俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
「ヤウナー教授! ドラゴンの研究やめるって本当ですか!」
「団体さんでのお越しだねぇ!?」
次元に関する実験をしている研究室へと向かうと、ヤウナー教授はパラル教授と話している所だった。さすがに団体で来るとは思っていなかったらしく、研究者達も驚いていた。
「ヤウナー君、彼らには話していなかったのか?」
「ああ。そうだったね。カラバ君は研究室の生徒だから話しておかないとね。そうだよ。しばらく、『環境・異種生態学』から手を引いて『多次元層』の研究をしようと思っているんだ」
「幾らなんでも脈絡が無さすぎませんか?」
関連分野の研究に移行するというなら分からないまでも無いが、多次元層なんて分野は聞いたことも無い。それに。
「今までの研究はどうするんですか?」
ドラゴンの研究だけではない。彼女は魔獣や環境への影響に対しても有識者であるというのに、それを放り投げるだなんて。
「ドラゴンの研究なら『アカデメイア』が引き継いでくれるし、肥料とかの有効活用はカンザキの奴がやってくれるだろうさ。魔獣の研究なんて、ドラゴンに比べたら微塵も価値が無い。だったら、この世界で最先端の分野を研究した方が楽しいじゃないか」
……滅茶苦茶イラっとした。他の誰かが言っても聞き流すが、本人の口から出すことだけは許せなかった。彼女の両肩を掴んだ。
「それ、本気で言っています?」
「近いよ」
「俺ね。教授の無茶振りに巻き込まれたりしても怒らなかったのはね。貴女が本気で打ち込んでいるから応えたいと思っていたんですよ。それなのに価値が無い? 他の誰でもない貴女が言うべきではないでしょう?」
努めて、平静に言ったつもりだ。ただ、シンキやフェルド達が驚いていることから、怒気は隠せていないのだろう。
「……君は良いじゃないか。前の世界では失敗したそうだけど、この世界じゃ君は邪竜と勇ましく戦う英雄で、誰からも必要とされている」
両腕を掴まれた。信じられない程の力が籠っていて、引き剥がされた。彼女にこんな力があったなんて。
「君だけは、私と同じ『異物』だと思っていたのに。――うそつき」
「え?」
彼女が異物とはどういうことだろうか? 問い詰めようとしたが、ラドンが俺の前に立ちはだかっていた。
「入真、行くぞ。このような女に構っている時間が勿体ない」
「その通りだ。お引き取り願おう」
ラドンとパラル教授に阻まれ、俺達は研究室を後にした。その間、ヤウナー教授は一切俺達の方を見なかった。
――
「ヤウナー教授は異物と言っていたけど」
「ちょっと様子がおかしいこともあるけれど、それ以外は普通ですよね?」
「なんなら、面倒見も良いよね」
フェルドとファヴも彼女のことを評価していた。概ね、俺の印象も二人と同じだ。
前に、カンザキ教授が『特別な事情がある』と言っていた。そして、ドラゴン娘と契約が結べないとも言っていた。
「そう言えば、昨日気付いたことがある」
「私も同じことを思った」
チョンとハクテイが手を上げていた。同じ様にシンキも手を上げて、フェルドの方を見ていた。
「ファヴちゃんが暴れた時とヘスペリデスの時もそうだったけど」
「教授、私達に付いて来ていた。でも、フェルドは無理だった」
「当たり前だろ! ドラゴン娘に人間が追い付ける訳……」
フェルドは決して運動音痴ではない。なんなら、文武両道側で同世代の中で優れているとさえ言える。そんな彼ですら追い付けない2人に?
「妾の街で魔獣による闘技場で賭け事をした時も、奴は連勝していたそうだな。培ってきた知識だけで導き出せたものだったのか?」
ラドンの言っていることの判断は微妙だが、思い返せば彼女が普通とは違う所は幾らでもあった。トレントから『黄金のリンゴ』を取った時もそうだった。
破天荒な言動とまともな倫理観のギャップに気を取られていたが、そもそも彼女が普通でないのは身体能力面でも出ていた。立ち上がる。
「カラバ君。どこに?」
「ここに来た奴らは検査に回されるんなら、ヤウナー教授のデータもあるはずだ。総長に開示願いを頼む以外にも、聞きたいことがある」
方針が決まったら、自分でも驚く程に早かった。皆を連れて、総長の部屋へと向かった。
――
「皆でどうしたん?」
「総長。ヤウナー教授の検査データ、俺達にも見せて貰えます?」
「うーん。君的に言うと『プライバシー』ってモンがあるんやけど」
「そんな概念は前世だけで十分です」
そもそも、研究テーマの移動なんて物は総長の同意でも無ければできないはずだ。つまり、彼女はある程度の事情を知っていると見ても良いだろう。
「せやけど、アカンわ。これは彼女の事情なんやから。勝手に他人が踏み入ってもええもんやないで?」
今までは、気の良い人という印象があったが、一気に雰囲気が変わった。ラドンが傍に立ち、構えを取るが、手で制した。既に考えはある。
「先日、総長は言いましたよね? 『何かあったとしても心残りが無い様に』って。多分だけど、このままだとヤウナー教授と離れ離れになる気がするんです。俺、そんなの絶対に嫌です」
「……よぅ、覚えとるわ」
彼女が若干表情を和らげたのは、自身の失言を顧みているのか、それとも別離に対して思うことがあったのか。
「まず、彼女の研究分野の変更を受理したのはウチや。言っとくけど、多次元層の研究は未知数な部分が多いから、アカデメイアの極一部のエリートだけで進めとる。余所者なんか入る隙間もあらへん」
「じゃあ、どうして?」
「彼女が余所者じゃないからや」
アカデメイア出身ということなのだろうか? だけど、そんな話は聞いたことが無い。それともまさか、彼女も転生者なのだろうか?
「自分達に聞くけど、ドラゴン娘から生まれるのは『人間』と『ドラゴン娘』のどっちになると思う?」
「どっちだろ?」「分かんない」
「どっちも生まれるんじゃないのか?
シンキとハクテイの存在が証左だ。と思っていたが、これに異議を唱える者がいた。フェルドだ。
「僕はそう思わないけれどね」
「なんで、そう思うん?」
「もしも、ドラゴン娘が普通に生まれるんなら契約して呼び出す必要が無いし、もっと多くのドラゴン娘が存在しているはずだ」
言われてみれば、そうだ。ドラゴン娘は体も頑強で病気などにもなり難く、母体としては非常に強い。彼女らがドラゴン娘を生み出せるなら、既に人口や人種に影響が出てそうな物だが。
「仮に、ドラゴン娘を生み出せるなら。母上は僕を産ませたりはしなかっただろう」
「フェルド様……」
「ええ読みやね。せや、ドラゴン娘は普通では産まれへんのや」
家庭内にドラゴン娘が存在するが故の弊害を受けて来たフェルドだからこそ分かるのだろう。だが、シンキの妹であるハクテイは存在している。とすれば、これらの条件をクリアする状況というのは想像できる。
「もしや、人間界で産んだ場合は『人間』になって、ドラゴン娘界で生まれた場合は『ドラゴン娘』になるってことか?」
「正解。それが、シンキちゃんとハクテイちゃんの違いやね。それを踏まえた上で、このデータを見せたるわ」
総長室の壁面が変形してモニタが出現し、ヤウナー教授のデータが映し出された。だが、表示されたデータは人間の物では無かった。いや。
「ドラゴン娘でもない……?」
午前中に受けた魔力(マナ)検査と合わせて、人間とドラゴン娘の数値の違いを聞いたが、それに照らし合わせるならヤウナー教授はどちらでもない。
「ヤウナーちゃんはどこから来たんやろうなぁ?」
バラバラだった疑問に答えが出つつある。どうして、ヤウナー教授は俺を非難したのか、ドラゴン娘と契約できなかったのか、彼女が『環境・異種生態学』を研究していた理由、そして、多次元層の研究に移動したのは……
「研究は次の段階に踏み込むつもりである。巻き込まれたくなかったら、今日中にアカデメイアを去った方がええで」
ダハーカが掌を見せた。昨日、魅せてくれた契約印よりも色合いが薄くなっている。マスターに何かがあったのだろう。
「何をする気ですか?」
「ウチの目的の為や。あ、カンザキちゃんには謝っといて。やっぱり、自分の所の学園でしっかりしぃやって」
ダハーカは目的の為、ヤウナー教授は恐らく確かめに行く為で。関わらないこともできるが、そんな選択は存在しない。皆を見た。
「私達は」「いつでもOK」
「今度は僕達が親友の為に動く番だね!」
「はい! お任せください!」
もしかしたら、ヤウナー教授はこの光景を羨ましいと思っていながら見ていたのかもしれない。だったら、俺は彼女に言うべきことがある。そして。
「ラドン。頼む」
「……他の女の為に動くのは不本意だが、お主の言うことだ。付き合ってやろう」
答えは示した。総長は溜息を吐きながらも、少しだけ嬉しそうにしていた。……彼女は邪竜であり、ドラゴン娘だった。