俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
ヤウナー教授と別れた後、自室に戻った俺は宿題をしていた。彼女がドラゴン娘と契約できなかった理由についてだ。
「(まず、ドラゴン娘と契約ができない理由はいくつかある)」
ドラマギ学園で貰った教科書を開く。マスターとしての在り方と初歩的なことについて書かれた物だ。その項目の中に『契約のルール』も載っている。
1.ドラゴン娘に契約を破棄されたマスターは、二度と契約できない。
2.ドラゴン娘は人間以外と契約できない。
3.既にマスターのいるドラゴン娘とは契約できない。
4.マスターは複数のドラゴン娘とは契約できない。
5.他者の契約印を奪い、行使した者は二度と契約できない。
「(このルール、ガバガバ過ぎるだろ……)」
3と4は嘘だ。俺が特別な訳ではなく、ヘスペリデスで見た限りでは複数契約させられているマスターもいた。
「(まず、一番有名なのは1だよな)」
シンキ達のお父さんが契約できない理由の一つであり、これはマスターに対する最大のペナルティでもある。
考えられることは、ヤウナー教授はドラゴン娘と契約していたが、何かしらの理由があって契約が破棄されたということだろうか?
「(実験とか観察に使われていることに不満を持ったとか?)」
だからと言って、契約の破棄までされるだろうか? あるいは『ハクジャ』の様なやむを得ない理由があったのかもしれない。続いて2番だが。
「(ヤウナー教授はドラゴン娘でも何でもないんだから、2番は適用されないだろう。となると、5番は……)」
5番は力でドラゴン娘を奪い取ろうとする者に対する一種の安全装置だろう。これがあるから、ヘスペリデスではマスターも人身売買の対象になっていた。
「(これも無いな。そんな奴が学園にいられるはずが無い。やはり、何かがあって契約が破棄されたパターンか)」
少なくとも、ドラゴン娘から不興を買って契約ができなくなっているなら雇われる訳が無い。学園側もある程度、事情を織り込み済みだから彼女を迎え入れたのだろうが。
「(所詮は推測だからな。そういう事情に詳しい人間がいれば……)」
「おーい。カラバ、少し良いか?」
「いた!」「え?」
渡りに船と言わんばかりに訪れたカンザキ教授を捕まえ、早速、問いただしてみた。教授同士は仲が良くないとは聞いているが。
「あまり詳しくは聞いていないが、アイツは少し特殊な枠で雇われているらしい」
「どういう枠ですか?」
「分からん。だけど、普通は研究生の1人も持たない教授が、ずっと在籍できる訳が無い。研究費用もスペースも有限だからな」
ある程度の活気と成果が無ければ、学園側も囲っている理由が無いというのは道理だ。知れば知る程、普段接していた人間が特別なんだと実感する。
「それよりも、お前に用事があって呼びに来たんだ。付いて来てくれ」
カンザキ教授が案内してくれたのは、ドラゴンがいるスペースだった。見れば、観察と調査をしようとしているスタッフに威嚇していた。
『グゥルルルル……』
スタッフ達全員が、その場に張り付けられた様に動けなくなっていた。ドラゴンが視界の端で俺を捉えたのか、ジロリと睨み付けて来た。
『よくも、放って行きやがったな』。と、訴えている様だった。仕方なく、アイツの所へ駆け寄ると、瞬く間に機嫌が良くなる―――
『ガァア!!』
なんてことは無く、頭上から咆哮を浴びせられた。
周囲に防御壁を張っていたが、頭の中がシェイクされたかと思った。周りのスタッフ達も似たような状態になっていたので、急いで皆が駆け付けて来た。
「おい、カラバ!?」
「や、やっぱり暫くここにいます」
スタッフ達が運ばれて行く中、俺はスペースの隅に移動して安静にしていた。ドラゴンも八つ当たりをして満足したのか、大人しくなっていた。
――
「いや、自分は随分ドラゴンに気に入られとるんやな」
結局、俺はドラマギ学園での日常通り、ドラゴンの従者として傍にいることになったのだが、ダハーカ総長が観察に来ていた。
「契約もありますからね」
「そんなことあらへんよ。契約しとっても不仲なマスターとドラゴン娘はよーけおる。マスターの不在で不機嫌になるってことは、少なくとも信頼はされとるってことやろ?」
それは好意的すぎる気がする。個人的な見解だが、ドラゴンの俺に対する印象は『所有物』といった感じである。クマなどと同じく、取られたりすると怒るが、そこに親愛的な物はない。
「だと、良いんですけれどね」
「もっと自分に自信持ちーや。契約できたってコトもすごいんやから」
「自分でもなんで、契約できたのかはよく分からないんですけどね」
今は日常に溶け込んでいるが、ドラゴン娘ではなくドラゴンが出て来た理由については、未だに全く分からない。
「ウチもアカデメイアに長いことおるけど、ドラゴン娘以外と契約したんを見るのは初めてや」
ここで、ふと宿題について思い出した。教科書とは比べ物にならない位に潤沢な知識を持った存在が目の前にいるではないか! と。
「アカデメイアはドラゴン娘との契約についても研究されているんですか?」
「もちろんやで。なんなら、アカデメイアが一番力を入れて研究していることや。なんでか、分かる?」
「マスターとドラゴン娘がより良い関係を築く為、ですか?」
契約の方法次第ではお互いに十二分に力を発揮できたり、あるいはミスマッチを防ぐ為とかは思い浮かぶが。
「教科書みたいな答えやなぁ。そんなん、ウチらが態々サポートしたる必要はあれへん。良い関係築く奴は築くし、無理な奴は無理でええねん」
「じゃあ、何の為に?」
「ドラゴン娘達ってどっから来とると思う?」
契約の儀によってやって来るし、契約を破棄した時は元の世界に帰る。彼女達は、俺達の知らない世界から来ている。
「ドラゴン娘達がいる世界? みたいなのがあるんでしたっけ?」
「あんな世界は別にどうでもええねん。重要なんは別世界から来とる言うことや。『契約』には別世界を行き来するだけの力があるいうことや」
急に雲行きが怪しくなって来た。まさか、別の世界の侵略でも考えているんじゃないだろうな? その為にドラゴンの力が欲しいとなったら、分かりやすい理由ではあるが。
「別世界に行きたいんですか?」
「せや。転生者達の中には、元の世界に帰りたい言う奴もおるし、外の世界がどうなっているかは興味あんねん」
やっぱり、原作と違う。原作のコイツは転生者達の知識を使って、この世界を現代風に作り替える。みたいな思想の持ち主だったハズだ。何があって、考えが変わったのかは気になるが。
「総長。こんな所におられましたか」
やって来たのは白衣を着た、如何にも科学者といった風体をした老翁だった。
「どうしたん、パラル?」
「多次元層の発生についての実験をしたく『許可』を貰いに来ました」
「ちょうどええわ。カラバ君、付いて来てーや。今から、面白いモンみせたるわ」
ダハーカが嗜虐に満ちた笑みを浮かべている。ヴァルザイアを始めとする邪竜が見せていた類の物だ。
彼女の考えに触れるには同行するしかない。研究室の地下深くまで進んで行くと、洋画にでも出て来るような光景に出くわした。分厚いガラス窓で隔てられた実験室だ。向こう側では、拘束されたドラゴン娘がいる。
「総長。何をする気ですか?」
「なんや、自分。契約について調べとったらしいやん? ほな、貴重な瞬間が見れるで。契約の破棄の瞬間」
実験室にモニタが出現し、画面には年若い男性が映し出されていた。
拘束されたドラゴン娘が目を見開いたことから、彼女のマスターだろうか。彼と一緒にいたのは、精悍な顔つきをした男性だった。
『本当に僕で良いのか?』
『貴方しかいないんだ! 伴侶を失っていた僕を励まし、支え続けてくれた貴方しか! 性別なんて関係ない!』
待て待て待て。この展開は予想していない。拘束されているドラゴン娘の表情がみるみる内に歪んで行く。臨界点に達した時、彼女は叫んだ。
「死ねぇええええええええええ!!!」
『ギャアアアアアアア!!』
彼女から契約印が剥がれ、同時に映像に映し出されていたマスターと思しき男性の契約印が焼けていた。
すると、どうだろうか? ドラゴン娘周辺の時空が歪み、その狭間に彼女が吸い込まれて行った。後には虚空が残されていた。
「どやった?」
「契約の破棄の瞬間より、映像が衝撃的すぎて何も頭に入って来ない」
別に同性愛を茶化す訳じゃない。むしろ、この時代では一般的ではあるし、お互いに気持ちが通じ合っていれば良いとは思うが、ビックリした。
「ちなみにフェイク映像だったりとかは?」
「いいや。LIVE映像やよ?」
名もなきドラゴン娘の傷心がいつか癒えることを祈りつつ、俺は周囲で頻りに動いている計器のデータを取っているパラルの方を見ていた。