き留められることも無かった。部屋を出て、研究棟から出ようとした所で見覚えのある顔と出くわした。
「教授。一緒に飯食いませんか。飯!」
正に、彼女が頭を悩ませている相手であり、教え子でもあり、ドラゴンのマスターでもある『カラバ・イルマイト』だった。
――
ヤウナー教授と一緒に食堂に来たのは良いが、彼女の表情は暗い。
もしかして、何か嫌なことでも言われたのだろうか? こんな状態で昨日の件について触れようものなら拗れるのは間違いない。
「教授、今日はテンション低いですね」
「……君こそ、どうして私を誘ったんだい? シンキ君達は?」
「アカデメイアの街並みは苦手だったので、俺だけ戻って来ました」
これは事実だ。前世で見慣れた街並みだったけれど、だからこそ苦手だった。
「あの時は、聞きそびれたけれど、君にとって前の世界はどうだった?」
「……色々とあって、窮屈だった」
少なくとも普通と言える人間ではなかった。普通になりたいとは何度も思ったけれど、やっぱりできなかった。
「色々とあった、は雑過ぎるだろう。具体的に話してくれよ」
ヤウナー教授の言う通りだとは思うけれど、あまり話したくない部分でもある。だけど、興味を持ってくれたなら話す価値はあるかもしれない。ラドンが覗き見した位で、他の誰にも話していない俺のことだ。
「あんまり憶えていないけど、どうも幼少期の頃から変な力があったらしくて、独りでいることが多かったらしいです」
本当に幸いなことに誰かをケガさせたという話は両親からも聞かなかった。
もしも、前世がマンガやアメコミみたいな世界なら、ヒーローになれていたかもしれないけれど、そんなことは無かった。
「その力を悪用したりとかは?」
「やる意味も感じなかった。だから、前世は1人で本を読んだりすることの方が多かったけれど、まさか今世でもトラブル塗れとは」
「今でも出せたりするのかい?」
「いいえ。サッパリです。そんなことしなくても呪文もありますしね」
逆に今世は普通に産まれたが、ドラゴンの存在で状況は一変した。ヤウナー教授は何かしらを考えこんでいる。
「一人でいて辛いとか、周りと違っていて苦しいとか。そう思ったことは?」
「ありましたね。でも、思ってもどうにもならないんで諦めました」
気に入られる為に色々としたこともあったけど、結局は無駄だった。最終的にはゲームとかの一人遊びをすることが多くなっていた。
「……どうして、自分がこんな目に遭っているのか、知りたいって思ったことは?」
「思わなかったですね。検査とかは色々とされたけど」
結局は何も分からなかったし、友達もできなかった。
だから、繁華街とかは苦手だった。人が多い所に行くと、自分がどうしても独りであることを意識せずにはいられなかったからだ。
「じゃあ、やっぱり君と私は違う」
「どういうことですか?」
「どういうことだろうね」
真意を問いただそうとしていると、呼び出しが掛かった。料理ができたらしい。てっきり、このまま去られるかと思ったが同席はしてくれた。
「で、教授のことは話してくれないんですか?」
「逆に何が知りたいんだい?」
今までの反応から見るに、本人的にも過去の深堀はあまりされたくないのだろう。ならば、まずは浅瀬から攻めてみることにする。
「以前、教授がドラマギ学園にいるのは『環境・異種生態学』の一環として、ドラゴン娘を調べるためだって言っていましたけれど、あれって本当ですか?」
「本当だよ。実際に『疑竜化』なんて現象の論文も書けたし、一定の成果は残しているとは思うけれど」
「それもあるけれど、不思議に思っていることがあるんです。どうして、教授はドラゴン娘と契約していないんですか?」
彼女達のことを調べるなら契約するのが一番だ。
カンザキ教授もドラゴン娘がいないので、教授陣は契約できないとかルールがあるかと思ったが、連れている教授もいたのでその限りでは無いだろう。
「私では契約ができないからだよ。どうしてかは考えてみると良い」
答えは自分で探せと言わんばかりにぴしゃりと締められた。俺は2度目のランチを取ることになっていたが、腹がはちきれそうになっていた。