俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
カラバと昼食を取った後、ヤウナーは実験室へと戻っていた。
ドラゴンの排泄物の分析は滞りなく行われ、判明したデータが画面に表示されていた。彼女が戻って来たのを見計らって、スタッフが説明した。
「あの排泄物は肥料としては非常に優れており、多種の魔獣を捕食したことにより非常に複雑な魔力(マナ)が構築されている。ということは、既にご存じかと思われます」
「新しい発見でもあったのかい?」
「はい。カンザキ教授にも協力して貰い、多数のサンプルを分析した結果、面白いことが分かりました」
画面には魔獣と化したリンゴ、ヤウナーも見たことがあるキャベツ型魔獣。その他にも魔獣化した植物の残骸が映し出されていた。
「ドラゴンの排泄物と魔獣化した植物達を比べると、両者には特定の魔力(マナ)結晶がありました」
画面をズームすると、確かにあった。黄金と緋の色が混ざった魔力(マナ)の結晶。ヤウナーも『黄金のリンゴ』として、見たことがある代物だった。
「まさかとは思うけれど、ドラゴンの排泄物は『黄金のリンゴ』に匹敵するほどの魔力(マナ)が籠っているとでも?」
「いえ、それ以上かもしれません。同時に、現時点で疑竜化を果たした3名のデータも取りました」
ファヴニール、ラドン、ハクテイ。いずれの三人も疑竜化を果たしたが、無条件という訳ではない。先程、表示された植物型魔獣達を見た。
「まさか、彼らを捕食したから?」
「そう。例の排泄物を間接的にでも摂取した故に、疑竜化に必要な魔力(マナ)を体内に蓄えることができたのです。ラドン氏の場合だけは分かりませんが」
ヤウナーには心当たりがあった。カラバは直接糞便を浴びたらしく、そんな彼にラドンは濃厚接触をしたらしい。
「(プレスが異常に強くなっていたのはその為か。だが、そんなことがアカデメイアにバレてしまっては……)」
「私達は、この魔力(マナ)を『竜因子』と名付けました。成分の精製もできています。ですが、まだ足りていません。この竜因子を注入するだけでは、疑竜化ができる訳ではないようです」
もしも、疑竜化が誰でも手軽に行えるようになれば、この世界のバランスはどうなってしまうのか? 僅か1日しか経っていないというのに事態の進展の速さに、ヤウナーは冷や汗が止まらなかった。
――
「総長。何故、こんなことを?」
一見すると喜劇に思えなくも無いが、あのドラゴン娘とマスターも引き剥がされることが無ければ、今も良きパートナー同士でいられたはずだ。
「カラバ君。ドラゴン娘とマスターに必要な物って何やと思う?」
「さっき、自分で関係についてはなる様になるって言っていたじゃないですか」
仲が良くなる奴は良くなるし、悪い奴は悪い奴で良いと言っていた。ドラゴン娘とマスターの関係よりも、彼らが結ぶ契約の方を気にしていると思っていたが。
「それは契約に関してだけや。マスターとドラゴン娘っていう業務契約の話。ウチはもっと日常的で根本的な話をしとるねん。もっと噛み砕いたるわ。男と女の間に必要な物は何やと思う?」
「……距離感?」
「なんや奥手やなぁ。一緒におった嬢ちゃん達やドラゴン娘が可哀想や。兄ちゃん甲斐性ないなぁ」
何故、こんなにボロクソに言われなければならないのか。だが、この反応から逆算した回答を出すとすれば。
「愛とか?」
「せや。契約の先にある関係には『愛』が必須なんや。さっきのマスターとドラゴン娘はしょーもない。ちょっと離れただけで、相手を疑うなんてあり得へんわ」
「引き剥がしておいて言うことですか?」
「いいや? あの時、ドラゴン娘が契約破棄をせんかったら解放しとったよ。愛は無敵で永遠なんや。どこまでも届くってウチは信じている」
彼女の本質の一端が垣間見えた気がした。そして、ここに来て極当たり前の疑問が思い浮かんだ。ダハーカはドラゴン娘だ。つまり。
「それは、総長のマスターに対する想い。と、捉えても問題ないんですね」
「せやで」
「じゃあ、肝心のマスターはどこに?」
ヴァルザイアに関しては分からないが、ラドンの時は前マスターを手元に置いていた。これだけ熱弁する位なのだから、彼女にもご自慢のマスターがいるとは思うのだが。
「おらへんねん」
「どうして?」
「せやから探してんねん」
会話になっていない。だが、おかしい。マスターがいないなら、彼女はこの世界に留まれている訳がない。
「でも、ウチは信じてんねん。マスターとは繋がっているって」
スッと彼女は掌の契約印を見せてくれた。確かに紋様は浮かんでいるし、契約は生きているハズだが、この噛み合わない会話はなんだろうか?
「だからな。カラバ君には協力して欲しいんよ」
ヴァルザイアともラドンとも違う。そして、原作の彼女ともまるで違う。目の前にいる『ダハーカ』という邪竜は何者なんだろうか?
「もしも、ウチの要望に応えてくれたら、ヴァルザイアの討伐でも協力したるし、アカデメイアで用意できるモンならなんでも与えたるわ」
「俺に何をしろと?」
「その時が来たら教えたるわ。さっ、戻るで」
他の研究者達に指示を飛ばした後、ダハーカは俺と一緒に研究室を出て行った。階段を上っている際に聞いてみた。
「総長のマスターはどんな人だったんですか?」
「スケベな奴やったね。下心、丸出しやったけれど優しい人やったわ」
そう語る彼女は懐かしむように、噛み締める様に、思い出を反芻していた。邪竜であることが信じられない程、優しい声色をしていた。
「そのマスターは今、どこに?」
「知らへん。ある日な、急に遠い場所に行ってもうてん。どこでもない遠い場所や。でも、繋がってるんは分かんねん」
彼女はそっと契約印が出ている掌を撫でた。紋様が消えていないということは、マスターも死んではいないのだろうが。
「(転生だけじゃなくて、俺達を案内したタカハシみたいに『転移』ってパターンもあるんだろうが)」
その場合、どこに行ったかなんて分かる物だろうか? 仮に場所が分かっても行く手段の想像がつかない。
「カラバ君。もしもさ、何かあったとしても心残りが無いように、普段から自分の気持ちとか感謝は皆に伝えときや」
奇妙な邪竜だ。ドラゴン娘とマスターの関係を踏みにじったかと思えば、自分のマスターのことは愛しそうに語る。いや、人もそんな物かもしれない。
階段を上り終えた先には、何故かシンキ達が待ち構えていた。街で遊んでいたハズでは?
「カラバ。何していたの?」「総長と何していたの?」
「ちょっと、カラバ君のことを借り取ったわ。ほな、皆に返すわー」
そう言って、総長は手をヒラヒラとさせて去って行った。残ったメンバーの顔を見れば、皆険しい表情をしている。
「もしかして、怒っている?」
「先日の件は忘れている?」
「ヘスペリデスでも一人で行動していたよね?」
「何故、妾を連れて行かんかった?」
三人からチクチクされていたが、反論の弁がまるで思い浮かばなかった。とりあえず、皆には何があったかを伝えた。果たして、総長は俺に何をさせるつもりなのだろうか?
――
その夜のことである。アカデメイアの近く深くにある研究室で、一人のドラゴン娘が異形へと変貌していた。
『グガァアアアアア!!』
疑竜化である。ただし、ドラゴンと対峙できる程の強大さは無かった。一連の事態を観測していた、ダハーカは冷たく指示を飛ばした。
「あのドラゴン娘の契約を破棄させて」
「分かりました」
パラルと呼ばれた男が機器を操作すると、疑竜化したドラゴン娘の動きが止まり、彼女に浮かんでいた契約印が消失していくと同時に周辺の時空が歪む。
ドラゴン娘の形態で生じた時空の歪は小さかったが、疑竜化された状態だった場合は強大化した体躯に合わせる様にして、歪も大きくなっていた。巨体が歪に呑まれて消えていく。
「総長。想定通りですね」
「よし、じゃあ予定通り行こうか」
事態は進んで行く。当事者達の知らない所で、確実に進んで行く。