俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
「時間や。始めよか」
深夜、研究所の地下深く。インカムを装着したダハーカの手には注射銃が握られていた。隣には、ヤウナーの姿もある。
「『竜因子』か『D因子』かは兎も角として。その成分だけでは、疑竜化は発動しないのだろう?」
「問題ない。ウチはこれでも『邪竜』やからな。センセ、今まで疑竜化して来た連中の最後の共通点って何やと思う? ハクテイちゃんは少し特殊やけどな」
彼女を除くなら、ファヴニールとラドンの二人だ。ダハーカが提示してくれたヒントもあって、直ぐに分かった。
「邪竜、だね?」
「せや。竜因子に邪竜の力を加えたら、疑竜化が起きる。ハクテイちゃんが疑竜化できたんは、ラドンから引きずり出されたばかりのカラバに邪竜の気が残っていたからやろ」
何となく、納得できる所はあった。それならばプレスが異常に強くなっていたことも説明が付く。疑竜化していない、疑竜みたいな物だったのだろう。
「フフッ」
自然と笑っていた。この後に及んで思い出すのは、プレスを始めとした、彼と一緒に見て来た光景と冒険ばかりだったからだ。
アカデメイアで日々解明される事象に比べて、なんとも下らなく、バカらしいことも多かったが、気付けば彼の周りには色々な人が集まっていた様に思う。
「……センセ、やっぱりやめるか?」
「いいや。彼の周りにはもう沢山の人がいる。私がいなくても大丈夫だろう」
「さよか。それじゃあ、やるで」
彼女が扉を開けた先には大勢のドラゴン娘達が拘束されていた。
体は動かせなかったが、唯一自由な口からはあらん限りの悲鳴と痛罵が吐き出されていた。
「帰して! マスターの元に帰して!」
「お前らの顔を忘れないぞ」
「向こうで会うことがあったら、八つ裂きにしてやる!」
ダハーカは無表情のまま、彼女らの首筋に注射銃を押し当てて注入していく。カートリッジを次々と取り出しては、彼女らに打ち込んで行く。
「『強欲のダハーカ』の下、貴様らに力を分け与える。我が供物となれ」
瞬間、彼女の体から邪竜特有の邪気が溢れて、ドラゴン娘達に降り注いだ。間もなくして、異変は起き始めた。
ダハーカも自らに注射銃を打ち込み、新たなカートリッジを装填した後、ヤウナーへと渡していた。
「センセも使いや。どっちに傾くかは知らんけど。パラル、アイツらの契約を剥がせ。それと、今までありがとな」
『分かりました。総長とご友人に良き旅を』
部屋中に疑竜が出現して、天井や壁を壊しながら肥大化していく。ヤウナーも自らに注射銃を押し当て、引き金を引いた。
「じゃあね」
――
『ただいま、研究棟で実験を行っています。スタッフや一般人は立ち入らない様にお願いします』
夜中のアカデメイアに放送が流れている。スタッフや研究者達が避難をする中、俺達は真逆の方向へと向かって行く。
「カラバ」「ヤウナー教授がいない」
「行ったってことか」
今回はヘスペリデスと違って、静かに事態が進んでいる。
だけど、起きている事象自体は街の破壊などとは比べ物にならない。下手をすれば、世界を揺るがしかねないことをしているからだ。
「なんで、こうなるんだよ!?」
俺達を避難させようとしていたカンザキ教授がヒステリーを起こしていた。
無理もない。目の前にエリート街道が転がっていたのに、ご破算になったのだから。フェルドとファヴが励ましていた。
「ほら、教授。きっと、この先いいことありますよ。多分」
「そうですよ! ほら、多分」
「具体性が無い! 私はヤウナーみたいに地獄の果てまで付いて行くことはしないからな! 先に避難させて貰うからな!」
それは仕方がないことだ。彼女は普通の教授だし、なんなら今まで一緒に死地に飛び込んでくれていたヤウナー教授の方がおかしかった位だ。
「カラバ、この先には何が待っている?」
「分からない。正直、俺も向かうべきではないとは思っている」
もしも、ヤウナー教授が行っていなければ、俺も止めていたと思う。でも、彼女が向かったなら、連れ戻す。
「それならば、途中で殴ってでも止めていれば良かったのでは?」
「その場合、何度も向かっていただけだよ」
ご丁寧にドラゴンが待機するスペースの一角に『入口』は出現していた。先も見通せない渦がどこまでも広がっている。
「どこに続いているの?」「どこに向かうの?」
「分からない。というか、入って大丈夫な保証が無い」
もしかしたら、足を踏み入れた瞬間にバラバラになる可能性だってあるし、帰って来られる保証が無い。改めて、皆を見た。
「戻って来られないかもしれないけれど、それでも付いて来てくれるか?」
「なんで今更?」「問題ない」
「僕も同じだよ」「私もです!」
ラドンは頷くだけだった。改めて、聞くことでも無かった。最後にカンザキ教授の方を見る。
「教授、戻って来なかったら報告をお願いします」
「嫌だよ! 帰ってこいよ!」
彼女自身の立場もあるのだろうけれど、俺達のことを心配してくれてもいるのだろう。そして、最後に相棒を見た。
「付いて来てくれ」
言葉は無いが、自ら入り口前へと移動した。まるで、お前達こそ着いて来いと言っている様だった。次の瞬間。
『ガァアアアアアアアア!!』
入り口から小柄な疑竜が這い出していた。通常のマスターとドラゴン娘では撃破するのも困難な相手だが、ドラゴンは半回転して、勢いを付けた尻尾を叩きつけて吹き飛ばしていた。
壁に激突した疑竜は立ち上がろうとしたが、そのまま崩れ落ちた。身に纏っていた竜鱗が剥がれ落ちると、素となったドラゴン娘が横たわっていた。
「大丈夫か?」
「ます、たぁ……」
掌を見れば、契約印は既に浮かんでいなかった。再び消えるかと思われたが、彼女は残っていた。
「カンザキ教授」
「分かったよ。面倒見てやるから。本ッッッ当は行かせたくないんだけど!」
「すいません」
俺達はドラゴンの後をついて、入り口を潜った。
幸いなことに全員がバラバラに飛ばされるということも無かったが、奇々怪々としか言いようがない光景が広がっていた。上も下も左も右も分からない渦が巻いているが、何故か視界は確保できる明るさがある。
「なんだこれ……」
地面が見えないので、これ以上先に歩いて行けるかすら分からない。と、俺が悩んでいるとドラゴンがピタリと止まった。尻尾をピタピタと地面を叩いている。
「もしかして、背中に乗れって?」
ピタピタと地面を叩いている。もしも違っていたら、吹っ飛ばされるかもしれないが、恐る恐る、尻尾から伝って背中に乗った。……暴れたりはしない。
そのまま、手招きをするとシンキ達も一緒に背中に乗った。振り落とされない様に、ハクテイが自分の腕を伸ばして皆を固定してくれた。
「(シートベルトみたいだな)」
全員が固定されたのが分かるや、ドラゴンは翼を広げて飛翔を始めた。上昇しているのか、下降しているのかも分からない。
「(そもそも、どこに向かって進んでいるんだ?)」
ヤウナー教授達がどこに向かったのか。俺達には何も手掛かりが無い。ドラゴンに任せて進んだ所で、皆で迷子になるのがオチだが。
『ガァアアアアア!!』
『ギャアアアア!』
飛翔している疑竜が2体。こちらに向かって来た。気のせいでなければ、先程よりも体躯が大きいし、動きが早い。
だが、ドラゴンはまるで慌てる様子もなく火球を吐き出して、2体を一撃で黙らせていた。戦闘能力を奪われると、全身を覆っていた竜鱗が剥がれて、やはり彼女達は元のドラゴン娘に戻っていた。
「ラドン!」「慌てるな」
彼女の髪が躍り、宙に放たれた分身体達が、落下していたドラゴン娘達を連れて来てくれた。
「この者達はどうする?」
「放っておくわけにはいかないし、同乗させていこう」
こんな所に放り出されたどうなるか分かった物じゃない。彼女達を乗せて先に進んでく。……ふと思った。
「彼女達はどうして、こっち側に向かって来ていたんだ?」
「帰ろうとしていたとか?」
「もしくは、逃げてきたとか?」
シンキとハクテイの意見はどっちも納得できる。契約がはがされたとしても、何かしら残っていた可能性もあるだろう。そして、もう一つの可能性。
「逃げて来た、か」
この空間に未知の怪物が潜んでいるのかもしれないが、もう一つ思い浮かぶ可能性があるとすれば。
「ダハーカの奴も既に疑竜化して、この空間を彷徨っているのかもしれんな」
ラドンの言う通りかもしれない。まさか、空間内で必要なのが疑竜化による力などではなく、単純に道も分からないからどこでも行ける飛翔能力が必要だったとは。暫く、俺達はドラゴンに任せて異次元を彷徨っていた。